第五章 第二話 狩り・後編

月詠つくよみ麗華れいかがホムンクルスと戦っている。梨央からのほうを受け、一行は日本橋へ向かう。はたして如何いかなる戦いなのであろうか――

【九頭幸則】
麗華さん、大丈夫かなぁ?
――ぜんたい、どこにいるんだい?

〔興亜百貨店前〕

【ユリア・クラウフマン】
フロイライン、
何か感知しますか?
【メイド型ホムンクルス】
……探信たんしん開始……
【ユリア・クラウフマン】
――フロイライン……
どうしたのでしょうか?
――いつもと挙動が違います。
【九頭幸則】
彼女――
執事型を感知しているんですか?
【本郷の学生】
今、執事って言いましたか?
ねぇ、兵隊さん。
【九頭幸則】
ああ、言ったが――
君、もしや見たのかい?
黒い背広姿の男だぞ。
【本郷の学生】
見るも何も、
すごい勢いで走って行きましたよ!
【九頭幸則】
どっち方向へ行ったんだ?
【本郷の学生】
来たのは銀座方面からです。
僕を突き飛ばしそうになって、
――そこの角を曲がって行きました。
でもね、逃げていたように見えます。
【九頭幸則】
逃げていた?
黒い背広の……執事がか? 
【本郷の学生】
そうです、
確かに逃げていました、
着物姿の若い女性から。
【九頭幸則】
まさか……
麗華さんが、追いかけていた?
そんなことがあるのか?
【メイド型ホムンクルス】
確認ベステーティグン……
捕捉エルファスン
【ユリア・クラウフマン】
フロイライン!
確認できたのね、どこなの?

【執事型ホムンクルス】
……標的ツィール……
捕捉エルファスン……
攻撃、開始スル!
【ユリア・クラウフマン】
フロイライン、応戦お願い!
【メイド型ホムンクルス】
……
【ユリア・クラウフマン】
フロイライン!
――どうかしたの?
【九頭幸則】
様子が変です、壊れでもしましたか?
【ユリア・クラウフマン】
フーマ!
フロイラインが動きません。
ホムンクルスと戦ってください!

《バトル》

【執事型ホムンクルス】
エースト……
ツヴァイト――
【着信 喪神梨央】
ユリアさん!
記録がありました、さっきの独逸ドイツ語。
アインス、フィーアです。
最初がアインス、次がフィーアです。
【ユリア・クラウフマン】
一と四ですね。
一体目が一と四、二体目が一とニ。
二つの数字の組み合わせです。
【九頭幸則】
何のまじないなんだ、いったい?
数字のお遊びか?
【着信 喪神梨央】
興亜百貨店こうあひゃっかてん周辺、
セヒラはすっかり消えました。
少し待機をお願いします――

