第九章 第四話 穴

〔山王機関本部〕

梨央りおは甲府連隊区に連絡を取り、山郷やまごう武揚ぶようの山梨での様子を確かめていた。
甲斐絹かいきを扱う生糸きいと商を営んでいた――

【喪神梨央】
屋号は山郷生糸きいとといいます。
甲府の北にある夢山ゆめやまという、
山の中腹に自宅があります。
【帆村魯公】
そうか――
そう言えばこれまで山郷のことなど、
詮索せんさくしてこなかったな――
【喪神梨央】
甲府連隊の糧抹りょうまつ係がよく知るのです。軍馬のまぐさを調達保管する軍属です。
【帆村魯公】
それで商売は順調なのか?
山郷の、甲斐絹かいき商とやらは。
【喪神梨央】
甲斐絹かいきは薄手で腰があって、
独特の光沢こうたくのある絹糸きぬいとです。
山郷はそれに飽き足らず――

北支ほくし原産の柞蚕糸さくさんしに興味を持っていたという。
柞蚕さくさん山繭蛾ヤママユガの仲間でさくの葉を食す天蚕てんさんだ。家蚕糸かさんしにはない野趣やしゅが持ち味である。

【喪神梨央】
新京シンキョウにある満蒙絲線まんもうシーチェンでは、
白黄斑山繭シロキマダラヤママユの人工飼育に成功して、
天蚕糸てんさんしの生産を本格化しました。
でも今年は病気が流行って――

かいこかび菌におかされる斑僵病まだらきょうびょうによって、柞蚕糸さくさんしが収穫できなかったのだ。
山郷は新京しんきょうに大量の甲斐絹かいきを調達した――

【喪神梨央】
満蒙絲線まんもうシーチェンの社長、好文海ハオウェンハイは、
山郷への支払いの一部に結 晶アルツケアンを、
充てたのです――
【帆村魯公】
今から考えると、
山郷は結 晶アルツケアンのことを知っていて、
取引を持ちかけたのかもな。
【喪神梨央】
その辺り、もう少し調べてみます。

ノックの音がして九頭がやって来た。

【九頭幸則】
歩一、九頭くずです――
って、のんびりですね、皆さん!
【喪神梨央】
軍帽を
着て怪人の
白い声
【九頭幸則】
物見遊山ものみゆさん
怪人来たりて
墓地の穴
【帆村魯公】
なんと!
【喪神梨央】
墓地に穴!?
【帆村魯公】
梨央りお、何か観測するか?
【喪神梨央】
いえ何も……何も観測していません。
幸則さん、青山墓地ですね。
――怪人、現れたんですか?
【九頭幸則】
いや……
ただ穴に人がたかっているだけ。
もう散歩しかすることなくて――

大掛かりなクーデター計画発覚後、
軍は綱紀粛清こうきしゅくせいとして
日曜下宿を禁止した。
そむキタル者は礼遇れいぐう停止ニ処スル――

【九頭幸則】
門限もんげんも早まって、午後四時だよ!
まるで尋常じんじょうの子供だよ!
【喪神梨央】
いいじゃないですか、
規律を守るのって素敵です。
青山の大穴、青山新京シンキョウで、
凄腕の風水師たちが守ります。
しばらくは安心なはずです。

ただ新聞がまた書きたてますね。
赤坂の大柱はお化け柱ですよ。
見ようと近付くと音もなく消える、
それでお化け呼ばわりされています。
【九頭幸則】
麗華さん、戻ったんだよね。
墓場の穴からじゃなく、
別の方法で戻ったの?
【喪神梨央】
ちゃんとゲートをくぐって――
兄さんが連れて帰ったのです。
今、あきらさんのアトリエにおいでです。
鈴代さんがお連れになりました。
【九頭幸則】
へぇ~
あきらさんとどんな接点があるんだい?
まさか米国アメリカ流お茶点前てまえとか?

