第二章 第十三話 戸山衛戍病院の怪 後編

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

戸山とやまで再びセヒラを観測した。梨央りお探信たんしんの的を絞った陸軍軍医学校だ。
怪異のあった衛戍えいじゅ病院のすぐ隣である。
軍医学校は軍医養成をむねとするものの、軍関係者の中では黒い噂も立っていた――

喪神もがみ梨央りお
いつになく強いセヒラです。
なんだか嫌な予感がします――
帆村ほむら魯公ろこう
戸山とやまの陸軍軍医学校とな……
心してのぞむんだ、風魔ふうまよ!

陸軍軍医学校りくぐんぐんいがっこう中庭なかにわ

戸山とやまの陸軍軍医学校には深夜だというのに中庭に人の気配があった。

【遠崎班技手】
戸山とやまの怪光現象、やはり本当だった。
あれは人魂ひとだまなどではない、
もっと科学的サイエンスなものだ。

【田島班員】
衛戍えいじゅ病院のモルグで光がって……
その光がこっちに来たのか?
今の、そうなんじゃないのか?
私はバケモノなど信じちゃいない。
――だが、今の光は説明がつかない。
科学だけでは説明がつかないんだ!

【泣きそうな看護婦】
私、わかったんです。
今の光……きっと静江しずえ先輩です。
頭の中で先輩の声が聞こえたんです。
先輩は患者さんの身になり看護できる
とても立派な看護婦さんなんです。
患者さんの辛さがわかる――
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
セヒラ急上昇です!

静江しずえ看護婦のアストラル】
ク……ク……
苦しい……
シ……シ……死体から……取った……
ニ……憎しみ……
怒り……すべてぎとった……
ツ……次は…………命!
【着信 帆村ほむら魯公ろこう
風魔ふうま! 耳を貸すな!
そいつは審神者さにわのような霊力のある
命を求めておる!
【着信 喪神もがみ梨央りお
携行式けいこうしきセヒラ探信儀たんしんぎ
使ってください!

静江しずえ看護婦のアストラル】
そこのお方……
私はまじめに過ぎました。
患者さんの苦しみを一身に背負い、
そのことが患者さんの救いになると
そう信じていました。
あなたの力で、私を救ってください。
ここから出させてください。
この禍々まがまがしい光の中から!

《バトル》

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし! まだセヒラが……
――次は……講堂、講堂です!

陸軍軍医学校りくぐんぐんいがっこう講堂こうどう

【神埼班班長】
山王さんのう機関のまじない師とは
君のことだったのか?
軍もいきなことをするじゃないか!
――そうだろ? 信じられん!
まじない師をやとってどうする?
かえすがえすも残念だよ。
大事な軍予算を、そんなことに……
医学の進歩こそ我が皇国の務めだろ!
市村君も同感だよね?
【神埼班技手】
班長! 神埼軍医少佐殿!
私も同感であります!
【神埼班班長】
市村君、君はなかなかに心が広い。
そうだよな。それに懊悩おうのうも深い!
いろいろまわせていると聞いたが。

【神埼班技手】
…… ……

【神埼班班長】
いいぞ、その調子だ。
もっと見せてやれ、君のことを!
さぁ!
【着信 喪神もがみ梨央りお
セヒラ探信儀たんしんぎを使ってください!

【神埼班技手】
人生は短く、医学の道は長い。
あははははははは~

《バトル》

【神埼班技手】
フ、フ、フ……
私を越えて行くがいい。
君の道には破壊が待つのみだ。
【神埼班班長】
私の研究員が……
まじない師ごときに負けるとは。
まぁよい。まだ見込みのある
若手研究員はいるからな。
素晴らしい研究披露をお約束するよ。
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
周囲からセヒラの反応が消えました。
本部へ帰還してください。

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

戸山とやまの怪異はひとまず鎮定ちんていされた。
衛戍えいじゅ病院と軍医学校、二つの医療機関を巻き込んだ騒動であった。

喪神もがみ梨央りお
お帰りなさい、兄さん!
かなり強いセヒラでした……
あの看護婦さん……静江しずえさん……
優しさがあだとなったのでしょうか。
苦しみを一人で受けてしまった……
帆村ほむら魯公ろこう
それで生じた強い思念が、
セヒラを得てアストラルになった、
そういうことだな――
帝都満洲でならわかるが……
戸山とやまにはよほど強い、
負の場みたいなものがあるのかもな。
喪神もがみ梨央りお
それでは陸軍軍医学校の辺り、
今後も重点的に探信たんしんしますか?
帆村ほむら魯公ろこう
そうしたいのは山々だが、
我々だけではどうにもならない。
陸軍省もおいそれと認めんだろう。
喪神もがみ梨央りお
軍と言っても一枚岩では
ないのですね。
兄さん、今夜はお疲れ様でした!