第三章 第六話 防疫研暴走

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

人に憑依ひょういするやいなやその魂をらい、人を内側から支配する
人籟じんらい

どうやら防疫ぼうえき研究所が一枚んでいるらしい。帆村ほむら魯公ろこうは参謀本部にて調査を続けるも、防疫ぼうえき研究所の所轄しょかついまだ明らかにならない。国立の機関とされながら、多くの謎を含む。

喪神もがみ梨央りお
兄さん!
防疫ぼうえき研究所の様子を見に出かけた、
虹人こうじんさんから連絡です。
金ノ七号帥士きんのななごうすいし
無線を黒ノ八号帥士くろのはちごうすいしに代わります。
【着信 帆村ほむら虹人こうじん
こっちでちょっと面倒が起きた。
僕一人じゃ手に負えないんだ――
人籟じんらい――
いや、その一歩手前の連中が、
反乱行動に出たんだ!
喪神もがみ梨央りお
反乱行動?
【着信 帆村ほむら虹人こうじん
奴ら、に魂をわれる
予備軍だ、そいつらが暴れている。
防疫ぼうえき研の職員が次々に襲われて、
もう阿鼻叫喚あびきょうかん様相ようそうなんだよ。
急ぎ、来てくれないか!
防疫ぼうえき研の加藤潔かとうきよし所長も心配だ。
所長室にもったきりなんだ――
状況は以上だよ。
奴ら、防疫ぼうえき研から表に出たかも……
白金しろかね界隈かいわいを観測するんだ。

喪神もがみ梨央りお
承知しました!
白金しろかね界隈のセヒラ、観測始めます。
公務電車、赤羽橋あかばねばし古川橋ふるかわばしから、
魚籃坂下ぎょらんざかした清正公せいしょうこう前から、
白金台町しろかねだいまちへ向かう経路です。

国立防疫研究所こくりつぼうえきけんきゅうじょ

帆村ほむら虹人こうじん
風魔、来たか。
人籟じんらいの材料は、
何も囚人しゅうじんばかりじゃないようだな。
神経病みなんかもいるようだ――
怪人になって力を得る、
そう思い込まされてきにされ、
すぐさま魂を食われるようだ。
その仕組みがどんなだか、
まだよくわかっていない。
が魂を食い尽くさないよう、
どうにかして制御されているんだ。
それで見た目は人の形をしている。
その中身はほとんだと考えてよい。

【本郷の止宿人】
お前たちも波斯ペルシア人なのか?
僕を狙っているんだな!
あずかり知らぬ一人の波斯ペルシア人が、
僕の中にんでいるんだ!
帆村ほむら虹人こうじん
おい、お出ましだ!
元々、こいつは神経病みだな。
風魔ふうま、こいつを頼む!
【本郷の止宿人】
僕の中の波斯ペルシア人は、いよいよ、
僕を追い出しにかかっている!
そんなこと、許さない!

明け方、薄闇の部屋で異国の言葉が。
それは波斯ペルシア語に違いない。
僕は寝ている振りをしていた――
その日、神経の先生に相談したんだ。
脳楽丸のうらくがんを処方してもらったよ。
夜、ここの職員が迎えに来たんだ――

さぁ、僕は引っ込む!
波斯ペルシア人をなんとかしてくれ!

《バトル》

【本郷の止宿人】
波斯ペルシア人をやっつけろと言ったろ!
――何故、僕を……
ううううう……

小日向こひなた派出婦はしゅつふ
坊っちゃん、というのは弟さんです、
普段から兄弟仲悪くって……
あの日、遅く帰った兄さんを――
素手です、玄関先で、
坊っちゃん、兄さんのお腹を、
素手でカーっといたんです!!

《バトル》

小日向こひなた派出婦はしゅつふ
玄関に散ったものを掃除しながら、
フヘヘヘヘ、口に入れてみました。
そしたら自分が……消えたんです。
帆村ほむら虹人こうじん
この辺はしずまったようだな――
所長室に行こう!

