第七章 第六話 美少年倶楽部

〔山王機関本部〕

聖宮ひじりのみや諸々もろもろの件をたずさえ京都へ向かった。朝九時東京発の特急つばめ号である。車二台という最小の警護であった。

【喪神梨央】
殿下は当然一等ですよね?
【九頭幸則】
何だい、梨央りお、一等がうらやましい?
【喪神梨央】
そんなんじゃないです!
――一等ならよく知ってます。
【九頭幸則】
へぇ、いつの間に、
一等の客になったんだい?
【喪神梨央】
写真で見て知ってるんです。
東京、京都間なら、
特急料金は六円です。
【九頭幸則】
へぇ~
オウルグリルのオムライス、
十二杯分だな!

【喪神梨央】
あっ、ユリアさん!
聖宮ひじりのみや殿下は京都にたれました。
今朝の特急です。
――あれ?
ユリアさん……
どうかしたんですか?
【ユリア・クラウフマン】
ヘーゲンが狩りヤークトを、
やめようとしないのです――
【九頭幸則】
彼もしつこいですね!
――今、帝都に、何種類の、
ホムンクルスがあるんですか?
【喪神梨央】
メイド型、執事型、
レーベンクラフト型、そして……
ユーゲント型……ですよね?
【九頭幸則】
ヘーゲンの奴、自分の以外、
みんな敵だと思ってるんじゃ――
きっとそうでしょう、ユリアさん!
【ユリア・クラウフマン】
ユーゲントを目のかたきにしています。
彼の扱う執事型より性能がよく、
それが気に入らないようです。
【喪神梨央】
強いを呼べるということですか?
――性能がいいというのは?
【ユリア・クラウフマン】
ホムンクルスの性能は、
その自律じりつ性で決まるのです――
父の助手だったフェラーは、
新しいシュタインの生成に成功しました。
ユーゲントに使われているシュタインです。
ユーゲントの自律係数は三・八。
最高が五なので、かなり高い値です。
【喪神梨央】
自律係数……
そういうのがあるんですね?
【九頭幸則】
ちなみに人間は……
人間の自律係数っていくつですか?
【ユリア・クラウフマン】
八以上です……
もっとも人によりけりですが。
【喪神梨央】
ユリアさん、
今日、狩りはどこで行われますか?
【ユリア・クラウフマン】
ギンザ方面です。
【喪神梨央】
そうですか……
先程からセヒラを観測します。
狩りが原因でセヒラを集めている、
そういう状況かもしれません。
兄さん、念のためです、
巡視パトロールをお願いします。
――ユリアさんは……
【ユリア・クラウフマン】
実は、フロイラインが一体、
行方ゆくえ知れずなんです。
いなくなって時間が経っています――
【喪神梨央】
狩りに巻き込まれたりしていないと
いいんですが――

クルト・ヘーゲンの狩りの影響なのか、銀座界隈かいわいでセヒラを観測するという。探信たんしん範囲をしぼり、銀座二丁目に向かった。

〔銀座二丁目〕

【着信 喪神梨央】
セヒラはそれほどではありません。
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
ニュースがあります――
その近くに――
美少年倶楽部クラブがあるそうです。
ユーゲントは、
美少年倶楽部に関係している、
そうではないでしょうか?
化野丸あだしのまる
君は祇園丸ぎおんまるの友だちだね!
よろしく、僕は化野丸あだしのまるだよ!
じゃ、これで!

【着信 喪神梨央】
美少年倶楽部は、
あの独逸ドイツ人の医者のヘルマンが、
少年を物色ぶっしょくした場所です!

【執事型ホムンクルス】
目標ダスツィル……
確認ベステーティグン
――破壊ツェストゥルンク

《バトル》

【執事型ホムンクルス】
――終了エンデ……

化野丸あだしのまる
僕をはさみ撃ちしようとした――
けど、おかしいな……
君に気付いていなかったみたいだ。
自分の前に君がいたから戦った――
僕にはそう見えたよ。
君には助けてもらったね。
話したいこともあるんだ、
僕たちのクラブにお誘いするよ。

〔銀座美少年倶楽部〕

化野丸あだしのまる
ここは僕たちがもてなし役ガストゲバーの店、
お客は皆、あだ名シュピツナームで呼び合うんだ。
しばらくゆっくりしてね、
後で声かけるから!

