登場人物

劉美鈴(メイリン・ラウ)18歳
「奥のレイヤー」に閉じ込められた父を捜している。本作のヒロイン的存在。

エリオット・ラウ 48歳
美鈴の父親。風水の研究者で、龍脈の中継装置「気機」を開発中。陰界のどこかに閉じ込められている。「気機」が完成すると、光明路に正しい龍脈が繋がり陰陽の世界は再び分かたれる。完成には老童ロウトンが必要。

許天樂(ホイ・ティンロック)不明
光明飯店支配人。年齢不詳の大老人。美鈴を孫のようにかわいがっている。旧関東軍大連軍政所の軍属だったという噂もある。

ジェレミー・ワン 23歳
腕の立つハッカー。Geek-Jと呼ばれている。電脳中心に存在する結社エクサに通じている。MMORPG『ガリギアス・オンライン』で使うキャラクターは剣士のホーネット(Lv54)だ。

フリーダ・イップ(フリーダ・イップ 葉)38歳
占い師。プリンスロードで「霊雀館」という文鳥占いの館を営む。美人で象徴学や審美学に通じている一方、MMORPG『ガリギアス・オンライン』では周瑜しゅうゆ(Lv78)を操る高レベルのプレイヤーとして活躍している。

エスター・ムイ 28歳
光明四天王の一人。妄想師で屋号は亂諗房。客を妄想の中で遊ばせるサービスを提供している。サイラスの元右腕で、男装の女性。

ヴィヴィアン・ムイ 28歳
光明四天王の一人。光明路のペット屋の女主人であるが、実は鬼律グイリー師。球体関節人形の蒐集家しゅうしゅうかでもある。店の前主人・楊美鳳(ヤン・メイファン)が使っていた「楊寵物」という店名を引き継ぐ。エスターの一卵性双生児の妹だ。

アーロン・ヤン 26歳
光明四天王の一人。客の依頼で記憶を書き換える記憶屋「回憶花園」を営む。旅人を思わせる異邦人的な容姿をしている。

スタンレー・ウー 38歳
光明四天王の一人。邪気を跳ね返す鏡を販売する鏡屋「風水呉鏡」を営む。錠前屋としての顔も持つ。

ラン・シャオメイ 27歳
1997年の陰陽交合事件の生き残り。

サイラス・チャン 62歳
九龍城砦時代、光明路のボスだった。今は「光明聯社」という小さな組織を仕切る。香港最高風水会議とも通じている。

レナード
老童ロウトンから予言を与る存在。つねにカーテン越しにしか姿を見せない。きわめてイノセントな存在。

老童ロウトン
レナードの心の友。レナードの恐れを除去する存在。

妖帝ヤオディ
陰陽交合でカオス現出を企図する、時空を超えた邪悪な存在。

『クーロンズ・ゲートif』

~イントロダクション~

 まぶしい!
 そう感じて眼を開くと、目の上に一個の裸電球があった。光源からの光がじかに目を刺す。直後に、ズキンと頭の芯が痛んだ。いつもの偏頭痛へんずつうか…
まぎれもなく、不快さをまとった目覚めだった。だが、何よりも私をおとしめたのは、今、自分が見知らぬ路地裏に横たわっているということだ。あたりは薄暗く、鼻を突く腐臭や甘酸っぱい何か得体えたいのしれない臭いに満ちた路地裏。それに湿度もやけに高い。空気が重くのしかかってくるようだ。どこからともなく、ブーンとエアコンの室外機のうなるような音がする。肩や腰に感じる鈍い痛みからすると、長い時間、横たわっていたようだ。
 昨夜遅く、九龍クーロンサイドのホテルに戻って…そこまではしっかりと覚えている。ちょうど日付の変わろうとする時刻だった。フロント係のチャーミングな女性が私を見て微笑んでくれた。こんな遅いのに係員がフロント業務にあたっているなんてと不思議に思ったのを覚えている。その後、確かエレベーターに乗って…いや、ロビー奥にあるバーにおもむいたのか…すでにそのあたりの記憶は曖昧になっていた。
 そのホテルのバーはヴィクトリア朝期の調度品ちょうどひんでまとめられていて、いかにもイギリス統治下の香港ホンコンしのばせる。だが、香港ホンコン返還からすでに十八年。香港ホンコンのあらゆる場所からイギリス統治時代の名残なごりは薄れつつあった。
 この滞在中、ホテルのバーに行ったのは確かなのだが、それが昨夜だったかどうかの確証がなかった。いずれにせよ、私は今、こうして薄汚い路地に横たわっている。
さては強盗にでもったかと思ったが、体のどこにも痛むようなところはなかった。何者かに襲われた痕跡こんせきはなかったのだ。ただ、自分の体を見回して、昨日、着ていた服はそのままながら、くつを履いていないことに気付いた。くつのあるべきところにチャコールグレーのソックスをいた足があった。ソックス姿でいるなどなんとも頼りなげである。
 ポケットをまさぐるも財布も何もなかった。ただしりポケットに硬いものがあり、腰を浮かしてポケットからそれを引き出すと、はたして古い形式の携帯電話であった。もちろん私の物ではない。
私のくつはどこだ…

 その時である。手にした携帯電話がブブンと小刻みに振動した。二つ折りの端末を開くと、そこに短いメッセージがあった。

 起きたら来い
 質屋の角
 古靴屋

 メッセージはそれだけだった。それにしても…
 古靴ふるぐつ屋?

