第五章 第三話 仮面の男

銀座日劇前ぎんざにちげきまえ

雑誌、猟奇グラフが別冊を刊行かんこうした。
『帝都の魔神』というタイトルである。
何故、「魔神」について言及げんきゅうがあるのか――
参謀本部で緊急会議が開かれることになり、帆村ほむら魯公ろこう招集しょうしゅうされ三宅坂みやけざかに出向いている。会には橘宮慶和たちばなのみやよしかず参謀総長も参加されるという。

参謀本部第八分課には多くの情報が寄せられ、いずれもが「魔神」を見たという通報だった。風魔ふうまは通報者の多い銀座へ出撃した。日劇前には多くの市民が集まっていた。皆、そわそわした様子である――

【着信 喪神もがみ梨央りお
猟奇グラフには魔神とあります。
を見た者はいないはずだと、
隊長はおっしゃっていました。
日劇近辺、
セヒラがやや高くなっています。

白金しろかねのモガ】
もしや、参謀本部の方ですか?
八分課ハチブンに電話したの、私です。
実は、義兄あにが魔神のことを口に――
父と義兄あには折り合いが悪く、
先週、大喧嘩おおげんかになったんです。
酒の席での話ですが――
義兄あには、自分は魔神から力を貰う、
邪魔立じゃまだてはさせないと叫び、
そのまま店を出たんです――
以来、義兄あには勤め先の銀行も休み、
行方ゆくえがわかりません。
姉に頼まれ、方々ほうぼうを探すも……
先日、猟奇グラフの別冊読んで、
魔神のことがありましたので。
姉は憔悴しょうすいしきっています……

【大久保の客】
上京学生はたちまち純な心を失うね!
工科のT君がいい例だよ。
T君と銀座幻燈会げんとうえおもむいたんだ――
ねた後、西銀座のカフェーに行き、
T君、すっかり上機嫌になって、
もう本郷ほんごうの下宿には戻らないって――
それで、どうするんだいって訊くと、
未来への階段ステップを昇るんだとか、
そんなことを言いはじめて……
店を出た途端、T君は駈け出した!
銀座の路地に下駄げたの音を響かせ、
T君、どこかに消えてしまった――
初めてカフェーに行った時、
恥ずかしそうにほほ赤らめていたのに、
随分ずいぶん豹変ひょうへんぶりだ、感心したよ!

【落ち着きのない少年】
うちの兄ちゃん、絶対に魔神を見る、
そんな風に息巻いてたよ!
猟奇グラフに書いてあったけど、
魔神が見えるのって一瞬なんだって。
怪人化の過程プロセスで見えるらしいよ。
――神経激昂げっこう最中さなか、魔神現れたり。
でも、すぐに見えなくなるんだって!
その後、突然力がいてくるんだろ?
ほとんどの人は魔神が見えないまま、
怪人になっちゃうんだそうだよ。
兄ちゃんは、どうなんだろうね――
さっきの人も、魔神、見えた組かな?
なんか、仮面して、変だったよ。
仮面してるとずっと見えるのかなぁ?

【京橋署の巡査】
京橋きょうばし署ではおたっしが出たんです。
人生よろづ相談はご法度はっとだって。
そう言われると余計よけいに……でしょ?
りょうで考えるうちに決心したんです!
それで非番ひばんの日にね、行きましたよ!
――そうです、新宿の相談所にね!!

【京橋署の巡査】
アハハハハ~
そしたらどうでしょう!
日頃のうらみつらみが一切いっさいなくなって、
私、とっても元気になったんです!
この元気、分けてあげたい――
そうだ、貴様に味わわせてやろう!!

《バトル》

【京橋署の巡査】
うぷっ……お稲荷いなり、戻しそうだ……
私は……自分をおさえられない……
……相談所に行ってこうなった!!
奴は私に言った……すれ違いざま……
思うままにやれと……奴は……
仮面の男……銀座四丁目の方だ……

銀座四丁目ぎんざよんちょうめ

興味津々きょうみしんしんの女性】
さっきのは、映画の撮影ですよね?
暗黒仮面……そうではないですか?
おいが夢中になってる読物よみものです。
月刊冒険青年に連載れんさいしている――
それが映画になるのは知っています。
仮面の人、俳優さんですよね!

