第二章 第八話 第一連隊の怪人

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

晩春を迎えた帝都では、怪人事件が頻発ひんぱつ
新聞は連日のように事件を書き立て、怪人の話題が挨拶あいさつ代わりのようであった。

帆村ほむら魯公ろこう
帝都の怪人、まるで名物のようだ。
わざわざ怪人見物をしに、
旅行者も押しかけておる――
人をそそのかす者が方々に現れ、
加えて革命家や共産主義者も、
じょうじようとしておるしなぁ……
喪神もがみ梨央りお
来客です。
幸則ゆきのりさん……
いえ、歩一の九頭くず中尉です。
九頭くず幸則ゆきのり
帆村ほむら先生! 風魔ふうま
大変なことになりました!!
帆村ほむら魯公ろこう
おお、九頭中尉か、
そんなにまで慌てて、一体何が?
九頭くず幸則ゆきのり
我が歩兵第一連隊ほへいだいいちれんたいの将兵らが、
次々怪人へと姿を変えているんです!
このままでは連隊の存続さえ……
帆村ほむら魯公ろこう
何だと?
歩一ほいちの将兵が、怪人に?
怪人化した将兵は、
どのくらいの数にのぼっている?
それによる被害の状況は?
九頭くず幸則ゆきのり
……そ、それが、
連隊から脱出するのがやっとで、
とても状況を把握はあくする余裕など……
も、申し訳ありません!!
これは私の全くの失態。
士官たるものこんなことで……
帆村ほむら魯公ろこう
いいから少し落ち着け、九頭中尉。
ここで取り乱していては、
弱味をさらすことになる。
喪神もがみ梨央りお
隊長!
着電です。
第三連隊の常田つねだ大佐殿からです。
帆村ほむら魯公ろこう
常田つねだ大佐から電話?
さては、歩三ほさん鬼龍きりゅう隊が、
何か問題を引き起こしたか?
わかった。すぐ行く。
喪神もがみ梨央りお
兄さん、歩三ほさん鬼龍きりゅう隊って、
本当に召喚師だけなんですか?
怪人が混ざっていたりしません?
九頭くず幸則ゆきのり
第九十九小隊のことだな。
歩三ほさんでは召喚師部隊だと、
かねがね言い張っているな。
喪神もがみ梨央りお
隊で次々怪人が出て、
それが歩一ほいちにまで伝染したとか、
そんなことでしょうか?
九頭くず幸則ゆきのり
まるで伝染病みたいだな……
そこへ魯公ろこうが、
電話より戻ってきた。
喪神もがみ梨央りお
魯公先生!
――隊長!
第三連隊の様子は?
帆村ほむら魯公ろこう
向こうでもやはり、
似たような状況らしい。
兵らが怪人化しておると。
九頭くず幸則ゆきのり
やはり歩三ほさんが発生源ですか?
帆村ほむら魯公ろこう
常田つねだ大佐は我が方を疑っておられた。
山王さんのう機関が何かたくらんでおるのではと。
師団長に上申し、歩一の監査をと――
歩一ほいちにも被害の出ていることを伝え、
なんとかさやに収めていただいた。
歩三ほさんの方は、彼ら自身にゆだねよう。
鬼龍きりゅう隊が事態に当っているという。
風魔は歩一ほいち鎮定ちんていに向かってくれ。
九頭くず幸則ゆきのり
頼んだぞ、風魔!
俺は、これから第一師団司令部へ
報告に行かねばならん。
後で俺も歩一ほいちに向かう。
それでは、失礼するよ!
喪神もがみ梨央りお
広尾橋ひろおばし方面にセヒラ観測です。
歩一ほいちの前に立ち寄ってください。
市中の怪人の方が心配です。

広尾橋ひろおばし

公務電車は第一連隊のある六本木ろっぽんぎを通過、かすみ町を経由して広尾橋ひろおばしに向かった。

【通行人のおじさん】
かすみ町が封鎖されていたよ。
交差点に兵隊がたくさんいて……
何だか物々しい様子だった。
また革命家気取りが、
問題でも起こしたのか?

【近所の住人のおばさん】
さっきからパンパン聞こえるけど、
どうしちゃったの?
兵隊さんが走っていくし。
それも何人も――

【怯える住人】
これは反乱じゃないのか?
そうだろ、反乱軍だ、
とうとう蜂起ほうきしたんだ!
原隊はどこだ?
歩一ほいちか? それとも歩三ほさんか?