 いぶかしく思いながら、私は上体をさらに起こして周りを見渡した。
 ちょうど路地の出口にあたる場所に「押」という看板が見える。そこが質屋だろう。私は靴下くつしただけの足裏に石畳いしだたみのゴツゴツした感触を覚えながら、古靴ふるぐつ屋があるというかどの質屋を目指した。
 古靴ふるぐつ屋は、確かにそこにあった。質屋の店先を借りるようにして、赤、青、白のトリコロールカラーのビニールシートをいた上にいくつもの古びたくつを並べている。中には片方しかないくつもある。ほんとうにこれらは売り物なのか?
 店主は片耳に薄茶色のイヤホンを突っ込み、背中を丸めてパイプチェアの下に置いたポータブルラジオを聞いていた。私が近づくのを察して面倒臭げな表情を浮かべて目を見上げた。
「なんだ、あんた? ここらじゃ見ない顔だな…この町に何の用があるんだ?」
 私はどう答えていいものか躊躇ちゅうちょした。すると古靴ふるぐつ屋は急に得意そうな表情を浮かべて言う。
「ははーん、あんたは、さっきの、アレだな! そうだろ、陽界ようかいから落ちてきたっていうやつだろ! 図星ずぼしだな、これは! ひゃっはっはー」
 古靴ふるぐつ屋はひとりごちて、頓狂とんきょうな声を上げた。

 陽界ようかい
 落ちてきた?

 不安げに視線を泳がす私に向かって、古靴ふるぐつ屋がさらにたたみかける。
「あんた、ここがどこだかわかってないだろ? 無理もないさ、ここは夜の町、そう呼ばれてるんだ。待てど暮らせど、一向に朝が来ない。それもそのはず…この町は陰界いんかいにあるんだ。おっと、俺が 自慢気じまんげに話してると思ったら大間違いだぞ。自慢なんかするわけないだろ…」
 古靴ふるぐつ屋は短くため息をついた。そして続けた。
「わかるか、あんた、陰界いんかいだぞ、いんよういんの方だ。俺たちは普通にこの町で暮らしてたんだ、町の方が勝手に陰界いんかいになりやがった! それ以来、この町は夜の世界をずっと漂ってるんだ」
 話を聞きながら、私は自分の身の上に思いを巡らせた。つまりこういうことだ…私は自分でも気づかないうちに、この古靴ふるぐつ屋が言う陰界いんかいとやらにやって来てしまったのだ。今となっては九龍クーロンサイドのあのホテルの小さな部屋すら懐かしい。そんな私を見て古靴ふるぐつ屋は言った。
「なんだ、急に陽界面ようかいづらして? ああ~ん? 元の世界に戻りたいってか? それはどうかな? そもそも、あんた、くつ履いてないじゃないか!」
 そう言われ、私は手にしていた携帯電話のメール画面を見せた。画面を見て、古靴屋は合点がてんしたようだ。
「嘘と真のあいだにはポッカリと穴が開いてるってな! だったら、ほら、これだよ、あんたのくつ、こいつを返すよ。このくつは新しすぎて売れない、ちっとも売れる気がしない。もっともこれを売るつもりはないけどな。教えてやるよ、売れるくつというのは正真正銘しょうしんしょうめい古靴ふるぐつのことだ。どうしようもないほど古びたくつだな、いろんな場所の思い出をたっぷりと吸ったくつだ。そういうくつはな、この町に流れてる邪気じゃきはらんで何者かに変わってしまうんだ。安心しな、あんたのそのくつは、そんなことになりはしないからな。でもな、新しいくつはそれはそれで盗むやつがいるから、俺がこうしてキープしておいたってことだよ。ほら、このくつ、あんたに返すよ」
 そう言って古靴ふるぐつ屋/は、腰掛けているパイプチェアのそばにあったビニール袋から私のくつを取り出した。確かに私のくつ古靴ふるぐつ屋の店頭に置かれたくつからすると、まったくの新品にも見える。
 身をかがめてなんとかくつを履き終えた私を見上げて古靴ふるぐつ屋は続けた。
「さっきも言ったけど、あんたが昨日までいたところが陽界ようかい、そしてこの町は陰界いんかい、その二つがついになってるって話だ。それでな…あれは確か…古靴ふるぐつの商売が最高潮だった年だな、うんうん、たぶん一九九七年だったと思うがな、あんたと同じように陽界ようかいから来たっていうやつがいたらしい。龍城路りゅうじょうろという町があってな、そこもここと同じ陰界いんかいの町なんだが、そこに長年の古靴ふるぐつ屋仲間が店を出してた。オリエンタルシューズって店だ。陽界ようかいから来たってやつは、その店に立ち寄ったっていうぞ。それで超級風水師とかなんとか、そんなことを名乗ったそうだ。変なやつかって? そうかも知れん。でもな、そいつのおかげで世界は守られたとか、仲間はそんなことを言ってたよ。今じゃその龍城路りゅうじょうろもどっかに行ってしまった…」
 そこまで言った古靴ふるぐつ屋は、どこか寂しそうな目線を宙空に投げかけている。もう私への関心は無くしてしまったようだ。私はしばらくその場に留まっていたが、これ以上、何をすることもなく、もと来た路地へと歩き始めた。
 その時である。私が向かおうとする路地の奥から、何やら叫び声がする。それも一人二人ではない、何人もの声が重なっている。声に続いて足音も聞こえてきた。瞬時に私は身構えた。

