第七章 第五話 乙亥文書

〔山王機関本部〕

【喪神梨央】
兄さん、
前に執事型のホムンクルスが残した、
一四、一ニの数字、解明できました。
ユリアさんが、
ホムンクルスの記録を調べて、
見当つけたんです。
この件で、
式部しきべさんが来てくださいました。
【式部丞】
その数字、聖書なのではと聞いて、
意味のありそうな書をあたりました。
以賽亞イザヤ書、十四章、十二節です――
ちた明星みょうじょうについて書かれています。

あしたの子明星みょうじょうよ 
いかにして天よりおちしや 
もろもろの国をたふし々者よ
いかにしてきられて
地にたふれしや

明星みょうじょうたる者が何故なぜに天からちたか。
幾多いくたの国を倒したほどの者が、
何故なぜられて地に倒れたのか――
以賽亞いざや書で語る明星みょうじょうとは、
堕天使だてんしルシファーのことです。
【喪神梨央】
ルシファーって、ですか?
【式部丞】
最高位の悪魔とされています。
もしセヒラに触れると、
最も強いになるでしょうね。
【喪神梨央】
そのルシファーのことを、
ホムンクルスが語ったのですね?
――何か意味があるのでしょうか?
【式部丞】
大いに謎ですね――
少し調べたいことがあります。
私はこれで失敬しっけいします。
【九頭幸則】
今、すれ違ったの、式部しきべさんだね。
何しにここに来たんだい?
【喪神梨央】
幸則ゆきのりさんこそ、
どうやってっていたんですか?
【九頭幸則】
ふ、っていた?
随分だなぁ、梨央りおちゃん――
あ、いや、梨央。
渋谷しぶや道玄坂どうげんざかにできた近代建築モダンビル
あれは憲兵隊の本部だって。
それも渋谷憲兵大隊だそうだ。
渋谷憲兵分隊を大幅に強化したって。
【帆村魯公】
渋谷憲兵分隊は桜ヶ丘さくらがおかにあった隊か。
東京憲兵隊とは別組織なんだな。
それが強化されたと?
しかも大隊だと?
そんな大きな部署なのか?
どの辺りなんだ、ぜんたい?
【九頭幸則】
ちょうど玉川たまがわ電車の道玄坂どうげんざか上駅、
そのすぐ側に建っています。
ものすごく立派なビルヂングです。
【喪神梨央】
渋谷って、再来年には地下鉄道が、
やって来るんですよ!
【九頭幸則】
へぇ……
駅はどのへんに出来るんだい?
【喪神梨央】
何でもデパートの三階をくり抜く、
そんな計画のようです。
【九頭幸則】
地下鉄の駅が空中に?
そんなことあるのか、本当に?
【帆村魯公】
――そうか……
新宿の憲兵、その渋谷大隊か……
【喪神梨央】
どうしたんですか、隊長?
【帆村魯公】
いやな、今日、
新宿で大勢の憲兵が出動しているが、
渋谷の隊ではないかと思ってな。
【喪神梨央】
でも……
新宿は管轄かんかつが違いますよね――
渋谷の隊が出るのは変です。
【帆村魯公】
前に人生よろづ相談の、
新宿相談所が摘発てきはつされただろ?
【九頭幸則】
知ってます!
省線の鉄道病院の向かい――
葵橋あおいばしの駅の近くです。
あっ! そうか!
あそこは渋谷区だ!!
――駅は新宿だけど……

人生よろづ相談新宿相談所は摘発てきはつを受けた。鉄道省病院の向いに位置していた。この界隈かいわい、行政区では渋谷区に属している。

【帆村魯公】
今日、新宿に押しかけた憲兵、
もしや渋谷の隊ではないか?
――渋谷憲兵隊……
【喪神梨央】
兄さん!
その新宿にセヒラ反応です!
【九頭幸則】
おお、なんか臭うな!
俺も同行するよ、風魔ふうま
【喪神梨央】
それでは公務電車を用意します。
赤坂見附みつけ、四谷見附みつけ経由で、
新宿駅前に向かってください。

