第四章 第二話 灯台下暗し

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

純喫茶の怪人が口にした銀座幻燈会げんとうえ。それが思わぬ波紋はもんを広げつつあった。
銀座幻燈会げんとうえめい打ったもよおしは、銀座八丁目のビルヂングで開かれた、幻燈げんとうを観るつどいであった――
だが、銀座幻燈会げんとうえに参加した客のうち、何人もが、会終了後の足取り知れずで、警察に捜索願そうさくねがいが出ていたのだ。

喪神もがみ梨央りお
今のところ、二十人です。
銀座幻燈会げんとうえで行方不明になった人。
帆村ほむら虹人こうじん
参加したのは何人くらいなんだ?
喪神もがみ梨央りお
わかりません――
ただ雑誌の案内だと六十名定員と。
猟奇グラフに載った案内です。
会の主催は帝国幻燈げんとう倶楽部。
住所は小石川こいしかわですが――
電話は通じませんでした。
もしかすると、これも帥先そっせんヤの仕業、
そうじゃありませんか?
いたづらに怪人化をそそのかす連中ですよ。

行方不明者については警察に届けが出るが、そうでない参加者について、情報を得るのは至難しなんの業だった。

帆村ほむら虹人こうじん
いっそラヂオで呼びかけるとか……
――ダメかな……
喪神もがみ梨央りお
参加者は山王さんのう機関へご一報を!
――そんなの無理です。
ちょっと待ってください、兄さん!
――探信儀たんしんぎがセヒラを観測!!
物凄い値です!!
溜池通ためいけどおり一ツ木通ひとつぎどおり清水谷しみずだに公園、
それに山王さんのう近辺も!
帆村ほむら虹人こうじん
どうやら幻燈会げんとうえ組のお出ましか?

山王さんのうホテル前〕

帆村ほむら虹人こうじん
おお、何だ何だ、もうこんなことに!
梨央りおの言うとおりだな、
界隈かいわいのあちこちで同時発生している。

帆村ほむら虹人こうじん
風魔ふうま、ここは二手に別れよう!
まず山王さんのうの地は死守しないとな。
風魔、お前は一ツ木通方面だ。
僕は溜池通ためいけどおりの方をあたる!

一ツ木通ひとつぎどおり

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
セヒラの増大はなおも拡大中。
赤坂各地で怪人化が発生しています。
市民への被害、それに伝染も
懸念けねんされます!
怪人を鎮定ちんていしてください。

【赤坂署の巡査】
おい、貴様ら!
しずまれ、騒ぐんじゃない!
【八丁堀の客】
俺が気に入らないんだろ?
前からそうだよな、お前の目付き。
フハハハ、俺は力を得たんだ!
【なじる男】
何の力だ? 言ってみろ!
お前はヘマばかりだ!
力なぞ聞いてあきれる!

巡査の仲裁ちゅうさいもどこ吹く風で、男たちは互いにいがみ合い、今にもつかみかからん勢いであった。

【赤坂署の巡査】
何だ、貴様!
こいついらの身内か?

あっ! これは特務中尉殿!
失礼しました!
この者達が見境みさかいなく争い立て、
治安を乱すがゆえ、
指導仲裁ちゅうさいしておるのですが……
如何いかんせん、
意味不明なことばかり口走り、
らちが明かないのです。

【八丁堀の客】
何だ? 巡査の次は軍人崩れか?
【なじる男】
お、お前……
誰に怒ってるんだ?
【八丁堀の客】
誰でもいいだろ!
俺の邪魔をする奴は皆だ。
ち、力を見せてやる!!

【八丁堀の客】
上等だ!
俺に歯向かうとはな!

《バトル》

【赤坂署の巡査】
ん? 何だ?
何が起きたんだ?
おい! 急にどうした?
【なじる男】
こいつ、いきなり倒れたぞ。
銀座に幻燈機げんとうきもよおしに出掛けて、
以来、行方ゆくえ知れずになっていたんだ。
【赤坂署の巡査】
そうか! 銀座幻燈会げんとうえの客か!
それで、何を見たんだ?
会場で何を見た? 言ってみろ!
【なじる男】
自分は……行かなかったんだ。
だから、よく知らない……
でも、何か、変だ……頭が痛い……

鬼龍きりゅう豪人たけと
なんというざまだ、
喪神もがみ中尉!
ここは貴様ら山王さんのう機関の管轄かんかつ
それでこのような騒動とは、
情けないにも程がある!
【赤坂署の巡査】
ううううう……
帝都の治安を乱すのは、お前か!!
いよいよもって成敗せいばいだ!
鬼龍きりゅう豪人たけと
喪神もがみ中尉、ここは俺に任せておけ。
お前は山王さんのうの地を守るんだ。
急げ!!

