第二章 第十一話 魔犬のサバト

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

連隊将兵の怪人化という騒動、ひとまず沈静ちんせい化したものの、新聞では事件を針小棒大しんしょうぼうだいに書き立てていた。
いわく、陸軍怪人部隊を創設、いわく、怪人兵こそ次代の兵力――
中には案内広告風を装い、
帝都の怪人至急歩三ほさんに集結せよ!
などとあおるような記事もあった。

帆村ほむら魯公ろこう
最初は赤坂あかさかの怪人騒動だろうな……
あんな真っ昼間に車を投げよって――
そりゃ人の口にものぼる。
喪神もがみ梨央りお
新聞に特報が出ましたからね。
帝都中の怪人現象を集めた記事です。
中には疑わしいのもありましたが……
学生さんで、西洋の黒魔術にはまり、
友達や親戚に魔法をかけまくった人。
帆村ほむら魯公ろこう
ああ、帝大文科の学生だな。
結局、奴は治安維持法違反に問われ、
特高で尋問を受けたんだ。
喪神もがみ梨央りお
その後、どうなったんですか?
帆村ほむら魯公ろこう
釈放されて、本郷ほんごうの下宿に戻り――
喪神もがみ梨央りお
魔法、諦めたんですか?
帆村ほむら魯公ろこう
怪人化したのだ。
今もどこかに身を潜めておるかも。
――生き永らえていればだが。
喪神もがみ梨央りお
に魂を食べられるのって、
人によって違うんですよね。
中には早く食べられちゃう人も――

式部丞しきべじょう
失礼します、セルパン堂の式部しきべです。
今日は彩女あやめ君をお連れしました。
帆村ほむら魯公ろこう
ほう、式部の――
ぜんたい、どうしたんですかな?
周防すおう彩女あやめ
こんにちは、皆さん。
彩女、大変なことを発見しました。
――それで、ご相談にと……
喪神もがみ梨央りお
大変なことって、
また怪人を呼び寄せたとか?
式部丞しきべじょう
最近、青山あおやま界隈かいわいで野良犬が出て困る、
そんな話が新聞に載ってましたね。
そのことです――
周防すおう彩女あやめ
あれは、魔犬のサバトです。
間違いありません!
帆村ほむら魯公ろこう
ま、魔犬の、
喪神もがみ梨央りお
サバト――
式部丞しきべじょう
うちにおいてある雑誌、
猟奇グラフに案内があったんです。

そう言って式部は、雑誌『猟奇グラフ』の案内ページを開いた。
――猟奇案内という標題があった。

帆村ほむら魯公ろこう
何でも案内というやつですな!
――求む良妻りょうさい
――かたち不問ふもん相当教養ある婦人
――求縁きゅうえん
――容色ようしょく 端麗たんれい
――医学士会社銀行員にて家族すくなき方
――吉原よしわら見学団実現
喪神もがみ梨央りお
隊長……
帆村ほむら魯公ろこう
昭和の猟奇人が、丹前たんぜん姿で仲之町なかのちょうへ乗り込む有様はさだめし見ものでしょう
……何だか楽しそうだな。
喪神もがみ梨央りお
もう、隊長!
――それで、どの案内ですか、
魔犬のサバトは。
周防すおう彩女あやめ
こちらです――
魔犬のサバト青山で開催とあります。
喪神もがみ梨央りお
ほんとだぁ!
――主催 帝国サバト会
サバト会って何ですか?
周防すおう彩女あやめ
彩女、猟奇グラフはよく読みますが、
サバト会というのは初めてです。
式部丞しきべじょう
というわけなんです。
彩女君、青山に行きかねないので、
ここは山王さんのう機関にお願いしようかと。
帆村ほむら魯公ろこう
青山の野良公がもし魔犬だとコトだ、
そうではないかな、梨央りお
喪神もがみ梨央りお
何だか怪しい感じもしますが……
一応、巡視パトロールしましょうか、兄さん。

青山街路あおやまがいろ

夜のとばりが下りた青山あおやま通――
車通りはなく、人影もまばらだ。

【着信 喪神もがみ梨央りお
その辺り――
ややセヒラを観測します。

【猟奇趣味の男】
ん?
貴方もサバトに参加するのかい?
――魔犬のサバトだよ!
僕は、この二週間ほど、
毎晩通ってるけど……
今晩は、どうなんでしょうか?

【猟奇趣味の男】
どうやら、今晩は当たりですね!
ほら、耳を澄ませば――
聞こえてきませんか、魔犬の咆哮ほうこうが。
ね、貴方にも聞こえるでしょう!
やっぱり、今晩です!
獣の匂い、この濃厚な匂い!
血に飢えた魔犬、魂を喰らう魔獣!

【猟奇人生な男】
帝国サバト会、
散々、本部を探しまわったよ!
市中くまなくね!
是非とも加盟したくて。
けど、ちっとも見付からないんだ。
あんた達なら、知ってるのか?

《バトル》

【猟奇趣味の男】
おいおい、怪人が出るなんて、
聞いてないよ!
じょ、冗談じゃない!

【興味本位の女】
野良犬は野良犬よ、と思うんだけど、
この辺の犬、何か違わない?
ほら、そこの犬も……
やはりね、魔犬のサバト、
今晩なのよ、きっとそうよ!
ああ、浮かれちゃう~

【犬に囲まれている男】
さぁ、お前達、言うことを聞くんだ。
お前達は今宵こよい、魔犬となる――
【野犬】
ガルルルルルル~
【犬に囲まれている男】
陋巷ろうこううごめく邪悪な意思を注ぎ、
魔の爪をげ!
魔の牙をけ!
【野犬】
ガルルルルルル……
【犬き】
何だ、お前は?
私の中のお犬様が……
お犬様が……私を、強くする!
お犬様の導きで、
私は人生の迷宮を抜けたのだ!
もう邪魔はさせん!!

《バトル》

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
青山墓地です、墓地の中に、
強いセヒラ反応があるようです。

青山墓地あおやまぼち

【野犬】
ガルルルルルル~
【野犬】
ガルルルルルル~

【犬き】
僕はね、心に悪意を宿すんだ。
君達だって、同じだろう?
フフ、皆同じなんだよ、皆同じ。
僕の悪意は、犬の貌形ぼうぎょうをしている。
犬達は帝都中の恐怖や憎しみを、
貪欲どんよくに食い尽くそうとする!
さぁ、僕の犬達を披露ひろうしよう!
君の恐怖をしょくしたいそうだよ!
それとも僕以上の憎しみがあるかい?

《バトル》

【犬き】
僕の犬達……
もう一匹もいないじゃないか!
――なんということだ!
お前達がいないと、僕は……
嗚呼ああ、僕はもう生きていけない!!

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
結局、怪人だったわけだな?
喪神もがみ梨央りお
の存在を感じていて、
それを犬に見立てていたんですね?
帆村ほむら魯公ろこう
世には犬きもいるにはいるが……
そういうやからも怪人化しそうだな。
喪神もがみ梨央りお
兄さん……
青山あおやま墓地のこと、教えてくれたの、
彩女あやめさんです。何かを感じたとか。
彩女さんの力、
日増しに強くなっているようです。
帆村ほむら魯公ろこう
これなんか、どうだ?
――あらこわや遊郭ゆうかく地震の図
――花街かがいにおける紋章の研究
喪神もがみ梨央りお
もう、隊長!
猟奇グラフ、取り上げますよ!
兄さんも、しっかり前を向いて
公務を全うしてくださいね!

怪人騒動はすっかり帝都の日常となった。
新聞、雑誌、それにラヂオの報道により、怪人の存在さえ身近になりつつあった。