第八章 第九話 総統の来日

〔銀座四丁目〕

銀座に出向いた祇園丸ぎおんまるからの要請で、風魔ふうまは夜の銀座に来ていた――

【祇園丸】
ヘーゲンのはなった執事型が、
僕を狙っているんだ。
だから助けを求めた――
ブレーメはギンザ一丁目だった。
店のウェートレスは写真を見て、
確かにこの人が来たと言ったよ。
ユンカー局長の写真を見せたんだ。
ユリアは先に戻った――
奴ら、僕が一人になるのを待って、
襲い掛かってきたんだ。
そう、相手は二人組だったんだ。
僕は全力で逃げた。
でも追いつかれて――
そのとき、ある人に助けられた。
背の高い、けわしい顔の人だ。
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
近くでセヒラ観測しました。
注意してください!
【祇園丸】
この近くにいるというのか!
【執事型ホムンクルス】
目標ダスツィル……確認ベステーティグン
攻撃!アングリフ 攻撃!アングリフ

《バトル》

【執事型ホムンクルス】
――終了エンデ……
【祇園丸】
やれやれ……
やけにしつこいな。
もう一体いるはずだけど――
【着信 喪神梨央】
辺りのセヒラ、すっかり消えました。
もう心配はありません。

そこへ聖宮成樹がやって来た。

【聖宮成樹】
喪神もがみさん!
大丈夫でしたか!
【祇園丸】
この人だよ、
僕を助けてくれたのは!
【聖宮成樹】
そちらの方が、
お困りのようでしたから。
【祇園丸】
それじゃ……
後の一体はあなたが……
【聖宮成樹】
ともあれ、今は安全です。
立ち話というわけにも、
まいりますまい。
店にでも入りましょう。
さぁ、お二方、こちらへ――

聖宮がきびすを返した。祇園丸、風魔が後に続いた。

〔純喫茶青蘭せいらん

じき、日付の変わろうという時間であった。純喫茶は客もまばらである。

【女給かね子】
あらいらっしゃいましー
殿方とのがたがお二方にお兄さま……
ね、ね、聞いてくださる?
【聖宮成樹】
どうしたんですか?
【女給かね子】
興亜こうあ日報が純喫茶とカフェの
人気投票をするんですって!
それで銀座で一番を決めるのです。
一番になると私たちのお給金きゅうきんも――
【聖宮成樹】
そいつは気を抜けませんね。
【女給かね子】
純喫茶青蘭せいらんは銀座一の新進ですの!
是非ぜひ投票なすってね!
【女給さだ子】
かねちゃんの言うとおりよ。
銀座では花家はなや、フォンテーヌ、
カフェ・シエル、それから――
【女給かね子】
あらアモンも出るそうよ。
【女給さだ子】
いやだわ、アモンだなんて――
あそこはかなりのもんよ。
【神田のラムネ商】
恋人アモン
アモーン!
あすこはエロだ、大エロだぁ~
アモーン! アモーン!
大阪資本のエロ・カフェなりぃ~
美人女給三十名の空中輸送!
大阪特有の大衆的経営法!
豊穣ほうじょうなエロサービス!
【女給さだ子】
ちょいと、せいさん、
お静かにね。
もう遅いんだから。
【女給かね子】
珈琲コーヒーだと眠れなくなりそうね。
セイロン茶でもれましょうか。

そう言って女給が場を離れた。
聖宮は少しばかり声を潜めて言う――

【聖宮成樹】
喪神もがみさん……
瑛山会えいざんかいの物理学者、
柄谷がらたに博士のことですが――
どうやら猟奇倶楽部と、
関係があるようなのです。
【祇園丸】
え?
今、猟奇倶楽部と仰いましたか?
【聖宮成樹】
ええ、猟奇倶楽部です。
おそらくかなり高い位にあります。
【祇園丸】
その話、知ってます!
――いや、わかるのです……
西京極丸にしきょうごくまる香腺こうせんが残しました。
――こうです……

