エリオット手稿

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AGK(あーげーかー)
組織の正式名称である「アーリア人とドイツの超越した歴史・文化がヨーロッパを実存化する」の各語の頭文字AGKDEAの最初の三文字を取り、AGKと呼ばれている。ナチSS親衛隊本部である褐色館ブラウネスハウスの地下を本拠とし、新型ホムンクルスの開発、セフィラの工業化などを手掛ける。所長はユルゲン・フェラー。かつてはローレンツ・クラウフマン博士の助手であったようだ。ちなみに帝都における連絡室はアーネンエルベ同様、独逸ドイツ大使館地下に設けられている。

アーネンエルベ
ナチ親衛隊が設けた秘密結社だ。正式名称を「独逸ドイツ先祖遺産古代知識の歴史と研究協会」という。大仰な名前はいかにもナチ好みだ。歴史の捏造には権威付けが必要ということだろう。
独逸ドイツ本国に先駆けて、日本に極東分室が設けられた。その理由にはセヒラの湧出や「ロッホ」の存在が関連するようだ。アーリア古代文明の証拠を探すためとはいえ、こんな極東の地まで足を延ばすとは、彼らの情熱――いや、妄念には恐れ入る。
アーネンエルベ海拉爾分局
(あーねんえるべはいらるぶんきょく)
北満海拉爾ハイラルに開かれたアーネンエルベの分局であり、SS親衛隊大佐フォスが直接指揮を執る組織だ。烏魯木斉ウルムチにあるとされる桃源郷「蟻掻痒感府ぎそうようかんふ」の発掘をその旨とする。

悪場所(あくばしょ)
悪い気が充満する場所のことだ。病傷の囚人を収容した江戸時代の品川めなどその代表である。こういう場所ではひときわセヒラが強いと思われる。
浅草今木(あさくさいまき)
浅草六区にある甘味処だ。この店の餡蜜あんみつは京風のこし餡を使う。新聞記者たちのたまり場にもなっている。看板娘の今木照いまきてるが切り盛りしている。店主は今木春世いまきはるよである。
浅草名劇座(あさくさめいげきざ)
聖林ハリウッド帰りの万条左門ばんじょうさもんが支配人を務めている。左門さもんは無声映画のスタアだった。「ダークメモリイ」のマイク・ヤマギタがハマリ役。トーキーの登場が彼から出番を奪ったのだ。
アストラル
無数の人間の息吹きが、心の願望が、肉体の匂いが、凝り集まっておぼろな命に蘇えった――帆村魯公ほむらろこうはこう称した。現世の人の思念が、セヒラに触れてぼんやりと形を為した、それがアストラルだと考えられている。
刷り込み(アプドロック)
ホムンクルスに記録した指示、またそれを香線こうせんに記録すること。水銀注射により刷り込みアプドロックは解くことが出来る。

アラヤ界(あらやかい)
おそらく阿頼耶識あらやしきのことと思われる。意識、那識なしきのさらに下層を成す、古今東西、あらゆる人間の行いや思念が蓄えられているとする場所である。唯識論的には、すべては阿頼耶識あらやしきから生じるとされている。
どの領域からアラヤ界と言えるのかはよくわからない。アラヤ界には人間の行いや思念がアストラル化して堆積している。そういう観点からすれば、阿頼耶識あらやしき「的」であるともいえる。
アラヤ回廊(あらやかいろう)
アラヤ界のさらに深い階層に存在する、思念やセヒラが無限に循環する回廊だ。古今東西、過去未来の別なく思念が流れ込む。「ロッホ」から通じるとされるが、それの在り処は今となっては知る者はいない。皆「堕ちて」しまっているためだ。

アラヤ門(あらやもん)
アラヤ界に繋がると考えられている場所だ。門とは比喩的な表現であり、おそらくは空間の歪みのような現象があるのだろう。実際にアラヤ界に行けるかは不明である。
有澤機関(ありさわきかん)
内務省特務機関で、防諜を主な任務とする諜報組織。その扱う内容から所轄は参謀本部第六課、欧州課となっている。興亜貿易を隠れ蓑としながら帝都に暗躍していたようだ。有澤機関所属のスパイの名前として挙がっているのが影森かげもり愁一しゅういちであるが、どうやらこれは偽名であるらしく、個人情報は数多の思念に埋もれて判然としなかった。

アルツケアン
太古の昔、北支に堕ちた隕石だ。独逸ドイツがそれを入手し、いち早く研究を開始していたようだ。それを得た者は願う存在になることができる。この現象を独逸ドイツのフンメル博士は論文でメントロピーという言葉で定義したようだ。しかし、身の丈を超えた能力はその者の身を滅ぼしかねない。これを得た者達にそれを御する能力があるかは疑わしいものだ。
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因須磨洲(いんすます)
省線富山から支線の先、二時間かけていった先にあるさびれた漁村だ。名物は斑鱶まだらぶか熟寿司なれずしだそうだ。支線の発車時刻が時刻表にあったりなかったりする、見る時々によって異なる、との噂が帝都にある。アストラルは何処にでも行けるが、因須磨洲いんすますにはいかない方がよい。仮令たとい、名物に興味があったとしても。
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ヴンダー
見るものと見られるもの、その間に成立する共犯関係を利用し、幻視――イリュージョンを成立させる方法を以て顕現させられた存在。柄谷がらたに生慧蔵いえぞうが自身の理論の正しさを証明するため、数多のものを犠牲にして創り出した。
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瑛山会(えいざんかい)
アラヤ門を管理する組織だ。聖宮成樹ひじりのみやなるき親王ほか、ナチ将校、独逸ドイツ人物理学者など、日独の関係者により設立された。ナチの秘密兵器「釣鐘」を山王ホテル地下に搬入、設置する秘匿任務を司った。
瑛山会の目的はアラヤ門の安定であり、帝都のセヒラそのものを管理することである。そのため、釣鐘の操作に詳しいようだ。しかし、その目的に関しては、一枚岩というわけでもないらしい。
エニグマ暗号
独逸ドイツのローター式暗号機の名前だ。きわめて複雑な換字式の暗号を作成することが可能。外交ルートを通じて日本、そして飯倉技術研究所に、その内容の記載された極秘文書と試作機が渡っている。