〔新宿駅前〕

【九頭幸則】
新宿はいつものにぎわいだなぁ……
憲兵なんて何処どこにいるんだ?
――姿を見ないぞ?
【着信 喪神梨央】
憲兵隊のこと、少しわかりました。
渋谷しぶやの部隊はすべて憲兵特高です。
特高といっても警察ではありません。
憲兵特高課をひきいるのは、
血洗島ちあらいじま憲兵少佐だそうです――
【九頭幸則】
ち、ちあらいじま?
――すごい名前だな……
さて、新宿は何でもないようだから、
戻るか、風魔ふうま――

【洋行帰りの女】
洋行帰りのこの私が、
べったらづけなんぞ食すものですか!
私、巴里パリでは毎日のように、
リードボーを頂きましてよ!
ご存知かしら、リードボーって。
【九頭幸則】
ぜんたい、どんな食い物ですか?
【洋行帰りの女】
あらら、将校さんもご存じない?
――リードボーは仔牛の胸腺きょうせんですの!
育ち盛りの仔牛は、
大きな胸腺きょうせんを持っていますの。
それをワイン煮にするのですわ!
よく見ると、あなたたち、
ステュウシチューの具みたいなお顔だこと!
――オーホホホホホ~
【九頭幸則】
何だか嫌な予感がしてきたぞ。
【着信 喪神梨央】
今の人、先頃、
市ヶ谷見附みつけで戦った怪人です。
今、記録と照合しましたが――
今度会ったら、あんたもステュウシチュー
具にしてやるからね!
そう言って立ち去りました。
【九頭幸則】
じゃ、その時には、
廓清かくせいされなかったんだな?
何か、ますます嫌な予感がしてきた。

【憂いている書生】
下女の雪と家長おとうさんに、
昇汞水しょうこうすいを飲まそうとした夜、
警察が訪ねてきてね――
僕の計画はご破産さ!
結局、二人は熱海あたみ旅行に行ったよ。
その夜、僕は眠れなかった――
【九頭幸則】
梨央りおちゃんが通報したんだっけ?)
【憂いている書生】
熱海あたみから帰った二人、
前とは何だか様子が違う――
ある日、雪のなじる声を聞いたんだ。
の鳴くような声で許しを請うのは、
家長おとうさんの方だった――
家長おとうさん、雪の口座作って、
二千円も入れたんだって。
雪は何か考えているに違いない。
納戸なんどに大きな砒素ひそ薬缶やかんがあった。
あれ、十キログラムは入っているよ!
【九頭幸則】
砒素ひそって飲んですぐには死なない――
これは通報するほどじゃないか。
【着信 喪神梨央】
今の書生は神田かんだでした――
神田で戦いました。
新宿のセヒラ、依然いぜん高いままです。
それにいざなわれて市中から、
廓清かくせいされない人が来るんでしょうか?

〔新宿駅前〕

【メカノフィリアの男】
弾条ぜんまいを巻くんだ、ギリギリ巻くんだ!
でもな、今回は巻きすぎた!
欲張りすぎたんだ!
弾条板ぜんまいいたが大きくけて、
私はね、一気に弾き飛んだ!
あああ、もう巻けない!
弾条ぜんまいが使えなくなった~

【九頭幸則】
あなたたちが――
渋谷憲兵大隊所属の隊ですか?
自分、歩一の九頭くず中尉です!
鬼相良おにさがら憲兵中尉】
鬼相良おにさがら憲兵中尉です。
ここは自分らにまかせ、
お引き上げください。
【着信 喪神梨央】
渋谷憲兵大隊のこと、
更にわかりました。
隊には五城目ごじょうめという大尉がいます。
鬼相良おにさがら憲兵中尉】
貴様、詮索せんさくするのか!
軍人の風上かざかみにも置けぬ卑怯ひきょう
断じてゆるさん!