近く、高位の会員をお迎えする、
従順なる隸Θしもべシータ師という会員だ――

そこまで記憶が再生できました。
そのΘシータ師という会員が、
キョウトの学者なのですか?
【聖宮成樹】
従順なる隸Θしもべシータ師……
猟奇倶楽部での渾名あだななのですね。
喪神さん、
私はもう少し調べてみます。
またお目にかかりましょう。
【祇園丸】
柄谷がらたに……生慧蔵いえぞう……
キョウトの物理学者……
覚えておくよ。

日劇前で騒動があるとの通報で、純喫茶を出てそのまま日劇前へ向かった。祇園丸ぎおんまるは円タクで帰っていた。

〔日劇前〕

夜更けの日劇前は人もまばらであった。風魔の来るのを見て三人の男女が走り去った。袴姿の女性が二人、向き合うように立っている。

【中之島ファンの女性】
せっかく中之島なかのしま歌劇団の公演、
見に来たのに、今日は中止やて。
なんでですのん?
こいさん、もういにまひょ。
えらい遅うなってもうたわ――
円タクしかあらへんよ。
こいさん! 
なぁ、こいさん……
あんさん、聞こえてますのか?

話を聞いていたのか否か、黙っていた方の女性が前を横切って走り去った。

【中之島ファンの女性】
ちょ……
もう、なんやの、どないしたん!
こいさん! 待ちぃな!

声を荒立てながら、走り去った女性を追って行った。
そこへ黒い仮面を被った人物が姿を見せた。仮面越しの声はくぐもっていた。

【リヒャルト・フィンケ】
人は私を総統フューラーと呼ぶ。
トゥーレのやかたのね。
リヒャルト・フィンケだ、喪神もがみ君。
人というのは哀しい存在だね。
まるで打ちのめされるために
生まれてくるようではないか。
迷いをて、現実を超える――
私の教義にこれ以上の言葉は不要だ。

さて、そろそろ第一幕の始まりだ。
この素晴らしい劇場の前で、
このような宣言せんげんができるとは!
なんと、私は僥倖ぎょうこうに恵まれるのか!
来給きたまえ、鬼龍きりゅう君!

フィンケに名を呼ばれて鬼龍豪人がやって来た。鬼龍は遠くの一点をじっと見たまま言う。

【鬼龍豪人】
ヘルフィンケ!
愈々いよいよ、始まるのですね!
【リヒャルト・フィンケ】
私は残念で仕方がないのだ。
君たち日本人は資源を無駄むだにする――
うるわしい山河さんが、森に泉、清らかな流れ、
それにセフィラ!
素晴らしいセフィラを得ながら、
少しもかせていないではないか!
ヘッセン、ザクセン、バイエルン……
セフィラの湧出ゆうしゅつを認めるも、
ドイツではなかなか活用が進まない。
私から見ると日本人というのは、
金鉱脈の上とは露知つゆしらず、
汗して耕作しているようなものだ。
素晴らしいセフィラに恵まれた、
この町こそトゥーレのやかた
開くに適しているのだ。
【鬼龍豪人】
ヘルフィンケ、
私はつかめるでしょうか?
【リヒャルト・フィンケ】
君ならできるとも!
ただし……
【鬼龍豪人】
何でしょうか?
まだ私にいたらないところでも?
【リヒャルト・フィンケ】
君は持ちすぎているのだ。
欲は心をにごらせる。
【鬼龍豪人】
欲があってのことではありません。
古式東雲しののめ流が邪魔をするのです。
【リヒャルト・フィンケ】
それは君の中にケアンがあるからだ。
ケアン奥義おうぎを取り込んでいるのだ。
一度試してはどうかね?

このとき、鬼龍は体をフィンケに向けた。

【鬼龍豪人】
試す?
それはどういうことですか?
【リヒャルト・フィンケ】
自分をとことん落すことだ。
君が君でなくなるまでな!
【鬼龍豪人】
誰かに伝授でんじゅするというのでは、
駄目なのですか?
【リヒャルト・フィンケ】
ケアンというのは人を選ぶ。
つまりは君が捨てるのではない、
君が捨てられるのだ。
不毛な戦いによって、
君がケアンから見捨てられるのだ。
そこには不要だ――
【鬼龍豪人】
不要?
何が不要なのですか?
【リヒャルト・フィンケ】
心だよ!
自ら穴が空いたという心だ!

