第四章 第八話 猟奇倶楽部の謎

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

喪神もがみ梨央りお
あっ、兄さん……
兄さんあてに手紙です。
それが、差出人不明なんです――
すごく上等の封筒で、
封蝋ふうろうもついています……
――ふぅ~
帆村ほむら魯公ろこう
どうした、梨央りお
調子が悪いのか?
喪神もがみ梨央りお
ええ、ちょっと……
頭が重いんです、風邪でしょうか?
兄さん、封筒です。

梨央から渡された封筒は、立派なものだった。封蝋ふうろうを破るとはく押しのある便箋びんせんが見えた。

九頭くず幸則ゆきのり
見せてくれ。
何だって? 猟奇倶楽部くらぶにご招待?
喪神もがみ梨央りお
いきなり何ですか?
どこからいたんですか?
九頭くず幸則ゆきのり
くって、俺は虫か何かか?
――猟奇倶楽部くらぶって、アレだよな……
喪神もがみ梨央りお
猟奇グラフを発行する会社です。
でも倶楽部くらぶは編集部とは別だと、
そんな話を聞きました。
九頭くず幸則ゆきのり
ええ? そうなんだ?
梨央ちゃん、耳さといね!
どっからそんなネタ仕入れるの?
それにしても猟奇倶楽部くらぶって、
何だか秘密めかしてるよね!
喪神もがみ梨央りお
どうしてここがわかったのか……
日本橋佳木斯チャムスに猟奇人の
アストラルが大勢いました――
九頭くず幸則ゆきのり
それが何か関係あるの?
喪神もがみ梨央りお
アストラルを介して、
兄さんたちの思念が漏れたのかも。
それで猟奇倶楽部くらぶがここを知った――
九頭くず幸則ゆきのり
ええっ? そんなことあるの?
でも、そうか……
思念は考えたりすることだし――
九頭くず幸則ゆきのり
不意に漂い出すなんてことも……
ひぇ~、何だかおっかないなぁ……
ねぇ、梨央ちゃん!
喪神もがみ梨央りお
新聞では猟奇倶楽部くらぶも、
帥先そっせんヤの一つと考えているようです。
この間、そんな記事がありました――
九頭くず幸則ゆきのり
まぁ読者連中は昭和の猟奇人を
気取っているんだろ?
高等遊民のはしくれだよな――
雑誌もそうだけど、
案内を利用している連中こそ、
帥先そっせんヤなんじゃないのか?
喪神もがみ梨央りお
結構、まともなこと言いますね、
幸則ゆきのりさん!
――ふぅ~
九頭くず幸則ゆきのり
あれ? 梨央ちゃん、どうした?
何か具合悪そうだけど――
ちょっと休んでいれば?
喪神もがみ梨央りお
そうですね……
でも……猟奇倶楽部くらぶ、どうします?
九頭くず幸則ゆきのり
風魔、どうする?
向こうがこっちを知ってるって、
何か気になるよな。
喪神もがみ梨央りお
今のところ、市内の探信儀たんしんぎには、
強いセヒラ反応はありません。
九頭くず幸則ゆきのり
梨央ちゃんは休養した方がいいい。
無線は頼れないぞ、風魔。
でもまぁ、行ったほうがいいな。
お前を名指しで来たんだろ、招待状。
相手の意図を掌握しょうあくした方がいい。
きっと何かあるはずだ。
帆村ほむら魯公ろこう
ユキ坊の言い分にも一理いちりある。
風魔、ここは誘われてみるか?
喪神もがみ梨央りお
兄さん、気を付けてください。
無線できませんが、
危険がせまったら警報が鳴ります。
九頭くず幸則ゆきのり
警報って、ここで鳴るのか?
最悪の事態は避けられるってことか。
市ヶ谷見附で同伴者を待てだと?
同伴者って、誰なんだ?
――風魔、油断するなよ!

