第四章 第七話 日本橋佳木斯異変アリ

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

悪意をたぎらすまでもなく、本音を吐露とろすれば、そのまま怪人化する現象も顕著けんちょになってきた。その原因は帝都満洲にあるとわかった。
陸軍飯倉いいくら技研の新山にいやま技師は、特有のセヒラ波を調整する装置を開発した。霊式れいしきヘテロヂン変調器へんちょうきというものだった。

喪神もがみ梨央りお
兄さん!
観測でわかりました!
日本橋にほんばしに対照する場所……
帆村ほむら魯公ろこう
梨央りおはずっと鉄道時間表を……
よく見飽きないものだな!
それは去年の時刻改定版だな。
喪神もがみ梨央りお
はい、勿論もちろん、飽きません! 
兄さんが次に行くのは佳木斯チャムスです。
哈爾浜ハルピンから北東方面、図佳とか線の駅です。
帆村ほむら魯公ろこう
図佳とか線か……計画路線と聞いたが、
梨央りおの時間表には載ってるのか?
新山眞にいやままこと
それもセヒラのせいかと。
人々の思うものが現れるのです。
たとえ鉄道時間表の上にでも――
さて、装置が出来ましたよ。
霊式れいしきヘテロヂン変調器へんちょうきです。
こちらをお持ちください――
帆村ほむら魯公ろこう
そいつを日本橋にほんばし佳木斯チャムスに設置する。
それで、安易な怪人化は防げる、
そう考えてよろしいですな。
帆村ほむら虹人こうじん
風魔ふうま、今回は僕も行くよ。
喪神もがみ梨央りお
虹人さん、腕の怪我けがは大丈夫ですか?
帆村ほむら魯公ろこう
まだ痛むのか?
それとも――
帆村ほむら虹人こうじん
兄上、ご心配には及びません。
審神者さにわとして、問題ありません。
帆村ほむら魯公ろこう
まぁそう言うなら――
今回は難題かもしれない。
二人いれば安心だろう。
帆村ほむら虹人こうじん
兄上、任せて下さい。
さ、行こうか、風魔!
新山眞にいやままこと
いいですか、装置を置くのは、
なるべく建物のそばでお願いします。
では、ゲートへ参りましょうか。

ゲートを抜けて二人は帝都満洲へ着いた。
帝都満洲にあるはらえの間である――

ゲート

帆村ほむら虹人こうじん
ああ、もう、この感覚……
一旦、体がバラバラにされて、
また合わさるような――
【着信 喪神もがみ梨央りお
転送は完了しました。
お二人の無事、確認しています。
帆村ほむら虹人こうじん
まぁ、無事といえば無事だよ。
頭から足が生えているわけじゃなし。
【着信 喪神もがみ梨央りお
――何ですか、それ?
日本橋にほんばし佳木斯チャムス方面にアストラル反応、
急ぎ、向かってください!

風魔ふうま虹人こうじんの二人は、赤坂哈爾浜ハルピンから、帝都満洲鉄道で日本橋にほんばし佳木斯チャムスを目指した。列車の外では轟々ごうごうと風が鳴っていた――

帆村ほむら虹人こうじん
僕達が乗っているには、展望車だな。
もっともこの列車には展望車しか、
接続されていないみたいだ――
展望と言っても、表は真っ暗だ。
何も見えやしない――
しかし何だな……
ここでお前と差し向かいというのも、
何だか気詰まりだな――
雑誌でもあればな。冒険少年とかな。
何だ、どうした?
僕は意外にロマンチストなんだ。
求めるものがいろいろあってな!
兄……隊長は現実主義者リアリストを気取る。
でもな、あれは親の反動なんだよ。
親父は超絶変人だったからな!
僕が生まれた時に、既に僕の人生を、
全部計画していたそうだよ。
今の僕も親父の計画通りなんだ――

突然、列車が停まった。

帆村ほむら虹人こうじん
何だ、おい!
表に何かいるぞ!
あいつがせいで、列車が停まった!