あきら米国アメリカの魔法学校に身を置きながらも、麗華の通う学校の創設者、鴨脚敬祐いちょうけいゆうを尊敬し、その著書、東亜論とうあろんを愛読の書としていた。

【九頭幸則】
変わった接点だね――
鴨脚敬祐いちょうけいゆう、隊にも信奉者がいる。
でも今は自重のときだよ、さすがに。
【喪神梨央】
兄さん――
あきらさんのアトリエ、おうかがいすれば?
何かお話、聞けるかも知れませんよ。

〔旭のアトリエ前〕

日枝ひえ神社の裏にある
能海旭のうみあきらのアトリエ。
鉄扉てっぴの前であきらが出迎えてくれた。
梨央りおが一報入れてあったのである――

【能海旭】
風魔ふうまさん。
梨央さんから連絡もらったよ、
入って――

〔旭のアトリエ〕

【能海旭】
風魔ふうまさん――
レンザのが、
いろいろ情報を集めているみたい。
最近、あいつ、
よく出かけているようだし。
それに麗華さんとは気が合うんだ。

アトリエのドアが静かに開いてレンザが顔を覗かせた。

【吉祥院蓮三郎】
失礼します、あきらさま。
風魔さまも――
【能海旭】
何だ、いたのか、
びっくりさせるな。
レンザ、
お前は麗華さんのこと、
気に入ったようだな。
【吉祥院蓮三郎】
はい、キタイスカヤでお目にかかり、
あの方はまさに完成間近かと――
そんな様子にございました。
【能海旭】
お前の言う完成とは、
どんな感じなのだ?
【吉祥院蓮三郎】
何と申しましょうか、
他の何者でもない存在になる、
そういうことにございます。
【能海旭】
何者でもない――
うーん、そうだな。
レンザ、お前も早く完成しないとな!

【吉祥院蓮三郎】
アキラさま――
麗華さまの学校を作った方の、
ご本をお持ちなんですね。
【能海旭】
鴨脚敬祐いちょうけいゆう先生だ。
帝国女学園創設者にして、
明治時代の国学者だ――
先生は東亜論という著作の中で、
日本こそ欧亜ユーラシア大陸で盟主となるべき、そう説かれている――

ボストンの本屋で東亜論と出会って、
私の人生が回り始めたんだ。
CCW公園のベンチで読み終えた――
【吉祥院蓮三郎】
クリストファー・コロンブス
ウォーターフロント・パーク――
そうでございますね。
【能海旭】
人に例えて、日本、鮮満が頭となり、
肥沃ひよくな大陸が強い胴体、
西アジアが脚となる壮大な計画だ。
麗華さんは学校で先生をのこと習い、
日本人の心をみがくため、
お茶を始めたらしい。
【吉祥院蓮三郎】
久遠くおん流にございますね。
お茶を通じて鈴代さまと出会われ、
愈々いよいよ霊異りょうい現すのでございます。
体深くに取り込んだ霊的結晶――
仮面の男を軽く退けた力……
やはり完成間近は疑う余地なし!
【能海旭】
何だ、お前?
麗華さんが審神者さにわとして成るのが、
嬉しいのか?
【吉祥院蓮三郎】
それはもう!
完成とは如何いかなるものか、
見てみとうございますゆえ!

【能海旭】
それで、麗華さんはどうした?
まだお前の部屋なのか?
【吉祥院蓮三郎】
いえいえ、
はずむようにお出になりました。
【能海旭】
そうなのか……
風魔さん――
何だか胸騒ぎがするよ。
――こういうの、当たるんだ……

〔旭のアトリエ前〕

アトリエ前の鉄扉のところに鈴代が立っていた。梨央から請われて麗華を迎えに来たのである。

【如月鈴代】
あっ、風魔さん……
麗華さんをお迎えにまいったのです。
――もしや、もう出られた……
そうなのですね!

不意に鈴代は顔を曇らせた。まだ万全ではない麗華を案じるとともに、不測の事態を招かいないとも限らない状況を案じているのである。

【如月鈴代】
梨央ちゃんから一部始終聞きました。
叔父おじが大変な迷惑をおかけし、
申し訳ありません――
新京シンキョウでN計画の情報が得られない中、麗華さんの渡満を知って、
叔父は計画を変えたのです――
麗華さんに結晶を取り込ませ、
仮面の男の計略に載せたようにして、
大きな力をもたらそうとした――
その力に寄せられるようにして、
失われた猶太ユダヤ支族のすえが現れる――
叔父おじは何の根拠があって、
そんなことを考えたのでしょうか?
人に犠牲をいることまでして、
見つけ出す人って……

【着信 喪神梨央】
今、鈴代さんもご一緒ですね。
麗華さんはこちらでも探してみます。
青山墓地の様子が変です。
セヒラが安定しなくなりました。
念のため巡視パトロールをお願いします!

