第七章 第二話 カグツチ

ユリアとアーネンエルベに向かった。ホムンクルスについて詳しく話したい、ユリアがそう申し出たのである。

〔アーネンエルベ極東分局〕

【ユリア・クラウフマン】
イズの少年、断定はできませんが、
ホムンクルスの可能性はあります。
ホムンクルスは体の組成が、
一体ごとに異なるのです――
共通するものもあります。
皆、シュタインを内蔵しています。
シュタインはホムンクルスの
判断力をつかさどっているのです――
このメイド型は四石です。
シュタイン自体は改良版を使っています。
こちらの執事型は八石です。
この型にはクルト・ヘーゲンが、
指示を出しています。
シュタインの他に香腺こうせんという器官があり、
さまざまな指示を記録します。
その記録を刷り込みアプドロックと呼ぶのは、
もうご存知ですよね。
刷り込みアプドロックによってこの子たちは、
命令どおりに動きます。
でも、少年の形のホムンクルスは、
まだ見たことがありません。
十二石のホムンクルスを作る、
そういう話は聞いていますが……
【着信 帆村魯公】
どうだ、話は聞けたか?
沈静化しておったカグツチ騒動、
また再燃しておるようだ。
青山に大勢がもうでておる――
皆、カグツチから生まれた、
月詠つくよみ麗華れいか嬢が目当てだという。
セヒラもちらほらある――
ちょっと見てきてくれんか?
【着信 喪神梨央】
鈴代すずよさんが向かいました。
青山通、明治めいじ神宮前じんぐうまえ電停で、
落ち合ってください!
【ユリア・クラウフマン】
コウジンも巡視パトロール中ですが、
今日はボクトウ地区です。
アオヤマとは逆ですね。
私は研究室へ行きます――
【武装SS隊員】
ハイル――
【ユリア・クラウフマン】
ここではいいのよ。

〔青山街路〕

風魔ふうまの向かった青山通りは、渋谷方面に向かう人がそぞろ歩く。普段寂しい通りが人であふれていた――

【着信 喪神梨央】
今のところセヒラは観測しません。
ただ予兆はあります、
注意してください。
【赤坂署の巡査】
何の人出かと署ではいぶかっています。
青山通は別名陸軍通りくぐんどおり……
何か行軍でもあるのですか?
【如月鈴代】
この人たちが……
まさか、麗華れいかさんの元へ?
――そうなんでしょうか?
【九頭幸則】
おい、風魔ふうま
公務電車くらい出せよ!
中尉殿御一行は市電で――
梨央りおちゃんも水臭いな!
鈴代すずよもそう思うだろ?
【如月鈴代】
遅くなってごめんなさい、風魔ふうまさん。
市電、赤坂見附みつけから乗ったのですが、
青山一丁目で終点なんです――
【九頭幸則】
通りに人が多くて危ないからって、
電気局から指令が飛んだらしい。
公務電車なら平気だったのにな!

【薄荷売りの少年】
おいしい薄荷はっか水だよ~
一口スッキリ薄荷はっか水だよ~

【新聞売り】
号外だよ~
号外号外~
カグツチ再臨~
月詠つくよみ様ご降臨~

【九頭幸則】
月詠つくよみ様って……
つまり麗華れいかさんのことだな!
【如月鈴代】
麗華れいかさん、青山せいざんホテルね。
部屋を取ったって聞きました。
ホテルはこの先ですわ。
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、注意してください。
セヒラ観測しました――
もっとも基本的な波形ですが。
【九頭幸則】
基本的って何だよ?
緩い怪人ってことなのか?

【逓信局の職員】
お前たちか!
――ええ、そうなんだろ?
【九頭幸則】
落ち着け!
何があったんだ?
【逓信局の職員】
娘を返せ!
糸子いとこを返せ!
【如月鈴代】
娘さん、どうかなさったの?
【逓信局の職員】
あんな妙な新宗教にそそのかされて、
四日も家を空けたままだ!
お前たちが元凶だろ!
【九頭幸則】
娘さんは青山ホテルに行ったのか?
【逓信局の職員】
ホ、ホテルだと?
ますます、許さん!!

《バトル》

【逓信局の職員】
糸子~糸子~
どこにいるんだぁ……
【如月鈴代】
麗華れいかさんが……
彼女が会派をひきいているのですか?
【九頭幸則】
いや、回りが騒ぐだけだ。
鈴代すずよ風魔ふうま、青山ホテルへ急ぐぞ!

