第三章 第十三話 帝大騒動

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

ゴエティアとおぼしき古書の鑑定と解読は、つた博士の他に頼れる先がない。
これは玄理げんり派とて事情は同じであった。

帆村ほむら魯公ろこう
玄理げんり派に奪われた古書だが……
やはりゴエティアの偽典ぎてんと判明した。
つた博士が鑑定したのだ――
喪神もがみ梨央りお
え? つた博士が鑑定って……
玄理げんり派もつた博士に依頼を?
帆村ほむら魯公ろこう
そのようだな。
あの書を正しく鑑定できる者は、
つた博士をおいて他にはいないだろう。
そのゴエティアなんだが、
鑑定が済み解読も終えたとのことだ。
喪神もがみ梨央りお
そのことは玄理げんり派も、
知っているんですか?
帆村ほむら魯公ろこう
博士は専用電話を使ったのだ、
すれば自ずと第八分課に繋がる。
玄理げんり派の知るのは時間の問題だ。
するとアーネンエルベも、
帝大に来ると考えられるな。
風魔ふうま、一人で大丈夫か?
虹人こうじんに同行させたいのだが……
帆村ほむら虹人こうじん
僕なら大丈夫ですよ、
風魔と一緒に帝大に向かいます。
古書のこと、少しは責任あるし――
喪神もがみ梨央りお
あの時は実岡さねおかさんを
巻き込むわけには――
だから、仕方なかったんです。
帆村ほむら虹人こうじん
梨央りおがそう言ってくれると、
随分ずいぶんと気が楽になる、ホントだよ!
さぁ、風魔、帝大だ!
梨央、公務電車を頼む。
帆村ほむら魯公ろこう
気を付けるんだぞ、二人とも!
玄理げんり派とアーネンエルベ、
両派と対峙たいじするかも知れんからな。
帆村ほむら虹人こうじん
充分に留意りゅういします。

帝大廊下研究室前ていだいろうかけんきゅうしつまえ

研究室に向かう廊下の途中、鬼龍きりゅう豪人たけとが倒れていた――
鬼龍きりゅうは苦しそうに顔をゆがめて話す。

鬼龍きりゅう豪人たけと
喪神もがみか……
……博士が……電報を……
来た時には……おそ……
遅かった……博士は……
あぶ……ない……
……博士の……安全……
奴らは……研究室に……
……私は……立て直す……
帆村ほむら虹人こうじん
博士は無事なのか?
ゴエティアは、どうなった?
またしても、
執事型ホムンクルス!
さてはアーネンエルベが――

【執事型ホムンクルス】
……排除対象……
……モガミフウマ……
……ホムラコウジン……
帆村ほむら虹人こうじん
しつこい連中だ!
風魔ふうま、一気に鎮定ちんていするぞ!

【執事型ホムンクルス】
……排除スル……
……モガミフウマ……
……ホムラコウジン……

《バトル》

帆村ほむら虹人こうじん
僕はここに残る。
風魔ふうまつた博士のところへ!

蔦博士研究室つたはかせけんきゅうしつ

研究室の扉を押し開けた。
狭い研究室内に、つた博士と、ルドルフ・ユンカーの姿があった。

【ルドルフ・ユンカー】
モガミさんですね!
いまツタ博士と話をしていたのです。
博士は実に多くをご存知です。
つた博士】
ユンカー博士はを降ろせると、
そうおっしゃるんだ。
神智しんち学者がそこまでできるとは――
【ルドルフ・ユンカー】
私の弟は物理学者ですが、
を見られません。
なんとか見たいと願うようですがね。
つた博士】
――弟……
ということは……
あなたは――
【ルドルフ・ユンカー】
今はしましょう、博士。
それよりもこの解読書、
渡していただきますね。
何もただでとは言いません。
紳士しんし的にお手合わせ願いましょうか。

《バトル》

【ルドルフ・ユンカー】
さすがですね、モガミさん!
あなたの術には憎しみがない、
なぜなのか、不思議です――

【ルドルフ・ユンカー】
私を卑怯者ひきょうものわらって構いません。
どうしてもこれを本国に送り、
親衛隊上層部に報告せねば!
真っ白な閃光せんこうが世界を消した。
ユンカーが放った閃光弾せんこうだん炸裂さくれつしたのだ。

光が収まり、辺りが戻ると、もうユンカー博士の姿はなかった。

つた博士】
先の独逸ドイツ人、ユンカーが、
帝都のセヒラを同定し、
親衛隊に電報を打った――
私がその翌月、セヒラを観測した時、
すでに戦の論文は上梓じょうしされ、
山王さんのう機関の設立が計画されていた。
私はてっきり、ユンカー博士と、
昵懇じっこんの仲にある者が論文をしたためた、
そう考えていたのだが――
ユンカー博士には弟が――
帆村ほむら虹人こうじん
よかった!
博士、ご無事でしたね!
鬼龍きりゅう豪人たけと
立て直しが済んだぞ、喪神もがみ中尉!
ここで戦うほどおろかではあるまい。
さぁ、書を寄越せ!
帆村ほむら虹人こうじん
あの書は山王さんのう機関が預かるものだ、
貴様らが収めるものではない!
鬼龍きりゅう豪人たけと
実岡さねおかなる人物に、
金でも払っているのか?
帆村ほむら虹人こうじん
金でなど買うものか!
書はおのずと集まる、
正しき場所にな!
鬼龍きりゅう豪人たけと
さすが、制式採用された流派の、
余裕というやつだな!
――何が正しき場所だ!
つた博士】
おいおい、君たちは一体、
何を求めておるのかい?
独逸ドイツ連中をのさばらせて、
それでいいわけないだろうて。
第一、第三、二つの連隊は、
力を合わすべき時じゃないのかね?
鬼龍きりゅう豪人たけと
根本はそうですが、
それだけでは……
帆村ほむら虹人こうじん
博士のおっしゃることはよくわかります。
ただ覇権はけん争い、悪い面だけじゃなく、
切磋せっさ琢磨たくまするということでは――
つた博士】
そうか……ならば、
もっと切磋せっさ琢磨たくまするがよい。
解読書の写しをやろう、二人にな。
ゴエティアはいたずらに力を求めるための道具などでは決してない。
これは霊異りょうい現る世界にしてみれば、
まさに福音ふくいんのようなものだ。
その扱いを間違えると、
世界を破滅に導いてしまうぞ。