第一章 第十三話 帝都満洲青山

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

市ヶ谷いちがや斉斉哈爾チチハルの巨大アストラルを封じ、帝都の状態はやや安定したようである。

帆村ほむら魯公ろこう
市ヶ谷いちがや斉斉哈爾チチハルのアストラルは、
まるでセヒラのかたまりのようであった。
あれは、スタヴローギンだよ。
ドストエフスキーの悪霊、
その主人公だ。無神論者の悪人だ。
喪神もがみ梨央りお
私、読んだ事ないんですが……
小説の登場人物なんかが、
アストラルになるんですか?
帆村ほむら魯公ろこう
いや、読者、それも実に多くの読者、
その思念が折り重なって生まれた。
そう考えるほかないな。
それで、梨央りお
青山あおやまあたりのセヒラが増加中だな。
もう一度、降りてみるか、風魔ふうま
喪神もがみ梨央りお
ここに満鉄の路線図があります。
赤坂あかさかから青山あおやま方面……
満鉄に合わせてみると……新京シンキョウです。
帆村ほむら魯公ろこう
そうか、ならば、
次の行き先は、青山新京あおやまシンキョウだ。
路線が伸びるというのか……
どういうカラクリなのか、
解明せねばな!
風魔ふうま、準備はいいか。
今回も頼んだぞ。
喪神もがみ梨央りお
兄さん、油断禁物ですよ。
何が待ち構えるか、わかりません。
帆村ほむら魯公ろこう
うむ、梨央りおの言うとおりだ。
無理だけはするな、風魔ふうまよ。
依然いぜん未知の世界なのだ。

〔赤坂哈爾浜ハルピン・南東〕

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
無事に降りて行けましたか?
まずは、赤坂哈爾浜ハルピン駅へと
向かってください。
西側、青山あおやま方面への探索が、
今回の任務です。

【バール】
喪神もがみ風魔ふうま
異界もだいぶ慣れたようだにゃ。
もしかして、この先西の方に
もっともっと進みたいのかにゃ?
【バールの帽子】
この世界を歩いて遠くに行くなんて
ゲロゲロだぜゲロ~!
【バールの帽子背後】
まずは赤坂哈爾浜ハルピン駅の車掌に
鉄道の状況を尋ねてみるのじゃな。

〔赤坂哈爾浜ハルピン・南〕

【金満家アストラル】
もうかれこれ六年か……
あの大恐慌で全財産を失い、
私は自失した――
現世では、何をしているかって?
お人好しの慈善事業家だろうか。
けどね、私の芯はこっちにあるんだ!

【高等遊民アストラル】
いよいよだ、大いなる還流かんりゅうの時。
アラヤ湧穴ゆうけつが現れたんだ。
計り知れぬ力の奔流ほんりゅうだ!
僕はあふれ出る力を浴びて、
もっと輝くんだ!
君のようなきたない人間は失せろ!!

《バトル》

【高等遊民アストラル】
フフフ……
アラヤ湧穴ゆうけつはいくつもあるはずだ。
輝く僕が待っている!!

〔赤坂哈爾浜ハルピン・東〕

【白系ロシア人アストラル】
モスクワから満洲里マンチュリまで、
二週間もかかったな。
なにせ貨物列車だ――
ロマノフの金塊、四百トン――
といっても小分けした金貨だけどね。

【プロレタリアートアストラルK】
僕はここにただよって長いです――
大学で露西亜ロシア文学を研究して、
社会主義に目覚めました。
でも僕の実体は銀行の融資係ゆうしがかり
資本家の手先として、
借金地獄の扉を開くのです!

【満鉄車掌】
おお、あなたでしたか。
少し、困ったことになりました。
社会主義を標榜ひょうぼうする連中が、
ここに多くの思念を招きました。
プロレタリアートの連中ですよ!
連中のせいで、得体えたいのしれない
バケモノまで居着いてしまいました。

【満鉄機関士】
次なるは西へと進んだ先……
青山新京あおやまシンキョウが待ってるのに。

〔赤坂哈爾浜ハルピン・北〕

【満鉄車掌】
忌々いまいましいプロレタリアートめ!
ここに余計な社会思想イデオロギーを、
持ち込まないでもらいたいですね。
僕たちは搾取さくしゅなんてされていません。
ここでは自由なんです――
連中は現世で思うに任せないのか、
ここ帝都満洲ていとまんしゅうで勢いづこうとします。
その影響が方々ほうぼうに及びそうです――
自分たちの運動に、
この世界を利用しないで欲しいです。
ほんとうに、そう思います。

【満鉄機関士】
奴ら、力づくの構えだ。
あんた、どうする?
俺は争いごとは苦手だ、
ただ汽車を走らせたいだけなんだ。
やつら、こうして働くことすら、
罪悪だと言い張っている。
俺は使われてる労働者じゃない、
自分で好きでやってることなのに!

