黒札 第十一話 東京駅の変事

〔山王機関本部〕

東雲しののめ流の再興を目論もくろ鈴代すずよ叔父おじ山郷やまごう武揚ぶよう。彼は日本に渡来した猶太ユダヤ支族の末裔まつえいこそ、強い霊異りょういを発現すると信じている。
アメリカの猶太ユダヤ人秘密結社、グランナイツに働きかけるも、末裔まつえいの存在、ようとして知れず、愈々いよいよ山郷やまごうは次なる行動に出ようとしていた――

喪神もがみ梨央りお
兄さん、
多加美たかみ宮司がおいでです。
魯公ろこう隊長とロビーでお話中です。

〔山王ホテル〕

帆村ほむら魯公ろこう
風魔ふうま
多加美たかみ宮司ぐうじと話していたところだ。
――山郷やまごうもはなはだ諦めが悪い。
多加美たかみ宮司】
山郷やまごうですが、グランナイツは、
なかなか本当のことを明かしません。
次なる行動を考えているようです。
帆村ほむら魯公ろこう
ほう! 
やつもとうとう
暖簾のれんに腕押しにごうやしたか!
多加美たかみ宮司】
N計画ですか、その計画を乗っ取り
猶太ユダヤ人の命運を掌中しょうちゅう
収めるつもりじゃありませんか?
満蒙まんもうの地を猶太ユダヤ人の新天地にする。
その計画を牛耳ぎゅうじれば、
グランナイツも言うことを聞く――
帆村ほむら魯公ろこう
さもありなんだな。
N計画が、人質ひとじちのようになる……
そのおそれも出てきたな!
多加美たかみ宮司】
牛頭ごず機構も勢力を増しつつあります。
帆村ほむら魯公ろこう
うむ……
だが、牛頭ごず機構の連中が扱う
人籟じんらい……あれは戦力にはならん!
素人でも使えるなど駄目だ!
修行を積んだ審神者さにわこそが扱う
本物のじゃないとな!
【着信 喪神もがみ梨央りお
兄さん、隊長、山郷やまごう渡満とまんします。
本日の佳木斯チャムス丸のようですが、
さだかではありません。
帆村ほむら魯公ろこう
満洲! やはりN計画狙いか!
風魔ふうま、手をこまねいてはおれん!
まず動向をさぐることだ。
【着信 喪神もがみ梨央りお
割り込まないでください、隊長!
市ヶ谷いちがやでセヒラ観測、
おそらく牛頭ごず機構に動きがあるかと。
帆村ほむら魯公ろこう
よし、山郷やまごう側の動向偵察ていさつねて、
市ヶ谷いちがや刑務所へ向かってくれ!

市ヶ谷いちがや刑務所に向かう途上、市ヶ谷見附みつけで怪人騒動があり、公務電車は市ヶ谷見附みつけで停車した。

〔市ヶ谷見附〕

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
波形からの判断ですが、
比較的単純な怪人のようです。
【目白の婦人】
市電、止まってしまいましたわ。
貴男のも……
あら、見かけない市電ですこと。
円タクも来そうにないし……
目白めじろまで歩いて帰るのでしょうか――
私、そんなに歩けませんことよ。
【瓦職人】
こう暑くちゃ、瓦葺かわらふきも大変て―へんでぇ!
なにせね、怪人騒動のせいで、
こちとら大忙しよ!
怪人が屋根突き破るとかね、
そんなうわさで、丈夫なかわらをってんでね、
注文、ひっきりなしだ!
【物理学生】
馬鹿もいるもんだな!
囚人しゅうじんのやつら、自分が改造されて、
人籟じんらいにされること知らないんだ!
罪人をにすりゃ、
無駄飯むだめしを食わさなくて済む。
なかなか頭のいいやつの計略だな!

おいおい、君!
そんな目で僕を見ちゃだめだよ!
僕が本気出しちゃうからね!

《バトル》

【物理学生】
吉原よしはら帰りに徴 用リクル―トされたから、
ちょと気が緩んだみたいだね!

【世捨て人】
ふふふ、君がそうなんだな、
怪人倒しの軍人とは!
一部始終いちぶしじゅうを見学したよ。
市中に電線するいろんな声がね、
不意ふいに聞こえ出したんだ――
怪人とはそういうものなのかね?
その理屈りくつで言うなら、私も怪人だ。
今さっきのを披露ひろうしようじゃないか!
すれちがつた今の女が
眼の前で血まみれになる
白昼の幻想
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
危険です、探信儀たんしんぎを使ってください。
【世捨て人】
なかなかの上出来じゃないかね!