《バトル》

鬼相良おにさがら憲兵中尉】
ハハハハハ~
山王さんのう機関、流石に腕が立つ!
よかろう、喪神もがみ中尉、
また手合わせを願うとするか。
【九頭幸則】
何がよかろうだ、偉そうに!
風魔ふうま、こいつら片っ端から、
なぎ倒してやろうぜ!
【着信 喪神梨央】
先程の五城目ごじょうめ大尉ですが、
宮内庁くないちょう陰陽寮おんようりょうの所属です。
聖宮ひじりのみや殿下のご同輩です。
【九頭幸則】
そんな人物が、
憲兵隊にいるのか?
――何だか妙だな……

〔新宿駅前〕

【九頭幸則】
なんだかんだ言って、
連中、引き上げたんだな――
歩一でも憲兵隊のこと調べてみるよ。
――風魔ふうま、何か視線を感じるぞ。
気のせいか……いや、違う!
【思い詰めた女】
寝ている佐竹の胸に、
名前をったんですが、
つづりを間違えたことを思い出し、
荒木町あらきちょうの待合に誘ったんです。
また会いたいと伝えたのです。
【九頭幸則】
それはいつのことですか?
【思い詰めた女】
今日です、さっきです――
今日は佐竹の会社は記念日でお休み、
だから、さっきです。
【九頭幸則】
それで……
またったんですか?
【思い詰めた女】
らないわよ、そんなこと――
【九頭幸則】
――ふぅ……
よかった……
【思い詰めた女】
きざんだのよ、深くしっかりと!
待合の布団が真っ赤に染まるまで、
きざんだのさ!!
【着信 喪神梨央】
これではきりがありませんね。
帝都満洲を探信たんしんすると、
大きなセヒラのよどみがありました。
――おそらく、そのせいでは?
今、新宿界隈かいわいしずまっています。
帝都満洲におもむいてください!
【九頭幸則】
了解したよ。
梨央りお、今の女の件、通報頼んだよ。
【着信 喪神梨央】
既に四谷よつや署に通報済みです!

セヒラにおかされ、廓清かくせいすることのない市民が、次々と押し寄せる新宿界隈かいわい――
その原因、帝都満洲にあるとしておもむくことに。

【満鉄列車長】
日本橋佳木斯チャムスに到着しました。
この列車の終着となります。
日本橋佳木斯チャムスにお客様とは、
これまた珍しいこともありますね――
ここに辿たどり着く者、
その多くは因須磨洲いんすますにいるのです。
北陸の小さな港町です。
確か省線の終着駅ですね。
富山から二時間かかります――

〔日本橋佳木斯〕

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
セヒラのよどみ、
先程より少し大きくなっています。
新宿には相変わらず、
市中から人が集まります――
皆、怪人化寸前です!

行旅人こうりょにんアストラルR】
因須磨洲いんすますの町に来た覚えがない……
ある日、目覚めたらここにいた。
帰るにも汽車に乗れない――
汽車は見るが駅で待つと来ない、
半日待っても一向に来ない。
時間表はあるけど、
その通りには走らない日が多い――
わんの奥にあるこの町からは、
歩いて行く道は一本もなく、
海は高波続きで小舟では出られない。
もう三年も足止めを食っている……

【行旅人アストラルV】
不思議です……
因須磨洲いんすますには殆ど人がいないのに、
にはいるんです――
私たちとは毛色の違う人が、
急に増えました。
皆、軍人のような口を利きます。

【憲兵少尉Sアストラル】
あの文書の出処でどころはどこだ?
参謀本部なのか?
乙亥きのとい文書――
明治期の霊能力者がしたためた本だ。
今年、乙亥きのといの年に、
悪魔なる者の化身が現れるという。
化身は帝都に現れる――
文書にはそう記されていた!

