第五章 第十二話 思念の顕在

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
どうしましたか?
――今、どこにいるんですか?
青山墓地でまたあの波形です。
鈴代すずよさんがきにされた時と
同じ波形が観測されました。
至急、青山墓地へ向かってください。
――黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、聞こえますか?

青山墓地あおやまぼち

薄暗い墓地の中から、どこからともなく、つぶやくような声が響いてきた。それは読経どきょうのように唱える神曲の一節だった。
われが向かうところわれが見る限り、新たなるさいなみを受くる者の他に無く――
われは第三の地獄にあり、ここは永遠のしげき冷たき雨の地獄、大粒のひょう、水はにごれり、雪降りしきる――

神子柴みこしばはつゑ】
またお会いしましたね。
確かに私はみずからもたらした、
金神こんじんと合一できませんでした。

むご異形いぎょうの野獸チュルベロは
に浸る民のう
みっつのどにて犬のうに吠える――

――まだ力がおよばなかったのです。
しかし今、すべては満ちました。
如月きさらぎ鈴代すずよ白化アルベド触媒しょくばいとなり、
黒化ニグレドの思念を呼び集めています――
私には多くの信者を招いた、
その責務せきむがあるのです――
思念となった者たちをよみがえらせ、
賢者の石として永遠の存在にする、
その役割があるのです。
そのあかつきには、私は、新しき天地あめつちの母、
真の創造主となるのです。
さぁ黒化ニグレドの思念を招きましょう!
さぁ、貴方も、ご自分を試しなさい。
白化アルベド触媒しょくばいたくして、
無限とも言える力を得なさい――

神子柴みこしばはつゑ】
鬼龍きりゅう豪人たけとさん――
貴方は自身から目をそむけている――
鬼龍きりゅう豪人たけと
私が?
自分から目を……
どういうことだ?
鬼龍きりゅう豪人たけと
私は自分をよく知っている――
神子柴みこしばはつゑ】
貴方の求めるもの、
手に入るかも知れません。
保証はないのですが――
鬼龍きりゅう豪人たけと
何をするというのだ?
神子柴みこしばはつゑ】
自ら異能を封じ込めた人物――
如月きさらぎ鈴代すずよを目覚めさせるのです。
鬼龍きりゅう豪人たけと
目覚めさせる?
もう一度、霊異りょういを現すように、
説得でもするのか?
神子柴みこしばはつゑ】
錬金術の過程を進めて、
如月鈴代に触媒しょくばいの働きを持たせ、
眼前に霊異りょういを現すのです。
鬼龍きりゅう豪人たけと
錬金術……
よくは分からないが、
試す価値はありそうだな。

神子柴みこしばはつゑ】
終末はせまっています。
貴方もお力をお貸しください。
貴方には素晴らしい霊力があります。
眼を見張みはるほどの力です――
――素晴らしい、その力……
私は感じています――
さぁ、早く!
終末はそこまで来ていますよ。
貴方! もう時間がないのです!
早く、お力を!!

《バトル》

神子柴みこしばはつゑ】
素晴らしいお力です!
そうです、これです、
最後の扉が開き――
――私は思念として漂い、
こうして貴方に向き合い……
しかし、何かが食い違っています――
如月きさらぎ鈴代すずよ
…………
……
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
現在、どちらにおいでですか?
青山墓地で帥士すいしを確認できません!
――セヒラは依然、高いままです。
如月きさらぎ鈴代すずよ
――風魔ふうまさん……
私……
身辺に危険が迫ると言われ、
兵らに連れられてここへ来ました。
――鬼龍きりゅうさんが……
鬼龍さんが招いたのです。
不思議そうな顔して私を見るんです。
そして……
いろいろと不可解なことを口に……
――彼は、自分を見失っていた、
私はそう考えています。
何かの力が及んで、
鬼龍さんを変えた――
いや、変えようとしたのかも……
私、わかるんです。
闇雲やみくもに力を求める叔父とは違う……
鬼龍さんが求めているものは、
もっと違った姿をしています。
――けれど、それが何かまでは、
まだ見えていません……
【バール】
また変なところに来たニャ。
ここはどうやら帝都じゃないニャ……
おそらくだニャ、
鈴代さんの記憶の中ニャ。
――手っ取り早くここを出るには、
ショックが必要だニャ!

丁稚でっち
お兄さん! オイラ、見たんだよ!
怪人だよ! 怪人が出たんだ!
どっかそのへんだよ……

問屋とんやの使用人】
なんだぁ……おい!
今日はやけにまぶしいな!
天道様てんとさまがいくつも見えるぅ~

問屋とんやの使用人】
きゃはははははは!
俺はなぁ、力を得たんだ!
力だ力だ力だ、きゃはははは!

《バトル》

問屋とんやの使用人】
アハハハ!
お前も執念深いな。
しつこい奴は嫌われるぞ!
【バール】
しつこいかどうかは
わからニャいが、
ここもまごうことなき記憶の中だニャ。
ここは――
風魔、風魔の記憶だニャ!
鈴代さんの記憶から繋がったニャ!
【バールの帽子】
よっぽど赤坂に思い入れが
あるのかいな、ゲロゲロ。
感傷センチメントの地ってか?
【バールの帽子背後】
風魔ふうまさんよ、お前さんがはじめて
山王さんのう下のオウルグリルに行ったのは、
確か八年前だったよな。
淑子としこ姉さんに連れられて――
お前さんはビフテキを平らげた。
姉さんが亡くなる前の年だ。
【バール】
ニャるほどニャ!
まぁ、ここニャら無線も入るし、
自力で戻れるニャ。
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、聞こえますか?
帥士すいしの存在、すぐ近くに観測します。
青山墓地のセヒラは、
現在、小康状態にあります。
任務終了、本部に帰還してください。

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
ふむ……
きにされて、なお冷静に
鈴代は鬼龍を観察していたのか。
鬼龍の敵愾心てきがいしんは、山郷やまごうの腹黒さとは
別モノということか……
だが、その向こうに何があるのか――
それが気がかりではあるな。
喪神もがみ梨央りお
それにしても――
鈴代さんの記憶の中に入るなんて……
これもセヒラの影響なんですか?
帆村ほむら魯公ろこう
ああ、先だってのセヒラの奔流ほんりゅう
あれが 何かを変えてしまった。
強い思念さえあれば時空がゆがむ、
そんな事態を招いているようだ。
肉体に痛みを感じなくなると――
要注意ということだな!
喪神もがみ梨央りお
え? どうしてですか?
痛みを感じなくなるって……
帆村ほむら魯公ろこう
心に悩みがあるときは、
肉体の痛みを感じなくなる――
リア王に出てくる台詞だよ。
喪神もがみ梨央りお
――それじゃ、
思い詰めたりすることだって、
危ないかもしれないんですね。
帆村ほむら魯公ろこう
ああ、そういうことだな。
でも我ら機関員は心をきたえておる。
そうだろ、風魔。
喪神もがみ梨央りお
――さっきの溜池通ためいけどおりでは、
兄さんの位置が確認できなかった。
こんなに近いのに、変です。
さっきのは……
溜池通ためいけどおりなんでしょ?
――兄さんの心の中の……

帝都はまたひとつ、新たなるかいの扉を開く。思念の元へ、記憶の中へ、現世が繋がる――
世界のその全てを含むセヒラによって。