(一)

 路地の奥から出てきた住人たちから、この町が光明路コウミョウろであることを聞いた。私のような外来者の到来は一九九七年以来であった。
古靴屋も同じようなことを言っていた。ところでここでは、住人のことを路人ろじんと呼ぶようだ。ほかにもいろいろとルールがあるようだった。
 そんな話をしているさなか、路人の壁を割って一人の少女が歩み出た。少女はまっすぐ私の目を見て、自分は美鈴メイリンだと自己紹介して、相談したいことがあるという。後で光明飯店コウミョウはんてんで落ち合うことにした。
 路地から出て、さきほどの古靴屋の脇を抜けてプリンスロードまで来た。近くにいる路人たちから話を聞く。光明路コウミョウろはかつては九龍クーロン城の一角だったが、今ではこの町だけが切り離された状態になっている。そしてこの町には方々にゆがみが発生する。この町の歪みをなんとかしない限り、私は戻れそうもないとわかった。
プリンスロードを進むと、左手前方に光明飯店コウミョウはんてんの赤いネオンが見えた。
 薄暗いロビーに美鈴メイリンがいた。彼女の父親エリオットは、光明路コウミョウろに風水を取り戻すための気機という装置を開発中で、装置の材料を求めて光明路の深い場所へ降りていった。その父はもう三年も戻らない。父親が向かった場所には鬼律グイリーと呼ばれる魔物が数多く生息していて危険だ。鬼律のことは電脳中心でんのうちゅうしんにいるジェレミーが詳しい。
 私は美鈴メイリンの父親に繋がる手がかりを求めることにした。

(二)

 プリンスパークに面して電脳中心でんのうちゅうしんはあった。電脳中心でんのうちゅうしん前で路人たちが騒いでいる。店の中で人が蒸発したのだ。事件を目撃した店員たちから話を聞く。
 ジェレミーがゲーム中、ゲームの中へと吸い込まれてしまった。その異常事態を表すように店内の方々で帯電したスパークが青い光を放っていた。ジェレミーが遊んでいたゲーム筐体きょうたいの前に座った。その直後、激しい頭痛を伴って、私はオンラインゲームの中の世界にいた。
 ガリギアス・オンライン。それがゲームのタイトルだった。

 木々がしげる薄暗い森をしばらく歩くと、小さな集落に出た。村人と話して、ホーネットという名前の異邦人いほうじんが病気になり、長老の館で寝込んでいるという。ホーネットというのがジェレミーのハンドルネームだった。
 長老の館で、ホーネットは皮のよろいを身に付けたまま、客間に寝かされていた。端正たんせいな顔立ちをした剣士だ。長老から彼のパートナーであるウォーリアーを探せばよいのだと教えられた。周瑜しゅうゆという名前のウォーリアーだ。
 長老の館の裏庭にある納屋なやから、電脳中心でんのうちゅうしん脇の路地へと戻った。

 オンラインゲームで周瑜しゅうゆという三国志の武将名を使っているのは、プリンスパークにある文鳥占いの店を営むフリーダ・イップだった。フリーダに会うため、文鳥占いの霊雀館れいじゃくかんへ向かう。
 霊雀館れいじゃくかんの店内、文鳥の鳥籠とりかごに囲まれた小部屋でフリーダはパソコンの前に座り、目をつむりながら何かをつぶやいていた。
 半覚醒はんかくせい状態のフリーダをゆり起こすと、店を訪れた小男に何かの術をかけられ、周瑜しゅうゆとしてパートナーであるホーネットと協力プレー中に眠ってしまったのだという。その小男は顔を白塗りにしていたとも。フリーダのパソコンには薄暗いダンジョンが映し出されていた。
 フリーダが目を覚まし、ホーネットとのシンクロを解いたので、ジェレミーはゲームをログオフできる。電脳中心でんのうちゅうしんへ戻りジェレミーと会う。
 ジェレミーは、こんなことははじめてだ、このままでは街中で邪気が強まり鬼律グイリーが現れると案じている。鬼律グイリーとは人が捨てた物に邪気が宿った存在だ。鬼律グイリーから身を守るには、鬼律グイリー使いのヴィヴィアン・ムイが持っている陰陽護符いんようごふが有効だと教えられた。