時空じくう狭間はざま

【猟奇人Mのアストラル】
雑誌猟奇グラフに案内を載せた――
――およ尋常じんじょうならざる容貌ようぼうの人をつのる、するとすぐに応募があったんだ。
帆村ほむら虹人こうじん
おい、邪魔だ。
僕達はここを調べなきゃならない。
【猟奇人Mのアストラル】
応募者は沼田なる人物。
首から下にびっしりうろこが生えていた。
恒例こうれい猟奇会は大盛り上がりだ!
帆村ほむら虹人こうじん
おい! 聞いているのか!
邪魔なんだよ!!

《バトル》

【猟奇人Mのアストラル】
でもね、会衆の目前で沼田は、
手にした包丁でうろこぎ始めたんだ!
あたり一面にうろこが飛び散るんだよ!
帆村ほむら虹人こうじん
えて話に同調しなかったが、
うろこの男はどうなったんだ?
――寒いな。
風魔ふうま、列車に戻るぞ。

帝都満洲鉄道は、再び進み始めた。ときおり風景の中に、輝く光点のようなものが混ざる。光点は次第にその数を増してくる――

帆村ほむら虹人こうじん
本当に奇妙な風景だな。
僕達の見る風景はまことのものなのか?
それともすべてが幻覚だったら――
なぁ、風魔……
お前が鈴代すずよと戦ったときのことだ、
どんな気持ちだったんだ?
敵と思ってたおそう――
そう思ったのか?
あるいは加減があったのか――
いや、答えにくいならいいいんだ。
忘れてくれ――
あれ? どうした?
また何かいるのか?

再び列車が停車した。

帆村ほむら虹人こうじん
今度は何だ?
まさかうろこの野郎のお出ましか?

時空じくう狭間はざま

【猟奇人Fのアストラル】
沼田うろこは、
物凄い臭いがするんだ――
帝都ホテルの会場は阿鼻叫喚あびきょうかんさ!
帆村ほむら虹人こうじん
またか!
風魔、頼む!
僕は装置を護る。

《バトル》

【猟奇人Fのアストラル】
帝都ホテルは宴会場の掃除に、
一週間かけたそうだよ。
帆村ほむら虹人こうじん
そうか、新橋の帝都ホテルだろ。
宴会場が利用できないって、
新聞に案内が載ってたな。

帝都満洲鉄道は、その後は妨害にうことなく順調に進み、日本橋にほんばし佳木斯チャムスに到着した。

〔日本橋佳木斯チャムス

いよいよ空は不思議な様相ようそうを見せる。光は空からではなく、どこか別のところからあたりを照らしているように見えた。帝都満洲の他の場所とは異なり、幾分、陰鬱いんうつさは薄らいでいるようだった。

帆村ほむら虹人こうじん
ここは……
想像していたのとは違うな……
空気の中に脈動する力を感じる。
巨大な怪物の体内にいるようだ。
この力が帝都に及んでいるのか?
――その元はどこにあるんだ?
アストラルがいるよな。
あいつらから話を聞いてみるか。

【猟奇人Tのアストラル】
でもね、ただじゃ済まないのが、
猟奇人たる者だよ。
沼田うろこ、皆拾い始めた。
油紙買ってくる者もいてね――
帆村ほむら虹人こうじん
油紙?
うろこを包むのか?
【猟奇人Tのアストラル】
そうさ!
皆がうろこを持って帰ったんだ!
ひゃははは、これぞ猟奇人の矜持きょうじさ。
中にはうろこを煮出して、
漢方かんぽうの要領で飲んだ奴もいる!
帆村ほむら虹人こうじん
争うような素振りはないな。
それにしても、猟奇倶楽部くらぶって、
一度査察ささつの必要があるな。

