第一章 第三話 博士の異常な愛情

山王機関さんのうきかん課〕

銀河ぎんがゼットー】
なるほど、やはりそうか。
境界値きょうかいち3・56995…… ファイゲンバウム点は……
んんん?喪神もがみ風魔ふうまクンじゃないか。
ボクになにか用かね?

の様子が気になったんだろう?なるほどなるほど!
実にいい心がけじゃないか!
君もが大好きなんだろ?
判ってる、判ってる。
大丈夫だ、心配ない。
ボクの後ろにある水槽を見るがいい!ここでが誕生する。
いわば、人造子宮じんぞうしきゅうという訳だ。
美しいだろ? 妖しいだろ?
こんな混沌こんとんから現れる姿がいとおしくない訳ないじゃないか?
だが、予想外の事が起きてしまった。
実はな…… この課からが逃走したのだ!
うぉぉぉ! 何故だ!
何故、こんな事に!
ボクとしたことが、何たる油断!何たる失態!
そこでだ!手分けして逃げたを回収しなければならない。
生憎あいにく、ボクは野外活動に生まれつき向いていない!見れば判るだろう?
そこでだ、君、風魔ふうま君は怪人を鎮定ちんていしてくれたまえ!
その刹那せつなは人を離れる――
ボクがしょう超絶稼働ブンブンブンさせて、別の人にく前にを回収する。
どうだ、ワンダホーな計画プランだろ!!
はそれほど遠くには行かない。
必ずやこの近辺の人にくはずだ。
逃げたは……ヒー、フー、ミー、
――なんと! あろうことか、
全部で七体だ!!
なんという……ボクとしたことが……――この激しい落胆ぶり!!
あまりにも美しいの姿……つい夢想の中を漂っているうちに、
とんだ逃走劇をもたらしてしまった!
七体全部の回収は無理かも知れんが、
せめて一体、いや二体、いや三体……
風魔ふうま君、すべては君の腕に、かかっているのだ!まさにこの帝都の命運がぁ!!
いやいや、この上なく反省している。本当かな? 勿論もちろん!!
風魔ふうま君、善は急げだ、頼むぞ!

山王さんのうホテルまえ

【着信 喪神もがみ梨央りお
兄さん、麹町こうじまち署に通報がありました。山王さんのうホテル前に挙動きょどうのおかしな人物がいるとのことです。
セヒラ探信儀たんしんぎで確認しましたが、確かにわずかなセヒラを観測します。念のため巡視パトロールをお願いします。

セヒラ探信儀たんしんぎ――その原理はセヒラを波形に変換する、霊式れいしきヘテロヂンという技術によるものだった。
帝都には大型の探信儀たんしんぎが設置されている。渋谷しぶや戸山とやま大崎おおさき……市内6箇所にある。
ただし空白域も存在した――

四谷見附よつやみつけから陸大のある青山あおやま一丁目、赤坂離宮あかさかりきゅう青山墓地あおやまぼちも空白域であった。赤坂あかさか山王さんのうホテル近辺もそうだ。
しかし、赤坂あかさかには山王さんのう機関があり、本部には性能の良い探信儀たんしんぎが備わる。その一基で赤坂あかさか青山あおやまは広くカバーできる。

【麹町の婦人】
この近くで怪人かいじん騒動があったのは、ちょうど旧正月の頃でしたわ。あの時も山王さんのうホテルにいましたの。
春の新作レースの展示会があり、澳洪ハンガリーのレースも随分ずいぶんと出ていましたわ。
今日は新茶の予約会――最近は、どうなのですかねぇ、その騒動とやらは。

【不機嫌そうな男】
ああ、もう四十八分も待ちます。うちのさいは時間の観念が無くてね、困ったもんですよ、まったく。
それはそうと、そこの外套コオトの男、さっきから独り言がみませんね!

陰鬱いんうつそうな男】
嗚呼ああ、春よ、俺を牢獄ろうごくから解き放て。
この肉体という牢獄ろうごくから!慟哭どうこくの肉体から!

陰鬱いんうつそうな男】
ああ、そうか!貴様がこの牢獄ろうごく看守かんしゅなのだな!俺の力の前に屈する時が来たぞ!

《バトル》

陰鬱いんうつそうな男】
俺はやっぱり出られない……ああ、また独房どくぼうに戻るのか――
あああ、頭が痛い……割れるようだ。脳楽丸のうらくがんを……飲もう……
【着信 銀河ぎんがゼットー】

陰鬱いんうつそうな男】
ようし、喪神もがみ君!一体回収したぞ!
【着信 喪神もがみ梨央りお
また通報がありました。
一ツ木通ひとつぎどおりの方で怪人かいじんを見たと匿名とくめいで通報がありました。
溜池通ためいけどおりを渡ったすぐのところです。怪人が大通りに出る前にふせいでください!

一ツ木通ひとつぎどおり

料亭の黒塀くろべいいき風情ふぜいを見せる一ツ木通ひとつぎどおり。まだ日中ながら、行きう人々は、春の陽気に浮かれたかのようにも見える。

若女将わかおかみ
春宵しゅんしょう、一刻、値千金あたいせんきん……
あああ、春は、なんかこう、
心がうずくのよねぇ~
――アンタ、ナニよ!そんな不景気な顔してさ!