N計画(えぬけいかく)
満蒙にユダヤ人を入植させる計画のことだ。独逸ドイツで迫害されるユダヤ人を集め満蒙発展を促す構えである。旗振り役は大連ダイレン特務機関の中条なかじょう大佐と聞く。
満洲の地にユダヤ人社会が実現すれば、投資が集まりおのずから共栄の理念が実現する、との算段のようだ。しかし、満州権益を欲するがためにN計画の乗っ取りを企図する者が帝都にいるようで、関係者は緊張を深めている。
F基金(えふききん)
N計画に先立ち設けられた基金で、運用総額は一七〇〇万円。ユダヤ人豪商らからの出資だそうだ。運用担当は藤沢レーネである。利回り二桁というから凄腕の運用者なのは確かだ。
N計画が動くとき、F基金も日の目を見る手筈となっているようだ。その一方、実業家重岡さねおか圭馬けいまのゴエティア偽典蒐集にも資金提供を行っているとの噂がある。
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大國屋機械社
(おおくにやきかいしゃ)
奉天ホウテンの錠前屋であるナナオセンジロウが第一台場に開いた兵器しょうだ。可変口径砲や連射ルガーなどを開発。一方で密かに開発兵器の横流しをしていると聞く。
ナナオセンジロウの腕前は確からしいが、変人っぷりもなかなかのものらしい。この店は第一台場にあるが、何もない台場の真ん中にぽつんと看板建築の建物が立っており、強烈な存在感を放っていた。
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K体(かーたい)
独逸ドイツの錬金術師ローレンツ・クラウフマンによって精製された万有物質プリマテリアル。クラウフマンの頭文字であるKよりその名をとった。きわめて微細であり、その大きさは一億分の八ミリである。当初はわずか二秒半で完全崩壊した。ホムンクルスの香腺こうせんを作るのに用いられている。

怪人(かいじん)
じんかれることで、人間離れした怪力を得て不死身の存在となった者のことだ。憎しみを宿したり、心に隙をこしらえるとじんかれ易くなるという。怪人はやがてじんに霊魂を吸われてしまうらしい。
怪人に銃弾などは効果をもたない。不死身の存在となると食事も睡眠も不要となるようで、怪人の一派は夢遊病者のように出歩いてその身に宿した憤りのままにその怪力を行使する。
廓清(かくせい)
山王さんのう機関では、怪人から魔神をはらうことをこのように呼称するようだ。憑依ひょういが浅い場合は廓清することができるようだが、そうでない場合は人間には戻れず……セヒラと化してしまうようだ。

カグツチ
清正公せいしょうこう前、白金しろかね上空に現れた光球。それを崇める市民たちがカグツチ、とこれを呼び始めた。山王さんのう機関ではセヒラ球と見ており、観測データから中には月読つくよみ麗華れいかがいると判じられたようだ。セヒラの特異点に発生し、付近の人を異界へと呑み込んでしまうようだ。

仮構(かこう)
人々に、あるものを別のものに認識させたもの、またそのように仕向ける力のことだ。詳しいことは解っていないが、自由サーベラス学園や東京ゼロ師団の者は、この力を認識しているようだ。個人的には仮構の力の裏には悪魔的なものの存在を感じるが……実態はどうなのだろうか。大変興味深い。

(かじか)
式部丞はセルパン堂の戸に芭蕉ばしょうの句をしたためたクリスマスカードを挟んで姿をくらませた。その句とは、
いさり火に かじかなみの 下むせび 
             芭蕉ばしょう
さて、式部丞とはいったい何者であろうか?

褐色館(かっしょくかん)
ナチ党本部の建物だ。建物全体が褐色をしていたことからこう呼ばれる。竣工直後の写真を見たことがあるが、何の変哲もないビルヂングであった。
通称「ブラウネスハウス」。その地下にはAGKと呼ばれる組織の本拠があるようだ。
ガド一族(がどいちぞく)
失われたユダヤ十支族の一つとされている。私の知るところによれば、ガド一族に霊異りょういの発現は見られない。霊異りょういが認められるのはマナセ一族であるとの報告もある。
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汽車時間表(きしゃじかんひょう)
鉄道省が編纂した列車時刻表だ。喪神もがみ梨央りおが愛用するのは昭和九年十二月号。同年、丹那トンネルの開業で、大幅なダイヤ改正があった。特急つばめでは東京大阪間が二十分短縮された。
汽車時間表に関しては、興味深い噂がある。現れたり消えたりする汽車線があるらしいのだ。その名も因荒いんこう線。その終点には因須磨洲いんすますという漁村がある。
蟻走痒感府(ぎそうようかんふ)
亜細亜アジアにあるという桃源郷のことだ。地下にあり、蟻と共生する民が暮らすという。その民の肌は透けるほどに白く、最も肌の白い者が統治者カーンとなる。アーネンエルベのフォス大佐はこの話を信じ、海拉爾ハイラルに分局を開設した。
銀座幻燈会(ぎんざげんとうえ)
銀座にて開かれた幻燈げんとうを鑑賞する会だ。主催は小石川所在の帝国幻燈倶楽部。それだけを聞くと、単なる風流好みの懐古趣味のようであるが、その参加者が怪人化するとの話が帝都に流布したとなると変わってくる。人の発想、特に悪事に関するそれは時に蓄積された知識をも上回るものだ。
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久遠流(くおんりゅう)
如月鈴代が講師を務める茶道流派だ。神降ろしの秘術として長い歴史を有す東雲しののめ帰神きしん法と何らかの接点があるようだが、詳細は不明だ。