【ヘル中立売なかだちゅうり
あなたは、新入りですか?
オホホホ、私はここでは中立売なかだちゅうり
そう呼ばれていますな。
皆、京都の通りの名ですよ。
そちらのお方は独逸ドイツ帰りだそうで。
独逸ドイツは美少年倶楽部の本場だと、
そういうじゃありませんか?
オホホホホホ~

【ヘル西洞院にしのとういん
ところで、ヘル蛸薬師たこやくし――
伯林ベルリンは美少年カフェが盛んだとか。
実際、どうなんですか?
【ヘル蛸薬師たこやくし
伯林ベルリンはなるほど本場ですな!
美少年カフェ、実に七十けんです。
紳士ゼントゥルマンは目移りがみません。
【ヘル西洞院にしのとういん
それはうらやましい限りですな!
ぜんたい、制服などはありますか?
【ヘル蛸薬師たこやくし
いい水兵服を着た少年、
幼年学校生徒服をつけたもの、
白粉おしろいをつけてべにをさしたのは勿論もちろん――
赤い細いネクタイにどうを締めた上着、
ズボンはよく折り目立って、
それはそれはもう端正たんせいですな!
【ヘル西洞院にしのとういん
やはりアレですかな、
お客は我々のような――
【ヘル蛸薬師たこやくし
もう少しよわいが行きますな。
白髪、ごま塩、鼻眼鏡――
ほおに決闘のあとのある男も見ました。
【ヘル西洞院にしのとういん
ほう、なかなか豪の者も、
お客にはいるようですな。
アハハハ、愉快にやりましょう!

【ヘル丸太町まるたまち
貴殿はお一人であるかな?
寂しそうにお見受けしたものでな。
この絵は聖セバスチャン殉教図じゅんきょうずだ。
伊太利亜イタリアの画家グイド・レーニ作――
彼はボローニャ派に属する画家で、
ラファエロ風の古典主義的な画風、
それが何よりの特徴だ――
深い陰影と計算された劇的な構図、
レーニはカラヴァッジョの影響を、
強く受けているとされる。
この絵の前に一人たたずむと、
異教徒の神殿に踏み入れたかのごとく、
目眩めくるめく神経の奔流ほんりゅうを体験するのだ。
見給え、矢に射られた肉体を!
肉体の鋼のうちにはたぎる情念をみとむ。
あの刺さる矢をこの手に握れば、
たちま火傷やけどするであろう――
火の痛みはわれぬ快感だ。
死期を迎え、愈々いよいよ溌溂はつらつと輝かんとす、
官能の肉体へのえざる賛美!
何物にもえがたい崇高すうこうさである!
死に対面する時にのみ昇華する美、
それこそ益荒男ますらおの散り際なのだ。
ひ弱な書生の自死とは違う!
傷口から流れ出るのは血ではない、
それは魂のほとばしりなのだ!!
ヒィー、ヒィー……
息が……出来ない……
ヒィー……ヒッ――

化野丸あだしのまる
お待たせしました、
喪神もがみ風魔ふうまさん――
貴方のことを調べました。
問題はないようです。
――ご相談があります、こちらへ。

化野丸あだしのまる
喪神もがみさん、相談したいというのは、
祇園丸ぎおんまるのことなんです。
祇園丸ぎおんまる、この三日ほど、
姿を見ません――
南禅寺丸なんぜんじまる
祇園丸ぎおんまるとはユウラクチョウで別れた。
僕たちはギンザを散策したんだ。
祇園丸ぎおんまる、省線に乗ると言っていた。
化野丸あだしのまる
僕たちユーゲントは、
ある程度自由に行動できる――
存知ぞんじでしょう、そのことは。
上賀茂丸かみがもまる
西京極丸にしきょうごくまるのこともあるし、
心配なんだ、祇園丸ぎおんまるのことが。
僕たちのこと、
良くは思わない人もいるようなんだ。
化野丸あだしのまる
喪神さん――
アーネンエルベで、
祇園丸ぎおんまる香腺こうせん、見つかったんです。
香腺にはいろいろな記録が残る。
調べれば祇園丸ぎおんまるの行動がわかる、
そう思うんです。
祇園丸ぎおんまる捜索そうさくをお手伝いください。
このお願い、大使館を通します。
ただ、捜索そうさくを急ぎたいのです。