【如月鈴代】
私、麗華さんを探します。
心当たりがあるのです――

〔青山墓地〕

公務電車で青山墓地に向かった風魔。そこでは大穴の周囲に大勢の市民が集っていた。市民たちは様々な方向を向いておかしな挙動を繰り返していた。

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
比較的強いセヒラです。
市民は怪人化している模様!

【新聞売】
号外だよ~興亜日報の号外だよ~
赤坂のお化け柱に次いで、
青山墓地に謎の大穴出現だ!

新聞売に小僧が近寄った。

こら、坊主!
買わないならあっち行った行った!
【原宿の少年】
ねえねえ、何で興亜日報は、
おいらの川柳、載っけないの?
【新聞売】
何だ、読んでないのか?
怪人川柳はな、担当の記者が病気で、
当面休むとあったぞ。
記者は一日中、うつろな目をして、
ちゅうにらんでいるんだと。
神経の病だ、帝大出なのにな……
【原宿の少年】
怪人川柳、お休みか……
残念至極だな!
おいら、とっておきの、こしらえたのに。
【新聞売】
ふん、しょせん、
ガキのお遊びだろ?
【原宿の少年】
どうかな――

高い空
走る怪人
道柳みちやなぎ
【新聞売】
ふーん……
その道柳ってのは、
銀座の並木のあの柳か?
【原宿の少年】
何言ってんだよ!
別名庭柳、たで科の仲間の一年草――
道端みちばたでよく見かけるじゃないか!

大穴の脇で車投げの挙動を繰り返していた背広姿の男性がこちらを振り向いた。そして風魔に歩み寄る――

【飯倉の客】
新宿の東海館で観たんだ!
ああ、幻燈会げんとうえだよ、
天睛院てんせいいんオラクルだ。
奇術師の天睛院てんせいいんが銀幕に現れた。

血走った目をワイフに向けた!
私のワイフをにらみつけて言うんだ、
顔が見える、顔が見える――
アレが鼻、ソレが目、とな!
顔は貫禄かんろくのある紳士しんしです、
乳房の間に顔が埋まりまぁす!
顔の主は三河台みかわだいの銀行支店長だ、
天睛院てんせいいんはそう告げやがった!
銀幕の中からだ!

ワイフは真っ青になって、
頓狂とんきょうな声上げて活動キネマ館を飛び出し、
もう七日も戻らない!!

何が天睛院てんせいいんオラクルだ、
ふざけんな!!

《バトル》

【飯倉の客】
はぁ、はぁ、はぁ~
ワイフの服がやけに煙草たばこ臭い、
そういう日が少なからずあったなぁ。
煙草たばこ……三河台みかわだい……支店長……
――ううううううぅぅ~

【着信 喪神梨央】
今の話は天睛院てんせいいん一座のことですね。
女流奇術師の天睛院てんせいいんが率いる一座で、
透視術を専らとしています――
顔が見えるというのは、
天睛院てんせいいん十八番おはこなのです。
あまりいい顔は見えませんが――

黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
まだセヒラ収まりません!
引き続き警戒してください。

【台町の婦人】
真白ましろき細き
手をのべて……
血汐ちしお洗い去り~
吹けよ朝風あさかぜ
初陣ういじんの……
胸の火玉ひだまあれ!
永久とわさかえの  
だい亜細亜アジア
世界に示せ――

そこまで言うと着物姿の女性は力なくうなだれた。後れ毛が額にかかっている。目を閉じ、ゆっくりと開いた。風魔を見るようでもあり、見透かすようでもあった。

【台町の婦人】
どうしたのかしら……
私ったら、こんなところで?
――あなた、警察の方?
さ、帰って支度したくしなくちゃ!
支度したく支度したく――

女性はふらつきながら風魔の脇を抜け青山通へ去った。大穴の周囲にいた市民たちも一様にうなだれている。

【着信 喪神梨央】
支度したくって、何の支度したくでしょうか……
ちょっと気になりますが、
もう、セヒラは観測しません。
山王さんのうホテルに殿下がお見えです。
ご帰還ください――