グランナイツ
アメリカにあるユダヤ人結社だ。率いるのはアイザック・ハリス将軍。山郷やまごうはグランナイツに働きかけ、十支族の末裔探しを試みるが、相手もさる者、のらりくらりする。さしもの山郷やまごうも業を煮やしたようだ。
大型波動(ぐろーさべっれ)
広範囲にわたり、一時にホムンクルスの自律係数を引き下げる波動。フェラー博士によって開発された。この波動を用いることで全ホムンクルスに攻撃指令を出すこともできる。濃縮セヒラの発するセヒラ光を鏡で反射させることにより凝集した光を一時に放つことで発するようだ。しかし、ホムンクルスにダメージを与える危険性があるため、基本的にその実用化は慎重に動いているらしい。

黒頭巾団(くろずきんだん)
猟奇倶楽部の高位会員たちの一派。揃いの黒頭巾を被っているためか、黒頭巾団と呼ばれている。猟奇の中でも特に食人に傾いていたようだが、このところは専らホムンクルスの香腺こうせんを食すことに夢中になっているようだ。
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ゲート
安定稼働させるためにアラヤ門に手を加えたのがゲートだ。独逸ドイツでは部屋カンバーと呼ぶ。仏蘭西フランスではシャンブルだ。英語圏では単にホールと呼ぶ場合が多い。日本では伝統にならい、鳥居の意匠を採用している。
幻影城
流行作家の江戸川乱歩が西池袋に建てた土蔵であり、乱歩は書庫兼書斎として使っている。
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興亜日報(こうあにっぽう)
新京シンキョウに本社を構える新聞社。東京支局は内幸町の誠和ビルヂング四階にある。小所帯に熱血記者、新山和斗にいやまかずとが詰めている。和斗は技師新山眞にいやままことの実弟だ。
興亜貿易
麹町こうじまち三番町にある貿易会社。その実態は有澤機関の隠れ蓑だ。有澤機関は内務省の特務機関で、防諜を任務とするスパイ組織だ。機関長は井本明徳いもとあきのり中佐、構成員に影森愁一かげもりしゅういちがいる。この影森というのもおそらくは偽名だろう。

皇紀(こうき)
神武じんむ天皇が即位した紀元前六六〇年を紀元とする日本の元号だ。世界には西暦以外にも、ユダヤ暦、イスラム暦、タイ暦などがある。世界は必ずしも一つではないのだ。
香腺
ホムンクルスに備わる指示を記憶する器官。人間の脳に近いが自発的な思考能力はなく、擦り込みアプドロックを記録することのみ行う。また、香腺こうせんに水銀注射をすることで記録を消し、刷り込みアプドロックを解く。硫酸に溶かすと模様が現れ、そこから刷り込みアプドロックの内容を把握することもできるそうだ。万有物質プリマテリアルであるK体を用いて作られるらしい。

強夢(ごうむ)
物に妄執するうちに、その物に姿が変わってっしまった人間のことだ。市松いちまつ人形、日本人形、フランス人形、ビヤドロ人形、また車や市電の事例も報告されている。強いセヒラの影響かと思われる。
その名前の由来は大正期の作家、野水のみず夢走むそうにある。かつて、野水の作品「強キ夢」内に描かれたような事件が実際に起こり、巷間を騒がせた。その件から新聞の取材を受けた野水がその現象に強夢という名前をつけたそうだ。
公務電車(こうむでんしゃ)
山王さんのう機関の公務出動に用いられる400系市電。2軸単車の旧型だが、機関員の安全を考え、装甲が施されている。山王さんのうの丘のどこかに車庫があるはずだが、その存在は秘匿扱いだ。
ゴエティア偽典(ごえてぃあぎてん)
ソロモン72柱の悪魔を召喚する術がまとめられた古書だ。しかし帝都にあるのは偽典というではないか。誰かが何かの目的で手を加えたに違いない。偽典は複数あるとされている。
国立防疫研究所
(こくりつぼうえきけんきゅうしょ)
「国立」をかんするが、どうも国とは無関係なようだ。罪人の魂を喰わせて人由来のじんを作るといった噂も漏れ伝わる。今後、継続して観察が必要であろう。
ゼームス師団、東京ゼロ師団が所轄であるらしい。品川のゼームス坂にあるらしいが、そこにはそれらしき師団も建物も存在しない。……何らかの力の影響が及んでいるようだ。
九つの予言
淀橋よどばし浄水場の土手で保護された芽府須斗夫めふすとお。彼が自失状態から回復中に語る内容が、式部丞らにより予言と認定された。予言は全部で九つあるらしいが、詳らかなのは五つ。予言を繋ぐと破壊と創世の筋書きが浮かび上がる。

古式東雲流(こしきしののめりゅう)
平安時代には既にあったとされる東雲しののめ流。その源流に近い流儀を古式東雲しののめ流と呼ぶようだ。古式東雲しののめ流は、魔神ではなく神を降ろす術に特化した流儀であり、ときにその神々は顕現したという話が伝わっている。

牛頭会(ごずかい)
霊異りょういを封じられた東雲しののめ流の残党が、なんとか力を取り戻そうと組織した会だ。審神者さにわとしておうを持つ者は少なく、殆どは怪人となり憎しみを発散する、まるで社会憎悪の塊である。
牛頭機構(ごずきこう)
牛頭ごず会に参加する連中が市ヶ谷刑務所の囚人らを扇動し、牛頭ごず会を改組したのが牛頭ごず機構だ。名前だけは立派だが、中身はじんかれた怪人の寄せ集めに過ぎない。
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審神者(さにわ)
この神降ろしの秘術が日本に残っていたとは、実に感嘆すべきことである。古来より神憑かみつきを審判する秘術、それが執り行われた場所がにわ、つまり狭い庭であったことから審神者さにわを「さにわ」と称するに至ったのだ。
山王機関(さんのうきかん)
陸軍第一師団第一連隊に附属する特務機関である。帝都で頻発する怪人騒動に応るべく設立された。神降ろしの異能を誇る審神者さにわが招聘されて、霊異りょういと科学の融合により帝都の治安を維持する。機関長は陸軍大佐刑部一心おさかべいっしんである。
その設立は柄谷がらたに博士が提出した「じん戦実施計画綱領」に基づいている。その地下には独逸ドイツより「釣鐘」と呼ばれる機械が搬入されており、その機械では帝都に湧出するセヒラ量をある程度統御することができるようだ。おそらくは、この「釣鐘」とそれにより管理されるアラヤ門の存在がために、山王さんのう機関はこの地に設けられたのだろう。
山王ホテル(さんのうほてる)
山王機関が本部を構える場所だ。本部は地下深くに設けられ、一般市民の知る由はない。ちなみにホテル利用客の半数以上は西洋人である。
参謀本部第八分課
(さんぼうほんぶだいはちぶんか)
市民から怪人情報を受け付ける部署、通称ハチブン。面白半分で情報を寄越すものも一定数いたようで、係員が手を焼いていたようだ。
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志恩会(しおんかい)
日本に渡来した古代ユダヤ支族を調査する目的とし設立された組織だ。米国のユダヤ人結社と密に連絡を取るが、必ずしも利害が一致しているわけではない。京橋区の鍛冶橋かじばしに事務所を置く。
思念増幅器(しねんぞうふくき)
新山にいやままことの製作した機械だ。鬼龍きりゅう豪人たけとの情報が月読つくよみ麗華れいかに渡らないようにするため、三台の思念増幅器を用いて清正公せいしょうこう前のセヒラ球を囲み結界を作った。思念増幅器に囲まれた空間内の思念を増幅し、その結果生じるノイズにより流通思念の内容が確認出来ないようにするのを意図してのことだった。