(三)

 光明商場コウミョウしょうじょうを回り込んだところに一軒のペットショップがある。その主であるヴィヴィアンに事情を話して陰陽護符いんようごふを譲ってもらう。
 鬼律グイリーに襲われそうになったら、陰陽護符いんようごふ鬼律グイリーいている邪気をはらうと鬼律グイリーは物に戻る。ただし、鬼律グイリーからはらった邪気にかれる恐れもあり安全とはいいきれない。
 ヴィヴィアンと話している時、ヴィヴィアンの携帯に姉のエスターから着信があった。エスターが営む妄想屋でアクシデントが発生した。ヴィヴィアンから様子を見てきてほしいと頼まれる。
妄想屋は光明劇場コウミョウげきじょうの近くだ。「亂諗房らんしんぼう」とペンキ書きされたガラス扉は、しっかりと施錠されていた。店の前でませた話し方をする少女に声をかけられた。店内では不条理回廊ふじょうりかいろうが発生していたのだ。
 少女の案内で、キンバリーレストランの厨房ちゅうぼう地下から妄想屋地下へ入る。
 少女に見守られ、店へ上る階段室の扉を開けると、その先は階段や廊下が複雑に入り組んだ、幻想画家エッシャーが描くような空間だった。まさに不条理な空間。頭上を見上げると、何人もの人が重力の法則に関係なく階段や廊下ろうかを行き交っている。
 左上方にある花壇かだん脇に置かれたテーブルに、一人のスーツ姿の男性が座っていた。男性の顔はヴィヴィアンに瓜二うりふたつである。階段や廊下を巡ってその男性の前に行くと、ヴィヴィアンの双子の姉、エスターだった。
 エスターは客に頼まれて客の夢や妄想を引き出すサービスを提供している。その副産物としてこうした不条理空間が生まれるのだ。ところが、最近、不条理空間がたびたび、光明路コウミョウろに繋がるようになった。自分は客が戻るのをここで待つので、フリーダの文鳥を連れてセントラルに向かってほしいと頼まれる。エスターは、セントラルにとてつもなく強い力を感じていたのだ。
 ヴィヴィアンから文鳥のかごを預かりセントラルに行くと、かごの中で文鳥が騒がしくなる。文鳥を放つと、路地の奥にあった石敢當いしがんどうの上に止まり、くちばしにくわえた札で石敢當いしがんどうにかけられていた呪いをはらった。石敢當いしがんどう石碑男せきひおとこに変化して、小男に呪いをかけられ、妄想の中に閉じ込められたといい残しぴょんぴょんねてった。妄想が凝り固まったせいで不条理回廊を増長させていたのだ。
 妄想屋に戻ると、戻っていたエスターから光明コウミョウ四天王のことを教えられる。四天王とは、エスター、妹の鬼律グイリー師ヴィヴィアン、それに記憶師アーロンと鏡師スタンレーの四人だ。四人は龍脈の失われた光明路コウミョウろで、気の歪みから生じる異変と向き合っている。
 ジェレミーが吸い込まれたこと、不条理回廊が光明路コウミョウろに出現したこと、それらすべては光明路コウミョウろで邪悪な力が強まっている証拠だった。早く美鈴メイリンの父親を探して、気機を完成させなければならない。

(四)