【苛立っている男】
畜生ちくしょう! 
兄貴の奴、突然、家に帰ってきやがって!
あきないをぐつもりだと?

【苛立っている男】
ふざけんな! 
どのつらで言うか!
親父の最期、看取みとったの、俺だ!
家は俺がぐんだ、くそったれ!!

《バトル》

【苛立っている男】
はぁはぁはぁ……決心したよ!
今から帰って、兄貴と……

【着信 銀河ぎんがゼットー】
ひょひょひょ!いいぞ~その調子だ!二体目、回収完了っ!

若女将わかおかみ
このところの怪人かいじん騒動で、お客がめっきり減ったのよ。
誰に文句もんく付ければいいの?

【着物の女】
最近、人生よろづ相談の案内、よく見かけるわよね。
電話で予約するんですって。

【作家志望の青年】
君ぃ、僕はね、記念すべき第一回茶川ちゃがわ賞に応募したんだ!あっはっ!
これで僕も文壇ぶんだんの一員!
どんな話かって?
ははは、君には想像もつかないね。
――怪人三面相かいじんさんめんそうが出てくるんだ!
一人で三つの顔を持つ怪人かいじんさ。
阿修羅観音あしゅらかんのんから思い付いたんだよ!
怪人三面相かいじんさんめんそうは、女を襲うんだ――
ふふふ…… 僕のかんではね、
君たちの怪人は日枝神社ひえじんじゃさ!

日枝神社ひえじんじゃ

日枝神社ひえじんじゃ―― 宮城の南東、裏鬼門うらきもんを守る霊的結界で日吉大社ひよしたいしゃより勧請かんじょうされたやしろである。
日吉大社ひよしたいしゃは、山や森に座す国津くにつ神を山王さんのうとしてうやまい、たてまつっている神社で日枝神社ひえじんじゃ山王さんのうと深い関わりがある。

【着信 銀河ぎんがゼットー】
喪神もがみ君…… 何だか妙なんだ…… 今しがた、三体目が回収された――
でも、君じゃないよね?――他のが戦っている…… そうとしか思えない。

【参拝客】
赤坂あかさかの方が騒がしいですね。何があったのかしら――
宅は墨国メキシコ公使館の脇ですの。山王さんのう様のお護りにあずかりますのよ。

【巫女】
ここ、日枝神社ひえじんじゃの主な祭神さいじん大己貴神おおあなむちのかみ大山咋神おおやまくいのかみです。
大己貴神おおあなむちのかみ出雲いずも大社にまつられる大国主神おおくにぬしのかみの別名です。
大山咋神おおやまくいのかみは山の神様です。比叡山ひえいざんの神様とされ、日枝ひえ日吉ひよしもこの山の名を意味しています。

【きてる巫女】
私が求め過ぎなのでしょうか……大山咋神おおやまくいのかみさま……
あなたのお姿を想うに、私は……
――あなたのたくましいかいなが、
この私を包むのです――
ああ、神さま、大山咋神おおやまくいのかみさま!

【きてる巫女】
私はあなたの中で、昇るのです!
ああ、大山咋神おおやまくいのかみさま……
あなたと合一ごういつするのです、
今、ここに!
――お前はなぜ邪魔をする!!

《バトル》

【きてる巫女】
やはり……私は求めすぎました。それゆえ、自分を失いました――
神さまは高みに戻られました。
私は……地をうのです……
もう、神さまはおいでにならない――

【着信 銀河ぎんがゼットー】
よし!を回収した…… 逃げたはあと三体だ!
【着信 喪神もがみ梨央りお
新たなセヒラ反応です。料亭、初松の前です――あの有名料亭ですね!

意気いき軒昂けんこうな軍人】
ここは実にいいな!セヒラが渦巻うずまいているではないか!
ああ、気分が高ぶる――
もう原隊には戻らん!いや、このまま戻って、あの小隊長を――
ん? 
――誰何すいかする!!貴様は誰だ?

意気いき軒昂けんこうな軍人】
貴様、山王さんのう機関の帥士すいしだな?
ふふ……まずはお前をぶち殺してから
帆村ほむら
銀河ぎんが血祭ちまつりに上げてやる!

《バトル》

意気いき軒昂けんこうな軍人】
嗚呼ああ……俺は自分を保てない…… 地上から消えざるを得ない。だがやがてまた、きっと――

【着信 銀河ぎんがゼットー】
よーし、よし!
喪神もがみ君、君は最高だよ!
はあとニ体……ん?
おかしいな。今ので最後だ。
やはり、他に怪人かいじんと戦い、
回収した者がいるようだ……
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、任務完了です。
山王さんのう機関本部に帰還してください。

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

喪神もがみ梨央りお
兄さんの他に、怪人かいじんと戦った人物がいるようですね。
だとすると……
かなり腕の立つ者の仕業しわざ
そうじゃありませんか?
――私、何だか胸騒ぎがします。
それに……
匿名とくめいの通報者も気になります……