東雲流帰神法
(しののめりゅうきしんほう)
鎌倉時代より伝わる審神者さにわの秘術だが、霊異りょういの断絶があからさまになり、流派を閉じることになった。宗主は如月宗達きさらぎそうたつ、その娘の鈴代すずよの代に至り、流派は完全に閉じられた。その流派は村魯公むらろこうが主宰する帆村ほむら流に受け継がれた。
渋谷憲兵大隊(しぶやけんぺいだいたい)
渋谷憲兵分隊を大幅に強化してできた隊だそうだ。玉川電車の道玄坂どうげんざか上駅のすぐ側に立派な本拠を構えている。しかし、東京憲兵隊とは別組織のようであり、もしかすると憲兵分隊を名乗ってはいるが憲兵隊とは何の関りもないのかもしれない。全人員が憲兵特高課である、というのも変な話だ。

自由サーベラス学園
アメリカに本学のある魔法学校。セヒラが湧いた帝都に分校を設けたようで、鈴蘭女学院の中庭にその本拠がある。教師、生徒ともに六人のみの極めて小規模なものであるが、これは魔女集団の基本であるコヴェンを模したものであるためらしい。星辰せいしん魔法を中心に、様々な魔術を学んでいるようだ。学園長はチャールズ・ブレナン博士。鈴蘭女学院関係者は仮構かこうのために学園のことを歴史研究所と勘違いしているようだ。

(しゅたいん)
ホムンクルスの稼働の際に必要となる部品の一。やや曇った球体状の水晶で、内側に金糸のような繊維状の晶癖が確認できる。独逸ドイツの錬金術研究成果である「賢者の石」とセヒラを反応させてできたものを精錬して作られるそうだ。

召喚師(しょうかんし)
独逸ドイツのトゥーレの館にて継がれている悪魔召喚の術を受け継ぐ者のこと。欧州の魔術体系内に属する秘儀を用いる。マイスタークラスの召喚師は、審神者さにわの免許皆伝と同程度の人数しか存在しないそうだ。

召神器
山王さんのう機関の帥士すいしたちがじん指揮盤を用いてじん召喚を行うためには、その波形を予め登録しておく必要があるようだ。その原理をかいつまんでまとめると、登録した波形を元に、帥士すいしの霊力を用いて帝都に蔓延するセヒラの中から該当じんを呼び出す、というもののようだ。じん召喚を安定化させるための涙ぐましい努力がその仕組みには感じられる。

人生よろづ相談
(じんせいよろずそうだん)
悩み事相談に応えてくれるサービスだ。新宿、銀座、神田、上野の四カ所に相談所があり、電話予約して訪問する。京橋(三五)「福呼ぶ」が宣伝文句である。
新文民社(しんぶんみんしゃ)
文民社に属する社会人らが離反し結成した新団体。立ち上げたのは韮山にらやま儀礼ぎらい。話せばわかる穏健派を名乗るが、内務省スパイの影森によって瓦解した。

人籟じん
普通のじんはある程度の時間をかけて憑依者の魂を喰らい尽くすが、人籟じんらいじんは憑依するや否や、その魂を喰って誕生する。憑依者を予め痛めつけておくことで可能になるようだ。こうして生まれた人籟じんらいじんは、通常のじんに比較して召喚者の命によく従う。おそらくは喰われた憑依者の魂が、じんに何らかの影響を与えているのだろう。

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帥士(すいし)
じん憑依ひょういされることなくじんを操れる秘儀を備える異能者だ。審神者さにわ、召喚師、いずれもすいである。帥士すいしであっても油断すればじんかれ、神経をおかしくするだろう。
スターヴ
ルーン文字を組み合わせた文様のことだ。この文様を用いて儀式を行う場合もあると聞く。帝都のトゥーレの館にて執り行われた「染化ファーブストッフ」の儀式もこれに類するものだろう。

スワスティカ
鍵十字の事である。多くの場合、太陽の動きを示す記号として解釈されるようだが、一説には四季ごとの北極星と北斗七星の位置を図に記録した時にこの図が浮かび上がるとされ、極とその周囲の星々による運動の象徴とみなす向きもある。
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青山ホテル(せいざんほてる)
第三連隊に招かれた独逸ドイツから帰国した鬼龍豪人きりゅうたけとが投宿しているホテル。青山通りを少し入った、梨本宮なしもとのみや邸近くにある。南仏風の建築様式を取り入れている。
聖日信教(せいじつしんきょう)
本所区菊川きくかわに本社を構える神道系の新興宗教。教祖の大絹真砂湖おおぎぬまさこは、噂によると京都の瑛山えいざん会に名を連ねているという。強力な霊力を備える巫女、神子柴みこしばはつゑが教義に反した行動を取り、自ら神生みを行う。
本社は本所業平橋なりひらばしの近く。
星辰魔法(せいしんまほう)
天体や星々の力を用いて、人や物にその要素を付与する儀式を中心とした魔法。自由サーベラス学園ではこの魔法を中心に教育を行っているようだ。

