第三章 第一話 浜離宮の藤棚

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
どういう絡繰からくりなのか、
陸軍医学校の怪異現象、
新聞がけよったみたいだ――
おそらく内部の者が情報漏洩ろうえいさせた、
そうに違いないな。
皆が関心を寄せておる証拠だが――
喪神もがみ梨央りお
夏になると怪談話が出てきます。
それに合わせて怪人話も、
人の口にのぼりやすくなりますね。
九頭くず幸則ゆきのり
失礼します、
第一連隊の九頭くず中尉です。
帆村ほむら魯公ろこう
おお、ちょうどよかった!
九頭くず幸則ゆきのり
どうしたんですか先生。
それに……みんな……
浮かない顔ですよ――
帆村ほむら魯公ろこう
いやな、怪人情報、すぐ広がる。
なんとか統制できないものかと。
参謀の第八分課ではどうなんだ?
九頭くず幸則ゆきのり
怪人が出てからでは遅い、
未然に手を打つべきだとの声が。
どうやって未然に防ぐかですが……
帆村ほむら魯公ろこう
まぁ第八分課は情報の受付専門、
進んで動く部署ではないわな。
九頭くず幸則ゆきのり
山王さんのう機関が動くべし、
という声もちらほらと――
それは可能ですか?
喪神もがみ梨央りお
山王さんのう機関はセヒラを観測しないと、
巡視パトロールは難しい……基本はそうです。
――実はその件でご相談が……
帆村ほむら魯公ろこう
どうした、梨央りお
基本にないことをしようと?
喪神もがみ梨央りお
今日、浜離宮はまりきゅう鈴代すずよさんが、
野点のだてを開かれます。
ユリアさんをお呼びになるとか――

藤が見頃となった浜離宮はまりきゅうでは、茶道の各会派を招いての茶会がもよおされる。
鈴代の久遠くおん流も招かれているのだという。

帆村ほむら魯公ろこう
浜離宮はまりきゅうでな!
それで梨央や、胸騒ぎがすると、
そういうことかな?
九頭くず幸則ゆきのり
セヒラは観測しないんだろ?
梨央ちゃんの胸騒ぎだけで、
山王さんのう機関は公務に出られるのか?
でも……
これまではどうなんだ?
怪人情報が寄せられたら公務出動、
セヒラを観測しても出動、
それ以外の出動はなかったっけ?
たとえば人の警護とか、
それでも公務になるよね!
喪神もがみ梨央りお
もちろんです! でも、今日は……
波形はないんですが予感がします。
これまでも予感は当たっています――
九頭くず幸則ゆきのり
そうか!
なら出よう、風魔ふうま
野点のだて浜離宮はまりきゅうなんだな?
喪神もがみ梨央りお
そうです、鈴代さん、麗華れいかさん、
それにユリアさんが参加されます。
帆村ほむら魯公ろこう
梨央、公務電車の手配はどうだ?
喪神もがみ梨央りお
公務電車、とらもんを直進して、
新橋しんばしから新橋しんばし五丁目に向かいます。
その経路をおさえました。
九頭くず幸則ゆきのり
ユリアさんっていうのにも、
一目会っておきたいじゃないか!
風魔はもう会ったんだっけ?

浜離宮はまりきゅう

九頭くず幸則ゆきのり
茶道の会派って、何組くらい、
呼ばれてるんだろうか……
しかし今日はいい天気だ!
月詠つくよみ麗華れいか
あら、お二人も
お呼ばれされたのですか?