青山せいざんホテル〕

【九頭幸則】
すごい人出だな――
【如月鈴代】
麗華れいかさん、いるのかしら……

【本郷の学生】
僕はね、いつにない可能性を感じる。
何しろカグツチときたもんだ、
近代モダンカグツチは何をもたらすのか――
本郷ほんごうからね、足代あしだいはずんで、
今日で三日も通い詰めだ。

【小石川の婦人】
良人おっとの母の妹の姉の息子の嫁……
つまり私ですけれど――
思うところあり、参っております。
近頃、頭の中で声がしますの――
菊子の女学校時代のおねえさまの妹、
つまり私を呼ぶのです。
参りなさい、参りなさいと……
ですから、参っております。

【着信 喪神梨央】
わずかにセヒラを観測します――
ですが、脅威にはなっていません。
【如月鈴代】
麗華れいかさんが霊異りょういを現すと、
周りに影響を及ぼすのかも……
風魔ふうまさん、幸則ゆきのりさん、
私、ここで麗華れいかさんを待ちます。
【九頭幸則】
そういや歩三でも、
麗華れいかさんを持ち上げる動きがある、
そんな話を聞いた――
そろそろ歩三の召喚小隊、
演習の始まる時間だ。
風魔ふうまのぞきに行ってみよう!
じゃ、鈴代すずよ
麗華れいかさんによろしく!
【如月鈴代】
手に負えないことがあったら、
山王さんのうの本部に連絡を入れます。
お二人とも、お気を付けて。

鬼龍きりゅうが率いた歩三召喚小隊。その中に月詠つくよみ麗華れいかあがめる一派があり、予断よだんを許さない状況だという。風魔ふうま九頭くずは、演習が行われている、歩三本部へと向かった。

〔第三連隊本部〕

【九頭幸則】
見たところ、問題なさそうだな――
【常田松柏】
何やら良からぬうわさがあるが――
歩三はいたって平静だ。
歩一の方はどうかね?
【九頭幸則】
問題確認されておりません!
怪異に屈することなく、
励精れいせいこれつとむるにあります!
【常田松柏】
よかろう――

その時であった。
一陣の冷たい風が吹いたかと思うと、連隊本部の前庭に影が射した――

【叫ぶ声】
あっ! あれは――
【裏返った声】
カグツチ様だぁぁ~
【感嘆する声】
おおお! 月詠つくよみ様だ!!
【むせぶ声】
はぁぁぁ~
ついにご降臨こうりんあそばされたぁ~
【九頭幸則】
おい、風魔ふうま
――セヒラ球だ……
いや、カグツチか――違う!

【九頭幸則】
風魔ふうま
連中、怪人化したんじゃないか?
【常田松柏】
鵜野森うのもり少尉!
しずまれ!
――少尉! 聞こえんのか!!
【召喚小隊鵜野森うのもり少尉】
私を呼ぶのです――
早く参れ、早く参れと……
小隊の兵ら、皆、月詠つくよみ様をあがめ、
互いに引き合ったのです――
私は愈々いよいよ成るのです――
月詠つくよみ世界粛清しゅくせい親衛隊長に!
弱小極東小国など殲滅せんめつせんとす!
【常田松柏】
少尉! 少尉!!

《バトル》

鵜野森うのもり月詠つくよみ世界粛清しゅくせい親衛隊長】
列強国に並び立とうとする貴様らは、
やがて灼熱しゃくねつの炎に焼かれるだろう――
末代まで禍根かこんを残すのだ!!
貴様らの行く末は、
黒いきりに閉ざされている――
その闇はどこまでも深い!
【九頭幸則】
大佐――
ご無事でいらっしゃいますか?
【常田松柏】
ううう……
――今のは、何だ?
【九頭幸則】
怪人同士の戦いが繰り広げられ、
大佐もそれに巻き込まれたのです。
【着信 喪神梨央】
観測したところ、
大佐も一瞬だけ怪人に……
怪人になった模様です。
セヒラ球ですが、
白金しろかね方面へ向かいました!
【九頭幸則】
一瞬だけ、大佐も怪人に……
――そんなことがあるのか……
大佐、隊の衛生兵を呼びます。
動かないでください。
【常田松柏】
た、大尉は……まだか?
鬼龍きりゅう大尉だ……
京都をつとのしらせが……
【着信 喪神梨央】
鬼龍きりゅう大尉が上京するのですか?
幸則ゆきのりさん、事実確認をお願いします。
日程を調べてください!!
【九頭幸則】
了解した!
風魔ふうま、俺はここに残る。
お前はセヒラ球を追ってくれ!