ゼーラム525
ナチが開発した秘密兵器、釣鐘に使われているという物質。錬金術の成果である「賢者の石」を精錬することで生成される。霊性をそなえた物質であると考えられる。

絶界マテリアル
(ぜっかいまてりある)
帝都に噴出するセヒラによって凝固した物質である。金絋石きんこうせきなど、江戸時代の奇石収集家、木内石庭きうちせきていが命名した石が含まれている。じん強化に絶界マテリアルを用いる。
篆刻の世界では幻石と呼ばれ、篆刻師ならば誰しも一度は手にしてみたい石である。
セヒラ
帝都の方々から吹き出す「瘴気しょうき」のような気。独逸ドイツのユンカー博士がこれを同定した。生命の樹のセフィラに因む命名だ。セヒラには古今東西、人間のあらゆる思念が含まれるが、憎しみや恐怖といった負の感情が力を持つとされる。
セヒラ探信儀(せひらたんしんぎ)
東京市内六ケ所に設置された大型のセヒラ探信儀。昭和七年に京大物理学者の柄谷生慧蔵がらたにいえいぞうがまとめた「じん戦実施計画要領」に基いて計画が遂行された。設置順に一探いちたん二探にたんなどと呼ばれている。

携行式探信儀のセヒラ感極管には、当初露西亜ロシアのベリンスキー製の真空管が用いられていたが、帝都のセヒラ波形の多様さに対応するため帝國電工にて新型真空管の開発が進められた。霊式ヘテロヂン生成時に波形干渉を起こす恐れがあるためだ。結果、山王さんのう機関の携行式探信儀には最新型のR5型真空管が用いられている。

セヒラ通心機(せひらつうしんき)
セヒラ探信儀の技術を用いて開発された、思念レベルでコミュニケーションが取れるという装置で、まだ試作段階だという。心を通じさすので「通機」と呼ぶ。開発したのは飯倉技研の新山眞にいやままことである。
セヒラ特異点(せひらとくいてん)
観測セヒラ波形の内に特異なものが確認される場所の事。多くの場合、特異点の周囲ではセヒラ濃度が異様に高まり、セヒラ異常がしばしば観測されている。

セヒラ歪振器(せひらわいしんき)
設置場所周辺、及びそれに対応する地域のセヒラの歪みを打ち消す装置。これにより、微弱な波形も感知しやすくなり、それにより特異点の在り処が明瞭になる。

セルパン堂(せるぱんどう)
四谷よつや区の塩町しおまち電停前にある古書店で、店主は帝大哲学科を卒業した式部丞しきべじょう。セルパンとは仏語で蛇のこと。知識人向け雑誌『セルパン』に由来しているという。
一九三五年
(せんきゅうひゃくさんじゅうごねん)
帝都東京は関東大震災から不死鳥のように復興を遂げたのだ。まさに世界の奇跡である。近代的なビルが立ち並び、人々は、キネマにカフェとモダンライフを満喫する。
先帝祭(せんていさい)
大正天皇崩御ほうぎょの日であり、国民を挙げて先帝を偲ぶ日だ。しかし当日が12月25日とあって、帝都ではクリスマスムード一色。早12月の声を聞くとクリスマス商戦が始まり、この帝都は喧しさを増すのである。
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帥先ヤ(そっせんや)
悪意をたぎらすと無敵の怪人になれるという噂が広がり、怪人を目指す連中が登場する。新聞は連中を帥先そっせんヤと呼び始めた。牛頭機構ごずきこうの構成員や死ぬ死ぬ団、黒頭巾団なども帥先そっせんヤだ。人生相談にも帥先そっせんヤが関わっているようだ。
ソロモン72柱
(そろもん72はしら)
かつての古代ユダヤ王国にあって権勢を誇ったソロモン王の時代、土着の神々をすべからく悪魔へと堕としたのである。その数72柱。豊穣神バアル神もバアルゼブブ、蝿の王などと読み替えられ、さげすみの対象となったのだ。
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大東京市三十五区
(だいとうきょうしさんじゅうごく)
昭和七年、豊多摩郡とよたまぐん渋谷町が編入されて、東京は全三十五区となった。この時、名称として大東京市が採用された。都市の名称に大の字を冠するなどなかなか洒落の利いた役人がいるようだ。
大連特務機関
(たいれんとくむきかん)
満蒙の地にユダヤ人を入植させるN計画を指揮する特務機関だ。機関長は中条なかじょう大佐、実務に当たるのは娘の中条忍なかじょうしのぶ嬢である。大連ダイレン連鎖レンサ街にある洋品雑貨商金森洋行の二階に本拠を置く。
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合焦(ツイール)
離れた場所にいる相手であっても、魔神戦を戦うことのできる能力。審神者の流派にはないもののようで、アーネンエルベに出向した帆村ほむら虹人こうじんが身につけたのが日本では最初である。

釣鐘(つりがね)
ナチが開発したとされる秘密兵器。その外観から釣鐘と呼ばれている。ゼーラム525という物質を用いた量子兵器とされる。釣鐘に高電圧をかけてアラヤ門を安定させているという。独逸ドイツ語ではDieGlockeという。
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帝大西亜細亜研究室(ていだいにしあじあけんきゅうしつ)
山王さんのう機関では、ゴエティアの偽典が見つかるたびにこの研究室に持込み、鑑定を依頼している。研究室の主はつた博士。鑑定術は確かだが、どこかとらえどころのない人物である。
帝都事変(ていとじへん)
皇紀二五九五年(昭和十年、一九三五年)の春頃から起きた一連のじん騒動、陸軍、ナチの秘密結社を巻き込んだ帝都攻防戦、そして同年十二月に起きた天地開闢の大異変をまとめて帝都事変と呼ぶ。