野点のだての会場には、如月きさらぎ鈴代すずよ月詠つくよみ麗華れいか、それにアーネンエルベの錬金術師れんきんじゅつし、ユリア・クラウフマンの姿があった。

【ユリア・クラウフマン】
こんにちは、フーマ……
それに……
九頭くず幸則ゆきのり
自分、歩兵第一連隊の、
九頭くず幸則ゆきのり中尉であります!
【ユリア・クラウフマン】
ウフフ、面白いお方ね。
月詠つくよみ麗華れいか
ここは部隊じゃありませんわ、
お茶の会ですのよ!
如月きさらぎ鈴代すずよ
こちら、ユリアさん、
ユリア・クラウフマンさんです。
アーネンエルベにおつとめです。
【ユリア・クラウフマン】
はじめまして、クズ……ユキノリ……
ユリア・クラウフマンです。
九頭くず幸則ゆきのり
アーネンエルベって、
ナチの秘密結社ですよね――
発掘調査とかしている……
如月きさらぎ鈴代すずよ
風魔さん、幸則さん、
ここは梨央ちゃんから……
歓迎しますわ。
今日はユリアさんに、
お茶をおめしになっていただこうと。
それに日本の自然にも
触れていただきたくて……
とてもご興味をお持ちですのよ。
【ユリア・クラウフマン】
自然への向き合い方が、
日本人とドイツ人とでは、
大きく違います――
錬金術は霊的なもの、科学的なもの、
それらをぜにして、
時として自然摂理せつりを軽視しました。
如月きさらぎ鈴代すずよ
でも、医学も科学も、
そこから発達したと言えますわ。
【ユリア・クラウフマン】
ドイツ人にとって、
自然は克服こくふくするもの、
そういう考えが支配的です。
月詠つくよみ麗華れいか
日本人は自然の中に、
いろんなものを見つけるのですわ!
【ユリア・クラウフマン】
怪異も作るものではなく、
見出みいだすものなのですね、日本では。
如月きさらぎ鈴代すずよ
――ユリアさん……
私、ユダヤ支族しぞく末裔まつえいだというと、
ユリアさんは驚きますか?
【ユリア・クラウフマン】
ええ?
そんなこと、思いもしませんでした。
如月きさらぎ鈴代すずよ
曽祖母そうそぼがユダヤ人なのです。
レイチェル・ポートマンという
ポーランドにいたマナセ一族です。
十八世紀末にアメリカに渡り、
籠瀬かごせ宗一そういちと言う日本人と結ばれ、
祖母、五十鈴いすずが生まれました。
【ユリア・クラウフマン】
マナセ一族というのは、
失われた支族しぞくと呼ばれています。
スズヨさんは、その一族なのですか?
如月きさらぎ鈴代すずよ
ええ、傍流ぼうりゅうかもしれませんが……
マナセ一族は霊異りょういすのです。
でも、私には伝わりませんでした。
一族の霊異りょういは女系に伝わるのです。
祖母は男の子しか生まなかった――
それが私の父、宗達そうたつなのです。
祖母の代にととのえた東雲しののめ帰神きしん法、
父は懸命けんめいごうとしたのですが、
霊異りょういがあまりにも弱くて――
七年前、父が亡くなり、
私が宗家そうけいだのですが、
力不足、はなからわかっていました。
月詠つくよみ麗華れいか
それだから鈴代さんは、
お茶の方に進まれたのですか?
如月きさらぎ鈴代すずよ
お茶は尋常じんじょう小学校の頃からですわ。
でも熱心にするようになったのは、
その頃からですわね。
私には霊異りょういは伝わっていない、
そう考え、東雲しののめ流を閉じたのです。
――辛い決断でした。
【ユリア・クラウフマン】
流派を閉じるとは、
どのようなことをするのですか?
如月きさらぎ鈴代すずよ
東雲しののめの流派に伝わる神器の鏡を、
如月きさらぎ家ゆかりのやしろに納めました。
あの鏡なくして帰神きしんは、無理です。

鬼龍きりゅう豪人たけと
皆さん、おそろいとは、
何があったのですか?

