第五章 第四話 諍いの場

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

喪神もがみ梨央りお
猟奇グラフ、どこの本屋さんでも
売り切れなんです。
帝都の魔神の別冊ですよ――
九頭くず幸則ゆきのり
記者の中に怪人になった奴でも
いるんじゃないのか?
それで体験談をせたんだよ。
喪神もがみ梨央りお
猟奇グラフは猟奇倶楽部くらぶ編集部が
出しているんですけど――
住所がころころ変わるんです。
前は本郷ほんごう、次に京橋きょうばし
その後が小石川こいしかわなんです。
先月号は下谷したやで、今はまた小石川こいしかわ
九頭くず幸則ゆきのり
何だそりゃ?
まるで漂流編集部だな!
喪神もがみ梨央りお
市内にたくさん編集部があって、
いつも違うところを載せているとか。
九頭くず幸則ゆきのり
猟奇人の考えることは、
俺達、普通の人間にはわからんよ!
それにしても審神者さにわや召喚師しか
見えないを記事にするなんて。
他に見える奴を探そうって魂胆こんたんかな。
喪神もがみ梨央りお
隊長、今日も参謀本部で会議です。
麗華れいかさんのことも報告したみたい。
九頭くず幸則ゆきのり
麗華れいかさん、いまだ行方知らずだ。
鈴代も心配だろうな……
まして召喚したりするんだ――
喪神もがみ梨央りお
帆村ほむら流でも東雲しののめ流でもない、
独逸ドイツ式召喚術でもない……
そういうのって、何流なんですか?
九頭くず幸則ゆきのり
自己流さ!
喪神もがみ梨央りお
もう、幸則ゆきのりさん!
まじめに話してるんですよ!
九頭くず幸則ゆきのり
でもほかに流派はないんだろ、
帰神きしん法の流派って……
喪神もがみ梨央りお
あっ、携行式探信儀けいこうしきたんしんぎが!
――青山方面にセヒラ観測です。
あの辺、探信儀たんしんぎの空白地帯なんです。
九頭くず幸則ゆきのり
それは心配だ。俺も同行するよ!
公務電車を頼む。
歩くにはちょっとあるからな!
喪神もがみ梨央りお
気を付けてください!
この間の仮面の男の時と、
似た波形が出ています。
九頭くず幸則ゆきのり
仮面の男だって?
また新手あらてが出たのか!
喪神もがみ梨央りお
周囲の人にも影響を与えるんです。
普通の怪人とは違うようです。
九頭くず幸則ゆきのり
ひえっ!
じゃ、風魔の影になって見てるよ!

〔青山街路〕

【日本橋の老人】
八丁堀はっちょうぼりの孫、章三郎が不甲斐ふがいのうて。
援助して帝大の文科にやったのに、
友達から借金して踏み倒すわ、
んだくれる、曖昧あいまい屋に入り浸る、
まともに学校へ行きやせん!
肺病の妹、るわけでなし……
わし、相談しようと省線しょうせんで新宿まで
出向いたのに、相談所、休みじゃ!
人生よろづ相談じゃよ。
――当面、しめます
貼り紙一枚あるきりじゃ。
そしたら急に、気分悪ぅなって……
うげぽっ!
ぐぐぐぐ……
ぐ、ぐるし、い……何か出てきた……
九頭くず幸則ゆきのり
大丈夫か、じいさん。
医者でも呼ぶか?
【着信 喪神もがみ梨央りお
本部で医者を手配します。
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
セヒラの原因、さぐってください!

【新宿から来た男】
そのおじいさん、大丈夫ですか?
新宿の鉄道病院の前から一緒で、
省線しょうせんの中でもふらふらしてましたよ。
三日前に病院行った時、
病院の向かい、人生よろづ相談所に、
憲兵が大勢いましたね。
九頭くず幸則ゆきのり
憲兵がいた?
じゃ、相談所の人、
しょっぴかれたのか?
【新宿から来た男】
あの様子だと、そうですよ。
今日は閉まってましたしね、相談所。
よからぬ思想でも吹き込む、
そうにらまれたんじゃないですかね。

【神田の大学生】
あなた、見ませんでしたか?
仮面を被った人物ですよ。
さっき若い派出婦はしゅつふと話していて、
すると、急に派出婦はしゅつふの人、
卒倒そっとうしたんです!
あの仮面の人物、何者ですか?