帝都満洲(ていとまんしゅう)
帝都の下層に展開する異界。南満洲鉄道の路線図に似た形状の路線が延伸している。そして赤坂や青山といった帝都の街に照応する場所に満洲の地名を付した街区が形成されつつある。
下層とはいえど、それは思念上のことである。さらにその下には阿頼耶識あらやしき――アラヤ回廊が位置している。見方によれば帝都にセヒラが噴出するのを帝都満洲が阻んでいたともとれるが、詳細はよく解っていない。
帝都満洲鉄道
(ていとまんしゅうてつどう)
帝都満洲に伸びる鉄路。まるで南満洲鉄道を転写したかのように、帝都の下層に展開している。満鉄同様パシナ型機関車が運用されているが、その動力は全く不明である。
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東亜文化調査局
(とうあぶんかちょうさきょく)
極東からユーラシア大陸を経て遥か中東まで見通しながら調査している。局員として李景明リケイメイが在籍する。彼には蒙古の草原のような広々とした世界観を感じる。
対外的な名称は前記のとおりだが、その内実は満鉄調査部という名の満州国の情報統制、スパイ活動を行う機関だ。東亜政治調査局の姉妹組織である。日本におけるN計画の中心であり、大連特務機関や志恩会の連絡拠点でもある。満鉄東京支社内に本部が存在する。
トゥーレの館(とぅーれのやかた)
独逸ドイツにある召喚師養成のための秘密結社だ。仮面の総裁、リヒャルト・フィンケがべている。悪魔礼賛を旨とする異端集団というのが日本側の見解である。
髑髏どくろと聖槍を用いた秘法伝授により、生まれ変わりを体験したものがマイスターとなる。より重要度の高い儀式においては、ナチがアーリア人の起源の一と見ている北欧のルーンを用いることもあるそうだ。
東京ゼロ師団
(とうきょうぜろしだん)
東京0師団、通称ゼームス師団。品川のゼームス坂に師団本部があるとされるが、現地には高い塀に囲まれたレンガ造りの倉庫があるのみだ。実態は定かではなく、さらなる調査が必要だ。
確認されているだけでも、国立防疫研究所、憲兵隊、…などの所轄の組織とされている。その規模は尋常でないが、さらに驚くべきはその構成員の殆どが怪人であるという点だろう。
東京黙示録
芽府須斗夫めふすとおがすべての「予言」を語り終えたとき、式部丞はそれらをして東京黙示録と命名した。まさに世界の終末と創生について語られていたからだ。

特務機関(とくむきかん)
正規の作戦以外の、諜報や破壊工作など、特殊任務を受け持つ組織である。陸軍所属の特務機関が多いが、中には組織から独立した機関もあるようだ。
ドッペルゲンガー
実に興味深い事象だ。自分の分身の存在。これは生霊いきりょうとも違い、直接、対面することがあるというのだ。分身に会った人の話では、外見は自分と全く同一ながら、分身には何ら感情がない様子だったという。セヒラの影響、検討要す。
戸山陸軍軍医学校
(とやまりくぐんぐんいがっこう)
衞生えいせい豫防醫學よぼういがく』という講演集に、瘴気しょうきに侵された患者の神経を研究すべしという講演がある。演者は戸山の医師だ。その論調に闇を見たような気がする。医術の道も魔術と紙一重。今後、しかるべき観察が必要である。
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中野哲学堂(なかのてつがくどう)
井上円了えんりょうによって創設された哲学的世界観を具現化した公園だ。ソクラテス、カント、釈迦シャカ、孔子を祀る四聖堂をはじめ、哲理門、六賢臺ろっけんだい髑髏庵どくろあん、宇宙館など風変わりな建物がある。見当識けんとうしきを失いそうな場所なのは確かだ。
納音(なっちん)
陰陽五行から導いた生年月日の属性だ。一九一一年五月十五日生まれの喪神風魔もがみふうまなら、泉中水せんちゅうすいとなる。水属性の色は黒であり、それが黒ノ八号帥士すいしという符号の元になっている。
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猫の次男会(ねこのじなんかい)
徳次郎をはじめとする、次男としての名を持つ猫の集まりらしい。帝都の心に隙間のある人に憑くことでその隙間を埋め、怪人化するのを防いでいる。しかし時折はじき出されてしまったりもするようだ。
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能楽丸(のうらくがん)
宿願達成、本邦最初に腎胞ホルモン合成!を合言葉に、帝都に広く流布した神経薬だ。奉天医科大学神経科教授、田中一郎博士が発明したらしい。発売元は刀圭堂とうけいどう薬局。脳内明快、心身爽快、見通抜群!と、服用者が楽しげにしているのを見ると、一体どのような心持になるのか、少なからず興味が湧いてくる。
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白系露西亜人(はっけいろしあじん)
満鉄あじあ号には白系露西亜ロシア人の女給が乗車している。ここで言う白系とは革命側の赤系に対する旧有産階級のことで、多くが露西亜ロシア革命後に祖国を離れた。日本にも東京や神戸を中心に白系露西亜ロシア人が暮らしている。
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日枝神社(ひえじんじゃ)
比叡山ひえいざんの山岳信仰を受けて成立した山王さんのう信仰。その大元が日吉ひよし大社、それを東京に勧進したのが日枝ひえ神社だ。日枝ひえ日吉ひよし、ともに同じ信仰。思えば、江戸、東京は、鬼門きもん東叡山とうえいざん裏鬼門うらきもん日枝ひえ神社と、二つの叡山えいざんに護られている。
美少年倶楽部(びしょうねんくらぶ)
銀座にある美少年倶楽部。しかしその実は、独逸ドイツフォス大佐の来日に伴って来たユーゲント型ホムンクルスたちの店である。客は年配の男性が多いようで、金髪碧眼のユーゲントたちを侍らせて楽し気に歓談、時には演劇の真似事などをしているらしい。

比類舎(ひるいしゃ)
アナーキズムを推す集団。発起人は御厨みくりや車夫しゃふ。「破局革命」と銘打って、セヒラの奔流を帝都に流すことを企図したが、御厨の優柔不断により失敗し、そのまま瓦解したようだ。