《バトル》

【世捨て人】
省線の駅近くがいいって話だ。
電気がそれだけ強いからね!
電気がね、私を強くするんだ。
【着信 喪神梨央】
わかりましたよ、あれは短歌です。
ユリアさんは詩と言いましたが、
短歌なんです。
夢野ゆめの久作きゅうさくという作家が発表した、
猟奇歌りょうきうたという短歌です。
雑誌に連載されているのです――
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
市ヶ谷見附みつけのセヒラは消えました。
市ヶ谷刑務所に向かってください。

厳重な警備がかれる市ヶ谷いちがや刑務所。しかしこの日、看守かんしゅの姿はなく、普段にも増して静まり返っていた。

〔市ヶ谷刑務所〕

【噂好きの男】
なんでもここの囚人しゅうじんは、
豊多摩とよたま刑務所に移されたとか。
いやね、小耳にはさんだだけですが――
ここはもうお役御免の
用済みなんでしょうか?
【目白の婦人】
たくの兄様は内務省のお役人、
ですから話はおよびますの――
何でも司法省に
大きな沙汰さたがあったって、
そう言うじゃありませんか!
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
東京駅で怪人騒動です。
至急しきゅう向かってください!
山郷やまごうが東京駅に向かったのかもだ。
市ヶ谷のセヒラは収束しゅうそくしている。
東京駅へ、急いでくれ!

〔東京駅〕

満洲へ渡る山郷やまごう阻止そしすべく東京駅へ。怪人情報が飛び出したためか、普段より心持ち人影は少ないようだ――

【芝の貿易商】
このところやけに物騒ぶっそうですなぁ~
ここも満洲国の皇帝が来た時は、
えらい人出でしたけどなぁ……
ところで、あんさん……
怪人というのはまことのものですか?
【扇子屋の番頭】
アッシはねぇ、旦那だんな様に頼まれて、
駅に着く荷物をね……
汽車の到着がやけに遅れてますね。
【三下ヤクザ】
俺はなぁ、こう見えても
学校出てんだ!
頭使って仕事してんだ!
今日は東京駅で暴れてくれ、
そう言われてな!
くそったれぇ~

《バトル》

【三下ヤクザ】
ふわぁ~、どうしちまったんだ?
口から脳みそが出そうだ……
グペッ!

【着信 帆村ほむら魯公ろこう
黒ノ……
え―っと、風魔ふうま
山郷やまごうは車で横浜に向かった!
【着信 喪神梨央】
だめです!!
セヒラ、急上昇です!
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいしは現場の確認を!
【目付きの鋭い男】
君たちですか、擾乱じょうらんを起こすのは?
いけませね、ここは帝都の玄関。
こんなところで怪人騒動はご法度はっと
また宮城きゅうじょうのすぐ近くでもあります!
すべてはやがてあなた達の手には
負えなくなっていくんです。
それが筋書きシナリオというものですよ――

《バトル》

【目付きの鋭い男】
私は、不思議でならないんだ――
君達が、何故にそうも躍起やっきになるのかが。
私には、それがわからないんだよ――
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
危険です……何かとてつもなく――
危険な感じがします!
【目付きの鋭い男】
君達のことが……もっと知りたいんだ……
君達を動かすものは何だ?
使命感? 信頼? 
あるいは友情やきずなということかね?
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
目の前の敵は、普通の怪人ではありません!
もっと、奥深いところに、
ぬぐいようもない邪悪さを潜めています!
【目付きの鋭い男】
あははははは!
こうなることはわかっていた!
怪人となれば仮初かりそめの力を得る――
だが、それは長くは続かない。
――やがてどもに魂を吸い取られるのだ!
今の私はその途上プロセスにある!
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
その場に強い力が渦巻いています!
【目付きの鋭い男】
フフフフ……
魂の中に英雄を飼っているとでも?
やがてもっとみにく
自分と向き合うことになる!
――その前に力を得ることだな!

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
セヒラの値がなくなりました。
【着信 帆村魯公】
藤沢レーネと大連ダイレン特務機関、
これらに第一連隊から軍用電報で
山郷やまごうのことを知らせておいた。
ひとまず撤収てっしゅうしてくれ!

山郷やまごうはN計画乗っ取りを企図きとして新京シンキョウへ。山郷やまごうの去った後、牛頭ごず機構をひきいるのは――
東京駅に現れた謎の男、一体何者か?