第五章 第十三話 指輪の怪異

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
少し探りを入れてみたんだが、
山郷やまごう一派にいろいろ動きがある――
刑務所の囚人をきにして、
人籟じんらい量産を狙っておるしな。
このままでは気圧けおされかねない。
喪神もがみ梨央りお
噂をすれば、ですよ!
帆村ほむら魯公ろこう
ん? 誰か来たのか?
喪神もがみ梨央りお
市ヶ谷の方でセヒラ観測です。
――市ヶ谷見附の辺りです。
市ヶ谷刑務所が近いです。
帆村ほむら魯公ろこう
ふむ……
梨央ちゃん、言葉がちょっと
違うようだけどな。
喪神もがみ梨央りお
――はい……
以後、改めます。
兄さん、市ヶ谷見附の方です。
喪神もがみ梨央りお
セヒラの値は安定しているので、
人籟じんらいではないように思います――

市ヶ谷見附いちがやみつけ

牛込うしごめ署の巡査】
あっ! これは、特務中尉殿!
小官の観察でありますが、
妙な指輪の人がこの辺りに集まり――
何やら嫌な予感がします!
指輪を手にしたら、
力がみなぎってきたんだとか……
そんなことを話すそうです。

【スーツの男】
いつぞやは先生がとんだ失態を……
先生、同僚に先越されて、
よっぽど腹に据えかねたんですよ。
あの先生ですが、私も厄介に思い、
つい力を込めてしまいました……
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
セヒラ、急上昇です。
探信儀を使ってください!!

【スーツの男】
そしたらね、先生、うふふふ……
はらわたがはみ出しちゃってね、
手で戻そうとするんです、傑作だ!
お前も同罪だ!
いよいよ、我慢ならない!
のたうち回って、死ね!!

《バトル》

【スーツの男】
はぁはぁはぁ……
私、ひどく動転していますね……
この指輪……これのせいでは?
あの人から預かって以来、
自分を抑えられなくなるんです。
この指輪、あなたに預けます。

〔それは、ユリア・クラウフマンが、仮面の男から預かった指輪と似ていた――

【着信 喪神もがみ梨央りお
まだセヒラ反応があります。
――それにしても、指輪によって、
怪人化したんでしょうか?
指輪の研究、まだ進んでいません。
気を付けてください。

周旋屋しゅうせんや
あんさんは、軍人さんで?
――軍医さんじゃないですよね?
いやね、そこの子、なんか
具合悪そうで、脂汗あぶらあせダラダラ。
ちょっと見てやってくれませんか?

【まあくん】
薬師様やくしさまの竜水、効かなくなったんだ!
おっかぁ連れて行ったけどね、
ちっともうまくないんだ。
だから、おいら……おっかぁを……

【まあくん】
竜水の井戸に突き落としたんだ!
井戸は空だった……鈍い音がしたよ。
あの水、どっから来てるんだい?
兄さん、知らないよねぇ、
知るよしも無いよね!!

《バトル》

【まあくん】
おいら、どうしたんだろ……
おっかぁ! おっかぁはどこ?
ねぇ、教えてくれよう……

少年が去った後、そこに落ちていたのは、またしても指輪だった。

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、辺りのセヒラは
なくなりました。
そのままセルパン堂へお願いします。
周防すおう彩女あやめさんが、
怪人に追いかけられたとか。
中之島ファンの怪人だそうです。

〔セルパンどう

式部しきべじょう
よく来てくれました、喪神もがみさん。
実は彩女あやめ君がですね――
周防すおう彩女あやめ
彩女から言います。
彩女、怪人を引き付ける力が、
ずっと強くなった気がします。
数寄屋橋すきやばしでじっと彩女を見る人が。
でも気にせず市電の十一番に乗って、
塩町しおまちまで来たんです……
式部しきべじょう
その男も、同じ市電に乗ったかい?
周防すおう彩女あやめ
多分……
だって、電停降りたら声かけてきて。
彩女、心臓が口から飛び出そうに――
式部しきべじょう
でも、その男が怪人だと、
どうして君にはわかったんだい?
周防すおう彩女あやめ
彩女、何度も怪人を引き寄せました。
だから、わかるんです……
怪人の傍ではすーっと寒くなります。
式部しきべじょう
まだ近くに気配を感じるかい?
――その、何怪人だったか……
周防すおう彩女あやめ
中之島歌劇団なかのしまかげきだんのファンの怪人です。
彩女のことテフはんとかなんとか、
そのように呼んでいました。
式部しきべじょう
というわけなんです、喪神さん。
怪人探し、協力してもらえますか。
私たちも手分けします。
彩女君と私はこの塩町しおまち近辺で、
喪神さんは……
周防すおう彩女あやめ
中之島なかのしま怪人は市ヶ谷いちがやです!
彩女が振り返ったら市ヶ谷いちがやの方へ、
てくてくしていましたから。
式部しきべじょう
それでは、喪神さんは
市ヶ谷いちがや方面をあたってください。
後ほど合流しましょう。