 携帯に美鈴メイリンからメールがあり、光明飯店コウミョウはんてん美鈴メイリンを訪ねる。風水の研究者である父エリオットが手がけていた気機は完成間近の状態だった。美鈴メイリン自身もそのことを知らなかったらしい。
 美鈴メイリンに案内されて老街ラオガイにあるエリオットの研究室を見せてもらった。部屋の中央に置かれた気機は、いくつもの電極やスイッチ類が並ぶ木製の不思議な機械だ。気機を動かすには、後は老童ロウトンというものがあればよい。美鈴メイリン老童ロウトンがどんなものか知らない。
部屋を出ると誰かに尾行されている気配がある。路地に身を隠して尾行者を捕まえると、葱剥ねぎむの少年で、少年は老童ロウトンならレナードが知ってるはずと教えてくれた。
 レナードは竹園路ちくえんろにある光明聯社コウミョウれんしゃという建物の裏口にいた。しかしレナードとおぼしき人物は、裏口にかかった薄汚れたカーテン越しに意味不明のことをいうばかりだ。
 レナードというのは、虫よりも無垢むくな存在なのだ。そしてレナードはホイ老人になら心を開くとわかり、ホイを探す。ホイは光明路コウミョウろの顔役であるサイラス・チャンの相談役だ。
 光明聯社コウミョウれんしゃの事務所でチャンに面会を申し込み、現れたチャンからホイはエスターの店に出入りしていると聞き再び妄想屋へ向かう。
 エスターはホイらしき人物を不条理空間で見かけていた。店に記憶師アーロンを呼ぶ。不条理回廊は沈静化しているが、まだ安心できない。もう一度、不条理回廊に入る前に私自身の記憶を保全することになった。
 アーロンはポータブル記憶機を使って私の記憶を引き出した。これで私の記憶が失われたり書き換えたりされないのでしばらくは安全だ。エスターの操る妄想盤によって不条理空間へ入る。
 そこは先程とはうってかわり、不穏な空気が支配する場所になっていた。行き交う人の姿はなく、灰紫色の雲が重く垂れ込める空が方々に見える。そんな空間を素早く飛び交う二つの黒い影があった。そのひとつがホイじいさんだった。
 目の前に音もなく着地したホイじいさんは、カンフーの達人というスキルを活かして不条理回廊に逃げ込んだ謎の小男を追っていた。相手はすばしっこく、すでにこの場所を後にしている、おそらくは遠い場所へ姿を消したらしい。
 ホイじいさんが俊敏しゅんびんな動きで目の前から消えると、不条理回廊は瞬時に消え去りキンバリーレストランの裏に変わった。
光明聯社コウミョウれんしゃでチャンにホイじいさんの話をすると、チャンは急に震えだし、そのせいで子分たちから事務所を追い出される。追ってきた子分の一人から、チャンは実はレナードなのだと耳打ちされ、事務所の裏にまわりレナードの元へ。
 カーテン越しのシルエット姿のレナードから「時の輪」が生まれたと聞く。そこへエスターから着信があった。妄想屋へ急ぐと、店内に光明コウミョウ四天王が揃い私を待っていた。
 この世界に何者かが闖入ちんにゅうしているので、それを追いかけることになった。闖入者ちんにゅうしゃはすぐに姿を隠すが、陽界ようかいから来た私には警戒を解く。ホイじいさんが追っていた小男、フリーダを眠らせた小男…すべてはその者の仕業だ。そして今まさに歪みに飲み込まれそうな場所があり、私はそこへと向かうことになった。
 四天王が力を合わせて生体通信を行い、光明路コウミョウろがまったく別な時空へ、遠い場所へと繋がった。

(五)

 光明路コウミョウろで目覚めたときよりも薄暗く、狭い洋室にいるとわかった。
部屋を出て階段を降り建物の外へ。そこは通りに面して長い塀が続いている場所だった。今にも雨がきそうな雲行きである。
 左手の坂下に、背広せびろ姿の初老の男性と若い女性がいてこちらを見ている。その男性は永井ながい荷風かふうという日本人小説家で、若い女性は満鉄映画社の女優、蘭暁梅ラン・シャオメイだ。蘭暁梅ラン・シャオメイは新作映画の舞台挨拶あいさつで満州から日本へ来て、永井ながい荷風かふう偏奇館へんきかんという館を訪問したところだった。私が時空を抜けて来たのは一九三五年の帝都・東京であった。
 満州国が誕生して三年、日中事変まで二年を残す、その刹那せつなの時代である。
高台の宮様邸みやさまていから時を繋ぐ人が現れる…。蘭暁梅ラン・シャオメイは何度もその夢を見た。彼女がいう宮様みやさまとは、ヨーロッパに遊学中の東久邇宮親王ひがしくにのみやしんのうであり、その邸宅は偏奇館へんきかん近く、「大東京市麻布區あざぶく市兵衛町いちべえちょう」にあった。まさに私がこの町に来た洋館は、その宮邸の通りを挟んだ向かいだった。
 蘭暁梅ラン・シャオメイは、小さな頃より時を繋ぐようにと教わっていた。そのことが最近になって夢に現れるようになったのだ。
 偏奇館へんきかんを一人の男性が訪ねてきた。男性は陸軍飯倉いいくら技術研究所に所属する技術者で、帝都の邪気を測る装置を開発した。その装置がこのところ市兵衛町界隈いちべえちょうかいわいに強い邪気の存在を示すので、たびたびここへ来ていた。そして今日はいよいよその値が高いとのこと。装置の示す場所を目指して蘭暁梅ラン・シャオメイと共に市兵衛町いちべえちょうの表通りを進むと、四ツ辻よつつじを曲がった先にはたしてあさ背広せびろを着た白塗りの小男が立っていた。
 小男は自らを水の江と名乗り、いきなりはちが飛ぶ、はちが飛ぶとかすれた声で唱えはじめた。
 小男が唱える呪文のせいで蘭暁梅ラン・シャオメイが意識朦朧もうろうとなったその時、私が持つ陰陽護符いんようごふが激しく発光して水の江の言葉を打ち消した。水の江は、宙に現れた黒い渦巻きのような中へ吸い込まれてしまった。
 事がしずまった後、蘭暁梅ラン・シャオメイが小さな手鏡を取り出した。それは蘭暁梅ラン・シャオメイの母の形見だ。彼女は母から、時を繋ぐとき、自分の姿をこの鏡、風水鏡ふうすいきょうに写すのだと教わっていた。蘭暁梅ラン・シャオメイは私に風水鏡ふうすいきょうで照らしてほしいと頼む。
 風水鏡ふうすいきょうを受け取り蘭暁梅ラン・シャオメイを照らすと、鏡の中の蘭暁梅ラン・シャオメイ目前もくぜん蘭暁梅ラン・シャオメイが向き合い、蘭暁梅ラン・シャオメイ朱雀すざくの龍脈として見立てを受けて、やがて垂れ込めた雲を突き抜け光の筋を描いて昇華しょうかした。
 帝都東京で蘭暁梅ラン・シャオメイへの見立てによって龍脈が通じたからには、必ずやその龍脈は光明路コウミョウろへと繋がるはずだ。
 そう思った瞬間、私はエスターの店で気が付いた。