【憲兵中尉Fアストラル】
悪魔の化身だと?
伽話とぎばなしみたいな話、信じられるか!
だが、軍は本気だ。
化身を探せ、それが軍命だ!
俺は上官に具申ぐしんした。
先ずはよろづ相談を摘発てきはつすべしと。
ああいうところにいるんだ――
真っ先に新宿相談所を探った。
あそこは渋谷区だ、渋谷大隊の所轄しょかつ
現場は鉄道病院の向いだ。
東京鉄道局経理課のバラックが並ぶ、
その隣に新宿相談所はあった。
主催者は熱海あたみとらえた。
たちまち俺は中尉に特進だ!
――これも化身とやらのおかげだな。

【憲兵中尉Nアストラル】
乙亥きのとい文書には、こうあった――
乙亥きのといヲ迎ヘシ都ニ
荒神あらかみヲ現ハス霊異りょういアリ
乙亥きのといの年は六十年に一度ある。
前回、明治八年には荒神あらかみは降りず、
愈々いよいよ今年を迎えたわけだ――
軍では荒神あらかみを悪魔と称している。
これはまさにだのを操る、
あのおかしな連中の影響に違いない。
乙亥きのとい文書を記したのは、
明治中期の霊能力者、北枕宣一きたまくらせんいちだ。
いくら調べても、
その人物の存在は不明のままだ。

【着信 喪神梨央】
憲兵隊員たちの思念ですね。
ところで、化身の現れる場所、
予言書に書かれていたんでしょうか?
憲兵らは新宿を調べているようです。
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし――
帝都満洲から新宿にセヒラを送り、
わざわいを呼ぼうとしている、
そう考えられませんか?
いつまでっても現れない化身、
ごうを煮やし、呼ぼうとしている、
そうじゃないでしょうか?
新宿のセヒラ、
一向いっこうに下がる気配がありません。

【憲兵大尉Kアストラル】
悪魔の化身なる者、一向に現れず。
だがしかし、私たちは僥倖ぎょうこうを得た!
アザトースなる化物を呼び覚ませば、
強力な瘴気しょうきの生じるを得、
化身招聘けしんしょうへいこれに成功するはずである。
ここの連中は一様に恐れておるな、
そのアザトースという化物に。
化物は眠っておるというぞ!
【行旅人アストラルX】
だめだ!
そんなことしてはいけない!
アザトースは万物の造り主だ。
今、眠りの中にいる――
【憲兵大尉Kアストラル】
ならば、それを起こすまでだ。
【行旅人アストラルX】
わからないのか!
我々のこの世界は、
アザトースの微睡まどろみの中にあるんだ!
アザトースが目覚めれば、
世界など一瞬で消えてしまう!
まるで揮発きはつするようにね!
【憲兵大尉Kアストラル】
世界が消えるだと?
忠勇無双ちゅうゆうむそう益荒男ますらお蟠踞ばんきょする、
神洲大八洲しんしゅうおおやしま、消えなどせんわい!
【行旅人アストラルX】
だから軍人はだめなんだ!
三八サンパチで武装しても理論ロジック武装が、
からっきしできていない!
【憲兵大尉Kアストラル】
黙れ!
貴様はいったいどこに住む?
必ずや探し出してやる!
【行旅人アストラルX】
うわぁぁぁ~
【憲兵大尉Kアストラル】
ん?
何だ? どうした――
何が起きたのだ?

【アザトースアストラル】
私を呼んだのは君なのか?
君の全身にみなぎる力は何だ?
君は神と戦うつもりなのか?
【着信 帆村魯公】
まどわされるな!
そいつは神なんかじゃない、
人間の恐怖が生んだものだ!
【アザトースアストラル】
お見通しということか――
確かに私は生み出された。
私が造った人間によって、
生み出されたものだ。
なるほど私は空想上の存在だ。
――時にこんな言葉を知っているか?
現実の恐怖など、
空想の恐怖の足元にも及ばない――
魔女にそそのかされ、ダンカン王を殺害した
マクベスがいた言葉だ――
君の恐怖はこれから始まるのだよ!

《バトル》

【アザトースアストラル】
あああ……
もう眠りは訪れない――
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
新宿界隈かいわいでセヒラ減少しています。
ひとまず帰還してください!

