とある工廠の噂

〔思念空間〕

【九頭幸則】
ゼットー博士の話によると、
風魔ふうまたちが降ろすは、
兵器をそなえている――
は兵器と融合ゆうごうしていて、
への攻撃は兵器にて行うのだ。
決して自然のものではないな。

は人の手で作られている――
俺はそう確信しているんだ。

だがその裏付けは何もない。
小石川こいしかわの東京工廠こうしょうや、王子おうじ火工廠かこうしょうにそれとなく訪問したが
何も怪しいところはなかった。

もしや、
大國屋おおくにやからんでいるのだろうか――
大國屋おおくにやのナナオセンジロウは、
まるで金属と会話するみたいに、
自由自在に切削せっさくできるんだ――
独逸ドイツのルガー銃を全自動に改造し、
周囲を驚かせたこともあったな……
しかも設計図もなしにだ!
でも……が扱えるかというと、
それは違う気がする。

帝都の何処どこかにあるはずだ、
隠された工廠こうしょうが。

豊原とよはら市街〕

麻美マーメイ
豊原とよはらで私が最も好きな場所、
それは樺太からふと神社です。
正しくは、官弊大社樺太神社かんぺいたいしゃからふとじんじゃ
出雲大社いずもたいしゃなどと並んで、
最も格式かくしきの高いおやしろなのです。

樺太からふと神社は豊原とよはらの東、
旭ヶ丘あさひがおか山麓さんろくに建ちます。
大きな鳥居とりいからは、
豊原とよはらの町を一望いちぼうできます。

私は秋の深まる頃、
朝早くに町をながめるのが好きです。
市中に立ち込める紫色のもや
家々の煙突えんとつからまっすぐにのぼる、
ルンペンストーブの煙――
遠く、豊原とよはら駅から、汽笛きてきが聞こえ、
りんと冷えた朝の大気をふるわせます。
愈々いよいよ、新しい一日が始まるのです。

【着信 喪神梨央】
豊原とよはらには赤軍せきぐん兵士が潜入しています。
連中は、樺太からふと奪還を企てています。
特別赤旗あかはた極東きょくとう軍と呼ぶそうです。
間宮まみや海峡を挟んだ樺太からふとの対岸、
ソヴィエツカヤ・ガヴァニに、
本拠ほんきょを置く、第四十八軍です。
皆、怪人化している様子です。
注意してください!

《バトル》

〔思念空間〕

【九頭幸則】
歩一の部隊に向島むこうじま出身の……
そう、山本だ、山本少尉がいた。

山本は荒川あらかわ蛇行だこうでできた、
出島でじまみたいな場所に、
妙な工場のあるのを見たという。
それは帝国モスリンの工場で、
三年前に竣工しゅんこうなったそうだ。
窓の一つもない巨大工場は、
煙突えんとつからせっせと煙を出すのに、
出入りする職工を見かけないのだ。
帝国モスリンは興亜こうあ毛織を買収ばいしゅうして、大きくなったんだ――

興亜こうあ毛織……興亜こうあ毛織……
そうだ、興亜こうあ毛織で思い出したぞ!

御用ごよう外国人が踏切ふみきり事故にった――
新聞の早版では波斯ペルシャ人技師だったが、
遅版では露西亜ロシア人通訳になっていた。

なぜ変わったんだ?
あの日、大雪で新聞の配達が遅れ、
早版はほとんど配達されなかったな。
波斯ペルシャ人だと何か都合つごうが悪いのか――
そういうことなのか?

鎌倉で起きたその事故のことは、
唯一ゆいいつ帝都日日ていとにちにちだけが報じたが、
その帝都日日は去年倒産した――