【プロレタリアートアストラルF】
資本家の強欲ごうよくぶりは
破廉恥ハレンチきわまりない!
奴らをのさばらせてはならない!
資本家が豊かになると国が栄える、
それは詭弁きべんに他ならない!
弱者を増やすだけだ! 許せない!!

《バトル》

【満鉄車掌】
やっつけた?
そうなんですね!
それはスパシーバ!
スパシーバ ザ フショー
というやつです!

【満鉄機関士】
あいつをやっつけてくれたのか。
これでまた汽車を
走らせることができる。

〔赤坂哈爾浜ハルピン駅〕

【満鉄車掌】
ひとまずこの界隈かいわいは大丈夫です。
――しかし、どうしてあそこまで、
執着するのでしょうか?
まぁ、私たちも好きでやってて、
これも一種の執着なんですがね。
【満鉄機関士】
さ、出発だ!
だんだん、本当に汽車を走らせて
いるような気になってきたよ!

〔青山新京シンキョウ・南〕

【着信 喪神もがみ梨央りお
青山新京あおやまシンキョウの到達、確認しました。
目的は達成しました。
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、帰還してください。

【バール】
面倒くさいアストラルを倒したぞ。
良くやったにゃ。
でも、そのくらいでないと
この先へは到底とうてい向かえないにゃ。
ここは新しい街、青山あおやま新京シンキョウだにゃ。
帝都の青山あおやまに照応する街にゃ。
そこに満洲まんしゅうがやって来たにゃ!
青山あおやま新京シンキョウが合わさってるにゃ!
ということは墓地もあるにゃん?
ちょっとだけ行ってみるといいにゃ。
だけど、離れて見るだけにゃ。
近くで覗いちゃ危にゃいの。

〔青山新京シンキョウ・北東〕

そこには不気味な大穴が口を開けていた。大穴の周囲に、アストラルたちが浮遊する。

【アナーキストアストラルY】
出現したアラヤ湧穴ゆうけつはまだ一つ。
おそらくほかにもあるはず。
全てが出現すれば、カオス到来とうらいだ。

【アナーキストアストラルA】
秩序なんて薄い玻璃はりの容れ物だ。
少しの熱湯で砕けてしまう――
ああ、その予感がしてならない!

【アナーキストアストラルH】
近くに感じるよ……
御厨車夫みくりやしゃふという人物の思念だ。
無政府主義アナーキズムの組織、比類舎ひるいしゃの代表だ。
御厨みくりやはこの帝都満洲ていとまんしゅうを利用して、
国家転覆てんぷくを計画しているようだ。
もっとも僕は部外者なんだけどね!
【バール】
うにゃ~! あの穴を覗きこむにゃ。
あれはアラヤ界へとつながる
奈落ならくの大穴にゃ。
あの大穴をしてアラヤ湧穴ゆうけつ
呼んでいるようだにゃ!
あそこからセヒラがくんだにゃ!
さあ、帝都満洲ていとまんしゅう鉄道はまだまだ
満足に進むことが出来ないんだにゃ!
おまけに霧も深くなってきて、
行く手をはばんでいるにゃ。
濃い霧はこの世界では、
悪いことの予感だにゃ!

御厨車夫みくりやしゃふアストラル】
あなたは……警察ですか?
違いますよね、ならば同志ですか?
――私こそが革命をすのです。
プロレタリアートの連中は、
手段を知らなさすぎます――
私は求めてここに導かれました。
ここはアラヤ界からき出す
セヒラの泉です! 美しい力です。
この力は国家転覆てんぷくにうってつけです。
強いセヒラによって、
帝都は混乱のきわみをむかえるでしょう。
あなたも死して力となってください!!

《バトル》

御厨車夫みくりやしゃふアストラル】
この場に私がとどまれないのは、
なんというか残念至極しごくです。
でも、また新たな計略を立てますよ!
【着信 喪神もがみ梨央りお
大型アストラルの存在が消えました。
依然いぜん、セヒラの揺らぎがあります。
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
これ以上の滞在は危険です。
速やかに帰還してください!

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
ご苦労だったぞ、風魔ふうま
なんだか面倒くさい連中だったな。
比類舎ひるいしゃとはな……
アナーキズムを推す出版社だ。
発起人ほっきにん御厨みくりや車夫しゃふという元華族だ。
喪神もがみ梨央りお
御厨みくりや……車夫しゃふ……
車夫なんですか?
それが名前ですか?
帆村ほむら魯公ろこう
ああ、車夫のように地に足を付けて
生きるということらしいぞ。
彼はこの五年ほど潜伏しておる――
その思念が現れたわけだ。
思念は帝都満洲ていとまんしゅうでセヒラで強まり、
また帝都に戻るのかも知れんな。
それで帝都で更に強くなった思念が、
何かの思いを実現させる――
あり得ることだな。
それに、アラヤ湧穴ゆうけつというのも、
すこぶる悩ましい事象だな。
喪神もがみ梨央りお
こういうの、予断は許さない、
そう言うんですよね。
観測、継続します!!