清正公せいしょうこう前〕

第三連隊本部上空に現れたセヒラ球。そのせいか、隊の将兵らは怪人化した。セヒラ球は白金しろかねに向かったという。

【新山眞】
この場所はカグツチの聖地として、
あがめる市民も出始めています。
勿論もちろん、カグツチなどではなく、
邪悪マルボーナなセヒラの塊です――

【歓喜する声】
おいでです! おいでになりました!
月詠つくよみ様! あああ、感激ですわ!!

【驚嘆する声】
おお、何ということだ!
まさに、ここはまさしく聖地だ!

【祈る声】
お願いします、お願いします、
どうかお聞き入れくださいませ~

【新山眞】
あの中では帝都中の思念が流通し、
中にいる月詠つくよみ麗華れいかなる者は、
全てを見通せています――

【新山眞】
このまま思念を集め続ければ、
月詠つくよみ麗華れいかなる人物は――
まさしく全知全能チオスチオカイチオポーボの存在へと――
そこで急遽きゅうきょこしらえました――
思念増幅アンプリファード器です。
こいつで思念を増幅アンプリファードすれば、
セヒラ球の中ではうるさく響き合い、
何が何だかわからなくなる――
【着信 喪神梨央】
新山にいやまさん!
思念を増幅して聞き取れないように
するのですね!
【新山眞】
その通りです、聞き取れません!
さぁ、思念増幅アンプリファード器の、
スイッチを入れますよ!

そう言うや、新山にいやまは、手にした通信機のような装置の、スイッチを入れた。

【月詠麗華の声】
ここは母胎なのです――
そう教わりましたわ。
――誰にかというと……
それはわかりません。
私の中に響いてくるのです――
神さまのお声かも知れません。
この帝都にはいろんな考えが、
あるのですわね――
興味深く拝聴はいちょうしました。
大変、いきどおる方がおいでですわ。
新文民社で穏健派を標榜ひょうぼうする方――
憲兵に捕まって大変なことに!
でも私が探しているのは、
もっと別のことなのです――
それがちっとも聞けやしません。
豪人たけとさまは京都においでなのですね。
私、豪人たけとさまから継がねばと思い、
いているのですが……

京都は遠すぎるのですわ!
母胎にはもっと栄養が必要――
どうもそのようですわ。
先程は混乱してしまいましたわ。
いっそ、人をそのまま吸い取ると、
そうなるようですわ!

【着信 喪神梨央】
鬼龍きりゅう大尉が京都をつと――
詳細は調査中です。
麗華れいかさんはまだ知らないようです。
【新山眞】
鬼龍きりゅう大尉は……狙われていますか……
月詠つくよみ麗華れいかに……
――ここは手を打たねば!

うわぁぁぁ~

〔時空の狭間〕

【新山眞】
こう何度も飛ばされると、
慣れっこになりますね――
いや、なりません!
おや、イオか来ますよ……
アストラルです!

【満鉄列車長の使いアストラル】
見ませんでしたか?
【新山眞】
見るって、イオをですか?
【満鉄列車長の使いアストラル】
列車長が困っています。
重たいのがいて列車運行できないと。
【新山眞】
重いペーザ
それはぺ……ペ……言葉が出ない……
――重量のことですか?
【満鉄列車長の使いアストラル】
気分的に、重いのです。
――それは憤慨ふんがいする者ですよ。

【穏健派Fアストラル】
どうやら私はめられたようです。
あの興亜こうあ貿易の社員です、
私が尾行した相手です。
彼は内務省の建物に入ったのです。
彼は私が疑っていることを、
はなから知っていたようです。
それで私が尾行するようにした――
ある日、新文民社の集会があり、
彼も参加していました。
彼は手帳を机上に置いたまま、
ほんの五分ほど中座ちゅうざしたのです。
手帳には私の名前がありました。
その手帳がわなだったのです。
私が盗み見するよう仕向けたのです。
【新山眞】
その人物はスパイだったんですね?
――それで、あなたは今、
どこにいるのですか?
【穏健派Fアストラル】
私は今、一ツ橋の憲兵司令部の地下、
談話室という汚れた部屋にいます。
壁の茶色い染みは血液ですね――
先程、今日、三本目の注射を打たれ、
私の意識は遠のいていきます――
反して思念はかように明瞭めいりょうなのです!
あなたもあの男と同じ臭いがします。
――組織の人間の臭いです!
【新山眞】
喪神もがみさん、注意してください!
話し合える様子はないです。
【穏健派Fアストラル】
ああ……遠のいていく……
部屋がぐるぐる回り始めた……