【メイド型ホムンクルス】
私の……シュタインが……
四石のうち……一つが破壊され……
……動けない……
シュタインが……壊れた……
……シュタイン無くして……動けない……
九頭くず幸則ゆきのり
おい! こいつは、ユリアの……
ホムンクルスなのか?
どうした、何があった?
【メイド型ホムンクルス】
むこう……ユリアさま……
フーマ……至急シキゅう、支援……
支援を……
シュタインは……残り三石……
残り……三石……
九頭くず幸則ゆきのり
この匂いは……
アーモンドの匂いだ!
――ホムンクルスの匂いなのか……

【赤坂署の巡査】
自分は尋ねたんです。
アーユーオーケー、とね?
そう言うんでしょ、西洋式は。
でも、あの西洋人、
ただ首を振るばかりで
何にも答えない――
自分のエゲレス語、
通じないんでしょうか?

田町たまちの婦人】
そこの方、大丈夫かしら?
――何だかお悪そうよ……
しゃくでもおきたのかしら……

【洋行帰りの男】
あすこにいる西洋人、
欧羅巴ヨーロッパの人じゃないかな……
透き通るような白い肌……
きっと独逸ドイツ白耳義ベルギーじゃないかな。
だとすると我が国の夏は、
こたえると思うな、気温に湿気、
その両方が高いからね。

〔青山街路〕
ユリア・クラウフマンは、どこか優れない様子であった。怪我をしているわけではなさそうだ。風魔ふうまの近づくのを見て、ユリアは安堵あんどの表情を浮かべた。

【ユリア・クラウフマン】
フーマ!
――どうして、ここが……
セフィラを……
強いセフィラを観測したのですね?
【九頭幸則】
仮面の男の時と同じだと――
……それにしても、大丈夫ですか?
【ユリア・クラウフマン】
実は、仮面の男と遭遇したのです。
せっかく戻ったフロイラインが……
とても強いセフィラでした――
【九頭幸則】
戻ったって……
興亜百貨店の前で消えた、
あのホムンクルスがですか?
【ユリア・クラウフマン】
そうです……
レイカの行方に繋がる記録、
残していないか調べていたら――
この場所へ私を誘導しました。
そこへ仮面の男が現れて……
【九頭幸則】
ホムンクルスは、石がどうのと……
壊されたのですか?
【ユリア・クラウフマン】
フロイラインは四つの石で動きます。
その一つが破壊されたようです。
――そしてレイカさんの記録は……
【九頭幸則】
なかったんですか?
麗華さんの行方はわからない?
【ユリア・クラウフマン】
別々の場所に飛ばされたようです。
フロイラインは暗闇の中にいたと……
それがどこかはわかりません。
【九頭幸則】
あのセヒラ異常の背後に、
仮面の男がいるとうのか……
【ユリア・クラウフマン】
フロイラインも仮面の男特有の
波形を感じて、ここへ私を
導いたのかも知れません――
先ほど、これを拾いました。
指輪のようです――

周囲に謎めいた文様もんようきざまれた指輪だ。世界を破滅はめつに導く魔力を秘めた指輪のように、強く、そして鈍い光を放っていた――

【ユリア・クラウフマン】
その指輪。セフィラを発している、
そう考えていいでしょう。
――調べてみてください。
【九頭幸則】
ひぇ~、そんなの持ってたら、
即、怪人になっちまうよ、
風魔、お前が運ぶんだぞ!
【ユリア・クラウフマン】
フーマ! 気を付けてください!
【メイド型ホムンクルス】
フーマ……
攻撃対象……確認……
攻撃……開始シュタート……スル……
【ユリア・クラウフマン】
やめなさい、フロイライン!
別な刷り込みアプドロックされたの?
【メイド型ホムンクルス】
解除不可能……攻撃アングリフ……開始スル
【ユリア・クラウフマン】
フーマ!
この子はフーマを攻撃するように、
指示を受けています!
【メイド型ホムンクルス】
フーマ……攻撃……最終確認……
攻撃開始シュタート

