第六章 第一話 敏腕記者

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

風魔ふうまが持ち帰った指輪は4本。
ユリアから預かった分と合わせて5個の指輪はいずれも飯倉いいくら技研で研究されていた――

帆村ほむら魯公ろこう
平生へいぜいは善人、いざという間際まぎわ
急に悪人に変わるから恐ろしい――
指輪はそういう人間のさがあらわすな!
喪神もがみ梨央りお
隊長、新山にいやまさんがお見えです。
新山眞にいやままこと
皆さん、おそろいですね。
帆村ほむら魯公ろこう
ほう、ほうほう! 
もう指輪の研究が
終わったんですかな?
新山眞にいやままこと
いえいえ、まだ終わっておりません。
帆村ほむら魯公ろこう
ならば、何のご御用で?
新山眞にいやままこと
いや実は、弟がですね、
厄介事やっかいごとに巻き込まれまして。
帆村ほむら魯公ろこう
弟さんは、確か……
新山眞にいやままこと
ええ、興亜日報こうあにっぽうの記者です。
日比谷ひびやの東京支局の勤めです。
帆村ほむら魯公ろこう
その記者さんが、ぜんたいどんな
厄介事やっかいごとに巻き込まれたかな?
新山眞にいやままこと
弟は、和斗かずとといいますが、
帝都の怪人騒動を取材していました。
この山王さんのう機関のことも――
薄々は勘付かんづいていたようです。
目下もっか、和斗の興味は牛頭ごず機構と、
連中が着目する人籟魔じんらいまきなのです。
帆村ほむら魯公ろこう
それはまた厄介やっかいなところに
首を突っ込んだもんだ!
厄介やっかいの総本山であるな!
新山眞にいやままこと
和斗かずとですが、現在、戸山とやまの施設に
監禁されているとセヒラ通機で
連絡してきたのです。
喪神もがみ梨央りお
セヒラ通心機つうしんき、完成したんですか?
帆村ほむら魯公ろこう
こら、梨央りお
今はその話ではないぞ。
――で、新山にいやまさん、
弟さんは戸山とやまのどちらですか?
あの辺り、いろいろあるのでね……
新山眞にいやままこと
地図を貸してください。
およその見当は付きますので。
帆村ほむら魯公ろこう
了解した。
時間もない、
早速、向かってくれ、風魔ふうま
参謀本部からの視察しさつがある、
そういう話にしておく――
喪神もがみ梨央りお
その作り話、
牛頭ごず機能は信用しますか?
帆村ほむら魯公ろこう
目端めはしく連中は出払っているはずだ。
比類舎ひるいしゃの集団自決を教唆きょうさしたと、頭目の御厨みくりや車夫しゃふが逮捕されたろう……
喪神もがみ梨央りお
新宿旭町あさひまち木賃宿きちんやどから
逃げたんですよね。
帆村ほむら魯公ろこう
逃げたというか、
まぁ自決を躊躇ためらった、
奴は下宿に帰ったところを捕まった。
それで潜伏していた比類舎ひるいしゃの連中が、
芋蔓式いもづるしきに挙げられている。
牛頭ごずにすりゃ格好の材料だ――
新山眞にいやままこと
なるほど――
アナーキストであれば、
かせて、
人籟魔じんらいまきを作りやすいわけですね!
帆村ほむら魯公ろこう
警察にさきんじて、
連中の潜伏先を当たっているはずだ。
砲工ほうこう学校の視察、今のうちだぞ!
喪神もがみ梨央りお
公務電車、飯田橋いいだばしから若松町わかまつちょうに向かう経路を抑えました。
それと……虹人こうじんさんから連絡が――
帆村ほむら魯公ろこう
おう、丁度ちょうどよい、
虹人こうじんを差し向ける。
向こうで合流してくれ!

〔戸山砲工ほうこう学校中庭〕

戸山とやま砲工ほうこう学校は若松町わかまつちょう電停から、1.5キロほどのところにあった。牛込区うしごめくの西の区境にほど近い。

【帆村虹人】
風魔ふうま
どこに行こうか、迷っているのか?
僕は場所を教えてもらったよ。
さっき、兄上が無線で教えてくれた。
――お前、本部から来たんだよな。
僕は浅草あさくさからだ――
兄上の提案でね、
今日は市内を一巡ひとめぐりしていたのさ。
お前も公務電車だろ? 僕もさ!
あれ、二両あるんだな、
そんなこと初めて知ったよ!