【ヘル松ヶ崎まつがさき
おお、わがヒュアキントスよ!
さぁ、始めてくれ――
いつものやつだ。
鳴滝丸なるたきまる
ヘル松ヶ崎まつがさき
おお、アポロンの神、ヘル松ヶ崎まつがさき
【ヘル松ヶ崎まつがさき
そうとも! そうとも!
――私の投げた円盤えんばんは、
ゼピュロスの起こした横風にあおられ、
ヒュアキントス、お前の額を打つ!
嗚呼、私のお前は赤き血を流し、
大地に倒れ伏せる――
鳴滝丸なるたきまる
僕のひたいから流れ出た血、
それは大地を染め、
真紅しんくのヒヤシンスが生える――
【ヘル松ヶ崎まつがさき
倒れたお前を抱きかかえ、
私は大いになげかなしむのだ!
嗚呼、愛しのヒュアキントスよ!!
鳴滝丸なるたきまる
ヒヤシンスの花言葉、
それは悲しみの向こうにある愛――
【ヘル松ヶ崎まつがさき
嗚呼、ヒュアキントスよ!
嗚呼、嗚呼、嗚呼――
私の、私の、私の命よ!!

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
アーネンエルベに、
一人のユーゲントが向かいました。
向こうでは金ノ七号帥士きんのしちごうすいしが迎えます。

行方知れずの祇園丸ぎおんまる香腺こうせんが見つかり、風魔ふうまはアーネンエルベに向かった。

〔アーネンエルベ〕

【帆村虹人】
ここに来て、
まるで僕は研究者みたいだ。
香腺の解読、二個目だからね!
レーベンクラフト六八三だけど、
何の記録も見つからなかったんだ。
僕のやり方がまずいのかな――
いやむしろセヒラを感じると、
相手構わず反射的に攻撃する、
そう仕込まれているのかも――
祇園丸ぎおんまるの香腺については、
一部しか解読できないんだ。
フォス大佐の命令だよ。
きっと何かに使うつもりだ――

【ゲルハルト・フォス】
コウジンはよくやっているよ、
実に大したものだ。
まさに研究者はだしであるな!
【帆村虹人】
大佐、祇園丸ぎおんまるの香腺、
別な方法で解読するのですか?
【ゲルハルト・フォス】
ユーゲントの香腺はユーゲントに。
そういうことだよ、コウジン。
一体のユーゲントを呼んである。
紫竹丸しちくまると言う名前だ――
紫竹丸しちくまる祇園丸ぎおんまるの香腺を入れ、
その行動を観察する。
それで、いろいろわかるはずだ。
さて、コウジン――
祇園丸ぎおんまるの香腺、その一部をけずり、
そこから何か読み取れたかね?
【帆村虹人】
祇園丸ぎおんまる四谷見附よつやみつけにいました。
その後、どこかに向かった――
そこまでです、わかったのは。
【ゲルハルト・フォス】
十分だ、ヨツヤミツケだな。
そこにレーベンクラフトを派遣する。
露払つゆはらいのようなものだな。
それにしても――
この絵には情緒が不足している。
致命的にな!

【帆村虹人】
紫竹丸しちくまるの準備ができたら知らせるよ。
フォス大佐はああいう人だが、
内心、お前に頼みたいに違いない。
大使館に上げるとも言っていた――
どうする?
四谷見附よつやみつけ、行ってみるか?
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
戸山とやまの陸軍軍医学校で、
セヒラ観測しました。
軍医学校には、
ヘルマンが収容されています。
――なぜかはわかりません!
【帆村虹人】
ヘルマンか!
ユーゲントを殺した殺人鬼だ。
尋常じんじょうの子供も二人、手をかけている。
奴は少年の胸腺を食う。
さらったユーゲントには胸腺がなく、
腹いせにずたずたにしたんだ!
暴れて手がつけられないと聞くが……
行ってみてくれ。
紫竹丸しちくまるの件は連絡入れるよ!

