第一章 第九話 帝大の森

帝大ていだいキャンパス〕

東京帝国大学。
三人は正門から続く銀杏いちょう並木を歩き、
建築中の法文ほうぶん科校舎を脇に見ながら進んだ。
喪神もがみ風魔ふうま如月きさらぎ鈴代すずよ九頭くず幸則ゆきのりの三人はゴエティアをつた博士にたくすべく研究室を訪ねようとしていた。

九頭くず幸則ゆきのり
おい、風魔ふうま
ちゃんと行先の地図ぐらい
用意しとけよ。
これじゃ迷子じゃないか。
如月きさらぎ鈴代すずよ
無線で梨央りおちゃんに場所を
聞けないのかしら?
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、上野、本郷帝大ほんごうていだい付近、
セヒラ急激に上昇中。
九頭くず幸則ゆきのり
おい、梨央りおちゃん、研究室は
どっちだい?
【着信 喪神もがみ梨央りお
法文経ほうぶんけい一号館とだけ。
そちらの位置がわからないので、
何とも言えません……
って、あれ?
幸則ゆきのりさん……
鈴代すずよさんを送っていったんじゃ……
如月きさらぎ鈴代すずよ
ごめんなさい、私が無理を
言って一緒に連れてきてもらったの。
【着信 喪神もがみ梨央りお
危ないですよ、鈴代すずさん。
すぐお戻りになったほうが……
如月きさらぎ鈴代すずよ
大丈夫よ。
私……少しでも風魔ふうまさんの
お役に立ちたいの。
だから、帰れと言われても
帰れませんわ。
帆村ほむら先生にもそうお伝えになって。
【着信 喪神もがみ梨央りお
鈴代すずよさん……
九頭くず幸則ゆきのり
梨央りおちゃん、法文経ほうぶんけい一号館ってのは、
どっち行けばいいんだ?
【着信 喪神もがみ梨央りお
もう! だからちゃん付けは
やめてください!
九頭くず幸則ゆきのり
つれないねぇ。
【着信 喪神もがみ梨央りお
研究室の場所は
学生に聞くなりしてください。
それより怪人かいじんに注意です。
兄さん、鈴代すずよさんもいるのだから
十分に気を付けてください。
如月きさらぎ鈴代すずよ
確かに急に瘴気しょうきが……
このゴエティア偽典ぎてんの影響である
気がします。
九頭くず幸則ゆきのり
お前たちの事案ってのは
ヤバいものばっかりだな。
まったく……

【白山の令嬢】
……ああ……イヤ……

石燈籠いしどうろうのそばで、着物の女性が
何かに怯えるように立ちすくみ、
辺りをうかがっている。

【白山の令嬢】
……助けて……
如月きさらぎ鈴代すずよ
どうしたんでしょう……
様子がおかしいです。

【ハムラビ法科生】
赤坂あかさかに出た怪人かいじん、車を投げたそうだ。
興亜日報こうあにっぽうの怪人特集にあったよ。
その話、寮生にしたら、
自分もできるって言い出して――
そいつ、切通坂きりどおしざかで車投げたんだ。
その時以来、そいつの姿見ないな……

波斯ペルシャ文科生】
波斯ペルシャのアケメネス朝には、
宦官かんがん怪人かいじんがいたそうだ。
巨大なてのひらで人の頭を掴んで、
握りつぶすんだって。
帝都にもそんな奴、出るのかな。

【白山の令嬢】
たくの弟、定清さだきよ、法科の学生なんです。
本郷ほんごうの下宿に一人暮らししますが、
三週間前から音信不通で……
先生にお尋ねしたところ、
ずっと欠席ですって。
下宿には同じパンフレットが沢山――
人生よろづ相談のパンフレットです。
私、気になって、神田かんだの相談所に、
行ってみたんです――
ドアーを開けて、相談所に入って……
次に気付いたら表にいました。
――頭が割れるように痛くって……
あああ、痛い……芯から響くぅぅ……
――皆で……何をしたのですか?
あああ、定清さだきよを返せ、私を返せ!!

