第一章 第七話 召喚師の帰国

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
探信儀たんしんぎと公務電車の記録で、
おおよそのことはわかった。
そもそもは梨央りおがセヒラを観測して、
広尾ひろお方面にくだるように指示を出した。
急なことだったからな――
結果、ゴエティアの書は
守られたわけだが……
大佐は待ちぼうけを食らっておる。

ムハハハ~
まぁ、待つのも上官のつとめだわな!
刑部おさかべ大佐は大きなお人じゃし。
だが、これ以上、待たせられんぞ。
それで……梨央りお梨央りおはどこだ?
風魔ふうまが出るというのに、まったく――

広尾橋ひろおばし

【着信 喪神もがみ梨央りお
広尾橋ひろおばし何故なぜかセヒラが消えません。
探信儀たんしんぎの調子なのか……
確認だけ、お願いします!

【宮家の侍女】
皇軍の方なので申しますがね、
近く上京なさる宮様は、聖宮ひじりのみやですが、陸軍の特務機関に関係あるとか――
聖宮ひじりのみや様が発起人ほっきにんとなり、
陸軍に特務機関ができたそうですよ。
貴方も、その方面のお方ですか?

天婦羅てんぷら学生】
僕はこう見えてもね、帝大に通う。
――と言ってもせきはないけどね。
つまりは聴講生ちょうこうせいってわけさ。
最近、文科の連中に、相談所に
通い詰める奴が増えてきている。
ほら、ラヂオで宣伝せんでんしてる、
人生よろづ相談だよ。
何でも相談、来れば福呼ぶ――
電話、京橋きょうばし三五の
ってね。僕も行こうと思うんだ。

【軟弱学生】
もうじき鈴蘭すずらんのお嬢様が、
坂を降りてくる頃だ。
僕は毎日ながめてるんだ――

第一連隊本部だいいちれんたいほんぶ練兵場れんぺいじょう

第一師団歩兵第一連隊だいいちれんたい赤坂あかさか檜町ひのきまちにその本部を構える。
明治7年に軍旗拝受した、最も伝統のある部隊である。
通りを挟む麻布あざぶ龍土町りゅうどちょうには、第一師団歩兵第三連隊だいさんれんたい本部がある。
何かと比較される二つの部隊であった。

【着信 喪神もがみ梨央りお
兄さん、歩一ほいち刑部おさかべ大佐には、
遅延のむね、連絡済みです。

刑部おさかべ大佐】
喪神もがみ中尉か!
遅延のことは聞いておるぞ。
――四十八分の遅れだな!
この遅延、わしの胸三寸に収める。
山王さんのう機関にケチが付いてはいかん。
そうではないか――
報告書を受け取ろう……
最初は怪人などそんなにおるかと、
そう思うたが、いやはや、
帝都の治安、貴様らの双肩そうけんにかかる!
今後とも、充分に留意して、
帝都の治安維持につとめてくれ。
さてと、貴様の遅延、
不問ふもんするのは訳があってのう――
報告書がためだけに、
兵らを並ばせたわけではない。
ここにおるのは歩一ほいちの各部隊の兵だ。
実はな、喪神もがみ中尉。
今ここでとやらを扱う、
貴様らの戦いを実演して欲しいのだ。
紹介しよう、
第三連隊だいさんれんたい鬼龍きりゅう大尉たいいだ。
鬼龍きりゅう豪人たけと
久しぶりだな、喪神もがみ風魔ふうま


刑部おさかべ大佐】
鬼龍きりゅう大尉たいいとは
旧知きゅうちの仲らしいな。

鬼龍きりゅう豪人たけと――
如月きさらぎ鈴代すずよと同じ東雲しののめ門下もんか審神者さにわであったが東雲しののめ流の閉じたことにより独逸ドイツに留学。
独逸ドイツで召喚師として修練を積み、第三連隊だいさんれんたい玄理げんり派にわれて帰国、現在、第99小隊を率いている。

鬼龍きりゅう豪人たけと
特務機関に中尉ちゅういに特進したのか。
私達は正規の召喚師しょうかんし部隊をもうける。
その準備で忙しくてな――
刑部おさかべ大佐】
よかろう大尉。貴様の独逸ドイツ式召喚と、
歩一の帆村ほむら流、どちらが戦力になるか
試すという要請が師団長からあった。
今より、の演習を行う。
旧交を温めるのはその後で良いだろう。
演習に必要なもの、
何かあるかね?
鬼龍きりゅう豪人たけと
何もいりません、大佐。
まずは部下のにのまえ少尉が参加します。
一五市にのまえごいち
第九十九小隊、
少尉しょうい一五市にのまえごいちであります!
刑部おさかべ大佐】
よし!
両者、構えろ――
演習、始め!!
鬼龍きりゅう豪人たけと
山王さんのう機関がどれほどのものか、
とくと拝見する!