【月詠麗華】
私、一体は倒したのです!
【九頭幸則】
麗華れいかさん!
大丈夫なんですか?
――ホムと戦っただなんて……
【月詠麗華】
そうですの!
最初、山王さんのうでした――
梨央りおさんに止められたんですの。
【九頭幸則】
ええ、梨央ちゃんが?
伝通院でんつういんから戻った時だな、きっと。
【月詠麗華】
お出かけだったみたいです。
私、その時は戦いませんでした。
――でも……
【九頭幸則】
追いかけてきたんですか、
日本橋まで?
【月詠麗華】
同じ黒い服の人が二人、
三宅坂みやけざかの方から降りてきて、
やってきた市電に乗ったんです。
【ユリア・クラウフマン】
ヘーゲンの放ったホムンクルスです。
【九頭幸則】
ホムも市電に乗るんですね!
――麗華さん、それで日本橋へ?
ここで戦ったんですか?
【月詠麗華】
私は戦うということと無縁でした。
まさか自分が、こんなにできるなんて
嘘みたいです!
私、戦うとはもっとがむしゃらな
ものかと思っておりました。
むしろまされるのですね――
【九頭幸則】
なるほど……麗華さんは戦うことが、
お好きなんですね?
――そうお見受けしますが。
【月詠麗華】
いけませんかしら?
兵隊さんが鉄砲や大砲で戦う、
私は神様を降ろして戦うのです。
でも、私は我流にすぎない、
そう考えると躊躇ちゅうちょしてしまいます。
このまま続けていいのかと――
【ユリア・クラウフマン】
東京のセフィラ、とても強いです。
レイカさんのように感受性が鋭いと、
召喚できたりするのですね!
我が国でも部屋カンマーと呼ばれる場所で
セフィラを管理しています――
我が国のセフィラは不安定なのです。
部屋カンマー付きの研究者もいますが……
成果を出せていません。
【九頭幸則】
帝都のセヒラを観測したのが
ユンカー博士ですね?
【ユリア・クラウフマン】
はい、博士はすぐさまセフィラと同定
したのです。ナチ党本部へ至急電を。
――ヒムラー長官にててです。
ヒムラー長官の動きは迅速じんそくでした。
アーネンエルベ構想を実現に移す、
絶好ぜっこうのチャンスだと考えたのです。
博士の報告を知り、ここでなら
私の研究も前進すると考え、
東京行きを志願しがんしたのです。
私、皆さんと、
いろいろ情報を交換したいのです。
ホムンクルスが人間の兵士に
取って代わる日がきっと来ます。
これはアーリア人の叡智えいちなのです――
【月詠麗華】
独逸ドイツの人のお話によく出てくる、
アーリア人って何ですの?
【ユリア・クラウフマン】
優生ゆうせい民族のひとつとされています。
太古たいこの昔は、超能力のような異能いのう
備えたと信じられています。
【着信 喪神梨央】
その力を取り戻すために、
兄さんに近づいたりするんですか?
【ユリア・クラウフマン】
フーマの黒いひとみ
とても素敵じゃありませんか?
【着信 喪神梨央】
それじゃ答になっていません!
あっ!
セヒラ急上昇です!
これは……退避してください!!
【九頭幸則】
梨央ちゃん、ただならぬ様子だな!
麗華さん、ユリアさん、風魔ふうま
ここを退くぞ!!

【月詠麗華】
まだいたのですね!
私がやっつけます!!
【九頭幸則】
麗華さん、したほうがいい!!
なぁ、梨央ちゃん、確認できるか?
【着信 喪神梨央】
セヒラの波形が異常です――
これまで見たことのない形!
急速に値も高くなっています!
【ユリア・クラウフマン】
ここを離れましょう、フーマ!
クズさんも、急いで!
フロイラインも、早く!!

〔時空の狭間〕

【クルト・ヘーゲンアストラル】
この忌々いまいましい小国に、
何故このようにセフィラが湧くのか!
古臭ふるくさい迷信や呪術に頼っていても、
充分に召喚し、戦えている――
このセフィラをなんとか、
本国にまで届けられないか――

怪人を倒した瞬間に、
セフィラが放たれる。
それをホムンクルスに吸着さす。
ホムンクルスの香腺こうせんを改良して、
セフィラ吸着能力を持たせる――
フハハハ、いい考えだ!
まずは倒れた怪人から放たれる、
セフィラの量を測定する。
計画に一点のかげりがあるとすれば、
ユリア、あの女こそが阻害そがい要因だ、
日本側にっている。
――お前達呪術師どもにな!!

《バトル》

【クルト・ヘーゲンアストラル】
お前がそこにいるのはわかっている。
遠くにいても、わかるのだ――
【バール】
なんかえらいことになってるニャ!
ヘーゲンの思念にセヒラが宿って、
アストラルになったニャ!
しかし並外れた強い思念だったニャ!
できれば避けたい人物だニャ!