(六)

 妄想屋の店先でサイラスの子分に迎えられた。サイラスが私を呼んでいる。
 竹園路にある光明聯社コウミョウれんしゃへサイラスを訪ねると、そこにいたのはレナードだった。はじめて見るレナードは、サイラスと同一人物ながら瞳の色が違う。レナードは、僕の老童ロウトンが悪いことをすると繰り返す。くだんの老童ロウトンはレナードが持っていた。それは小動物の頭骨のようなものを収めた小さな球型のガラス容器で、真鍮しんちゅう製の台座に固定されている。
 老童ロウトンをやさしく触るレナードの眼が急に見開かれたかと思うとトランス状態に陥り、その直後、私の目の前でレナードはチャンへと人格が変わった。
 光明路コウミョウろの異変を風水の問題として香港ホンコン最高風水会議に掛け合ったチャンは、風水の龍脈が強い力で歪められていることを知る。チャンから光明廟コウミョウびょうに行き七宝刀しちほうとうを手に入れるよう言われる。陰陽護符いんようごふ、風水鏡、七宝刀しちほうとう、これらが風水の三種の神器だ。
 訪れた光明廟コウミョウびょうは邪気に溢れかえっていた。いつ邪気に憑かれても不思議ではなかった。そこへ葱剥ねぎむの少年が来て、ポケットから邪気を吸い取る物を取り出してうごめく邪気の中へ投げつける。邪気はたちまちその物に憑いて鬼律グイリーとなる。少年は何度も物を取り出しては邪気の溜まりに投げつけ、いくつもの鬼律グイリー一塊ひとかたまりになってうごめいている。近寄ると、鬼律グイリーどもは蜘蛛くもの子のように四方へと散っていく。こうしてあたりの邪気を弱めながら、廟堂びょうどうへ入り、そこで七宝刀しちほうとうを手に入れた。
 廟堂びょうどう前で、巨大な香炉こうろから立ち上る邪気が狛獅子こまじしに憑き、異形の相となった狛獅子こまじしに襲われる直前、葱剥ねぎむの少年が機転を利かせて光明廟コウミョウびょうから脱出できた。
 光明聯社コウミョウれんしゃに戻ると、そこにいたのはレナードだった。レナードは、魔王がいる魔王がいると同じ言葉を繰り返すばかりでひどくおびえている。
 光明聯社コウミョウれんしゃの路地を出るとスタンレーがいた。蘭暁梅ラン・シャオメイを見立てた鏡を風水鏡にアップグレードすることになり、鏡をスタンレーに預けて光明劇場コウミョウげきじょうに向かう。光明コウミョウ四天王がついに闖入者ちんにゅうしゃ、水の江を追い詰めたのだ。
 劇場にはスタンレー以外、四天王のうち三人と美鈴メイリンが待っていた。美鈴メイリンが家で古い映画フィルムを見つけた。それは美鈴メイリンの父エリオットが持っていたもので、アラヤ絶界への入り方がわかるフィルムだ。アラヤ絶界とは、ありとあらゆる思念が漂流する場所であり、邪悪な力がよどみやすい。歪みをもたらそうとする水の江が最後のとりでとする場所なのだ。
 完成した風水鏡をたずさえてスタンレーが合流した 。この鏡で護りの光を繋ぐことができるという。
 四天王が揃って結界を張る中、美鈴メイリンがフィルムを再生する。眼前のスクリーンにぼんやりと町の姿が映し出された。何があっても漂う思念に関心を寄せるなとさとされながら、私は古いフィルムが映す町へと吸い込まれた。

(七)