【帝都ホテルのホール係】
猟奇倶楽部くらぶには二度と貸出かしだしならん!
そうお達しが出ましたよ。
でもね、私もうろこ、持ち帰ったんです。
会が引けた後ね、落ちていたの三枚。
うろこ布巾ふきんに包んで納戸なんどに置きました。
――するとどうでしょう……
帆村ほむら虹人こうじん
ん? どうなったんだ?
帝都ホテルのホール係
せがれの背中にうろこが生え出したんです。
左の背中です、今やもうてのひらくらいの
大きさにまで広がりました!
帆村ほむら虹人こうじん
怪異が伝染するって聞いたけど、
これもそのうちなのか?
よし、風魔ふうま――
この辺りなら平気そうだ。
装置を設置するぞ。
この装置で怪異の伝染が消えるのか。
まぁ結果を待つしかないな。
無線で本部に連絡しておくか――
【着信 ………】
ザー……ビュルビュルビュル……
帆村ほむら虹人こうじん
あれ、無線が使えないぞ、
これは装置のせいなのか?
それともここのセヒラが強くて……
どっちにしろ危険だな。
無線無しで探索するのは危険過ぎる、
風魔、ここは引き上げよう。
おい、風魔――
なんか音しないか?

地響きを伴った大きな音がした――

帆村ほむら虹人こうじん
何だよ、おい!
心なしかセヒラが強くなったようだ。

〔日本橋佳木斯チャムス・南〕

これまでとは異なる巨大なアストラルが、ふわふわと宙に浮いていた。それはただならぬ気配をかもしていた――

帆村ほむら虹人こうじん
感じるぞ――
セヒラが、波動になって押し寄せる。
【???】
私は呼ばれたように思うのです――
【沼田
本当はね、顔にもうろこがあるんです。
ああ、私、沼田です――
顔はね厚塗りで隠すんですよ。
体のうろこ、すっかり生え変わってね。
一度ぐと、前より分厚くなる。
てらてら光って立派なもんです!!
帆村ほむら虹人こうじん
あんたの思念がここに及んで、
帝都にまで影響しているんだな!
これは打ち倒すしか無いぞ、風魔ふうま
【沼田
私の身の上の怪はね、
いろんな人にも起こるんです。
まるで多くを導いているようですよ!!

《バトル》

帆村ほむら虹人こうじん
多くを導くだと?
まるで教祖様気取りだな。
しかしあいつ、帝都の何処どこかに……
そうだよな、ここにあるのは思念だ。
今も帝都の何処どこかで暮らしてるんだ。
さしずめ、うろこ怪人か……
そんなのが現れたら、
沼田が近くにいる証になるな。

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

喪神もがみ梨央りお
虹人こうじんさん、大丈夫でしたか?
兄さんも――
帆村ほむら魯公ろこう
おう、ご苦労だったな。
今回はけっこう大変だったろう……
帆村ほむら虹人こうじん
装置はこうそうしていますか?
新山眞にいやままこと
おそらくは……
少なくとも波形は変わりました。
問題となる波形が消えたのです。
もうあのような……
ひょんなことで怪人化する事案、
起きないと思いますが。
今後、似たような事案、
皆無かいむだとは言い切れませんが。
帆村ほむら魯公ろこう
日本橋にほんばしの騒乱は一段落したようだ。
元をつ作戦はひとまず成功ですな。
新山眞にいやままこと
最後の巨大アストラルが倒れ、
それで波形が消えたとも言えます。
あの霊式れいしきヘテロヂン変調器へんちょうき
まだまだ試作の段階ですので、
もっと性能を上げていきます。
帝都満洲は帝都から降りた思念と、
アラヤ界からのセヒラが出会う場所。
それがまた帝都へと戻ってくる――
そういう構造ははっきりしました。
これをふさぎ切るのは困難です。
うまい活用法があるはず――
帆村ほむら虹人こうじん
参謀本部もセヒラの活用を考えて、
山王さんのう機関を作ったわけだよな。
を指揮するのも、
セヒラを扱うことと同じだ。
そうでしょう、新山にいやまさん。
新山眞にいやままこと
帥士すいしを通じセヒラに向き合い、
私は波形を見てセヒラを知る――
そういう住み分けです。
喪神もがみ梨央りお
私は……
波形の方でしょうか?
帆村ほむら虹人こうじん
梨央りお帆村ほむら流、試してみれば?
なんたって風魔ふうまの妹なんだから。
喪神もがみ梨央りお
でも……
私、あまり霊異りょういを現せる、
気がしません。
帆村ほむら虹人こうじん
人は変わっていくんだよ、きっと――