【着信 喪神もがみ梨央りお
この演習試合、白ノ六号帥士しろのろくごうすいし
さっき聞いたばかりだそうです。
刑部おさかべ大佐を信頼するしかありません。
兄――いえ、黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
当然勝てますよね。

《バトル》

一五市にのまえごいち
ま、参った……
刑部おさかべ大佐】
しょ、勝負あり!
山王さんのう機関喪神もがみ特務中尉ちゅういの勝利……
―――であるか!
しかし――
わしには何も見えなんだ。
鬼龍きりゅう豪人たけと
大佐、自分がご説明いたします。
戦は別次元での戦いです。
そこでは同士の死闘が
繰り広げられます。
その戦い、を操る異能者以外に、
うかがい知ることは出来ないのです。
勝敗が一瞬で決するように見えます。
刑部おさかべ大佐】
今の一瞬のうちに、
戦いが繰り広げられたというのか!
この勝負、見えた者はおるか?
鬼龍きりゅう豪人たけと
歩一ほいちの将兵の中には、
審神者さにわ、ないしは召喚師の素養のある
者はいなかったようですね――
では次、自分が戦います。
修行先のトゥーレの館では、基礎とした東雲しののめ流帰神法が役に立った。
普通の召喚師と同じではないぞ!

《バトル》

【着信 喪神もがみ梨央りお
兄さん、鬼龍きりゅうなんかに負けないで!
鬼龍きりゅう豪人たけと
梨央りおちゃんも立派になったものだ!
少しは霊異りょういを現すようになったか?
【着信 喪神もがみ梨央りお
軽々しく言わないでください!
あなたは、私たちを、裏切った!!

【着信 喪神もがみ梨央りお
やった! 兄さん!
鬼龍きりゅうに勝った!
鬼龍きりゅう豪人たけと
迂闊うかつでした!
刑部おさかべ大佐】
その体たらくで、
歩三ほさんの召喚師部隊、
指揮できるのか――
鬼龍きりゅう豪人たけと
それとこれとは……
話が違います――
刑部おさかべ大佐】
よろしい、勝負あった!
第一連隊だいいちれんたい山王さんのう機関
喪神もがみ風魔ふうま特務中尉ちゅういの勝利!!
鬼龍きりゅう豪人たけと
召喚師部隊を作り、
そのあかつきには雪辱せつじょくを晴らすべく、
再びの手合わせを――
刑部おさかべ大佐】
その時はその時だな。
喪神もがみ中尉、二連勝というわけだ。
山王さんのう機関、頼もしいぞ――
目を皿にしておったが、
見えぬものは見えぬものだな、
とやらは――
刑部おさかべ大佐はしばら風魔ふうまを見ていたが、
不意に合点がてんしたようにうなずいた。
刑部おさかべ大佐】
戦綱領を論文にしたためたのは、
京都にいる柄谷がらたに生慧蔵いえぞうという学者だ。
その論文を参謀本部が採用した。
すぐ、戦に備えよとの命が下り、
山王さんのう機関の設立相成あいなったのだ。
まこと趣旨しゅし、わしもまだよくは――
よし!
両名並びににのまえ少尉、演習ご苦労。
それでは、連隊解散!
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ──兄さん!
お疲れ様でした。
本部へお戻りください。

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
刑部おさかべ大佐、歩一ほいちの将兵の中に、
資質者を見つけようとしたのか?
もっと他にやり方があるだろうに……
鬼龍きりゅうもかつては東雲しののめ流の使い手。
東雲しののめ流の閉じるの閉じないのという時、不意に独逸ドイツへ渡りおった。
まるで当てつけるかのように、
独逸ドイツ式召喚術を会得えとくして、
あろうことか玄理げんり派側に付いている。
召喚師対審神者さにわ戦……
今回は勝てたが、向こうの手の内は
全く読めん。油断ならぬぞ。
もっともあそこで負けていたら
帆村ほむら流は立つ瀬が無かった――
喪神もがみ梨央りお
兄さん! やりましたね!
あの鬼龍きりゅうの鼻っ柱を、
へし折ってやったんです!
あいつ、門下もんかなのに宗家そうけに上がる時、
なんだかすごく偉そうで……
嫌な感じでした!
帆村ほむら魯公ろこう
確か渡独とどく前は京都の師団、
第十六師団におったはずだ。
京都にも東雲しののめの道場はあったのか?
喪神もがみ梨央りお
そんな話は聞いていません。
帆村ほむら魯公ろこう
まさか宗家そうけを名乗ろうとしておった、
いや、それはないだろう、さすがに。
だが礼にもとる人物なのかも知れん。
喪神もがみ梨央りお
鈴代さんは東雲しののめ流を閉じるにあたり、
あの人……鬼龍きりゅうのことも
気にかけていらしたんです。
帆村ほむら魯公ろこう
わしにも相談があった――
三年前の三月のことだった。
それで帆村ほむら流として、
流派をまとめることにしたんだ――
ほどなく山王機関の設立なった。
喪神もがみ梨央りお
東雲しののめ流、鬼龍きりゅういでいたらと思うとゾッとしてきます!
帆村ほむら魯公ろこう
ふむ……だが、鈴代すずよ女史の決意を、
よく思わない連中もいそうだな。