《バトル》

【メイド型ホムンクルス】
……フーマ……
攻撃……終了エンデ……
【ユリア・クラウフマン】
大丈夫よ、シュタインは壊れてはいない、
すぐに回復できるわ。
フーマ――
クルトが仮面の男を追いヨツヤへ。
市民の安全を確保してください!
私はこの子の面倒を――
どうやって上書きしたのか、
少し調べてみます。

四谷よつや街路〕

仮面の男が、いよいよその姿を見せた。辺りにはすき無く仮面の男の脅威きょういが満ちている。今、その足元に倒れ伏しているのは、クルトと配下はいかのホムンクルス達だ。

【クルト・ヘーゲン】
ウグッ……
これが、お前のすべてか?
……これが……お前の……
【仮面の男】
だとすれば、満足なのか?
クルト、ヘーゲン――
ほう!
これはまた!
喪神もがみ風魔ふうま、君と再会できるとは!
ちょうどよかった。
私の達、やや退屈していてね。
私の犬達も、
ようやく出番が来たと喜んでいる!

《バトル》

【仮面の男】
実に素晴らしいね!
喪神もがみ中尉、いや、喪神君――
君はどんどん開花しているようだ。
戦いは勝敗だけではない、
美しくあることだ――
その点、君は充分に及第きゅうだい点だね。
日本に君のいることを、
私は誇りに思うよ。
また高みにいたる君を見せてくれ。
今日はこれにて失敬しっけいだ!

【ユリア・クラウフマン】
クルト!
なぜ単独で行動したの!
【クルト・ヘーゲン】
そのほうが効率的だ。
奴は強力なセフィラを放っている。
格好の研究材料じゃないか!
仮面の男を捕獲ほかくできれば、
ユリア、君の研究もはかどるのでは?
ヒムラー長官もさぞ安堵あんどされるぞ。
【ユリア・クラウフマン】
仮面の男が何者かも知れないのよ!
――それに……
友人の一人が行方知れずなの。
おそらく、仮面の男の影響で……
【クルト・ヘーゲン】
なら、なおさら捕獲にて、
全てを自白させることだな!
【ユリア・クラウフマン】
私は、なぜ、いさかいの種をくのか、
そのわけを知りたいの――
仮面の男は、悪戯いたずらに憎しみを、
憎しみを受け付けて回っている……
そう思えて仕方ないの。
【クルト・ヘーゲン】
憎しみなど、くまでもないだろう。
――地球は憎しみで回っている。
私はそう思うがね!
【ユリア・クラウフマン】
――クルト……
あなたは……
今にも壊れそうなのね……

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

喪神もがみ梨央りお
兄さん、指輪ですが、
セヒラをびていないか、
調べてみます。
あと、指輪の報告が他にないかも。
参謀本部の八分課ハチブンは、
通報の資料を見せてくれますよね?
帆村ほむら魯公ろこう
わしに聞いておるのか?
――いろいろ疑義が解けたんでな。
何故、市中の雑誌にに触れた
記事が出てしまうのか、解はナシだ。
怪人記者がいるとは信じられんが――
帆村ほむら虹人こうじん
参謀本部で調べたんですよね?
帆村ほむら魯公ろこう
ああ、噂では間諜かんちょうまで動員したとか。
猟奇グラフ、編集部の所在さえ、
つかめなんだそうだ。
帆村ほむら虹人こうじん
もしかすると帝都満洲にあるかも――
そんな感じ、しませんか?
それにしても、あの仮面の男、
動機は何でしょうね?
仮面の男をめぐっては、
アーネンエルベも一枚岩じゃない、
それがはっきりしました。
利用価値、あるかも知れませんね!
帆村ほむら魯公ろこう
ユリア女史は研究を大義としておる。
うまく話をつければ――
帆村ほむら虹人こうじん
アーネンエルベに、
俄然がぜん興味がいてきました。
帆村ほむら魯公ろこう
虹人こうじん、独断で動くんじゃないぞ。
相手はナチの秘密結社だ。
決してくみやすい相手ではない。
梨央りお独逸ドイツ大使館近辺、
麹町界隈こうじまちかいわいのセヒラ探信たんしんに、
今以上に注意してくれないか。
喪神もがみ梨央りお
はい、承知しました。
独大使館は四探でギリギリです。
時には巡視パトロールも必要ですね。