第二章 第九話 第三連隊の怪人

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

鬼龍きりゅう豪人たけとが率いる第三連隊第99小隊は、召喚師を中心とした部隊である。
歩一ほいち歩三ほさん、両連隊の中には、鬼龍きりゅう隊が将兵の怪人化騒動の原因ではと、かんぐる動きも散見さんけんされていた。

九頭くず幸則ゆきのり
師団の調査はどうなりました?
両連隊に調査、入ったんですよね?
帆村ほむら魯公ろこう
鬼龍きりゅうの隊が原因ではないことは、
第一師団の調査ではっきりした。
ところで、ユキ坊は、
隊に戻らなくて良いのか?
九頭くず幸則ゆきのり
はっ!
九頭中尉は、事態鎮静ちんせいまで、
山王さんのう機関での待機を命じられました。
もしや帝都満洲ていとまんしゅうに原因があるなら、
風魔ふうまと同行します。
喪神もがみ梨央りお
お話中、失礼します。
九頭中尉に着電です。
第一師団司令部からです。
九頭くず幸則ゆきのり
ありがとう、梨央りおちゃん。
喪神もがみ梨央りお
だから、梨央ちゃんは、
してください。
九頭くず幸則ゆきのり
ははは、俺たちの仲で、
そんなお固いことを言わなくても
いいじゃないか。
喪神もがみ梨央りお
それより、早く電話に出てください。
九頭くず幸則ゆきのり
本当につれないなぁ、梨央ちゃんは。
では、ちょっと失礼。
喪神もがみ梨央りお
司令部から幸則ゆきのりさんに電話だなんて、
新しく隊を指揮せよとか……
ちょっとあり得ない感じもします。
帆村ほむら魯公ろこう
うむ。今回の事件はいずれも、
手立もなく、対応に追われるばかり。
如何いかなる要請が来ても不思議でない。

少しして、慌てた様子で九頭が戻って来た。

九頭くず幸則ゆきのり
帆村ほむら先生!
どうやら歩三ほさんのほう、
いま鎮定ちんていできていないようです。
帆村ほむら魯公ろこう
鬼龍きりゅう隊だけでは無理があるのか。
九頭くず幸則ゆきのり
そのようです。
山王さんのう機関に歩三ほさん鎮定ちんてい要請が
入りました。
特務機関員一名を随伴ずいはんの上
第三連隊本部へ向かえとの
命令です。
帆村ほむら魯公ろこう
ほう……珍しいこともあるな。
だが、事態が事態だけに、
すべからく要請を受けよう。
風魔ふうま、九頭中尉、歩三ほさんの本部だ。
途中、怪人兵に出くわす場合に備え、
警戒おこたることなく向かってくれ!
九頭くず幸則ゆきのり
ということで……
風魔、出番だぜ。
喪神もがみ梨央りお
幸則さん、何だか嬉しそうですよ!
九頭くず幸則ゆきのり
無茶な命令を受けるときは
喜ぶことにしてるのさ。

霞町路地かすみちょうろじ

二人は霞町かすみちょうの交差点から電車通りを外れ、霞町かすみちょうの路地に入った。
多くの怪人将兵が繰り出していた。

九頭くず幸則ゆきのり
結構、片付いたな、風魔ふうま
後は歩三ほさんの本部に乗り込むだけだ。

九頭くずが不意に目をやると、一人の将校が行く手をふさぐように立っていた。
その尋常じんじょうならざる眼の光は、おおよそ常人のものではなかった。
将校がすでに怪人化していることを物語る。

九頭くず幸則ゆきのり
おい、風魔ふうま
あいつを見ろよ!
あの将校は絶対に怪人だ!
階級は何だ?
中尉か、それとも大尉か?
まぁ怪人だから階級は関係ないか。

【怪人化中尉】
我、満蒙マンモウにて身を立てん!
東亜とうあの土に、我等が使命!
北斗の星、しるしがごとく輝けり!
満蒙マンモウの野に、栄は共にす希望のぞみなり!
東より来る光で照らせ、
広野ひろのを、広野ひろのを!
あゝ、あか満洲まんしゅうよ!
むつみの歌を聞け! 聞け、崑崙コンロンの峰々よ!

《バトル》

九頭くず幸則ゆきのり
奴は支那シナ派遣軍か関東軍だな。
しかも満鉄の社歌を……
――何だかいろいろ狂ってるな!