瀧本たきもと砲工科生】
お二方は、参謀本部からの……
そうですよね?
――当校、全てが順調であります!
砲の学習と設計に、
日々、精進しております!!
【帆村虹人】
今日はやけに人が少ないようだが……
瀧本たきもと砲工科生】
上級生ならびに教官殿は、
皆、出払っております!

【帆村虹人】
さっき梨央りおから聞いたよ。
アナーキスト連中を、
人籟魔じんらいまきの候補にする計画だって。
それで出払ってるんだろ?
ここが牛頭ごずの関係なら……
警察の情報も筒抜つつぬけなんだな!

須沢すざわ砲工科生】
視察、ご苦労様であります!!
自分、九十五式迫撃砲はくげきほうの改良を、
任されております!
該砲がいほうは、可変砲かへんほうにあります!
口径こうけい、三段階にて可変するもので、
大國屋おおくにや機械社で開発されました!
【帆村虹人】
ええ、そうなのか?

大國屋だいこくやといえば、あの変人の、
ナナオセンジロウの工廠こうしょうだ。
あの人、奉天ホウテン錠前屋じょうまえやだったらしい。
英吉利イギリスのチャブ錠というのを真似まねて、
すごい錠前作ったそうだよ――

ところで、君、
ここに新聞記者がいるって聞いたが、
見かけなかったか?
須沢すざわ砲工科生】
――
あっ、いえ、ちっともです!
天にちかって全然であります!!

【帆村虹人】
ちょっといいか――

虹人こうじん清掃夫せいそうふからそれとなく新山にいやま和斗かずとのことを聞き出した。彼はそれらしき人物を見かけたという――

【帆村虹人】
風魔ふうま、ブンヤはどうやらいるようだ。
中へ入ろう、今のうちだ。

〔戸山砲工ほうこう学校玄関ホ―ル〕

【帆村虹人】
……おい、風魔ふうま――
(普通の砲工ほうこう学校じゃないな……)

検見川けみがわ砲工科生】
視察、ご苦労様です!
自分たちの上級教官様というのは、
神埼かんざき軍医少佐であります!!
神埼かんざき軍医少佐には、
弟さんがいらっしゃいます。
弟さんも軍医様で、
陸軍軍医学校で神埼かんざき班班長を、
なさっておいでです。
【帆村虹人】
神埼かんざき班……
確か、戸山とやま衛戍えいじゅ病院のかいの特務、
その記録にあったな――
やっぱり……
(ここは怪しいぞ)

手島てじま砲工科生】
ようこそ、おいでなさいました!
戸山とやま砲工ほうこう学校へ!
【帆村虹人】
ここでは、何を学んでいるんだ?
手島てじま砲工科生
砲の新技術であります!
【帆村虹人】
参謀に視察報告を上げねばならん、
技術のこと、くわしく教えてくれ。
手島てじま砲工科生】
可変かへん口径こうけいの砲、遠隔にて操作する砲、
自ら標的を探信たんしんする砲、
新物質にて霊異りょういす砲であります!
【帆村虹人】
霊異りょういす?
(こいつら審神者さにわを知っているのか)

【模範囚ト】
視察の方ですね?
【帆村虹人】
――そうだが……
【模範囚ト】
ああ、よかった!
間に合いましたね!
【帆村虹人】
ん?
何に間に合ったんだ?
【模範囚ト】
観察ですよ! これから始まる。
人に極度の苦しみを与えて、
魂の抜ける間際を観察するのです。
【帆村虹人】
お前、何の話をしている?
――もしや、新山にいやま和斗かずとのことか!
【模範囚ト】
ほう! よく知っているな!
――お前達が偽物にせものなのはお見通しだ。
そういうのはらしめないとな!
【模範囚ト】
ウハハハハ!
油断したな、貴様らの帆村ほむら流とは、
その程度のものか!