廣秦文書(ひろはたもんじょ)
千年以上前に日本に渡ったガド一族の末裔である廣秦ひろはた家、そしてその系譜である鹿島家に伝わる文書。その中にはマナセ一族に関する記述があり、それによるとマナセの裔は終末の日が近づくと自ずと救世主として現われ神の国を完成させる、とのことだ。このマナセ一族は如月家ではなく、より古代、六世紀初頭に日本に渡来した人々を指す。
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黒幇(ふぇいぱん)
大連ダイレンに本拠を置く秘密結社。領袖は召喚師の周天宇ジョウテンユウである。彼自身、トゥーレの館出身だ。日支人の融和を図る趣旨で設立された、大連日支ダイレンにっし協会を隠れ蓑にしている。

フェラーの法則
錬金術と科学の融合より生まれた膨大な方程式から成り立つ統合理論。そのうちで最も有名なものが超低温、真空状態にて、セヒラは五億倍という高濃度に凝縮できることを示す法則である。また、そのうちの重要な式の一つに、フェラー還元方程式がある。検証が十分になされたとは言い難いため、方程式すべてが正しいかは不明だ。

文民社(ぶんみんしゃ)
葛城かつらぎ素朴そぼくの革命思想を受け継ぐアナーキストの集団だ。相互依存の共産主義を社会に齎そうと画策し、赤門出版会から「秋毫しゅうごう」というタイトルの雑誌を出版している。しかし、特高の内定に内部対立もあり、なかなかその活動は順調とは言えないようだ。
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帆村流帰神法
(ほむらりゅうきしんほう)
東雲しののめ流より派生して、帆村魯公ほむらろこうが完成させた神者にわの流派である。より攻撃力のあるじんを召喚できるとして、第一連隊に請われて帆村魯公ほむらろこうを隊長に山王さんのう機関が設立されたのだ。
ホムンクルス
独逸ドイツ的錬金術の賜物、蒸留器の中に生成される人造人間のことだ。アーネンエルベはホムンクルス製造に成功したと聞く。その完成度次第では、人造怪人の量産が可能となる。
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マ号兵器(まごうへいき)
じんを兵器化しようという研究だ。陸軍登戸のぼりと研究所に専用の班が組織されたが、じんじん同士が戦うのであって、じん自体は脅威には成り得ない。やがて研究は縮小されたと聞く。
じん(まじん)
元は悪魔である。その悪魔に兵器を持たせたところにじんたる所以がある。いったい何故兵器を備えるに至ったのか、何者かの思惑が働いているのか。私には人の悪意が介在しているように思えてならない。
じん工廠
兵器と悪魔の思念を融合してじんを製造するとされている施設だ。強いセヒラの影響があるようだが、詳しいことは解らない。実体が仮構であるとするならば、東京ゼロ師団との関りがある可能性も無視できない。

じん指揮盤
山王さんのう機関で用いられている魔神を指揮するための道具だ。銀河研究員手製のそれは無線機もそのうちに備えているようだ。

真名井真鏡(まないしんきょう)
真名井まない神社に納められている魔鏡である。如月きさらぎ家の宝物だという。失われた霊力を復活させるために用いたのがゼーラム525だ。この組み合わせの妙味が、魔鏡に力を戻したのである。その意味ではナチの功績と言えなくもない。
真名井神社(まないじんじゃ)
京都、宮津みやづにある神社だ。元伊勢、この神社の奥の宮である。高天原たかまがはらからもたらされたとする名井ないの霊水がつとに有名だ。如月きさらぎ家ゆかりの社という。久志濱宮くしはまのみやとも呼ばれている。
マナセ一族(まなせいちぞく)
失われたユダヤ十支族のひとつとされる。中でもマナセ一族には霊異りょういの発現があるとされるが、純血ではなく女系に受け継がれた血脈が大切なのだ。如月きさらぎ家は鈴代すずよの父、宗達そうたつの代で女系は途絶えている。
満洲国(まんしゅうこく)
一九三一年の満洲事変をきっかけとして、日本の関東軍が権益を拡大。翌三ニ年、関東軍主導地域が中華民国から独立を果たした。初代皇帝は愛新覚羅溥儀アイシンカグラフギだ。満蒙マンモウの地は日本の生命線となっている。
満鉄映画社(まんてつえいがしゃ)
植民地を首尾良く収めるには、娯楽とスポーツが欠かせない。満鉄映画社もその伝に則っているのだろう。だが満洲は独立国家であって植民地ではないというのが公式見解だ。
満鉄パシナ型機関車(まんてつぱしながたきかんしゃ)
満鉄特急あじあ号を牽引する機関車だ。流線型の車体、巨大な動輪。最高時速百粁で満洲を駆ける。あじあ号の運行は、一九三五年九月には大連ダイレン新京シンキョウ間が哈爾浜ハルピンにまで延伸となった。
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御蔭神社(みかげじんじゃ)
長野県大鹿おおしか村にある神社。ニ〇年ほど前から無人である。この社、真名井まない神社と日枝ひえ神社を繋ぐ線、そして中央構造線の交点に建つことで、意味を見出す動きがある。下鴨しもがも神社の摂社である京都の御蔭みかげ神社との関係は尚も不明だ。
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夢玄域(むげんいき)
夢玄器むげんきによって生み出された仮想的世界を、夢玄域むげんいきと呼ぶ。夢玄域むげんいきに現れるのは、思念化された人物に由来する場所。例えば九頭くず幸則ゆきのりなら四谷塩町尋常小学校といった按配だ。
夢玄器(むげんき)
銀河ゼットー博士が完成させた仮想空間を生み出す装置だ。アラヤ界から身近な人物の思念を吸い出し、その人物を思念化して表示させる。またその人物にゆかりのある場所も表出させる。
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メジアン
伝承には読み替え、読み違えがつきものである。当時の朝に詳らかになった託言の言葉「麻師亜メシア」がメシアと読み違えられた。無理もないだろう。「麻師亜メシア」とはメジアン、つまり中央構造線のことであったのだ。この中央構造線の東端には鹿島神宮が座す。我が先祖もこの地に至った折、その名にあやかって姓を変えたのだろう。