《バトル》

【雑役夫】
西亜細亜アジア研究室かね?
あのつた先生に用とは
物好きもいるもんだ。
それなら法学三号館だ。
法文経ほうぶんけいの校舎は建築中でね、
文科は法科に間借り中なんだよ。

帝大廊下ていだいろうか

葡萄牙ポルトガル学科生】
西亜細亜アジア研究室?
ああ、それならあの眼鏡に
聞くんだね。
奴はたしかつた先生のゼミに入りたくて日参してたよ。

【メソポタミア神科生】
つた教授の研究室を探しているだって?
教授に何の用がある?
お前達のような無学の徒がおいそれと
会えるお方ではない。
それに軍人などが足を踏み入れたら
けがれる!
とっとと出て行くんだ!
九頭くず幸則ゆきのり
おいおい、俺たちには
大事な用があるんだよ。
ここに来るように呼ばれたんだ。
【メソポタミア神科生】
は? 呼ばれた? つた教授に……
来るように言われた、だと?
……何故だ……
……何故だ………

【メソポタミア神科生】
ニビル星を救うには、
地球のゴールド是非ぜひとも必要だ。
金を蒸気にして散布しなくては!
宇宙生命体の神々、アヌンナキの王は
大勢を連れて地球に降りた。
彼らが奴隷として創造したのが人間。
シュメール人はこうして誕生した。
つまりは、人類の始祖だ!
僕はつた教授の研究を手伝ううちに、
自分に神々の血の流れるを知った。
僕は、アヌンナキの末裔まつえいなのだ!
そんな僕を差し置いて、
貴様、教授の研究を横取りする気か?
断じて許さん!!

《バトル》

【メソポタミア神科生】
うう……僕はいったい?
おや? 君たちは?
九頭くず幸則ゆきのり
眼鏡君、俺たちにつた先生の
西亜細亜アジア研究室の場所を
教えてくれないか?
【メソポタミア神科生】
ああ……それなら僕が
案内するよ。

【メソポタミア神科生】
先生、新田にったです。
失礼します。

蔦博士研究室つたはかせけんきゅうしつ

扉が開いた先には書物にもれたような老教授の姿があった。

つた博士】
ああ新田にったか、お前の研究員入りは
論文提出後と言ったろう。
とっとと帰れ。
わしは今忙しい。
ン? おお! 帆村ほむらのところの……
喪神もがみ君……だったかな。
使いで来たのじゃな。
如月きさらぎ鈴代すずよ
つた先生、失礼いたします。
つた博士】
やっと終わった――
鑑定の結果、ゴエティアと判明して、
引き続き解読を行ったのじゃ。
これはしかし稀代きたいの奇書じゃよ!
偽典ぎてんじゃよ、何者かの編纂へんさんによって、
もたらされたものじゃ。
数千年前の悪魔を定義して、
そこに兵器を与えておる。
この書にはしるされておる――
一体、何者が、これを……
わからん! だが、解読は済んだ。
如月きさらぎ鈴代すずよ
悪魔に……兵器……
それは本来の悪魔とは違うのですね。
つた博士】
ああ、悪魔に人の手が入っておる。
やがて悪魔は悪魔に戻っていく、
その宿命にあるのかも知れんなぁ。
九頭くず幸則ゆきのり
悪魔が兵器をげているのですね……
うーん、さっぱり想像がつかない。
つた博士】
まぁ、無理もない。
さて、新たに書が見つかったとか。
帆村ほむらが伝えてきたぞ――
このノオトに解読した内容がある。
原本はまだ調べたいのでわしに
預からせてくれ。

風魔ふうま偽典ぎてんの解読書を受け取り式部しきべから預かった古書をつた博士に差し出した。
表紙を一撫ひとなでした途端、つた博士の瞳に歓喜の光が宿った。
そして震える指先でペエジる。

つた博士】
ンンンン~ム!
これは確かにゴエティア偽典ぎてん
可能性が高い古書じゃ!
さらに前のものを補完する形で
書かれておるようじゃ。
早速さっそく鑑定に掛かるとしよう!

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
任務ご苦労だったな、風魔ふうま
喪神もがみ梨央りお
お帰りなさい、兄さん。
九頭くず幸則ゆきのり
梨央りおちゃ~ん! ただいま~!
喪神もがみ梨央りお
なんで幸則ゆきのりさんまで一緒なんですか!
鈴代すずよさんを送りもしないで!
如月きさらぎ鈴代すずよ
ごめんなさい。
幸則ゆきのりさんを責めないで。
私が無理を言ったのです。
帆村ほむら魯公ろこう
……まったく、鈴代すずよ女史じょしにも
困ったものだな。
九頭くず幸則ゆきのり
一度言い出すと、聞かないですから。
鈴代すずよさんは。
銀河ぎんがゼットー】
ゴエティア偽典ぎてん! ゴエティア偽典ぎてん
帆村ほむら魯公ろこう
なんだ、声もかけずに入って
来るとは……
騒がしい……
銀河ぎんがゼットー】
よ~く戻った、喪神もがみ風魔ふうま
どこだ、どこにあるんだ?
ゴエティア偽典ぎてんの解読書!!
おお、これか。ふふふふふ……
うふふふふふふ……
読めるぅ! 読めるぞ!!
喪神もがみ梨央りお
そりゃ、解読されて
ますからねぇ……