辺りが白くなったかと思うとやがて何も見えなくなった。暫くして暗闇に鬼龍の佇む姿が見えた。
どこからともなく声がする。鬼龍は耳をそばだてている――

【リヒャルト・フィンケ】
鬼龍きりゅう君――
もう一度聞かせてくれないか?
【鬼龍豪人】
何を……ですか?
私のことですか?
【リヒャルト・フィンケ】
人づてに聞いたものでね。
君は京都でガールフレンドを
くしているんだよね?
【鬼龍豪人】
彼女は……事故にったのです……
師団に面会に来た帰りでした――
【リヒャルト・フィンケ】
爾来じらい、君の心は、
京都に置き去りになったと聞くが。
【鬼龍豪人】
違います!
私は……求めたのです……
【リヒャルト・フィンケ】
何をだね?
君が求めたものというのは――
【鬼龍豪人】
――強さです。
力ではなく……精神の強さです。
【リヒャルト・フィンケ】
輜重しちょう隊では強くなるのは難しいね。
戦闘部隊ではないからね。
体も心も、強くはなれない――
【鬼龍豪人】
私は古式東雲しののめ流を極めようと――
そう心にちかい、日々精進しました。
【リヒャルト・フィンケ】
だが流派は閉じられてしまった。
君は腕を試すこともできず、
途方とほうに暮れていた――
【鬼龍豪人】
トゥーレのやかたへの招待状には、
あなたの署名があった。
あなたはすべて知っていたのですね。
事故のことも流派の閉じたことも。
すべてお見通しだった――
【リヒャルト・フィンケ】
君はめざましく腕を上げたね。
東雲しののめ流の素養が役に立ったのだよ。
――違うかな?
【鬼龍豪人】
あの頃はそうでしたが……
今、審神者さにわとしての私と召喚師の私、
その二人が戦うのです!
【リヒャルト・フィンケ】
君の中の二人は戦ってなどいない。
むしろ手を取り合っているのだよ。
君のルサンチマンがそうさせている。
ルサンチマンを乗り越えるには、
あるべき自分の姿を持たぬことだ。
理想も、目標も、夢もいらない。
【鬼龍豪人】
あるべき自分……
――私はこだわりすぎたのでしょうか?
求めるところが大きすぎるとでも?
【リヒャルト・フィンケ】
求めて得られる時代など、
とうに終わっている。
ただ、破壊あるのみだ!!

〔日劇前〕

鬼龍の心に去来したものは何であろうか?鬼龍は両眼を見開き、風魔を見ている。いや、見ているのではない、まさに射ようとしているのだった――

【鬼龍豪人】
私が浄化されるまで、
貴様を必要とする、そういうことだ。
さぁ、整えろ!
喪神もがみ風魔ふうま!!

《バトル》

【鬼龍豪人】
貴様は順当じゅんとうに腕を上げているようだ。
フフフ――
頼もしい限りだな。

〔山王機関本部〕

【喪神梨央】
兄さん!
鬼龍きりゅうに好き勝手やらせて、
いいんですか?
明日、鈴代すずよさんが戻られます。
隊の方に言って、鬼龍を見張るように
お願いしておきます。
あっ、そうそう――
京都の紫水しすい会館から連絡があり、
古文書こもんじょは冬至についてだそうです。

ヒトツノ アラカニ
ワタラシテ ツマル――

アラカは宮とか部屋の意味だとか。
第一の宮に太陽が入って折り返す、
それが冬至のことだそうです。
第七の予言のヒククは、
結局わからずじまいですね。
今日はもう遅いので公務終了です。
お休みなさい――