《バトル》

【模範囚ト】
フフフ……
我―の計略は奥深いのだ……
【帆村虹人】
ぬかった……
ちょっと油断したんだ……
僕は……お前と一緒だと……

瀧本たきもと砲工科生】
――
今より、一瞬、停電します。
それにより……
【帆村虹人】
停電するって、どういう意味だ?
瀧本たきもと砲工科生】
停電によって地下室の扉が開きます。
記者さんはそこにいます。
――停電時間は一瞬です!
これは千載一遇せんざいいちぐうの機会なのです。
さぁ、教官らが戻る前に、早く!

【帆村虹人】
電気が消えたぞ!
風魔ふうま、地下室だ!
あそこの階段じゃないか。

〔戸山砲工ほうこう地下室〕

【帆村虹人】
おい、風魔ふうま
そこにいるの、ブンヤじゃないか?
【新山和斗】
――
気を付けたほうがいいですよ。
【帆村虹人】
貴方を助けに来ました。
――動けますか?
【新山和斗】
危ない!!
【模範囚ナ】
今日はあれですか?
――葬式ですかね?
【帆村虹人】
貴様、何を言っている!
【模範囚ナ】
帆村ほむら帰神きしん法、本日、終われり。
牛頭ごず機構の前では、赤子も同然。
そうではないですか?
【帆村虹人】
帆村ほむら流、貴様らの邪流じゃりゅうに、
負けるものではない!
【模範囚ナ】
それはさぞかし軒昂けんこうなことで!
では参りましょうか!!

《バトル》

【模範囚ナ】
なるほど!
我―ももっと研鑽けんさん積む必要が……
……ありそう……です……
【新山和斗】
わかったでしょう!
ここは牛頭ごず機構の影響下にある。
僕がぎつけたんです――
【帆村虹人】
随分と危ない橋を渡りましたね。
さぁ、戻りましょう。
お兄さんが心配されておいでです。
【新山和斗】
僕の調査、役に立ちますよね!

〔戸山砲工ほうこう学校中庭〕

【山郷武揚】
残念ながら、今は主だった連中、
皆、出払っていてね――
【新山和斗】
あなたは……
もしや、牛頭ごず機構の頭目とうもく
その人ですね!
【山郷武揚】
私はただの民間人だよ。
ここもただの砲工ほうこう学校だ――
そうではなかったかな?
【新山和斗】
あなた達はここで人籟魔じんらいまきの、
研究開発を行っている。
人の魂を食うだ!
【山郷武揚】
君にはなるものが見えるのか?
私には見えんが……
皆、参謀本部のでっち上げだ。
連隊に怪人部隊をもうける、
そんな話もあるようだな。
余計なことに巻き込まれないことだ。
【新山和斗】
防疫研ぼうえきけんと組むのは何故なぜですか?
あるいは市ヶ谷いちがや刑務所、
あそことはどういう関係ですか?
【山郷武揚】
私はね、受刑者の更生こうせいに、
尽力じんりょくしているのだよ。
さぁ、急がなくては!

【山郷武揚】
おお、ちょうどよかった。
戻りが早かったな、少佐。
彼らの相手をしてやってくれ!
神埼かんざき軍医少佐】
もう用事は済んだのですか、
お二方は?
【帆村虹人】
あんた、もしかして軍医か?
神埼かんざき軍医少佐】
しつけが出来ていませんねぇ、
軍属風情ふぜいがその口の聞きようですか!
――山王さんのう機関には教育が必要ですね。
【新山和斗】
これは驚きだ、
砲工ほうこう学校に医者がいるとはね!
いったい、何の研究をするのですか?
神埼かんざき軍医少佐】
君かね、ちょろちょろまわる、
三流記者というのは?
材料になったと報告を受けたが――
【帆村虹人】
材料とは何ですか?
人籟魔じんらいまきの材料ですか?
――ここではその研究を……

神埼かんざき軍医少佐】
おやおや!
山王さんのう審神者さにわにも効きましたか!
この新型閃光弾せんこうだん

さて、弟から報告は来ていますよ。
君とお手合わせ願えるとは、
光栄の極みですな!