如月きさらぎ鈴代すずよ
鬼龍きりゅうさん――
どうして……ここへ……
鬼龍きりゅう豪人たけと
お変わりありませんか、如月きさらぎ鈴代すずよさん。
独逸ドイツからの手紙、読まれましたか?
――私はもっと知るべきでした。
如月きさらぎ鈴代すずよ
何をですの、鬼龍さん。
あなたは召喚師として技を修練され、
古臭い流儀とは決別されたのでは――
鬼龍きりゅう豪人たけと
独逸ドイツに留学する前の話ですよ。
京都の十六師団にいた時の――
私は一人で東雲しののめ流に向き合っていた……
如月きさらぎ鈴代すずよ
てっきり新しい流派を立ち上げる、
そんなおつもりなのではないかと……
私の考えすぎでしょうか?
父亡き後、東雲しののめ流はずっと
存亡そんぼうの危機にあったのです。
鬼龍さん、あなたもご存知ぞんじのはず――
鬼龍きりゅう豪人たけと
知っていますよとも!
おかげで私は力を失った――
まるでひよわな青年だ。
如月きさらぎ鈴代すずよ
またしても力!
どうしてみなさんは力ばかりを、
お求めになるでしょうか?
霊異りょういを現すことと、力を得ることは、
まったく別のことなのです。
審神者さにわに力など必要ありません……
鬼龍さん、あなたのす術技には、
東雲しののめ流の半分も伝わっていません。
鬼龍きりゅう豪人たけと
それは貴女が流派の閉じるのを、
急いだからではないですか?
それをさも私の修練不足のように……
あなた達の言う霊異りょうい
今の私にならせますよ。
らんに入れましょうか?
九頭くず幸則ゆきのり
大尉殿、ここは茶の席、
ひかえていただけますか?
お互い、軍人同士ということで、
場を移しませんか?
鬼龍きりゅう豪人たけと
いい考えだ、中尉!
貴様に従うとする。
そうだ、喪神もがみ中尉、
俺の股肱ここうしんが会いたがっていた。
この場に呼ぼう。

如月きさらぎ鈴代すずよ
風魔ふうまさん!
強い瘴気しょうきを感じます。
一五市にのまえごいち
この五市ごいち、同じてつは踏まぬ。
東雲しののめ流の奥義おうぎを見せてくれる!
さぁ、本気を出してもらおうか!

《バトル》

【メイド・ホムンクルス】
フーマ、私のを……
使え!
月詠つくよみ麗華れいか
見えますわ、見えます!
力強い……これが神々――
私にも力がいてくるようです!

一五市にのまえごいち
く、く……
何か変だ、様子が……
如月きさらぎ鈴代すずよ
風魔ふうまさん!
大変です、幸則ゆきのりさんが!
九頭くず幸則ゆきのり
大尉殿、どうされましたか?
大尉殿のは?
――自分には見えませんが……
鬼龍きりゅう豪人たけと
き、貴様は……
山王さんのう機関にびたって、
審神者さにわでも召喚師でもないとは!
九頭くず幸則ゆきのり
まさか自分を突き飛ばすなど、
怪人でもない大尉には無理ですよね。
【ユリア・クラウフマン】
クズ! アナタを怪人にする、
それはできます!
アブナイです!
お嬢さんフロイライン
前へフォー
【メイド・ホムンクルス】
はい、ご主人様。ヤー マイネ ダーム
鬼龍きりゅう豪人たけと
なるほど!
アーネンエルベのお出ましか!
仕方ない……
サマナー、出撃せよ!
【第三連隊第九十九小隊召喚師】
鬼龍きりゅう隊長の教え、
ここに整っております。
独逸ドイツはトゥーレのやかた仕込みの
本場の召喚術でございます。
【ユリア・クラウフマン】
フーマ!
私のフロイラインが加勢します!
月詠つくよみ麗華れいか
この感じですわ!
私にも見させてくださいな、
戦いの場面を――

《バトル》

【バール】
お嬢さん、
一緒にやってみないかにゃ?
月詠つくよみ麗華れいか
あら?
貴方はどなたですの?
【バール】
君が神々と呼ぶのひとりにゃ。
さあ、望むなら君にも
さずけよう!
月詠つくよみ麗華れいか
はい! よろこんで!
私も……
力になれるのですね!!

【第三連隊第九十九小隊召喚師】
まだ……
修練が、足りない!!
月詠つくよみ麗華れいか
私、体のしんが熱くなりました――
不思議な感覚ですわ。
――こんなの、はじめて……
九頭くず幸則ゆきのり
鬼龍きりゅうはどこだ?
姿が見えないぞ!
【ユリア・クラウフマン】
フーマ!
スズヨさんが!
鬼龍きりゅう豪人たけと
鈴代すずよさん、貴方は東雲しののめ流宗家として
我らと共に歩むべきです。
如月きさらぎ鈴代すずよ
……お断りいたしますわ。
鬼龍きりゅう豪人たけと
どうしてですか?
今、東雲しののめ流を再興さいこうすれば、
我々に敵する者はいなくなります。
如月きさらぎ鈴代すずよ
鬼龍さん……
貴方は何をお求めなの?
私にはわかりません――
鬼龍きりゅう豪人たけと
誤解されているようだが、
私は流派や権力などに興味はない。
ただ、正しい道を求めているのだ!
如月きさらぎ鈴代すずよ
鬼龍さん!
離れてください!
風魔ふうまさん!
鬼龍きりゅう豪人たけと
仕方がない。
越さねばならぬかわがあるなら、
越すまでだ。
さぁ、私に向き合え、喪神もがみ風魔ふうま