〔陸軍軍医学校〕

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし! 
セヒラ、急上昇しています!
周りからセヒラを集めている、
そんな印象です。
警戒してください!

【武装SS軍曹】
ここは立入禁止カイナインラスです――
わかりますか、立入禁止です。
――キンシです!
なぜ、日本人というのは、
こうも言うことを聞かないんだ!
こんな極東フノースト、来たくもなかった!
僕はローデンブルクに生まれ育った!
中世の宝石ともたたえられる、
ヨーロッパで最も美しい町だ!
波のようにうねる赤い屋根屋根、
窓辺には色とりどりの花がわり、
まるでメルヒェンそのものだ!
それがこんな極東フノーストの小国で、
なぜ哨戒しょうかい任務に就かねばならない!
お前たちは世界から退席すればいい!

《バトル》

【武装SS軍曹】
僕は……帰るんだ……
ローデンブルクに……
うううっ――

【武装SS曹長】
私たちは協力すべきですヴィゾルテン ディ ツーザンマンアルバイツアイン
私たちは協力すべきですヴィゾルテン ディ ツーザンマンアルバイツアイン
アルバイト マハト フロイ!!

稗貫ひえぬき軍医少尉】
お騒がせしました、
けれど、もう大丈夫です。
ヘルマン医師は確かにここにいます。
フォス大佐のご厚意により、
軍医学校の標本として授かりました。
彼には前頭葉白質切截術ロボトミーという、
新しい医療をほどこす予定です。
前頭葉ぜんとうようの一部を切除せつじょすると、
まるで人が変わったかのようになる。
米国アメリカで開発された画期的医療です。
学会誌、健全なる精神五月号に、
くわしい記事がありましたよ。
暴れるチンパンジーの前頭葉ぜんとうよう切截せっさいで、
見違えるほど従順になったとか。
猿で成功です、愈々いよいよ人に試すのです!
何より私の目をいたのは、
その手術に用いる鉗子かんしですね。
雑誌を持って町工場に出向きました。
向島むこうじまの貧しそうな鉄工所が、
見よう見まねで鉗子かんしを作りました。
それが実に見事な出来栄できばえなのです!
もう、すっかり麻酔ますいが効いた頃、
私は手術オペに入りますよ。
【着信 喪神梨央】
今の医者は敵かどうかも不明です。
ヘルマン医師の最後の念が、
周りからセヒラを集めたのです。
日本への配属をこころよく思わない、
あの若い兵士を怪人化させたのです。

上賀茂丸かみがもまる
喪神もがみさん!
紫竹丸しちくまるが出かけました。
コウジンさんの無線機、
具合が悪くて、僕が来たのです。
紫竹丸しちくまるはヨツヤミツケに向かいました。

祇園丸ぎおんまる香腺こうせんを体内に納めた紫竹丸しちくまるは、その香腺こうせん記録に従って出かけた。出かけた先は、四谷見附よつやみつけだという。

四谷見附よつやみつけ

【高等会員Λラムダ師】
私は猟奇倶楽部に入って八年、
まっとうな猟奇人でありたいのです。
あんな異端いたん連中とは付き合えない!
一様いちように黒い頭巾ずきんなんぞを被り、
ヒソヒソと何かを話す。
その声、つたわったのを聞くに――
奴らは愈々いよいよ食人に傾くという。
――なげかわしい、猟奇をいっしている!
ん、そう言うんだろ、
猟奇をいっしているって――
とにかくだ、
私はもう御免被ごめんこうむりたいね!

【高等会員Ωオメガ師】
先程の最高会員Σシグマ師の言葉が、
頭から離れない――
人肉はこれを調理塩梅あんばいすれば
すこぶる美味にて
つ動植物のごと
起死回生きしかいせいの妙薬となし得られる――
【高等会員Δデルタ師】
英吉利イギリスの医者、
ボーネストが書き残したそうです。
【高等会員Ωオメガ師】
まだあるぞ!
人肉の調理方法と、
味わいについて書いてあったと言う。
死せる強壮なる少年の肉
三四ポンドり取り
格好の玻璃器はりきに入れ
これに酒精しゅせい
三四日を経て取り出しこれを塩に
ふたさずして日陰に置き
度々たびたび器のままにて表裏転倒し
く干しぐべし 
実に非常の好味こうみにしてつ良薬なり
【高等会員Δデルタ師】
黒頭巾を被る連中は、
これをけているのです。
しかも、会に入るには、
毎月五円の会費を払えと来た!
あり得ないだろう!!