《バトル》

神埼かんざき軍医少佐】
素晴らしい! 実に見事だ!
私に新たなる目標が出来た。
――感謝……する……よ……
【帆村虹人】
――風魔ふうま……済まない……
さっきの油断が……尾を引いている!
――公務電車を、呼んでくれ……

〔山王ホテルロビ―〕

三人は公務電車で赤坂あかさかまで戻った。電車は山王下さんのうした電停に留置された。

新山にいやま和斗かずと
さっきはいきなりでした。
目眩めくらましでも使ったんですかね。
僕はどうやら、真相に近づき過ぎ、
連中の警戒心を高めてしまった。
でもね、あきらめる気なんてないですよ!
ところで、あなた、
手に持つそれ、当社の原稿用紙です。
作家に渡すものです――
帆村ほむら虹人こうじん
ああ、これは兄が無線で、
砲工ほうこう学校の場所を知らせてくれ、
持っていた紙に書いたのですが……
新山にいやま和斗かずと
その用紙、貴方がお持ちだった、
そういうことなんですか?
帆村ほむら虹人こうじん
……実を言うと
僕は貴紙の投稿者です。
ペンネ―ム、白金江しろかねこうと言います。
時に投稿小説を書きます。
新山にいやま和斗かずと
ああ、あの白金江しろかねこうさんですか!
たしか、秋宮あきみやという小説ですね。
諏訪すわの旧家を舞台にした三姉妹の――
新山眞にいやままこと
なるほど、投稿作家が
こんなところにいたとは驚きです。
新山にいやま和斗かずと
ああ、兄貴!
セヒラ通心機つうしんき、ちゃんと使えたよ。
それにしても危なかった――
新山眞にいやままこと
ちぃとばかり、深入りが過ぎた、
およそ、そんなところだろう。
今はいろいろ不安定な時期だ……
新山にいやま和斗かずと
比類舎ひるいしゃ御厨みくりや車夫しゃふが逮捕され、
残された連中が不満をたぎらす、
これは想像にかたくない――
新山にいやま和斗かずと
牛頭ごず機構にすればそういう人間は、
人籟魔じんらいまきの材料にうってつけだ。
こぞって捕獲に乗り出すはず――
帆村ほむら虹人こうじん
あの砲工ほうこう学校が牛頭ごず機構の本拠だと、
知っていたのですか?
新山にいやま和斗かずと
勿論もちろん! 市ヶ谷いちがや刑務所、砲工ほうこう学校、
どちらにも牛頭ごず機構の構成員はいる。
防疫ぼうえき研究所にもいるといううわさです。
新山眞にいやままこと
いろいろ首を突っ込みすぎるなよ。
今回は運が良かったといえる。
この次はどうなるかわからんぞ。
新山にいやま和斗かずと
まぁ、程々にやりますよ。
新山にいやま和斗かずと
じゃあ、皆さん、僕は失敬しっけいします。
助けていただき、感謝しています。
兄貴、また浅草あさくさ今木いまきに顔出しなって!

新山にいやま和斗かずとは悪びれる風でもなく、軽い足取りでホテルを後にした。その目はすでに遠くを見つめているようだ。

新山眞にいやままこと
ああいう奴なんだ、
勘弁してやってください。

それで、みなさん――
預かった指輪なんですが、
特有の波形がわかりました。
指輪がかもすセヒラの波形です。
それを求めれば、他の指輪の
おそらくわかります。
喪神もがみ梨央りお
その波形の特徴をつかんでおけば、
指輪で怪人になる人を防げますね!
新山眞にいやままこと
ええ、理屈の上ではそうです。
喪神もがみ梨央りお
承知しました!
これから、留意して探信たんしんします。
新山眞にいやままこと
私が心配なのは月詠つくよみ麗華れいかさんです。
あの人は悪戯いたずらに召喚をしている――そう思えてならないのです。
喪神もがみ梨央りお
麗華れいかさん、行方不明なんですよ!
悪く言わないでください!
新山眞にいやままこと
いえ、決してそんなつもりは……
ただ――
……いずれ問題になりそうです。
喪神もがみ梨央りお
麗華れいかさん、鈴代すずよさんの側にいて、
術を会得えとくしたんでしょうか……
――そしたら、私も……