〔山王ホテルロビー〕

ホテルロビーでは聖宮と魯公が立ち話をしていた。

【聖宮成樹】
喪神さん――
喪神さんの時間がずれ始めている、
そううかがいました。
【帆村魯公】
帝都満洲での一日が、
帝都の何日分にもなる、
そういう現象が起きています。
【聖宮成樹】
セヒラの動きが関係している、
そう考えられますね?
【帆村魯公】
セヒラの動き?
そんなものがあるのですか?
まるで日和ひよりのようですな!
【聖宮成樹】
まさに、循環じゅんかんする大気のようです。

そう言うと聖宮はセヒラ回廊かいろうの話をした。アラヤ界のさらに深い階層に、セヒラが無限に循環じゅんかんする場所があるという――

【聖宮成樹】
セヒラ回廊には古今東西、
ときには未来からも思念が流れ込み、
セヒラとなって循環してるのです。
【帆村魯公】
思念はセヒラとして実体化する、
そういうことなですな?
【聖宮成樹】
念とは質量を伴うものです。
それがさらに凝固して出るのが――
【帆村魯公】
アストラルですな!!
【聖宮成樹】
帝都にもアストラルが出た、
そう伺っています。
【帆村魯公】
ほう!!
目の当たりにしました!
あれは風水師のアストラルでしたな。
【聖宮成樹】
セヒラ異常が起きると、
アストラルも表出するようです。
セヒラ回廊そのものは制御不可能、
しかし帝都に湧出ゆうしゅつするセヒラ量は、
釣鐘つりがねでなんとかなるはずです。

しかし、このところ、
どうも様子が変なのです。
セヒラ回廊の動向が怪しくなり、
それがせいで釣鐘つりがねに影響が及び、
帝都の状況、予断を許しません。
【帆村魯公】
うむ……
仮面の男のせいで生まれた、
赤坂の大柱も依然いぜんと残ります。
【聖宮成樹】
数年前のことですが……
独逸ドイツ人たちはアラヤ回廊自体を、
なんとかしようとしたようです。

そう言うと聖宮ひじりのみやは一枚の青図を取り出した。
独逸ドイツ人たちが伊豆修善寺しゅぜんじ近くで見つけた穴、それをコンクリートで補強したのである。

青図には十進法で緯度経度が記してある。35、0018、138、9850――
伊豆修善寺しゅぜんじ近くの山中を示している。

【帆村魯公】
青山墓地にも穴が開いていますが、
あれはまた違うのですな?
【聖宮成樹】
墓地の穴は帝都満洲に繋がる穴、
独逸ドイツ人の探したロッホとは異なります。
伊豆の現場には倭文しどり神社のほこらがあるばかり、何も見当たらないとのことです。
【帆村魯公】
ほう、倭文しどり神社、またはしづり――
機織はたおりの神である建葉槌命たけはづちのみことまつる。
鳥取にある倭文しどり神社が有名ですな。

【聖宮成樹】
独逸ドイツ人たちは伊豆をよく調べ、
一箇所は見つけた――
それがこの青図のロッホなのです。
【帆村魯公】
そのロッホがアラヤ回廊に繋がる、
そういうことですな、殿下?
そしてロッホは他にももっとある――
【聖宮成樹】
山王さんのうにも品川にも、
ロッホのあった形跡は残ります。
山王さんのうが最もよく残しています――
【帆村魯公】
うむ……
そのようですな。
しかしもはや穴ではないと――

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
ホテルにおいでですか?
青山新京シンキョウの風水師の一人、
覚醒かくせいしたようなんです。
それで離脱してしまい――
セヒラが物凄く不安定です!

