黒札 第六話 情報ノ漏洩シタル時

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
風魔ふうまよ、式部丞しきべじょうだが、ああ見えて
なかなかに世界情勢に明るい。
N計画のこと、申し伝えた――
我々としても対応を検討したい。
四谷のセルパン堂へ同行願いたい。
――今は帝都も静かだ。

〔セルパンどう

帆村ほむら魯公ろこう
式部しきべのー……
おるかい?
式部しきべじょう
これはこれは……
帆村ほむらの先生!
ぜんたい、どうされました?
帆村ほむら魯公ろこう
うむ……先だっての話だよ、
例の満洲へのユダヤ人移住計画――
独逸ドイツ迫害はくがいされつつあるからな!
式部しきべじょう
N計画、というやつですね。
いやはや、実に途方とほうもない計画です。
帆村ほむら魯公ろこう
われら山王機関として、
どのような協力ができるのか、
考えておったところだよ!
式部しきべじょう
――悩ましいですね、実に。
丁寧ていねいに、しかし急いで進めるべき
性質たちの計画でしょうね。
帆村ほむら魯公ろこう
N計画が大成功をおさむれば、
満洲の地に巨大な利権が生まれる。
世界中から金が集まるだろう……
式部しきべじょう
まぁ、そうでしょうな――
資源豊富な満洲に、人、物、金が
きれいに揃うわけですから。
帆村ほむら魯公ろこう
失敗すれば……
式部しきべじょう
満蒙まんもう基盤きばん脆弱ぜいじゃくさを増すことに……
ソビエットの南下を食い止めるために
満蒙まんもうの繁栄は火急かきゅうようですね。
――違いますか?
帆村ほむら魯公ろこう
明察めいさつだ!
その通りだよ!
――満蒙まんもうこそは日本の生命線……
式部しきべじょう
ソビエットと対峙たいじする独逸ドイツにも
満蒙まんもう盤石ばんじゃくぶりは頼もしいでしょう。
――外交の手札カードが増えますね。
帆村ほむら魯公ろこう
欧州ヨーロッパ独逸ドイツも、支那シナも日本も――
その要衝ようしょう満蒙まんもうにあり、だな!
式部しきべじょう
フフフ……
まずはN計画の秘匿ひとく
しっかりと守ることでしょう!
【着信 喪神もがみ梨央りお
レーネさんを品川まで護送中ですが、
憲兵けんぺい怪人の数が多くて、
虹人こうじんさんが苦戦しています!
兄さんも参戦してください!
私も品川駅に向います。
帆村ほむら魯公ろこう
そうそう、藤沢ふじさわレーネなんだが、
もうじき横浜を出る錦洲丸きんしゅうまる
新京しんきょうへ帰ることになっておる――
それで虹人こうじんに護衛を頼んだのだが……
式部しきべじょう
憲兵怪人とは!
これまた何とも!
これはまったく、新手あらてですね!
それに……
何か、組織の臭いがする――
帆村ほむら魯公ろこう
レーネじょうを守らねばな! 風魔ふうま
急ぎ、品川駅に向かってくれ!

品川駅前しながわえきまえ

横浜へ向かう藤沢ふじさわレーネを護衛するも憲兵怪人にはばまれた帆村ほむら虹人こうじん
まだ怪人の気配が漂っている――

【着信 喪神もがみ梨央りお
兄さん、私も来るようにと、
虹人こうじんさんに頼まれて――
私はすぐ近くにいます。

【アナーキスト志望】
ここだけの話だけどな……
――ヒソヒソヒソヒソ……
憲兵けんぺい
おい! 貴様!
謀略ぼうりゃくする者は許さん!

憲兵けんぺい
うううううううう、
巫山ふざんの雲は乱れ飛ぶ!

《バトル》

憲兵けんぺい
はぁはぁはぁ……
小森こもり魔大佐殿またいさどの
――無念でありますっ!

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
まだ怪人の気配が消えません……
その辺りでセヒラを観察しています!

【電話交換手】
ねぇ、お兄さん!
あたいの許婚いいなづけ、男前でしょ?
憲兵けんぺい
さぁ――ここは警戒区域だ、
急ぎ、去れ!

【電話交換手】
だそうよ、にぃさん!
ぼやぼやしてると引っ張られるよ!
この人、泣く子も黙る
哈爾浜ハルピン憲兵隊付きなのよ!
ふん、強がるのもいい加減におしぃ!

《バトル》

【電話交換手】
フフフフフフ~
こんなもんじゃ終わらないわよ!
さ、行くよ! あんた!