月詠つくよみ麗華れいか
風魔ふうまさま、やはり出動されて……
私の勘はえていましたわ!
豪人たけとさまの後を追っていたら――
風魔ふうまさまの街がこんなことに!
私、お力になれそうですわ!
品川しながわでは、私、ひどいことを……
でも抑えられなかったんです。
私はあれから飛躍ひやくしましてよ!
私、麗華れいかはさらなる高みへと、
自分を昇らせることにしたのです!
豪人たけとさまの召喚術、拝見して、
私の器は一杯になりました。
もう一つの器も一杯にしたいのです。
風魔さまの帰神きしん法、拝見できれば、
そして私も参加できれば、
器は一杯になるはずです!
二つの器が一杯になれば、
私は高みへと昇れるのです――
きゃぁ~
【錦糸町の客】
女というのは不思議な生き物だ!
私の理解を超えている。
だから、もっと教えてくれよ――

月詠つくよみ麗華れいか
来ないでください!
やめてください!!
【錦糸町の客】
女とは何者ぞ! ああん?
女とはぜんたい、何者、何者だぁ!
男が麗華れいかの体に触れようとした。
その刹那せつな、男の体はものすごい勢いで、
その場からはじき飛ばされてしまった。
月詠つくよみ麗華れいか
どうしましょう!
私の内側から、力が湧くのです!

《バトル》

月詠つくよみ麗華れいか
あああ、神さまが……
私の求めに応じてくださる!

月詠つくよみ麗華れいか
豪人たけとさま!
力……私の力、まだわずかですが、
出来たのです!
鬼龍きりゅう豪人たけと
巡査までが怪人化した!
この一帯、どうなっているんだ?
セヒラが異常なんだな?
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、聞こえますか?
通信障害がありました。
セヒラの値、依然いぜん高いままです!
鬼龍きりゅう豪人たけと
中尉、その娘、隊で預かる。
まだ闘いにあたわずだ。
だが、可能性は感じる――
月詠つくよみ麗華れいか
――私の力……
これは本物、なのですか?
【着信 喪神もがみ梨央りお
麗華れいかさんですか?
そこに麗華さんが……
もう一人は――
鬼龍きりゅう豪人たけと
ここは私と来るんだ!
もう十分得ただろう─
月詠つくよみ麗華れいか
私には、まだわかりません……
鬼龍きりゅう豪人たけと
喪神もがみ中尉!
ここの事態、しずめないと、
山王さんのう機関はお役御免やくごめんだろう!

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
セヒラの漏出ろうしゅつゲート からのものと
判明しました。
ですが、
対応にあたっていた新山にいやまさんと、
先ほどから通信が途絶とだえています。
至急ゲート へと向かってください!

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、警戒して下さい!
ゲート 周辺のセヒラ濃度は今、
異常な状態にまで達しています。
そんな中に身をさらすのは危険です。
あまり時間をかけられません!
迅速じんそくにお願いします。

ゲートからセヒラが漏出ろうしゅつするという。目には見えぬセヒラが、河の奔流ほんりゅうのように感じられた。

新山眞にいやままこと
フウウ、見たんですよ――
弟の和斗かずと浅草あさくさ今木いまきてるさんに、
渡そうとしたメモを!

新山眞にいやままこと
照さんの新しくした髪型、
とてもお似合いだとかなんとか、
おべっかでその気にさせようと――

《バトル》

新山眞にいやままこと
あああ、何か変なこと……
寝言でもしていた気分です。
――私はもう大丈夫ですよ。
あっ、そうです、このゲート
早く何とかしないと!

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

新山眞にいやままこと
喪神もがみさん、これを見てください――
ご覧になるのは、はじめてでしょう。

ゲートを安定化させて、機関本部に戻った新山にいやまは、一枚の設計図を取り出した。
そこには釣鐘つりがねのような装置が描かれている――

新山眞にいやままこと
この釣鐘状の装置が、
ゲートのセヒラを調整していたのです。
喪神もがみ梨央りお
それが、セヒラを安定させていた、
そうなんですね?
新山眞にいやままこと
はい。安定と言っても、
を扱えるだけの値が必要、
高い値で安定させていたのです。
帆村ほむら魯公ろこう
去年の秋、ホテルで大工事があった。
もしやその時に、運ばれたのか――
その釣鐘とやらは……
新山眞にいやままこと
そう思われます。
セヒラが安定し始めた頃とも
合致していますから。
ホテル地下のスケートリンク脇の、
資材置き場で図面を見つけました。
図面は裏返しに折られていたんです。
新山眞にいやままこと
図面をよく見ると、釣鐘のすそ
薄く、鉤十字ハーケンクロイツが描かれています。
独逸ドイツ製なのかも知れません。
この装置が不安定になった、
それがセヒラ湧出ゆうしゅつの原因だと、
そう考えるのが自然かと――
喪神もがみ梨央りお
他に思い当たる原因は、
ないんですよね――
帆村ほむら魯公ろこう
今、セヒラは安定しておるな。
それにしても……釣鐘か……
まったく聞き及んでおらん――
喪神もがみ梨央りお
隊長、その釣鐘は、どこでしょうか?
山王さんのう機関の地下にそんなものが、
収まる場所はなさそうですが……
帆村ほむら魯公ろこう
秋の工事では、車寄せのあたりを、
掘り返しておったな……
いつも円タクが客待ちする辺りだ。
新山眞にいやままこと
私も引き続き調べます。
この近辺にあることは確かです。
車寄せの地下かもしれません――
帆村ほむら魯公ろこう
わしらもそれとなく、
ぎまわってみるか……
だが、あまり目立つようなことは、
差し控えるのだ。
新山眞にいやままこと
了解しました。
これまで通りに振る舞います。
喪神もがみ梨央りお
ホテルの地下に謎の場所がある、
そう考えればいいのですね。