国立防疫研究所こくりつぼうえきけんきゅうじょ所長室しょちょうしつ

加藤潔かとうきよし軍医】
もう鎮まりましたかな?
――私が軍医の加藤かとう、ここの所長、
防疫ぼうえき研究の責任者です。
帆村ほむら虹人こうじん
うかがいますが、なんですか?
伝染病の予防研究ではないのでは。
加藤潔かとうきよし軍医】
伝染病もやっています、もちろん。
それ以外も……
帆村ほむら虹人こうじん
それ以外っていうのが、
主ではないですか?
人籟じんらいの研究と製造が――
加藤潔かとうきよし軍医】
あははは、それは秘匿ひとくなんです。
相手が特務機関の将校であっても。
――お答え出来かねます。

帆村ほむら虹人こうじん
いいでしょう、軍医。
まずはここの安全を守らねば。
あなた達の手によって、
きにされた者が暴れている。
加藤かとう軍医、あなたに対しても、
さだめし恨みをつのらせている
ことでしょうね。
加藤潔かとうきよし軍医】
ここの者は皆、新しく、
生きる希望を見出したのですよ!
帆村ほむら虹人こうじん
――気配がする!
表に誰かいる!
加藤潔かとうきよし軍医】
どうしましたか?
帆村ほむら虹人こうじん
生きる希望を見出した者が、
礼でも言いに来たんじゃないですか?
加藤潔かとうきよし軍医】
怪人の鎮定ちんていは、
君たちの役割です。
なんとかしてください!
しわがれた声】
加藤かとう所長!
あなたのたましいが必要なようです――
たましいを……ください!
加藤潔かとうきよし軍医】
あの声は……
人籟じんらい号となった被験者……
まだ生きていたのか?
帆村ほむら虹人こうじん
ほんのわずか、魂を残す、
随分ずいぶんと器用な技術をお持ちですね。
我々も立場がある、
あなたの命は守ってみせます。
おそらくこいつが最後だろう!
向かうぞ、風魔ふうま!!

国立防疫研究所こくりつぼうえきけんきゅうじょ

【被験者号】
私は加藤かとう所長の忠実な部下でした。
でも忠実過ぎたようです――
所長のところへ……お願いします!
帆村ほむら虹人こうじん
いや、それは無理だ!
【被験者号】
残念です……
私は多くを知ったのです、
所長はそれが気にいらないのです!
帆村ほむら虹人こうじん
鎮定ちんてい開始だ、風魔ふうま

《バトル》

【被験者号】
私はもうわずかしか残っていません。
所長もおそらく同じ目に……
いや、もっと違う形になるでしょう。

加藤潔かとうきよし軍医】
なかなかのお手並みですね。
市中に出た人籟じんらいも、
その鎮定ちんてい、時間の問題ですね。
帆村ほむら虹人こうじん
今のは所長の部下だったと。
自らそう言いましたよ。
あなたは部下をも犠牲に――
加藤潔かとうきよし軍医】
私が決めたわけではない!
ゼームス師団からの指示だ、
それに従ったまでだ!
帆村ほむら虹人こうじん
ゼームス師団?
何ですか、それは?
聞き慣れないですね……
加藤潔かとうきよし軍医】
東京ゼロ師団の通称ですよ、
品川のゼームス坂にあります。
指示はいつもそこから出されます。
帆村ほむら虹人こうじん
東京ゼロ師団?
所長、あなたは妄想にかれている、
そうじゃありませんか?
加藤潔かとうきよし軍医】
東京ゼロ師団こそ、我々、
国立防疫ぼうえき研究所の所轄しょかつです。
給付きゅうふされる研究費は際限さいげんなく、
目的さえ合えば、
いかなる手段を講じてもよし!
私はここにきて、
ようやく評価を得ました。
勲章くんしょうを授与されるほどだそうです!
帆村ほむら虹人こうじん
――風魔ふうま、戻ろう!
ここにいても仕方ない、
調査は別口べつくちで進めるしかない。