序章


皇紀ニ五区五年
昭和十年――冬

帝都ていと大東京市だいとうきょうし

まだ春のつを待つ冬の最中さなか
帝都では、ある事件が頻発ひんぱつしていた。
怪人かいじん騒動である。

【学生風の男】
怪人かいじんが出たそうです!
このところにわかに騒動が――
どこに逃げればいいのでしょうか?

【中年の男】
いくら兵を出しても、ありゃだめだ!
やつら、ってもっても死なない、
怪人かいじん不死身ふじみなんだよ!

怪人かいじんとは、人ならざる強大な力を持つ超人の事である。悪意をたぎらし、街の平穏を脅かすその怪人かいじんが、突如として街に姿を現した。
果たして、彼奴きゃつら――怪人かいじん何処いずこより現れ、如何いかなる目的を持つのか……

赤坂見附あかさかみつけ

【着信 若い女性の声】
兄さん。

兄さん!

【着信 喪神もがみ梨央りお
こちら梨央りお。聴こえますか? 
兄さ――いえ、黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
怪人かいじんの反応がその付近で
確認されました。
まずは、街の人から情報を
収集して下さい。何か有力な
情報が得られるかもしれません。
怪人かいじんは民間人に紛れています。
くれぐれも注意してください。

【学生風の男】
赤坂見附あかさかみつけ怪人かいじんが出たそうです。
電停付近だと聞きました—―
この近くにいるんでしょうか?

【中年の男】
怪人かいじんは、不死身なんだぞ。
誰も勝てる訳がねえさ。

女将おかみ
何だか物騒ぶっそうよね~
このところ、やけに怪人かいじん騒動が……
ここなら大丈夫だいじょうぶかしらね――
怪人かいじんって、すごい力なんですって!
車でも何でも投げ飛ばすそうよ!

おびえた目の男】
ひぃひぃひぃひぃ~
まさか課長があんな風になるとは……
頭がさ……
柘榴ざくろみたいにな……
はじけたんだ!!

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
近くに怪人かいじん反応ありです!

セヒラ探信儀たんしんぎを使ってください!
瘴気しょうきを――セヒラを探査する事で、
民間人に紛れている怪人かいじんあばく事が
出来ます。

おびえた目の男】
ひぃひぃひぃひぃ――
俺に用事か? そうなんだな?
俺のこの力を見ろ!

おびえた目の男】
お前の頭もパックリやるか!

《バトル》

おびえた目の男】
俺が……課長をったのか?
――いや、そんなことはない……
手が、手が、勝手に動いたんだ!

【着信 帆村ほむら魯公ろこう
さすがだ、風魔ふうまよ!

【着信 喪神もがみ梨央りお
怪人かいじんの反応消滅しました。

特務完了です。
本部に帰還してください。

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし

兄さん!?
どこか怪我でもしたんですか!?

【着信 帆村ほむら魯公ろこう
どうした? 
風魔! 何があった?

ニ年前――

帆村流帰神法ほむらきしんりゅうほう道場〕

帆村ほむら魯公ろこう
よく聞け、風魔ふうまよ。
怪人かいじん尋常じんじょうならざる怪力を発する。
それというのも、
から力を得ておるからだ!
我ら審神者さにわ、神降ろしの秘技を持つ。
その秘技を駆使くしして怪人かいじん戦に備える。
それが山王さんのう機関の役目だ――
を召喚し指揮する者を
山王さんのう機関では帥士すいしと呼ぶ。
風魔ふうまよ! 喪神もがみ風魔ふうま
お前こそは、審神者さにわの力を活かし
一流の帥士すいしを目指すのだ!
見よ、風魔ふうま
我らの頭上より降る雪を――
真白ましろき雪は何色にも染まらん。
いさぎよく真っ白である。
常に心を保てば必ず打ち勝てるぞ!

赤坂見附あかさかみつけ

【着信 喪神もがみ梨央りお
兄さん! 
気をしっかり保ってください!
新たな怪人かいじんの反応です!
セヒラ反応!
戦闘態勢に入ってください!

【不良学生】
クックックッ……
傑作けっさくだな! 僕が怪人かいじんだなんて!
この力、試したくて仕方ないよ!

《バトル》

【不良学生】
クックックッ―――
僕もまだ青いね! 
もっと心ににくしみを宿さなきゃ!
僕で終わりだと思わない事だ。
怪人かいじんは現れる。
この帝都で……これからも……

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
怪人かいじんの反応、完全に消滅しました。
山王さんのう機関本部に帰還を……
お疲れ様でした。

山王さんのう機関本部〕

喪神もがみ梨央りお
兄さん!
もう! さっきは心配しました!
以後、お気をつけ下さいっ!

【涼やかな若い女性】
風魔ふうまさん、お怪我はありませんか?

山王さんのう機関本部にいた妙齢みょうれいの女性。
彼女の名は如月きさらぎ鈴代すずよ――
喪神もがみ風魔ふうま尋常じんじょう小学校の同級生だ。

如月きさらぎ鈴代すずよ
召喚は精神を使うと聞きます。
風魔ふうまさんが、審神者さにわとしての力を
召喚に活かして――
この山王さんのう機関でのご職務を全うし、
ご活躍されること、
私も応援しておりますわ。
同級生として、そして……

〔???〕

【静かな声】
それで、博士……
ゲートの方はいかがなりました?

【誠意のある声】
はい、今のところは、順調に。
ただ――

【案じる声】
どうされましたの?
何か問題でもおありになって?

【誠意のある声】
怪人かいじん騒動が……
帝都の方でちょっとした騒ぎに。

【静かな声】
そのために手を打ってあるのでは
ないですか、博士。
―― 信じる…… 今はそれだけです。

怪人かいじん――なる存在が取り憑き、異能を持った者の事。
帥士すいし――審神者さにわとして、を召喚し、これに取りかれる事なく、使役しえき出来る者の事。

どちらも異能。どちらも超人である。

今、帝都の命運を賭けて、壮絶なる戦いの幕が切って落とされようとしていた。