【聖宮成樹】
喪神もがみさん、まずは目先の問題です。
ロッホの件、さらに調べましょう。
帝都の何処いずこかにあるはずです。
【帆村魯公】
梨央ははらえの間にいるはずだ。
風魔、頼んだぞ――

〔祓えの間〕

【喪神梨央】
覚醒かくせいした人はヘレナさんです。
ヘレナスーさん――
八年間も昏睡こんすい状態だったとか。
昏睡こんすい状態から覚醒したので、
アストラルが弱くなった、
そのようです。

波形を確認すると、
品川図們トモンに漂うようです、
ヘレナさんのアストラル――

風魔は祓えの間からゲートを抜けて帝都満洲へ赴いた。

【満鉄列車長】
未来というのは必ずしも
一つというわけではない――
そう思いませんか?
川で小さな魚が跳ねただけで、
変わってしまう未来もあるようです。
力づくでは変えられないのに、
ささいなことで変わってしまう――
これは不条理なんでしょうか?

当列車、品川図們トモンに向かいます。
出発で~す!

風魔を乗せた帝都満洲鉄道あじあ号は一路品川図們を目指した。

〔品川図們〕

【AGK研究員Wアストラル】
アルツケアンは五つ見つかった――
蟻走痒感府ぎそうようかんふに二個ある。
アーネンエルベに二個、
あと一つはかい族が持ち去った――
【AGK研究員Aアストラル】
蟻走痒感府ぎそうようかんふではカーンが取り込み、
不老不死の存在になったんだ。
調査隊の副長、カーンと交渉すべく、
蟻走痒感府ぎそうようかんふに戻ろうとしたが迷った。
瑒納斯チャンナンス河畔かはんを二週間彷徨さまよい、
気が触れてしまったんだ。
【AGK研究員Wアストラル】
烏魯木斉ウルムチから百八十キロ南西、
緯度経度も正しいのに見つからない。
幻のように消えたんだ!
【AGK研究員Aアストラル】
かい族の少年カールが言ってた――
蟻走痒感府ぎそうようかんふが現れるには、
三十六の条件が必要らしい。
【AGK研究員Wアストラル】
条件で思い出した!
アルベルト、お前ゼーラム六八六の
フェラー還元方程式、知ってるか?
【AGK研究員Aアストラル】
ゼーラム六八六?
何だそれは?
ゼーラム五二五なら知っているが……
【AGK研究員Wアストラル】
俺の聞き違えかな……
確かに六八六なんて知らないな?
――あ、いや、知ってる気が……

会話をしていた2体のアストラルが音もなく消えた。そこへ中型アストラルがやって来た。

【ヘンリーオートCアストラル】
毎日がデリシャス!
ウェストロックのウェストダイナー、
カイザーひげのハモンド爺ちゃまは、
狼もちびるWWⅡの英雄さまだ!
油汚れでギトギトの厨房ちゅうぼうの窓から、
くそったれ災い州間道路をにらみつけ、
喧嘩けんか売るのが日課の爺さまだ!

あの州間道路は災いのデパートだ。
五十八年の大竜巻は、
あの道路に沿って移動しやがった!

ウェストロック高校の社会科教師、
オールドミスのドロシーも災難だ。
クルマは十八マイル先の沼で、
カエルの学校の校舎になっていた。
でもミスドロシーの姿はなかった――

ブライトン爺さん、
あの怪物こしらえたの俺だと思ってる。
あほらしー!
身体中から大小の砲身、
十二本も生やしてやがった!
一番でかいのは二五〇口径はある、
一五〇口径の榴弾りゅうだんも見たぞ!
怪物はウェストロックでは一発も、
撃たなかった――
その代わりツーソンは全滅した。

大和ヤマト天皇エンペラーは魔法を使うらしい。
エンペラーズヴンダーだ……
でもな、何でドイツ語なんだ?
クラスにドイツ野郎いたからな、
ヴンダーってのはドイツ語だぞ。