第三連隊前庭だいさんれんたいまえにわ

九頭くず幸則ゆきのり
いよいよ歩三ほさんの本部だ。
平生へいぜいでも滅多に来ることはない。
――して今や非常時だ。
審神者さにわのお前なら、
いろいろ感じることがあるだろう。
この俺すら感じるものがある!
鬼龍きりゅう豪人たけと
どうした、何をビクビクしている?
喪神もがみ風魔ふうま凡人ぼんじん中尉を従えて、
我が連隊に何の用だ?
九頭くず幸則ゆきのり
鬼龍きりゅう豪人たけと第九十九小隊長殿、
助太刀すけだちに来てやったぜ!
鬼龍きりゅう豪人たけと
ふん、私の名は、
下っ端のやりくり中尉風情ふぜい
軽々しく呼んでいい名前ではないぞ。
九頭くず幸則ゆきのり
まりの上官づらか!
大尉たる階級で小隊をひきいるとは、
さては連隊の笑い者だな!
鬼龍きりゅう豪人たけと
我々は特別だ。
特務機関ではなく正規の部隊だ。
貴様ら外様とざまとは格が違う。
東雲しののめ帰神きしん法に加え、
トゥーレの召喚術を合わせ、
戦闘に特化した秘儀だ!
それを継ぐ我が小隊にしても、
この事態、絶好の演習となる!
九頭くず幸則ゆきのり
隊の将兵らが怪人化するのを、
抑えられなかったんじゃないのか?
見ろ! こいつも怪人だ!
【怪人化大尉】
東亜とうあの民と、日本の国の!
先ゆく者の、むつみの歌を、聞け!!
鬼龍きりゅう豪人たけと
大尉!
ここは衛戍えいじゅ地だ、わきまえろ!
まさか……この私が、我が秘術が、
怪人化して間もない者に負けるだと?
そんなことが……
【低い男の声】
鬼龍きりゅう大尉……
鬼龍きりゅう豪人たけと
常田つねだ大佐!
常田松柏つねだしょうはく
山王さんのう機関には連隊として要請が出ている。
これは第一師団長もお認めになった、
正式なものだ。
山王さんのう機関の諸君、我が方の非礼、
びさせてもらおう。
諸君の助力が必要だ。
鬼龍きりゅう豪人たけと
大佐……
九頭くず幸則ゆきのり
自分らは任務遂行するのみであります。

《バトル》

常田松柏つねだしょうはく
仕留めたか……
鬼龍きりゅう豪人たけと
フフ……
さすがだな、喪神もがみ風魔ふうま
今の奴は、き間もないのに、
鬼龍きりゅう豪人たけと
その憑依ひょういがあまりに深く、
廓清かくせいはされなかった――
そこいらのにわか怪人とはわけが違う――
今後、注意が必要なしゅの怪人だな。
喪神、貴様らも油断はするな!
九頭くず幸則ゆきのり
今の怪人は大尉の部隊ですか?
――鬼龍きりゅう大尉殿
鬼龍きりゅう豪人たけと
まさか!
私の隊に怪人化するような将兵はいない。
貴様らの方ではないのか?
常田松柏つねだしょうはく
鬼龍きりゅう大尉!
怪人化した将兵、まだいる。
残る将兵の救出も急務だ!
来い!
向かうぞ!
鬼龍きりゅう豪人たけと
……はっ、ただちに!
九頭くず幸則ゆきのり
独善どくぜんおちいった野郎が……
まるで言いたい放題だな!
で、どうするんだ?
まだまだ怪人兵はあるはずだ。
隊舎内にもいるんじゃないか?
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、大丈夫ですか?
同行中尉も、大丈夫ですよね?
九頭くず幸則ゆきのり
なんだい、俺はついでか?
【着信 喪神もがみ梨央りお
今しがた、協力要請が解かれました。
その場を撤収てっしゅうしてください。
九頭くず幸則ゆきのり
怪人兵、まだいそうだけど……
まぁよい、戻ろうぜ、風魔ふうま
元を絶つということなんだな?
【着信 喪神もがみ梨央りお
同行中尉、よくわかりましたね。
それが方針です。
九頭くず幸則ゆきのり
り……ああ、いや、通信兵!
さいのオ、若狭のワ、陸前のリ、
オ・ワ・リであります!

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

喪神もがみ梨央りお
兄さん!! それに幸則ゆきのりさんも!
お二人ともご無事で何より!
帆村ほむら魯公ろこう
第三連隊の方も、
なんとか鎮定ちんていなったようだ。
鬼龍きりゅう隊もそれなりに、
役に立ったみたいだな。
この件、参謀本部に報告する。
近く、いろいろ決定が下るだろう。
九頭くず幸則ゆきのり
歩一ほいちの方はどうなってますか?
帆村ほむら魯公ろこう
依然いぜん小康しょうこう状態だ。
市中に出た怪人化将兵はいない模様だ。
今のうちに策をる――
ということで、向かうは帝都満洲ていとまんしゅうだ。
帝都満洲から湧出ゆうしゅつするセヒラ、
その量が飛躍的に増大している。
このままでは、帝都はセヒラまみれ。
全市民が怪人化しかねないぞ!
根源断絶こそ帝都の急務!
まぁやや大げさだがな――
報告がてら参謀本部に掛け合い、
次の公務を帝都満洲の巡視パトロールにするぞ。