《バトル》

【穏健派Fアストラル】
目の前にいきなり光が射して……
田舎のおっかぁが見えた!
ああ、おっかぁ~おっかぁ~
おっかぁの顔が……
ゆがんで……色まで変わって……
――歯がボロボロ抜け落ちる!!
【新山眞】
何とか障害はのぞけたようです。
――ところで、彼をめた人物、
調べる価値はありそうですね。

【満鉄列車長】
ありがとうございました!
重いのがなくなり、運行開始です。
当列車、青山新京シンキョウ品川しながわ図們トモンを結ぶ、
青品線最終となります。
【新山眞】
私たちは品川しながわ図們トモンに向かうのですね?
向こうにはどんなアストラルが、
いるのですか?
【満鉄列車長】
よくはわかりませんが、
新しく接続した場所では、
新しいアストラルを見かけます。
では、当列車、
品川しながわ図們トモンに向けて出発します。

時空の狭間を出発した帝都満洲あじあ号は、一路、品川しながわ図們トモンを目指した。果たしてそこは荒涼こうりょうとした場所だった――

品川しながわ図們トモン第一街区〕

【新山眞】
何とも荒涼こうりょうとした場所ですね。
アストラルもいますよ。
――連中、新しいのでしょうか?
【着信 喪神梨央】
品川しながわ図們トモンに思念増幅器を、
設置しますか?
安全な場所を探しましょうか?
【新山眞】
いえいえ!
ここでそんなことしたら大変です。
今、装置は切っています。
喪神もがみさん、アストラルは正直です。
歩三のアストラルがいれば、
鬼龍きりゅう大尉の予定を尋ねてみます。
大尉はいつ東京に着くのか――
歩三に乗り込んだところで、
絶対に口外しないでしょうから。
品川しながわ図們トモンに来られたのは幸いです。
歩三のアストラルさえ捕まえれば、
月詠つくよみ麗華れいかさきんじられます!

【新文民社構成員Tアストラル】
青山の拠点に憲兵が踏み込んだ?
ふん、そうなることはわかっていた!
韮山にらやま儀礼ぎらいは当局から金をもらい、
内部情報を渡していたに違いない!
【新山眞】
韮山にらやま氏が音頭おんどを取って、
帝大の文民社から分離したんですね?
【新文民社構成員Tアストラル】
穏健な活動を目指してね。
でも、そこに当局が付け込んだ。
内側から瓦解がかいさせる魂胆こんたんなんだ!
こうなったら仲間をつのって、
新たな会派を作るしかない!
【新文民社構成員Eアストラル】
新文民社が分裂しないよう、
結束を呼びかける構成員もいる。
興亜こうあ貿易の影森かげもり愁一しゅういちさんだ。
影森かげもりさんは新文民社の名簿を作り、
皆に結束を呼びかけるようだ。
文民社の名簿も同時に作ると言う。
【新山眞】
名簿なんか作ると、
かえって危ないのではないですか?
【新文民社構成員Eアストラル】
そ、そうなのか?
――考えても見なかった!
本名と住所を教えてしまった!

【新文民社構成員Dアストラル】
新文民社を離れて、
カグツチさまの霊異りょういに頼る、
そういう動きもあるようです。
【新山眞】
アナーキズムの精神は、
どうなるのですか?
【新文民社構成員Dアストラル】カグツチ様から新たなる力を得て、
それを国家転覆てんぷくに利用する、
そういう考えのようです――
私もこれから白金しろかねへ……
カグツチ様にお願いしに行きます。
【新山眞】
アナーキスト連中も、
霊異りょうい魅了みりょうされていますね。
歩三のアストラルを探しましょう。