【怪人化兵士】
自分は支那シナ派遣軍独立混成部隊、
第九九九輜重曹長しちょうそうちょうであります!
輜重しちょう兵ながら車を投げ飛ばし、
腕に覚えのある小隊長三名を、
その頭をひねつぶしたであります!!

《バトル》

広尾街路ひろおがいろ

【怪人化兵士】
ウウウゥ~
松花江スンガリーの流れ滔々とうとうと、
巫山ふざんの雲が流れ飛ぶぅ~
貴様を松花江スンガリーに浮かべてやりたい~
関東軍哈爾浜ハルピン独立隊、
砲兵機甲科部隊、第六六六中隊、
蒼ノ月光あおのげっこう部隊、参上だ!!

《バトル》

第一連隊本部だいいちれんたいほんぶ練兵場れんぺいじょう

おびえている歩哨ほしょう
と、止まれ!
こ、ここから先は入るな!
き、貴様!
何奴なにやつだ?
――誰何すいかする!!
九頭くず幸則ゆきのり
山王さんのう機関の喪神もがみ特務中尉と
歩一の九頭くず中尉だ。
おびえている歩哨ほしょう
あぁ?
――はい。
…………
九頭くず幸則ゆきのり
――お……
お前は、怪人化してないようだな。
状況はどうなっているか?
おびえている歩哨ほしょう
はい! 状況はすこぶる悪いです!
怪力を得た兵らは、それを誇示し、
乱暴狼藉ろうぜきし放題であります!!
九頭くず幸則ゆきのり
貴様は何ともないんだな?
所属部隊はどこだ?
おびえている歩哨ほしょう
は、はい。
ほ、歩兵第一連隊第三大隊第九中隊……
エニセイ川独立軍、旅団ポルカ……
ウ、ウグワァ~
ゲプ……ウゥゥ……ゲポッ!
九頭くず幸則ゆきのり
貴様!
もう一度、部隊を言え!!
【怪人化兵士】
はっ! 
第八大隊アナーキズム中隊、
国家転覆てんぷく班副班長であります!
九頭くず幸則ゆきのり
き、貴様ッ!!
何を言っている!?
【怪人化兵士】
アナーキズムこそ、
我が日本の未来であります!
九頭くず幸則ゆきのり
ふ、風魔ふうま……頼むッ!!

《バトル》

帆村ほむら虹人こうじん
おやおや、予想以上に酷い状況だ。
向こうにまだまだ怪人がいるぞ。
九頭くず幸則ゆきのり
虹人こうじんさん、見ての通りだ!
力を貸してくれ!
帆村ほむら虹人こうじん
もちろんそのために来た。
だが、君らは退くんだ。
ここで怪人を倒し続けていても、
らちが明かない――
九頭くず幸則ゆきのり
そうなのか!!
ならば、どうすれば……
帆村ほむら虹人こうじん
この場は僕がしのいで見せる。
九頭くず幸則ゆきのり
一人で大丈夫か?
帆村ほむら虹人こうじん
任せておいてくれ。
無茶をしても始まらないからね。
二人は本部に戻り、策を練るんだ。
これは元を絶たないと駄目だ!
九頭くず幸則ゆきのり
了解!
風魔ふうま、ここは一旦いったん、切り上げよう。

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
二人とも、よく戻った!
歩一ほいちの方は小康しょうこう状態だ、
虹人こうじんで守りきれるはずだ。
第三連隊の方に動きがある。
まだ連絡はないが――
支援要請に備えてくれ。
それにしても軍人が、
アナーキズムを語るとは、
一体、どういう絡繰からくりなんだ?
喪神もがみ梨央りお
アナーキストやプロレタリアートの、
影響を受けているのでしょうか?
最近、よく見かけます――
帆村ほむら魯公ろこう
そうかも知れんが……
ちょっと筋が違う気もする。
帝都満洲の影響も考慮したい。
喪神もがみ梨央りお
帝都満洲……
線路がまた延びたんでしょうか?
――見当付けてみますね。
帆村ほむら魯公ろこう
頼む。
それにしても梨央りおは、
鉄道やらに詳しいなぁ。