そう言って梨央が本部を後にした。そこへ不意に声がする――

【???】
風魔ふうま……
聞こえる?
私よ、淑子としこよ――
あなたに、
是非ぜひとも話さなきゃいけないことが。

風魔は激しい目眩めまいを覚え頭を抱えた。

ふと何かの気配を感じて顔を上げる。そこはセヒラの揺らぎに縁取ふちどられた溜池通であった。為す術無く立ち尽くす風魔の脇に、威勢よくバールが現れた。

【バール】
じゃ~ん!
久しぶりだニャ、風魔ふうま
またぞろ姉さんの声がしたニャ!
それで出てきたニャ……
今は夜中のはずなのにニャ!
【バール帽子】
誰かが鎌掛かまかけてたゲロ!
姉さん、黒焦げとか言ってたゲロ!
ちょっくら調べたゲロ!
話はぜんぜん違うゲロゲロ――
【バール帽子背後】
確かに修善寺しゅぜんじで若い女が死んだ。
焼身自殺でな――
死んだのは横浜の女学生じゃ。
失恋してな、もうヤケクソじゃな。
そもそも病気を苦にして、
焼身自殺する奴などおらんわい。
ありゃ抗議こうぎの意を込めた死に方じゃ。
【バール帽子】
つまりは風魔の姉さんは、
修善寺しゅぜんじで療養中に忽然こつぜんと消えた、
そういうことだゲロ!
新山にいやま技手ぎてが言ってたゲロ。
修善寺しゅぜんじ独逸ドイツ人がロッホを探したと。
なんかプンプンするゲロ!
【バール】
風魔の姉さん、
どこかで生きているかもニャ!
でもここは違うニャ!
風魔の記憶の中だニャ。
さぁ、気を取り直して、
本部に戻るニャ!

〔山王機関本部〕

いつの間にか朝になっていた。

【喪神梨央】
おはようございます。
――兄さん、本部で寝たんですか?
興亜こうあ日報が特報を出しましたよ。
オリムピック辞退か? って――
【帆村魯公】
本当か、それは?
皇紀こうきニ六〇〇年に予定されておる、
東京オリムピックのことだろ?
【喪神梨央】
まだ東京は候補の段階です。
ニ月の奥斯陸オスロ総会で、東京の他に、
羅馬ローマ赫爾辛基ヘルシンキが候補になりました。
来年七月の伯林ベルリン総会で決まるはず。
その前に東京市が辞退を検討中とか。
【帆村魯公】
怪人やらが跋扈ばっこする町に、
運動選手を呼ぶわけにはいかんな。
まぁ、あと五年あるが――
ただなぁ……
あれだなぁ――

一昨年の国連脱退に次いで、昨年末はワシントン海軍軍縮条約の破棄はきと、日本は国際社会で孤立こりつを深めていた。
また昨年は空前の大凶作に見舞われ、東北、北海道では農作物が大幅に減収となり、西日本を室戸むろと台風が遅い、世相を暗くした。

【帆村魯公】
ますます物情騒然ぶつじょうそうぜんとしてきた。
五年でいろいろ改善できないと、
オリムピック辞退もいたかたないわい。

そうだ、風魔ふうまよ――
聖宮ひじりのみや殿下から連絡があってな。
京都の学者、柄谷がらたに生慧蔵いえぞうだが、
ヘーゲン召喚師と接触したそうだ。
アーネンエルベにも出入りしておる。
【喪神梨央】
それじゃ……
虹人こうじんさんが銀座で見たのは、
ユンカー局長じゃなかったんですか。
ユンカー局長が入れているシュタインの波形、
新山にいやまさんが計算中です。
もう少しで波形を特定できます。

今日は鈴代すずよさんを、
お迎えする予定です。
省線の品川駅です――
一昨昨日さきおとといの午後三時に新京を出て、
品川には今朝七時二十四分着ですが、
かなりの遅れが出ているようです。
【帆村魯公】
牛頭ごずの連中に動向どうこうを探られない
とも限らんからな。
充分に警戒してくれ。

風魔は公務電車で品川駅前に駆けつけた。

〔品川駅前〕

下関しものせきからの夜間急行は遅れているという。
まだ駅玄関には鈴代すずよの姿はなく、代わりに将兵らが待機していた――

【一五市】
如月きさらぎ鈴代すずよ身柄みがら拘束こうそくする。
東雲しののめ流を再興さいこうすると聞いた。
そして月詠つくよみ麗華れいか嬢の懐柔かいじゅうをもたくらむ!
さては鬼龍きりゅう大尉の奥義おうぎを継ぐ、
その魂胆こんたんなのではないかな!
抜け目のない女だな――
フハハハハ~
鬼龍大尉の奥義は、
月詠麗華嬢に継ぐのが順当だ。

左、そして右から一五市にのまえごいちを挟み込むように二人のユーゲントが走り込んで来た。

【上賀茂丸】
喪神さん!
祇園丸ぎおんまるに頼まれて来たよ!
【南禅寺丸】
僕たちの波形、山王さんのう機関で監視かんし中だ。
だから安心して戦えるのさ!