品川しながわ図們トモン第三街区〕

【新山眞】
おそらく歩三のアストラルでしょう。
尋ねてみます――
こちら、第三連隊召喚小隊ですか?
――みなさん、おそろいで……
【召喚小隊S一等兵アストラル】
ええ、自分、小隊一等兵、
そこに同軍曹、あちらに同大尉です。
【新山眞】
それではお尋ねしますが、
貴隊の鬼龍きりゅう大尉は、
いつお戻りになりますか?
【召喚小隊S一等兵アストラル】
K隊長……ですか?
――今更戻っても……
【新山眞】
小隊はどうなりましたか?
【召喚小隊S一等兵アストラル】
今、自分は隊舎の二階から、
中庭を見下ろしておりますが……
もう隊は持ちません!
皆、あのカグツチ様とやらに――
あれこそ求めていた力だと、
部隊を抜ける者もいます。
陸軍刑法第七十五条、逃亡罪――
ゆえナク職役ヲ離レル者ハ処断しょだんス!
――火急かきゅう処断しょだんすべし!!

【新山眞】
お尋ねします軍曹、
隊長の鬼龍大尉は戻られましたか?
【召喚小隊T軍曹アストラル】
隊長が戻られたから、どうなる?
召喚小隊などとしきりと喧伝けんでんするが、
その実、三割ほどは怪人が混ざる。
【新山眞】
ええ!
本当ですか――
かねがねうわさはありましたが……
【召喚小隊T軍曹アストラル】
古株のUはまったき怪人だった――
先日、とうとう魂をわれた。
まともな召喚師などおらんのだ!
【召喚小隊M大尉アストラル】
隊舎の屋上からカグツチが見える。
あれは清正公せいしょうこう前のあたりか――

【新山眞】
大尉、鬼龍隊長は、戻られますか?
【召喚小隊M大尉アストラル】
おお、K大尉か!
この一週間、京都の山端やまばなホテルだ。
――だが今日は泊まらん。
【新山眞】
え?
それでは、今日、東京に……
【召喚小隊M大尉アストラル】
そう聞いている。
夜十二時前の夜行だそうだ。
K大尉、奴は悩んでいる――
審神者さにわとしての自分、
召喚師としての自分……
二人の自分が互いを排除する……
修練を積むほどにみぞが深まる、
どちらかを手放すべきなのではと――
【新山眞】
それは……術を封印する……
いや、むしろ奥義を伝授する、
そういうことでしょうか?
【召喚小隊M大尉アストラル】
くわしくは知らないが、
そのようなことだ――
問題は誰に伝えるかだ。
奴の悩みはそこにあるのだ。
機根きこんもって術を継ぐ者があるのか……
【新山眞】
喪神もがみさん、鬼龍きりゅう大尉の上京、
今晩の夜行とのことです。
明日朝には東京に着きます。
増幅器、あと二台あります。
三台の増幅器を使い、
清正公せいしょうこう前を囲む結界を張ります。
さぁ、急ぎましょう!
帝都に戻るのです!

〔山王機関本部〕

【喪神梨央】
お帰りなさい!
兄さん、帝都満州の様子ですが、
少し変わってきたみたいです。
人の名前を語るアストラルが、
出始めているようですね。
新山にいやまさんが気付かれました――
その新山にいやまさん、あの機械を抱えて、
大急ぎで出ていきましたよ。
品川駅前、目黒駅前、一の橋電停と、
セヒラ球の浮かぶ清正公せいしょうこう前を囲む、
三角形に機械を設置するそうです。

新山は3台の思念増幅器を用いて、清正公せいしょうこう前を囲む結界を張るという。

【喪神梨央】
それで思念増幅の結界を作って、
雑音だらけで思念を確かめられない、
そういう仕組みだそうです――
東海道線の時間ですが……
京都今夜十一時四十五分の夜間急行、
東京着が明日朝九時三〇分です。
朝、八時、東京駅構内に、
歩一の二個小隊が待機し、
鬼龍きりゅう大尉を確保するとのことです。
白山はくさんの方に歩一の集会所があります。
そこは電話も通じていなくて、
勿論もちろん、住所は非公開です。
鬼龍きりゅう大尉の身柄、
しばらくそこに留め置くようです。

月詠つくよみ麗華れいかの現す霊異りょうい如何程いかほどのものか、市民の多くはそれを知らない。しかし宙に浮くセヒラ球がすべてを語る。その霊異りょういにあやかりたい組が続出している。アナーキストの一派、それに第三連隊、召喚小隊も月詠つくよみ麗華れいかあがめ立て始めた――