《バトル》

鬼龍きりゅう豪人たけと
審神者さにわの奥義、会得えとくしていたはず……
東雲しののめ流も帆村ほむら流に合わさり、
その様子、大きく変えたな!
月詠つくよみ麗華れいか
ああ、しっかりと見届けましたわ。
本当に不思議な世界!
――とても満喫まんきつしましたわ!
鬼龍きりゅう豪人たけと
お前は……
審神者さにわなのか?
――それとも……
【ユリア・クラウフマン】
この子は……
――覚醒かくせいされたのですか?
月詠つくよみ麗華れいか
豪人たけとさま……
豪人さまが上京された時、
一度だけ、お目にかかっています。
三年前の四月です――
すでに東雲しののめ流が閉じられ、
豪人さまはひどく落胆らくたんされて……
鬼龍きりゅう豪人たけと
うるさい!!
そんな昔の話など!
如月きさらぎ鈴代すずよ
鬼龍さん……
貴方は私と話そうとなさらなかった。
避けていらしたのですか?
月詠つくよみ麗華れいか
豪人さま、私、鈴代すずよさんに頼まれて
京都の師団にお邪魔したのです――
初めてお目にかかってほどなくして。
如月きさらぎ鈴代すずよ
東雲しののめ流を閉じるに至ったいきさつ、
手紙にしたためてお渡ししようと――
鬼龍きりゅう豪人たけと
それは行き違いでしたね。
その頃、私は東京に戻り、
独逸ドイツに渡る準備をしていました。
私は心の小さな、卑陋ひろうな人間ですか?
――そう思いたいなら思うがいい。
私は召喚師部隊を仕立てる。
私の招かれた第三連隊玄理げんり派は、
神意しんいこそ力なりをむねとしている。
私はそこに道をひらくだけです。
九頭くず幸則ゆきのり
連中は、どうした?
月詠つくよみ麗華れいか
戻られました――
九頭くず幸則ゆきのり
鬼龍の奴、食えない奴だ!
奴は鈴代の流派の閉じたのが、
よほど気に入らないみたいだな。
月詠つくよみ麗華れいか
私の知る豪人さまは、
将校服に身を包まれて、
うんと立派でございました。
九頭くず幸則ゆきのり
召喚師になって、隊に呼ばれて、
奴は平服のまま任務にくのか?
どういう規律なんだ、いったい――
【ユリア・クラウフマン】
レイカ……さん……
あなたには戦いが見えたのですか?
月詠つくよみ麗華れいか
はい! 見えました!
そして神様をさずかったのです!
九頭くず幸則ゆきのり
本当か……
鈴代の技が……
といっても、お茶じゃないし!
鈴代からお茶を習ううちに、
審神者さにわの術も習ったとか――
【ユリア・クラウフマン】
フフフ……ユキノリ……
面白いことを言いますね!
九頭くず幸則ゆきのり
そ、そうですか?
自分、いたって真面目に……
でも麗華れいかさん……
正直どうなんです?
鬼龍のこと、少しは――
如月きさらぎ鈴代すずよ
幸則ゆきのりさん――
九頭くず幸則ゆきのり
まぁ、昔のことだと、
鬼龍の奴も言ってたけど――
如月きさらぎ鈴代すずよ
人の気持ちというのは、
はかれないものですわ。
九頭くず幸則ゆきのり
そうだな……
俺も鈴代がどう思ってるかなんて、
ちっともわからない!
如月きさらぎ鈴代すずよ
あら、何のことですの?
私は幸則さんも風魔ふうまさんも、
幼なじみの仲良しだと――
【ユリア・クラウフマン】
スズヨさん……感謝します……
とても大切なお話、していただいて。
そして……スズヨさんがうらやましい――
如月きさらぎ鈴代すずよ
あら、ユリアさん……
今日のこと、胸に仕舞しまっておいて
くださいますか?
【ユリア・クラウフマン】
もちろんです……
とても個人的なことですから。