市ヶ谷見附いちがやみつけ

手紙に指定されていた市ヶ谷見附いちがやみつけまで、公務電車で向かった。同伴者もこの場所に来るとのことだった。

月詠つくよみ麗華れいか
時間どおりですわね、風魔ふうまさま!
招待状にありましたわ、
風魔さまと一緒に来るようにと。
――ちょっとドキドキしています。
でも、不思議ですわ。
風魔さまと私にだけ
招待状が届くなんて――
さて、お迎え、そろそろですわ。
【黒服の男】
お待たせしました。
月詠つくよみ麗華れいか様、喪神もがみ風魔ふうま様。
猟奇倶楽部くらぶまでご案内します。
月詠つくよみ麗華れいか
よろしくお願いします。
【黒服の男】
此処ここより先では、
お名前をお呼びする事は致しません。
お嬢様、ご主人様とお呼びします。
【猟奇人Ωオメガ
申し遅れました、私はΩオメガです。
倶楽部くらぶでは希臘ギリシャの名を付けます。
さぁ、こちらを、どうぞ――
月詠つくよみ麗華れいか
それは、目隠しですか?
【猟奇人Ωオメガ
はい。ご不便をお掛けしてしまい、
誠に申し訳ございませんが、
倶楽部くらぶは所在地も非公開となり……
倶楽部くらぶに着くまでは、
そちらをおめしになって頂けますか?
月詠つくよみ麗華れいか
その車がそうですね?
窓掛けがあるのに、
目隠しするのですか?
【猟奇人Ωオメガ
はい。念の為、
そのようにさせて頂いております。
月詠つくよみ麗華れいか
いたかたありませんわね――
では、おっしゃるようにいたします。
風魔さまも、目隠しですわよ。
【猟奇人Ωオメガ
有難うございます。
それではご案内させて頂きます。

車は滑るように走った。
まるで魔法の絨毯じゅうたんのような乗り心地だった。
だが目的地へ真っ直ぐ向かうことはせず、同じ場所を何度も走っているようであった。
角を曲がり、速度を上げたその時――
車は急ブレーキをかけて停止した。車の前に一人の男が倒れていた。男をねる寸前で車は停まったようだ。

市ヶ谷街路いちがやがいろ

月詠つくよみ麗華れいか
この人は……
大丈夫なんですね!
気を付けないといけません――
【猟奇人Ωオメガ
申し訳ございません。
あちらの男性が急に飛び出して。
危うくねるところでした。
【暗い表情の男】
あなた達が捕獲した怪人を、
すみやかに返してもらいましょうか。
私は防疫研ぼうえきけん、総務課の林です。

《バトル》

【防疫研総務課の林】
怪人を手に入れて、何をする?
お前達には……扱えない……
無理……だ……
【猟奇人Ωオメガ
一体、何の話をしていることやら――
さぁ、お車にお戻りください。
月詠つくよみ麗華れいか
防疫研の怪人とは何ですの?
猟奇倶楽部くらぶに怪人がいるのですか?
【猟奇人Ωオメガ
いえ、あの者の戯言ざれごとにございます。
さ、参りましょう。
またこちらをおめしになって――
倶楽部くらぶの決まりにございます。
月詠つくよみ麗華れいか
仕方ありませんわ。
運転にはどうか、
お気を付け下さいませね。

車は小一時間ほど走った。
坂を登り角を曲がった先で車は停止した。門扉もんぴの開く音がして、車は再び走り始め、やがて車寄せのような場所で停まった。

【猟奇人Ωオメガの声】
それでは屋敷の中へご案内します。
私にお手をお預けになり、
ゆっくりお進みください――
お足元、お気を付けて――
段差にございます……

広いホールには乳香をいたかのような、神秘的な芳香ほうこうが漂っていた――

【猟奇人Ωオメガの声】
もうよろしゅうございますよ。
目隠しをお外しになり――
随分、ご不自由をおかけしました。
さて、ここからはご自身について、
ご身分、お名前、お住いのこと等、
一切ご法度はっとにございますよ。
月詠つくよみ麗華れいか
あら、どうしてですの?
それも決まりですの?
【猟奇人Ωオメガ
はい、当倶楽部くらぶでは現実から離れ、
一猟奇人としておすごしいただきます。
身分の貴賎きせんもございません。
月詠つくよみ麗華れいか
私たちにも希臘ギリシャの名前を付けますの?
【猟奇人Ωオメガ
ゲストの方はお付けしません。
後ほど、お声がけ致します。
それまでホールでおくつろぎください。

猟奇倶楽部りょうきクラブ・ホール〕

倶楽部くらぶホールでは着飾った紳士しんし淑女しゅくじょが、思い思いに立ち話をしていた。皆、胸のところに希臘ギリシャ語の刺繍ししゅうを付けていた。

月詠つくよみ麗華れいか
ここ、とても良い香りがしますわ。
私……うっとりしてしまいます。

【猟奇人Θシータ
……

【猟奇人Λラムダ
あら、ゲストの方ですね。
お名前が……ありませんもの。
今日は帝都の流行の最先端を、
堪能たんのうできるものですって!
月詠つくよみ麗華れいか
え? これから何かあるのですか?
【猟奇人Λラムダ
ウフフフフ……
ここアーカム館では、
いつも何かが起こるのよ!

