第四章 第十三話 百貨店の怪

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

日本橋にほんばしに本店を構える興亜百貨店こうあひゃっかてんは東洋一を誇るデパートメントストアだ。その典雅てんがな場所にも怪異はせまりつつあった。

周防すおう彩女あやめ
彩女あやめは小耳に挟んだのです。
マネキン人形さんがしゃべったと、
そう守衛しゅえいさんが話すのを。
喪神もがみ梨央りお
マネキンが、ですか?
しゃべったんですか……
兄さん、どう思います?
興亜こうあ百貨店のマネキン……
この怪談話、気になりますよね。
周防すおう彩女あやめ
あら! 怪談じゃありませんわ!
ニュースですのよ!
デパートメントの怪!
新聞がぎつける前に、
調べる価値、大有りですわ!
喪神もがみ梨央りお
興亜こうあ百貨店、満洲国の皇帝も、
買い物したんですよ!
周防すおう彩女あやめ
それなら尚更なおさらですわ、喪神もがみさん!
是非、調査なさって、
怪異の正体をあばいてくださいな!
喪神もがみ梨央りお
兄さん、巡視パトロールお願いします。
公務電車、夜だし、新橋しんばしまで下り、
日本橋にほんばしまで最短で進めます!
調べた結果、ただの噂だったら、
それはそれでいいじゃないですか。
周防すおう彩女あやめ
彩女もご一緒したいところですが、
何分なにぶん、時間も時間ですし……
興亜百貨店こうあひゃっかてんには守衛しゅえいさんがいます。
守衛しゅえいさんが詳しいかもですわよ。

興亜百貨店前こうあひゃっかてんまえ

【ヨシムラ守衛】
はっ!
自分、守衛しゅえいのヨシムラです。
先月の泥棒騒ぎ以来、夜勤を増員!
現在、二名体制で警備中です。
――同僚のヨネダが言うには、
夜中に人の気配があると……
それは泥棒なんかではなく、
もっとこう、おっかない……
自分、断じて怪談など信じません!

【ヨネダ守衛】
今晩は……
あれ、もう話が伝わりましたか?
いやね、実に妙なんですよ。
催事さいじの準備している階でね、
人もいないのに声がするんです。
今、日劇でかかっている活動キネマ
それにちなんでね、
輝く街、モダン洋装展、
いよいよ、明日から始まるんです。
七階はその準備で大わらわ。
声がするのはそこです――
夜中、見回っているとね、
フロア中に置かれたマネキンから、
人の声がするんです……

興亜百貨店こうあひゃっかてん婦人服ふじんふく売り場〕

静まり返った深夜の百貨店デパート
催事さいじの準備中である売り場には、物言わぬマネキンが無造作むぞうさに置かれている。

【着信 喪神もがみ梨央りお
興亜百貨店こうあひゃっかてんでセヒラ反応です!
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
近くに誰かいますか?

【まちこマネキン】
――あなた……私を見ていますか?
違いますよね、マネキンですよね。
私は中に宿やどる者です――
ヒトガタは宿やどりやすいと。
でも、動けないのは辛いです。
できれば、あなたに……宿やどりたい!

《バトル》

【まちこマネキン】
――また漂うのですね。
終わりなき漂流です。
何もない無の世界へ戻るのですね。
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、セヒラが消えません!
近くに何かありませんか?

興亜百貨店こうあひゃっかてん倉庫そうこ

周囲に動く影はない。しかし、何者かの気配は確かにあった――

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
セヒラが一段と高まりました!
――注意してください!

【やすこマネキン】
ここはどこだ……
女のマネキンの中にいるのか?
こりゃ傑作けっさくだな!
麹町こうじまち署の特高課にしょっぴかれ、
ひどい拷問ごうもんを受けた――
その最中さいちゅうに私は自失した。
暗闇を漂って、気が付くとここに……
お前も当局の人間だろう!
私は絶対に屈しない!!

《バトル》

【やすこマネキン】
離れていく……
あそこには戻りたくない……
嫌だ、嫌だ、い、や、だ――

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
かなり強いセヒラ反応です。
――近くに……何かいます!

美禰子みねこアストラル】
私たちは女ばかり六人で、
望洋館ぼうようかんという下宿に暮らしています。
その中に私を憎む女がいるのです!

《バトル》

美禰子みねこアストラル】
私を憎む女はなおといいます。
――いつか私は殺されるのでは……
ならいっそ、先に殺しましょうか。

【着信 喪神もがみ梨央りお
セヒラ反応、消滅です――
あ、いや、まだ残っています……
ほんのわずかに観測します。

興亜百貨店こうあひゃっかてん呉服ごふく売り場〕

【着信 喪神もがみ梨央りお
セヒラ反応、わずかに残ります――
脅威きょういというほどではありませんが。

【ナオミマネキン】
私が入水じゅすいしてから、
伊豆いず一碧湖いっぺきこで後追いが続いたとか。
私、ちっともそんなつもりじゃ……

【ときこマネキン】
望洋館ぼうようかんって、女ばかり暮らす下宿ね。
会津あいづ栄螺堂さざえどうみたいな建物よ、
今流行の新しい女なんだって!

【なおこマネキン】
これは女のヒトガタか!
けったいな具合じゃな、
このわしが女の体になっておるとは!

【ひろみマネキン】
夜の海を航海するみたいにして、
漂っているとね、ヒトガタは、
灯台のようにこうとして見えるんだ。

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
おう、風魔ふうま
どうであったか、興亜百貨店こうあひゃっかてんは。夜のショッピングちゅうのは?
喪神もがみ梨央りお
隊長!
百貨店デパートの売場には、アストラルまで
出たんですよ!
周防すおう彩女あやめ
彩女あやめが余計なことを言ったばかりに、
喪神もがみさんが危ない目にわれ……
帆村ほむら魯公ろこう
いや、これでよかったのだ。
――確かにな、梨央りおの言うとおり、
アストラルの出たのが気になる。
おそらく、マネキン、
つまりはヒトガタの内側にまで、
入り込んできたということだ。
ヒトガタは中ががらん堂だからな、
アストラルには都合がいいのだ――
喪神もがみ梨央りお
なんだかちょっとせつないです。
帆村ほむら魯公ろこう
セヒラで勢いを得た思念が、
帝都満洲を彷徨さまよい、ついに帝都に
こうと輝くヒトガタを見つけたのだ。
周防すおう彩女あやめ
それがしゃべるマネキンさんなのですね。
彷徨さまよって辿たどり着く……
彩女、とてもわかりますわ!
帆村ほむら魯公ろこう
そういう周防すおうさんのこと、
わしもよくわかるよ。