【日本橋佳木斯】
行旅人こうりょにんアストラルH】
北陸ほくりくの町に住むのは初めてです。
富山から二時間――
ここは因須磨洲いんすますという町です。
省線因荒線いんこうせんの終点です。
駅前には一軒の旅館と食堂、
それに三本の電信柱が立つのみです。
私、漂い流れて、この町へ来ました。
もう八年になります――
汽車は一日に四本ですよ。
因須磨洲いんすます駅、午後四時に最終が出て、
後は次の日までありません。
朝も夕も、汽車に乗る人はなく、
来る人もほとんどいません。
三ヶ月に一人は行旅人が来ますが。
ここ因須磨洲いんすますの名物、
それは斑鱶まだらぶかずしです。
――いやぁ、みつきになりますよ。
私もね、最初は無理でした。
とても人の食うものじゃない、
そう思いましたね。
なにしろ臭いがすごいんです、
おけふたを開けた途端とたん、パァーッとね。
斑鱶まだらふかは釣り上げた時から臭いますね。
因須磨洲いんすますは一丁目から四丁目まで、
でも三丁目はないんです――
みさきの方にあった三丁目は、
昔の大地震で海に沈みました。
今でも能楽堂のうがくどうが見えますよ、海底に。
【着信 新山眞】
喪神もがみさんですね?
飯倉いいくら技研の新山です、
私も帝都満洲におります。
セヒラの濃い場所には進めないので、
大変申し訳ないのですが、
こちらに来ていただけませんか?

〔日本橋佳木斯〕

【新山眞】
以前、ゲートが不安定になり、
濃厚セヒラが赤坂に流れ出ました。
その時と似た状況です――
私はゲートそばにいて、突然ここへ。
ここは日本橋佳木斯チャムスですね。
喪神さん、
日本橋で何があったのですか?
このセヒラの異常な乱れ、
何かの介入を予想させますよ――
無線で梨央りおさんが話してた、
月詠つくよみ麗華れいかさんですか、
その人に原因があるのでは?
以前、セヒラ異常が起きた時も、
月詠さんがおいででした。
まるでセヒラを増幅ぞうふくするようだ――
もう落ち着いたようですね。
戻りましょう――

〔興亜百貨店前〕

【九頭幸則】
風魔ふうま
どこ行ってたんだ、
急にいなくなって!
麗華れいかさんもホムンクルスも、
いなくなったんだ――
メイドのホムンクルスもだ。
【ユリア・クラウフマン】
おそらくセフィラが急速に強まり、
その影響でどこかに飛ばされた――
ドイツでも同じ事故がありました。
何人もが違う場所へ飛ばされました。
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
気を付けてください、
セヒラ上昇です!
【ユリア・クラウフマン】
あっ!

【クルト・ヘーゲン】
ユリア、ここで何をしている。
何故、この連中と一緒なんだ?
【ユリア・クラウフマン】
あなたこそ、どうして狩りなんか!
そんなこと許されるはずないわ!
【クルト・ヘーゲン】
私はこの忌々いまいましい小国の、
セフィラを手に入れようと、
努力しているだけじゃないか!
【ユリア・クラウフマン】
この国のセフィラは、
この国の人達の資源です。
うやまってしかるべきです。
【クルト・ヘーゲン】
私が? 日本人を?
いや、実につつしみ深い人達だよ、
私達とすれ違うたびにお辞儀じぎをしてね!
セフィラは日本人にはあつかえまい。
彼らは迷信めいしんの中に身をしずめている。
迷信めいしんは弱者の宗教なんだよ――
【ユリア・クラウフマン】
日本人は精神的な民族です。
深くれいと向き合い、神を知り、
自らの居場所を見出すのです――
【クルト・ヘーゲン】
神霊しんれいに教わらなくても、
私達は自分を見つけている。
ここは、私達にゆだねればどうかね?
この国の連中は無理することはない。
【ユリア・クラウフマン】
クルト、私たちだって、
うまく行っているとはかぎらないわ。
エッセン、ブレーメン、ハーゲン、
カッセル、リヒャルトガルテン……
いずれも――
【クルト・ヘーゲン】
だまるんだ! もういい!
お前達と話しても、らちが明かない、
来い!
さぁ、日本の審神者さにわとやら、
楽しませてもらおう、フーマよ!

《バトル》

【クルト・ヘーゲン】
ユリアが気にかけるはずだ、フーマ、
お前は力以上の力を備えている。
誰かもう一人いるみたいにな!
【ユリア・クラウフマン】
みなさん、申し訳ありません!
この失態しったい、必ずあがなってみせます!
【九頭幸則】
しかし、何だ、あのえらそうは!
アーリア人は優生ゆうせい民族だと?
これじゃ我国わがくにはやりにくいわけだ!
【ユリア・クラウフマン】
……
……