 戸口のない高い建物に挟まれた路地にいた。ここが内とも外とも区別がつかない。そしてそこは思念の奔流ほんりゅうの只中だった。
 形態だけを見れば、それは透明なクラゲのようである。光の屈折で、そこだけ何か物体があるように見えるが、ほぼ透けているのでとらえどころがない。その透明なものが私の前で二手に分かれ、体の後ろでまた合わさる。私は思念の流れをかき分けるようにしてのろのろと進むしかないが、体に何かがぶつかるという感覚は全くなかった。
 中には不思議な動きを見せる思念もあるが、絶対に見入るなという光明コウミョウ四天王の言葉を胸に、手にした風水鏡が写し出す方向へと進んだ。
 風水鏡はこれ以上先を写さない場所まで来た。鏡に映る小さな戸口の建物へ入ると、中は紫色のカーテンで囲われた部屋だった。部屋の奥に水色のラメ入りのタキシードを着た水の江が立っていた。オールバックにした髪は不自然なほど黒々としている。
 水の江は、自分は歪みの象徴だ、陽界ようかいから来た私を歪みの中に取り込めば、二度と龍脈は繋がらないといって、呪文のような言葉を念じ始めた。はちが飛ぶ、はちが飛ぶ…
 私はその場で動けなくなってしまった。
 身に付けていた陰陽護符いんようごふがまたもや光を放つ。そのとき、水の江の白塗りのほほに一筋の黒い滴りが流れた。それを見た瞬間、言葉が蘇った。

 光を繋ぐ !

 その言葉に導かれるように、陰陽護符いんようごふの光を風水鏡で反射させて七宝刀しちほうとうを照らした。その時、七宝刀しちほうとうから五色の光の束がほとばしり、あっという間に水の江を包み込んだ。
 水の江は、激しく顔を歪め、何を高く掲げたところで最後には地に落ちるのだと叫び、不穏な黒紫色のかたまりとなり消えた。その直後、手にしていた七宝刀しちほうとうは細かな粒子となり散ってしまった。
 水の江のいた場所からいくつもの思念があふた。見る見る思念が紫色の部屋を満たした。
 私は小さな戸口を開けた。思念が戸口からあふれるようにして表へと流れ出る。水の江を構成していた思念だとわかった。
 人の気配があり、ふと風水鏡を見ると、そこに一人の男性が写っていた。美鈴メイリンの父、エリオットだった。エリオットは、水の江封じ込めを感謝した。だが、これで完璧ではない、歪みは絶対に現れる、それを望む者がいるからだという。
 エリオットは、今はどこかかわらない時空の果てにいて、そこを離れるとまた歪みが生じるおそれがあるので離れられないのだ。別の彼方には九七年に来た超級風水師がおり、その人物もエリオット同様、自らの存在で歪みを防いでいる。その人物が四つの街区を思念に帰したことで世界は陰陽交接いんようこうせつまぬがれたのだ。
 エリオットは、自分はまた鏡に現れるだろう、鏡を娘の美鈴メイリンに渡してほしいといい残してすーっと鏡から消えた。
 ふいに目の前が暗くなり、私は光明劇場コウミョウげきじょうの中で気が付いた。

(八)

 光明劇場コウミョウげきじょうの前にホイがいて、レナードが老童ロウトンを渡したいとのこと。急いでレナードの元へ行く。
レナードは、魔王が消えた、もう老童ロウトンは悪さをしないといって、老童ロウトンを渡してくれた。老童ロウトンたずさえて老街ラオガイへ向かう。
 エリオットの研究室では気機を囲んで美鈴メイリンと四天王が私の到着を待っていた。遅れてホイも来た。
 私はおもむろに老童ロウトンを差し出した。ヴィヴィアンが老童ロウトンを受け取り、美鈴メイリンに教えてもらいながら気機にセットした。
 アーロンは、原理的にはこれで稼動するはずだといいながら「通気」と書かれたボタンを押した。一同が見守る中、しばらくして気機が小刻みに振動したかと思うと、老童ロウトンが青白く輝きはじめ、やがてその光が部屋を飲み込んでしまった。
 何もかもが真っ白に輝く中で、ふいに目の前に美鈴メイリンが現れた。美鈴メイリンは出会ったときと同じように私の目をまっすぐに見つめて何かをつぶやいた。私は聞き返そうとしたが、いよいよ光が強くなり、もう何も見えなくなってしまった。

 次の瞬間、私は香港ホンコンにある九龍寨城公園にいた。目の前の芝生しばふには「光明路コウミョウろ」と書いた小さなが初夏の日差しを浴びて鈍く輝いていた。
 ふとポケットに手を当てると、そこにしまった陰陽護符いんようごふがほのかに熱をびていた。

                                       終

第九章 第三話 時間軸の歪み

赤坂の大柱のことはすっかり市民の知ることとなり、連日、物見遊山の市民が詰めかけた。

【洋服姿のモガ】
大柱様! お願いします――
私、大柱様のように二人で向き合い、
家庭を築きたいのです!
【油絵が趣味の男】
うーん、このアングルだと、
柱が全部は見えないなぁ。
だが柱の高さはよくわかる……
【水飴売】
水飴いらんかねぇ~
甘い、あま~い水飴だよ~