俺は今大和語ヤマトニーズを練習中だ。
自分名前も書けるぞ、大和語ヤマトニーズで。
湖泥亜駄無素コーディアダムス――

中型アストラルはぐるぐると回転して消えた。

〔品川図們〕

次の街区に進むと、アストラルが寄って来た。

【AGK2研究員Hアストラル】
フェラー還元方程式の完成で、
カー体の半減期が二万六千年に伸びた。
発見時は二秒半で崩壊したのに。

もう一体のアストラルも来た。風魔のすぐ目の前にいる。

【AGK2研究員Pアストラル】
カー体を触媒として、
ゼーラム六八六は誕生した!
釣鐘二ツヴァイに満たして荷電かでんすると、
強烈な量子場が形成される――
まさに量子力学の奇跡だ!
釣鐘二ツヴァイは、空中三百メートルで、
直径四十キロの椀状わんじょう空域を生じる。
椀の中は数千度の高温となる――
【AGK2研究員Hアストラル】
総統フューラーの決断は早かったな!
ロンドン、パリ、モスクワ……
皆、壊滅だ。
我々は神の意志を得た――

2体のアストラルは左右へ去った。そこへ一体のアストラルが来る。アストラルは様子をうかがうようにして風魔に近寄ってきた。

【AGK研究員Gアストラル】
何だ、今の連中は?
何を寝物語をしている!!
あああ、苦しい……
息ができない――

《バトル》

【AGK研究員Gアストラル】
勝手にAGKアーゲーカー2を名乗るな!
私はユルゲン・フェラー博士の、
一番弟子なんだぞ!!

アストラルが爆ぜるようにして消えた。

【着信 喪神梨央】
別のアストラルが来ます――
おそらくヘレナさんです、
かなり苦しんでいます……

無線の後、中型アストラルがやって来た。その動き、どことなく不安定である。

【風水師HSアストラル】
たしかに自暴自棄になっていたわ!
六年も付き合った人と、
酷い別れ方をしたんだもの。
でもね、死のうなんて考えない。
ただ眠りたかっただけ――
ぐっすりとね!
おかげでよく眠れた……
なのに、何故、目覚めるの?

ここはフカヒレ屋の奥ね!
壁には八年前のカレンダーが――
コーマ状態でも髪は伸びるのね!

フフフフ~
さぁ、戻して頂戴、
また眠りの世界へ!!

《バトル》

【風水師HSアストラル】
ふう……
体が軽くなっていくわ。
――これでいいのよ、これでね……

アストラルは滲むようにして消えた。

【着信 喪神梨央】
ヘレナさん、戻られたようです。
やっぱり……

桃源郷とされる蟻走痒感府ぎそうようかんふとアルツケアンは、繋がりを持っていた。
そして帝都は不思議な未来とも繋がっている。

〔山王機関本部〕

【喪神梨央】
お帰りなさい!
またちょっとズレた未来と、
繋がってしまいましたね!
【新山眞】
いやぁ、ズレているかどうかは、
まだわかりません。
それにしてもすごい未来です!
ナチが量子爆弾をこしらえ、
我が方は――
【喪神梨央】
ヴンダー、怪物です。
巨大なが、実体化している、
そういうことなでしょう?
【新山眞】
キタイスカヤでもその会話が……
芽府めふ須斗夫すとおが言っていました。
怪物とは巨大な人籟じんらいであると。
【喪神梨央】
でも、そんんなこと、
本当に起きるんですか?
が見えるようになるなんて。
【新山眞】
今のところ、可能性は低いです。
ただ、何が起きるかは――

ノックの音とともに九頭が現れた。

【九頭幸則】
歩一の九頭くずです、
今度こそゆっくりはダメだ、風魔ふうま
【喪神梨央】
どうしたんですか?
でも見たんですか?
【九頭幸則】
例の違うものに見えるって話さ!
――ほら……
【新山眞】
仮構かこう、ですね。
東京ゼロ師団による――
【九頭幸則】
それそれ!
青山の青山せいざんホテルが、
いつのまにやらトゥーレの館に――
【新山眞】
何ですって!
独逸ドイツ流儀の召喚術を伝授する……
【喪神梨央】
鬼龍大尉が宿舎として使い、
その後、麗華さんが部屋を取り――
あの青山ホテルですね!
リヒャルト・フィンケが、
以前、宣言していましたね。
帝都にも館を置くって――
【九頭幸則】
何だか知らないけど、
人だかりができているよ。
【喪神梨央】
――兄さん……
アルツケアンですが、
アーネンに渡ったうちの一つは、
仮面の男が取り込みました。
もう一つの行き場が気になります。