山王機関ではユーゲントの波形を探信していた。大型波動グローサベッレなどの影響があれば、直ちにアーネンエルベに連絡が行く手筈てはずであった。

【一五市】
何だ、お前たちは?
フォス大佐と桃源郷とうげんきょう巡りでも、
するんじゃなかったのか!
元召喚小隊の召喚兵がいる。
貴様ら!
こいつらの相手をしてやってくれ。

一五市の命令で、二名の召喚兵がそれぞれユーゲントと向き合う。二対二の対戦陣形となり、召喚兵とユーゲントとの間に強い光が走る。その刹那せつなであった、一抱えほどの大きさのセヒラ球が現れた。

【一五市】
うわぁぁぁぁ~

小規模なセヒラ異常が発生し、一五市、風魔は時空の狭間に飲み込まれてしまった。

〔時空の狭間〕

【一五市】
ウハハハハハ~
ここがお前たちのユートピアか!
いいだろう――
ここで時間稼ぎをするうちに、
召喚兵らがあの女を確保する!
さぁ、時間をかけて、
戦おうじゃないか!

《バトル》

【一五市】
いい調子だ――
それでこそ歩一の特務機関員だ!
だがな、すべてを手に入れる、
その準備は怠りない――
鬼龍きりゅう大尉は憎しみを宿す。
それが大尉の弱さだ。
俺は何も憎んじゃいない、
ただ純粋に戦う、そう決めたんだ。
無ほど強いものはない!
アハハハハハ~

〔品川駅前〕

品川駅前に召喚兵らの姿はなかった。軍用トラックだけが残されている。そこへ如月鈴代がやって来た。

【如月鈴代】
風魔ふうまさん!
お待ちになりましたか?
省線が遅れて……
兵隊が出ているのですか?
少し歩きましょうか……

〔品川街路〕

【如月鈴代】
麗華れいかさん、何か思い詰めている、
そんな様子だったので、
あまり話せていません。
鬼龍きりゅうさんのことは、
知っていました――
にのまえ少尉から聞いたのだと。
この帝都にトゥーレの館が
開かれることまで――
麗華さんは知っていました。

麗華さんは鬼龍さんの奥義を、
自らにそなえようとするのです。
鬼龍さんが会得した古式東雲流、
実は叔父の山郷が京都で道場を開き、
そこで教え広めていたものです。
古式とは言え、祖母の代では、
すでに霊力が弱まっていました。
それを叔父がなんとかしようと――

私が再び興そうとする古式流儀は、
六世紀はじめに日本へ渡来した、
マナセ一族の裔に伝わる術武です。
古式流は、鬼神や妖魔を降ろします。
それも審神者自身に降りるのです。
その古式を再び興すには、
多加美宮司の持ち帰った魔鏡、
その霊力がなくてはなりません。

鬼龍さんの古式流を麗華さんが継ぐ、
それがどういうものか、
私にはまだわかりません――

不意に鈴代は足を止めた。風魔は少し行き、鈴代を振り返る。鈴代は意を固めたような表情を作っている。

麗華さんは新京シンキョウに落ち着きました。
新京シンキョウ神社の裏にある高女の寄宿舎、
その貴賓室きひんしつがあてがわれました。
平安町二丁目というところです――
関東軍司令部用地の直ぐ近くですわ。

月詠麗華は新京シンキョウに身を落ち着かせた。麗華は鬼龍からの奥義おうぎの伝授を求め、その鬼龍はトゥーレの館で再起をはかる。
トゥーレのやかた――
リヒャルト・フィンケひきいる秘密結社。帝都に新たなるきょくが誕生した。