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
若松町わかまつちょう界隈かいわいでセヒラ観測です。
注意して向かってください。

若松町わかまつちょう

【兵隊やくざ】
何だぁ、てめえも軍人かぁ?
気取ってんじゃねぇぞ、ゴルァ!
軍人なら、あの野郎を
とっととしょっ引けや!
独り言ほざく気色きしょく悪い間抜けじゃ!
【着信 喪神もがみ梨央りお
気を付けてください、
セヒラ上昇中です。
――今の人は口が悪いだけです。

【熱烈な中之島なかのしまファン】
わてのテフはんはな、大スタアや。
そやさかいな、なかなか
ねき寄せてもらわれへんねん。
ちぃーとな寂しゅうなってな、
わてのハァトの中はおしめりさんや。
まぁ、そうゆうもんやろ……けどな、
おんどれみたいなド阿呆あほがな、
わやにすんのはゆるされへん!
ほんま、いてこましたるわ!

【熱烈な中之島なかのしまファン】
ああ、なんぼでも笑え!
わてのこと、笑たらええねん!

《バトル》

【熱烈な中之島なかのしまファン】
はぁはぁ、
何やけったいな気ぃやな……
日劇の前で声かけられてな。
立派な銭取るゼントルマンの人や……
ひょひょひょ、おもろいやろ!
その人にな、この指輪渡されたんや。
ほならな、いろいろわかってん。
テフはんのことや、何やらカニやら。
――グプッ……オエ……
ああ、えずいてきたわ。
この指輪、アンタ、持っといてんか。

大阪弁の男が差し出した指輪は、またしてもあの謎多き指輪であった。

【熱烈な中之島なかのしまファン】
ほなもう、わてはな、
大阪いなせてもらいまっさかいに!

【ピアノ教師】
どこかで音楽、鳴っていませんこと?
あら、私、近くで洋琴ピアノ教室を。
洋琴ピアノ曲といえばラフマニノフの
前奏曲えいハ短調ですわよね!
――妙だわね……
音楽と一緒にオペラのような、
歌声の聞こえたように思うのですが。

【米海軍軍曹C】
リンカーン号の寄港した夜、
自分、見たんです――
ケイトさんが一人の日本人女性と……
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
セヒラの上昇を確認しました!

【米海軍軍曹C】
おそらくあれが蝶々夫人ちょうちょうふじん~♪
三年の間、港を見続け~♪
リンカーン号のはたを探した~♪
蝶々夫人ちょうちょうふじん、ひどく思い詰めたようで、
ケイト夫人を従えて、
暗い河口かこうの方へ向かいました――

《バトル》

【海軍軍医学校生S】
――フフフフフ!
蝶々夫人マダムバタフライの話に魅入ってしまった!
まるで劇中に入ったようです!
素晴らしい体験でした!
それもこの指輪の影響ですね……
指輪は省線有楽町しょうせんゆうらくちょう駅で、
声をかけてきた紳士しんしがくれました。
軍の方で調べるならどうぞ――

学生が差し出したのは、例の指輪だった。はたして指輪はいくつあるというのか。

〔セルパンどう

式部しきべじょう
先ほど山王さんのう機関から報せがあって、
この近辺は平定されたそうですね。
周防すおう彩女あやめ
彩女あやめが引き寄せた中之島なかのしま怪人、
すっかり平定されたのですね!
彩女、どうなることかと――
式部しきべじょう
もう心配はいらないよ、彩女君。
ただ、気にはなるよね。
――何しろ指輪と来たもんだ。
周防すおう彩女あやめ
あら、その指輪、彩女がしたら、
どうなります?
式部しきべじょう
彩女君が彩女君でなくなってしまう、
そんな恐れもありますよ。
――違いますかな、喪神もがみさん。
指輪については山王さんのう機関で十分に
調査をなさってください。
優秀な技術者の方もおいでなので。
周防すおう彩女あやめ
喪神さん、今日は私達、
あまりお力になれませんでした。
彩女、ちょっぴり残念です……
式部しきべじょう
いや、そんなことはない。
彩女君の引き寄せの力、
少なからず影響を及ぼしている――
周防すおう彩女あやめ
彩女、怪人を呼ぶなどと言っておき、
半端なことになったのではと、
そう考えると居ても立っても――
式部しきべじょう
そもそも、この界隈かいわいで怪人騒動は
しばらくありませんでした。
それがこの段になり湧いて出た――
その点からも、やはり、彩女君の、
怪人を引き寄せる力が働いた、
そう考えるのが妥当だとうだと思いますよ。
【着信 帆村ほむら魯公ろこう
牛頭ごず機構は今のところ
鳴りを潜めておるようだな。
ひとまず終了だ、帰還してくれ。

善良なる市民をして怪人ならしめる、何らかの力を秘めた謎の指輪――はからずも彩女の力がそれら怪人を招いた。仮面の怪人が指輪を用いて、憎しみの種を植え付けているのだろうか?山王さんのう機関での指輪の解明が待たれる。