メフィスト
錬金術師にして学者のファウストが己の魂と引き換えに呼び出した悪魔だ。メフィストフェレスという。帝都事変では芽府須斗夫めふすとおがメフィストそのものであるようだが、何か不都合があって書生のなりをしていると憶測される。
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妄築(もうちく)
上野公園に一夜にして東京大正博覧会の会場が現れた現象を、興亜日報記者新山和斗が見てこのように名付けた。彼は浅草十二階が突如帝都に現出したのと同じ現象なのではないかと踏んでいるようだ。
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蘭暁梅(らんしゃおめい)
満鉄映画社の女優。浅草で封切られる『紅楼こうろう』で薛宝釵セツホウサ役を演じている。林黛玉リンタイギョクを演じた麻美マーメイとともに舞台挨拶のために来日。舞台挨拶の後、麻布にある永井荷風ながいかふう偏奇館へんきかんを訪問、だがその後の足取りはようとして掴めない。
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陸軍飯倉技術研究所
(りくぐんいいくら
 ぎじゅつけんきゅうしょ)
セヒラの波形化に成功した技師、新山眞にいやままことが所属する研究所だ。新山技師は軍属の身ながら、かなりの予算を取ると聞く。セヒラ探信の技術が山王さんのう機関を支えているのだ。飯倉いいくら技研は麻布いち兵衛町べえちょうにある。一見、普通のビルヂングだ。
陸軍王道派(りくぐんおうどうは)
陸軍第一連隊の主流派である。王道、つまり真のことわりにより世界をべることを旨とする。力で統べる覇道とは対極を為す。陸軍王道派は、何より理性を重んじる会派である。
陸軍玄理派(りくぐんげんりは)
玄理げんりとはよくわからない理屈のこと。陸軍第三連隊の一部急進派には、玄理げんり主義を掲げて沙汰の限りを尽くそうという動きもある。怪人騒動はそんな連中に油を注いだ格好となった。
逆相波形(リバースファーズ)
独逸ドイツの時空間研究に関する論文で名付けられた、ある波形が生じたとしても逆相の波形が生じて互いに打ち消してしまう現象の事。その後、その現象の再現性を検証するため、前提条件などの研究が為されていうようだが、未だ定説は生まれていない。

リヒャルトガルテン
訳せば「光の庭」。ナチSS親衛隊がアルプス山中に開設した秘密研究施設だ。釣鐘製造を目的としている。所長のシュタインベルク中将はナチの行く末に絶望し、釣鐘の日本への移送を計画した。彼は瑛山えいざん会のメンバーでもある。
霊異(りょうい)
人が魔の力を現すことを言う。霊異りょういの発現は、本人の自覚を伴わないこともある。審神者さにわのように修練を積んで現す霊異りょういの他に、霊異りょういの異能が血脈にて受け継がれることもあるらしい。
猟奇倶楽部(りょうきくらぶ)
猟奇的なものを愛する人々の集いだ。参加者は本名ではなく倶楽部より与えられた名前をそれそれぞれ名乗るようだ。高位の会員となると、特別な名を得ることができるようで、より高位となるため日々切磋琢磨している。

猟奇グラフ(りょうきぐらふ)
猟奇愛好の士が購読する雑誌である。猟奇倶楽部によって発行されているが、編集部はまた別途存在する。また、その住所がころころ変わる、という点も特徴的だ。その内容は多岐に渡るが、猟奇を好む者によるという点のみは一貫している。
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ルーン
かつてゲルマン人が用いた古い文字体系の名。「秘密」との意味を持つとされるその文字は、ゲルマン人たちの魔術にも用いられたようだ。表音文字とされながらも、その文字のひとつひとつに意味を持つと推定されている。
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霊式ヘテロヂン
(れいしきへてろぢん)
二つの波形を組み合わせて新し波形を生じさすヘテロヂンの理論を用いてセヒラの波形化に成功した。この技術により、セヒラ波形の形状や強さを観測できるようになったのだ。開発の新山眞にいやままことは軍属ながら優秀である。
それだけでなく、セヒラを波形に変換することで電気的に扱えるようになったようだ。これにより、この世界の技術は飛躍的に発展していく。
霊式ヘテロヂン変調器
れいしきへてろぢんへんちょうき
特有セヒラ波に干渉し、増幅および打ち消しなどの調整をするための装置。ゲートにもこの機器が用いられているようだ。

霊雀館(れいじゃくかん)
省線しょうせん渋谷駅前に店を構える占い屋だ。占いには文鳥を用いる。占いの他に絶界マテリアルなど希少な物品も販売。店主はフリーダ葉。本来、「葉」は広東語読みの「イップ」である。
レイライン
地図上で意味のあるとされる場所を繋ぐことで浮かび上がってくる線や形のことだ。しかし、現在の帝都でも神社を結ぶだけでいくつものレイラインが浮かび上がり、安易に解釈を挟むものではないと自認している。

錬金術(れんきんじゅつ)
かつては卑金属より貴金属を精錬することを試みていたと伝わるが、帝都では専らセヒラやホムンクルスの研究をしているようだ。錬金術を究める錬金術師は、アーネンエルベにて古来より伝わる魔術と科学をセヒラを介して融合させるため日夜研究に邁進している。
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老童(ろうとん)
薄い玻璃はり製の容器に小動物の頭骨を収め、真空状態とした呪物。しかし、その内側には何らかの気体のような靄が確認できる。この老童ロウトンがアラヤ界のセヒラから、特定の思念を選び出すと考えられているがその原理は不明。気の流れを加速する作用がある、という情報もあるが、真偽のほどは定かでない。

(ロッホ)
帝都とアラヤ界を貫く穴のことを独逸ドイツ人たちがこのように呼称している。かねてより調査を続けていて、山王さんのう機関発足前にも来日してロッホを探していたようだ。憶測も含んでいるが、彼らの出したFLSJ論文――「日本における重力の穴の調査」は、実際にそれらに直面しようとしている人間がどのように考えるのか、という観点で読めばなかなか興味深いものだった。