【猟奇人Σシグマ
私はね、自分の中に、
こんなにも可能性が眠るとは、
最近までついぞ知らなかったんだ!
猟奇グラフを読むようになるまで、
そういう連中のこと、敬遠していた。
普通、そうですよね――
私は目覚めたんですよ。
少年のようにはしゃぎたい気持ちで、
毎日を楽しくやってます!

【猟奇人Δデルタ
ここアーカム館では、
不定期にエベントが開かれるのよ。
今日のは特別ですって――
いったいどんなのかしらねぇ。
あそこにいるメイドさん、
あの人も猟奇人なのかしらねぇ?

さらわれたホムンクルス】
車ニ、乗セラレ、気ガ付クト、
ココニイタ……
何故ナゼダ? 何故ナゼコウナル?
【猟奇人Ωオメガ
くつろぎいただけましたか?
実は当倶楽部くらぶの会長がご挨拶をと。
会長のところへご案内いたします。
月詠つくよみ麗華れいか
私はどうしましょうか?
【猟奇人Ωオメガ
申し訳ございません。
お嬢様はこちらでお待ち下さい。

【先ほどの女性の声】
ご来館の皆様、お待たせしました。
ここにいる人造メイドが、
恐ろしき怪人と勝負します――
【猟奇人Ωオメガ
それでは、こちらへ――

【猟奇人Ωオメガ
会長はを見たいと仰ります。
審神者さにわ、召喚師、ホムンクルス、
それに怪人はを扱う――
それらの者以外はが見えない。
それをなんとか見られないか――
実は当館に一人の怪人がいます。
防疫ぼうえき研究所から脱走した被験者です。
何故かそれをけられました――
倶楽部くらぶ会員には憲兵もおります。
そこは抜かりなく手を回して
逃げた被験者を捕獲したのです。
これよりホールにて、
ホムンクルス対怪人の戦いが、
まさに実演されるのです。
賓客ひんきゃくの中にはが見える者が、
一人くらいはいるかも知れない――
会長はそれを期待されているのです。
猟奇人は普通の人間にはない感覚を、
そなえるかも知れませんから。
実は会長は猟奇人ではないのです――
それでは参りましょうか――

お、お前!
何故ここにいる?
戦う相手はホールだ!
【被験者チ】
うるせぇ!
相手は俺が決めるんだ!

全身に怒りをたぎらせる男は、猟奇人Ωオメガを物凄い力で突き飛ばした。

【被験者チ】
へへへへ、
俺はな、自由を得たんだ!

《バトル》

【被験者チ】
ヘヘヘ――
やっと……自由に……なれる……
【聞き憶えのある声】
喪神もがみ風魔ふうま
まさか、貴様もこの会合に?
鬼龍きりゅう豪人たけと
ふん……
審神者さにわと召喚師とが招待受けた、
そういうことなんだな。
怪人を戦わせて、客の中に、
の見える者がいるか調べる……
主宰者しゅさいしゃ魂胆こんたんはそんなところだろう。
要は客そのものが実験材料、
その中に俺達も含まれているのか――
あまりいい気分じゃないな……
探られているようだ。
月詠つくよみ麗華れいか
豪人たけとさま!
豪人たけとさまもおいでになって
いたのですね!
鬼龍きりゅう豪人たけと
麗華れいか! お前も呼ばれたのか?
――連中、一体何を知っている?
月詠つくよみ麗華れいか
豪人たけとさまにも招待状が?
鬼龍きりゅう豪人たけと
もう充分だ、風魔。
麗華、ここに長居は無用だ、
あの男に車を用意させる。
このやかたからは勝手に出られない。
どこもかぎがかかっていてね。
風魔、お前も帰るむね伝えるんだ。
この件、一度、事情を調査する。
その時は貴様も協力するんだ。

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

来た時と同じように、風魔ふうまは目隠しをされ、黒服の男の運転する車で市ヶ谷見附まで戻った。市ヶ谷見附から公務電車で本部へ帰還した。

九頭くず幸則ゆきのり
何だ、早かったじゃないか!
それで、どんなだ、猟奇倶楽部くらぶ
おかしな連中の巣窟そうくつか?
ああ、梨央りおちゃんは風邪みたいだ。
家に送って今戻ったところだよ。
千本屋せんぼんやに行って水菓子でも調達する。
熱にはアレが一番だろ?
帆村ほむら魯公ろこう
先ほど、歩三ほさん玄理げんり派の常田つねだ大佐から
電話があってな――
報告書を上げるので、
お前にも目を通して欲しいと。
いつになく殊勝しゅしょうな様子だったな。
もう今日は切り上げて、
梨央の面倒でも見てやれ。