喪神もがみ梨央りお
もう大丈夫ですね。
憲兵怪人は普通の怪人とは違う、
虹人こうじんさんはそう言っていました。
言われてみれば、
これまでにはない波形がいくつも、
観測されています。

帆村ほむら虹人こうじん
風魔ふうま! 間に合ったのか!
いろいろと邪魔臭じゃまくさい連中だったな!
やつら、出所でどころが違う気がしないか?
それで梨央りおにも来てもらったんだ。
正しい観測をするためにね。

ところで、僕たちは似た者同士、
そんな気がしないか?
生きる目標を希求ききゅうしている――

さて、梨央りおちゃん、本部に戻ろう。
後の巡視パトロールは、風魔ふうま、お前に頼む。
喪神もがみ梨央りお
はい……
では兄さん、また後ほど。

藤沢ふじさわレーネ】
危ないところを……
ありがとうございました。
ナサニエル・カッツという
ユダヤ人実業家がいます――
彼から錦洲丸きんしゅうまるの乗船券を手配したと、そう電報があって、それで私は……まさに横浜へ向かうところでした。
もしや、それがれたとでも……
ひとまず私は満洲へ帰ります。
お願いしたこと、心強く思います。
風魔ふうまさん……
【着信 帆村ほむら虹人こうじん
おい、風魔ふうま! 梨央りおはぐれた!
今、品川から戻る途中だ。
怪人の波動だって梨央りおが言うから、
手分けするうちに逸れたんだ。
心配だ。風魔ふうま、お前は増上寺ぞうじょうじ界隈を
探してくれないか?
――無事だといいんだが。

芝増上寺大門前しばぞうじょうじだいもんまえ

【着信 帆村ほむら虹人こうじん
風魔ふうま――黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
赤羽橋あかばねばしの方だが、梨央りおの姿はない。
そっちはどんな感じだ?

小森こもり時夫ときお
ふはははは!
手下ども相手によくやったな!
憲兵の奴らは恨みつらみを
たぎらせるからな!
勧誘は簡単だった!
だがな、もっと上等の
手に入れることになった!
誰もが扱えるをな!!
【着信 喪神もがみ梨央りお
兄さん! もう大丈夫です!
金ノ七号……
虹人こうじんさんとはぐれてしまって……
増上寺のセヒラは何かの間違いです。
一瞬だけ、値が高くなって――
飯倉いいくら一丁目から市電三番に乗ります!
ところで兄さん、知っていますか?
虹人こうじんさんは小説をお書きなんです。
帝都の事変を題材にするのだとか――
虹人こうじんさんのペンネームは、
確か……
白金しろかねこうと言います。
【着信 帆村ほむら魯公ろこう
風魔ふうま
梨央りおは無事のようだな!
それでは、
すぐ山王機関へ戻れ!
満洲からお客人きゃくじんだ!

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
おおお、戻ったな、風魔ふうま
こちらが満洲の実業家、
ナサニエル・カッツさんだ。
【ナサニエル・カッツ】
喪神もがみ風魔ふうまさんですね。
もうN計画についてはご存知ですな?
帆村ほむら魯公ろこう
概要ならうかがっております。
壮大そうだいな計画ですな、まったく!
【ナサニエル・カッツ】
私はN計画が首尾しゅびよく進むよう、
資金を提供するつもりです。
資金だけではなく――
必要とあらば情報もです。
いやぁ、私など小さな人間ですが、
それなりにコネクションもあります。
帆村ほむら魯公ろこう
ほう……
それは頼もしい限りですな!
で、計画はいつ頃、本格的に?
【ナサニエル・カッツ】
まだそれは申し上げられません。
レーネ女史じょしともよく話し合わないと。
帆村ほむら魯公ろこう
そのレーネじょうなんだが、
錦洲丸きんしゅうまるの乗船券を用意したのは
カッツさんですね?
【ナサニエル・カッツ】
ええ――今日の便を逃すと、
三ヶ月ほど先になります。
たまたま乗船券チケットを手配できました。
さて、私は他を回らなければ
ならないのです。
まずはお見知り置きのほどを――
帆村ほむら魯公ろこう
ナサニエル・カッツという人物、
どう思う、風魔ふうま
――信用できるか?
うむ……
漏洩ろうえいの容易な電報で、レーネじょう帰国の
話を伝えるなど……
わざと情報をらして、
こちらの出方を探っておるのかも……
試されておる気もするな!
レーネ嬢も横浜に向かい、
梨央りおも無事だった。
本特務はこれにて終了だ。

N計画は、満洲での利権をはらみながら、そろりと動き出そうとしていた。
帝都にもまた、その利権をねらう者があるのか?