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
紫竹丸しちくまるですが移動しています――
現在、青山通を進行中!
墓地に入りました!
紫竹丸しちくまるは青山墓地です、
急ぎ、向かってください!

〔青山墓地〕

【最高会員Σシグマ師】
飛んで火に入るとはこのことです。
あのユーゲントには、
なんと、犠牲ぎせいの精神がそなわる。
実に見上げたものですな――
おや、選ばれしΚカッパ師様、
この闖入者ちんにゅうしゃに何か用ですかな?
【選ばれしΚカッパ師】
お兄さんはリードボーをご存知?
仔牛の胸腺のことですよ――
育ち盛りの仔牛は、
大きな胸腺を持っていますの。
それをワイン煮にするのですわ!
オホホホホホ~
【最高会員Σシグマ師】
流石さすがですな、
階位五十三位ともなれば、
洋行歴ようこうれきも豊富ですな!
私などこれでも階位七十八位です。
まだまだ上があるのです。
ゆえに、今日のことを功績とし、
さらに上を目指すのです。
駆け上るのです!
もう私の邪魔をしないでください!

《バトル》

【最高会員Σシグマ師】
あなたたちは……可哀そうです……
人生を楽しもうとしない……
どうしてですか?

【歩一石川いしかわ少尉】
歩一、石川少尉であります!
参謀本部命により独逸ドイツ大使館まで、
我々で彼の警護にあたります。
青山通に一個小隊が控えます。
独逸ドイツ大使館からも警護の武装SSが。
如何いかがされますか?
【着信 喪神梨央】
ユーゲントの警護はまかせましょう。
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいしは帰還してください。
公務電車が待機しています。

〔山王機関本部〕

【喪神梨央】
お帰りなさい!
兄さん、ユーゲントの紫竹丸しちくまるは、
無事、アーネンエルベに戻りました。
でも祇園丸ぎおんまる行方ゆくえは、
まだわかっていません。
【ユリア・クラウフマン】
祇園丸ぎおんまるは殺された西京極丸にしきょうごくまる香腺こうせん
見つけて自分に入れたのです。
それで西京極丸にしきょうごくまるを得たのです。
揮発きはつする前に自分の香腺を入れ
西京極丸にしきょうごくまるの記録を写した――
【喪神梨央】
それをアーネンエルベに残した、
そうなんですね?
西京極丸にしきょうごくまるの記憶を伝えるために。
【ユリア・クラウフマン】
祇園丸ぎおんまるは再び、
西京極丸にしきょうごくまるの香腺を入れて、
の記憶を辿たどっているようです。
【喪神梨央】
やはり猟奇倶楽部……
黒頭巾の一派がからんでいるのですか?
【ユリア・クラウフマン】
彼らはユーゲントをさらって、
香腺を食べようとした――
そうじゃないでしょうか。
【喪神梨央】
リードボーって言った人、
あの人、前にも会っていますよ。
仔牛の胸腺のことですよね――
【ユリア・クラウフマン】
イズで殺された西京極丸にしきょうごくまるは、
香腺ではなく胸腺を狙われたのです。
ヘルマンは人間だと思っていた――
【喪神梨央】
それじゃ祇園丸ぎおんまるも、
帝都を出たのでしょうか?
【ユリア・クラウフマン】
自分では帝都を出られないはずです。
西京極丸にしきょうごくまるの香腺に残されている、
行動記録次第ですね。
【喪神梨央】
祇園丸ぎおんまるの波形、あまり標本がなく、
探信たんしんだけでは発見が難しいですが、
努力はしてみます。

猟奇倶楽部の一派とされる黒頭巾の集団。彼らはホムンクルスの拉致らちを試みた。その香腺を求めた――ユリアはそう懸念けねんする。今なお行方ゆくえ知れずの祇園丸ぎおんまる。彼は西京極丸にしきょうごくまるの記憶を辿たどるという。果たしてどこで何を見ているのだろうか?