雑司が谷ぞうしがやの客】
私ね、今度で三回目なんですの、
銀座幻燈会げんとうえに行くの。
一回目はすごく幸せな気分になり、
二回目はひどく落ち込みました……
だからね、三回目に期待するんです!
今度は有楽町ゆうらくちょう荘月しょうげつ会館ですって!
あそこなら千人は入るわね、
ああ、今から待ち遠しいわ!
でも、ねた後、三日も四日も、
市内を彷徨さまようのは、そろそろ辛いわ。
暑い日和ひよりならなおの事よ……
だからといって、幻燈会げんとうえに行かない、
そんなことあり得ませんわ!
何よ、私を邪魔じゃましようっていうの!!

《バトル》

雑司が谷ぞうしがやの客】
あら、私……
どうしたのかしら……
何日も同じ着物を着てるわ!!

【第百六十三銀行銀座支店の守衛】
あの男、仮面を被った男が、
わきを走り抜けた時、私の中に、
何か嫌なものがこみ上げて来て――
今まで見て見ぬを決めていたもの、
そのたぐいのものですよ、きっと。
身体検査で肺病が陽性だったりとか、
妻が知らない名刺めいしを隠していたり、
親父に借金があるとわかったり……
――私、どうすればいいんでしょう?
なやみ相談にでも行きましょうか……

果たして仮面の男はそこにいた。
いや、見えたというべきか――
世界に一切いっさい関与していない風でもあった。仮面の男の手によるのであろうか、周囲には兵らが倒れていた。歩三第99小隊の兵士達である。隊を率いる鬼龍きりゅうも仮面の男に屈したのか、顔をゆがめてうずくまっていた――

鬼龍きりゅう豪人たけと
貴様は……もしやフィンケか?
リヒャルト・フィンケ……
トゥーレのやかた領袖りょうしゅう――
【仮面の男】
ウハハハハ~
私に名など無い!
ただるのみである。
鬼龍きりゅう豪人たけと
いや、フィンケは常に黒い仮面。
貴様……一体、何者だ!?
トゥーレのやかたの召喚師なのか?
【仮面の男】
くどいな!
私は私だ、何者でもない!
いて言えば憎しみの種だ!
鬼龍きりゅう豪人たけと
ふざけるな!
帝都でそのような振る舞い、
私が許さない!
【仮面の男】
そうだそうだ、その調子だ、
憎め、憎め、泣き虫豪人たけとくん!
鬼龍きりゅう豪人たけと
貴様、何を求めている?
【仮面の男】
おや、闖入者ちんにゅうしゃのようだ。
帝都の英雄ヘルトのお出ましか!
鬼龍きりゅう豪人たけと
何?
喪神もがみ風魔ふうまか!
――余計よけい真似まねをするんじゃない!
【仮面の男】
余計よけいかどうかは、私が決める。
さぁ、喪神風魔よ、整えよ!

《バトル》

【仮面の男】
前哨ぜんしょう戦でいろいろ消耗しょうもうしたようだ。
本来の力を出しきれなくて、
君には申し訳ないことをした。
またお手合わせいただくとしよう。
今日はこのくらいにさせてもらうよ。
私も君との戦いは楽しみである!
次は万全ばんぜんのぞませてもらうよ、
ワハハハハハハハ~

鬼龍きりゅう豪人たけと
あの召喚術、トゥーレのやかた流……
だが、総裁のリヒャルト・フィンケ、
常に黒い仮面だったはず――
【着信 喪神もがみ梨央りお
辺りのセヒラ濃度、低下しました。
もう大丈夫でしょう、
本部に帰還してください!

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

喪神もがみ梨央りお
仮面の男、一体何者なんですか?
トゥーレのやかたの総裁かも知れません。
仮面の色が違うからといって――
帆村ほむら魯公ろこう
風魔ふうま鬼龍きりゅう
二人の帥士すいしを相手にして、
なおあの余裕……
帆村ほむら魯公ろこう
近くにいる市民にも動揺どうようをもたらす、
それほどの何かをかもしているようだ。
――新たな脅威きょういとなるのか……
帆村ほむら虹人こうじん
あの男の意図いとはかりかねるな。
でも、また姿を見せるはず――
再戦したがっていたようだし。
帆村ほむら魯公ろこう
梨央りお、波形はちゃんと記録できたか?
おそらく、特有の波形を見せるはず、
観測を続けるぞ!
喪神もがみ梨央りお
隊長、波形はこれから解析します。
観測の件、承知しょうちしました!