〔山王ホテル前〕

帝都に戻るや、ホテル前にセヒラ観測、その報を受けて、急ぎ、山王さんのうホテル前へ。はたしてそこには憲兵隊が展開していた。

【渋谷憲兵大隊五城目ごじょうめ大尉】
乙亥きのとい文書――
あのような代物しろもの捏造ねつぞうだ。
私の眼はごまかせない。
乙亥きのとい霊異りょういは間違いなく起きる。
そのために準備をしてきたのだ。
だが、私はあの文書を見抜いた。
あれは私たちを探る目的で捏造ねつぞうされ、
私たちに提供されたものだ。
――それで、何を探ったのかね?
私たちは真実を知っている。
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
異常なセヒラ波形を観測!
注意してください――
【渋谷憲兵大隊五城目ごじょうめ大尉】
私たち部隊を新宿に展開させた。
多大なセヒラを呼び込み、
悪魔の化身を迎える手はずだった。
だが、成せなかった!
貴様らが邪魔だてをするからだ!
もう一度、組み立て直しが必要だ。
乙亥きのとい霊異りょうい、手中に収めるは、
とうとき軍命なのだ!!
【聖宮成樹】
喪神もがみさん!
私が抑えます!

ともに宮内庁くないちょう陰陽寮おんようりょうに属する二人。いずれも陰陽師おんみょうじである。聖宮ひじりのみや五城目ごじょうめの力をふうじようとしているのだ。

【着信 喪神梨央】
セヒラの波形、
通常のものに戻りました!
【渋谷憲兵大隊五城目ごじょうめ大尉】
フフフ――
従七位上の大允だいじょうだけのことはある!
ここはセヒラを集めて戦うとする!

《バトル》

【渋谷憲兵大隊五城目ごじょうめ大尉】
無念だ――
人生とはまるで熱病だ。
ようやくその熱が冷める時が来た。

【聖宮成樹】
大尉は陰陽師おんみょうじにして怪人だった――
二つの力を同時に使おうとした。
とても危険なことです。
ここはもう大丈夫でしょう。
機関本部へ戻りましょう。

〔山王機関本部〕

【喪神梨央】
殿下、ありがとうございます!
【聖宮成樹】
まさか陰陽寮おんようりょうの者が、
怪人化していたとは――
油断もすきもありません。
【帆村魯公】
憲兵隊の連中、
乙亥きのとい霊異りょういを信じておるようだが――
何かお耳に入っていませんか、
殿下の方では?
【聖宮成樹】
瑛山会えいざんかいでということですね?
【帆村魯公】
ええ、左様ですな。
いかがですか?
【聖宮成樹】
瑛山会えいざんかいでは特段、そのようなことは、
伝わってはいません――
ただ、全てがつまびらかではありません。
少し深く調べてみます。
【喪神梨央】
乙亥きのとい文書を記した人って、
北枕宣一きたまくらせんいちと言うんですよ――
なんだか嘘くさくないですか?
【聖宮成樹】
その文書はおそらく偽物です。
憲兵隊が乙亥きのとい霊異りょういについて、
どこまで知るかを探るためのもの――
【帆村魯公】
つまりは陽動ようどうですな。
一体、誰が仕込んだのでしょうか?
【聖宮成樹】
深く事態を知る者です。
参謀総長に掛け合ってみます。
あの憲兵隊自体が、
どうもまっとうではないようです。
【帆村魯公】
それにしてもよく名付けたな、
北枕宣一きたまくらせんいちとは……
【喪神梨央】
ええ? すごく嘘くさいですよ!
【帆村魯公】
明治期はな、そういう皮肉ひにくれ者が、
大勢おおぜいいたんだよ。そのでんで行くと、
その名前、あながち悪くはないな。

乙亥きのとい文書に記された悪魔の化身。文書が偽物であったとして、はたしてすべてが捏造ねつぞうなのか――
ひとまず新宿の町は平静を取り戻した。