一方、青山墓地に開いた大穴の周囲には大勢の巡査が動員され、市民の接近を監視していた。好奇心に駆られた市民も遠巻きに眺めるのみであった。

〔釣鐘の間〕

しかし、怪人騒動が頻発ひんぱつすることもなく、帝都は静けさを保っていた。
すでに12月初旬になっていた。

【聖宮成樹】
喪神もがみさん――
今、釣鐘つりがねの出力を上げています。
【新山眞】
出力を上げると、
セヒラの量も増えそうですが、
そうはならないのですね。
【聖宮成樹】
あるところまではセヒラが増えます。
しかし、さらに出力を上げると、
不思議なことにセヒラが下がる――
どうもそのようです。
【新山眞】
スプライン曲線という、
三次元曲線があるのですが、
それに似た挙動を示すのですね。

喪神さん――
この穴が青山新京シンキョウに通じるのなら、
麗華れいかさんが戻るのは造作ありません。
ただ今はセヒラを何も観測せず、
大穴が開いているだけです。
すぐに麗華さんが戻るというのは、
ちょっと考えにくいのです。
【聖宮成樹】
再びセヒラが上昇した時、
釣鐘つりがねの出力をさらに上げると、
一瞬、高濃度のセヒラが発生します。
セヒラの濃くなるその一瞬は、
最大限の注意が必要です。
それは心しておいてください。

【着信 喪神梨央】
兄さん――
隊長がおいでです。
機関本部へお越しください。

【聖宮成樹】
独逸ドイツ人が発掘したアルツケアンは、
アーネンエルベに一肌ひとはだ脱いで
もらうのがいいでしょうね。

そう言うと聖宮は釣鐘の間を出ていった。風魔、新山も後に続いた。

〔山王機関本部〕

【喪神梨央】
兄さん――
参謀本部通いだった隊長が、
軍の謀反むほん計画を調べてくれました。
【帆村魯公】
謀反むほん計画――
確かにそうじゃな、謀反むほんじゃな。
参謀本部と陸軍省の調べで、
久鹿くろく計画の全貌ぜんぼうが明らかになり、
歩三では大掛かりな沙汰さたがあった。
【喪神梨央】
沙汰さたって……
つまり、人の異動とかですか?
【帆村魯公】
そうだな――
その実は粛清しゅくせいじゃよ。
とりわけ歩三には、
大鉈が振るわれたようじゃ。
連隊長の常田つねだ大佐も転隊になった。
【喪神梨央】
そうなんですね。
久鹿くろく計画の中心ですからね――
それで、常田大佐、どちらへ?
【帆村魯公】
新潟の第十三師団だ。
輜重しちょう兵第一三連隊渡河とか材料中隊――
部隊は新潟県中頸城なかくびき郡高田市にある。
【喪神梨央】
渡河とか材料中隊って……
橋を掛けるための資材を調達する、
そういう部隊ですよね。
【帆村魯公】
ああ、そうだな。戦闘部隊ではない。
部隊は高田城址じょうしの南に位置する。
部隊暗号は九一〇九だ――
久鹿くろく計画に関係するものなのか、
参謀本部第九部で、
このような伝単ビラが取得されていた。

下士官兵ニ告グ――
その標題で始まる伝単ビラであった。
一、今カラデモおそクナイカラ
  原隊げんたいかえ
二、抵抗ていこうスルもの
  全部逆賊ぜんぶぎゃくぞくデアルカラ射殺しゃさつスル
三、オ前達まえたち父母兄弟ふぼきょうだい
  国賊こくぞくトナルノデみなイテオルゾ

【喪神梨央】
原隊へ帰れ――
これって、計画の失敗を、
あらかじめ知っているのではないですか?

そこへノックの音がして九頭が入ってきた。

【九頭幸則】
歩一、九頭くずです。
この伝単ビラ、何ですか、先生?
【帆村魯公】
謀反むほんの将兵に投降とうこうを呼びかける、
その目的でられた伝単ビラだな。
【九頭幸則】
例の久鹿くろく計画ですね――
軍務局長暗殺、続く大暗殺計画、
実行されたら大変でした。
【喪神梨央】
こういう伝単ビラがあるというのは、
計画の失敗を予見よけんしていたと
そう考えられますね。
【帆村魯公】
失敗になる筋書きがあったとかな。
はなからそういう計画だったのかも。
結果、国体の再生は進むはずだ――
【九頭幸則】
だとすると、
宗谷そうや大尉の死は犬死ではなかった、
そうなのかも知れませんね。
【喪神梨央】
常田大佐の赴任ふにんした高田ですが――
上野から省線急行で行けますね!
【九頭幸則】
え? 
歩三の常田大佐、転隊したの?
その高田ってどこ?
【喪神梨央】
越後えちご高田です。信越しんえつ本線ですよ。
上野発夜八時五五分、高田着は、
朝四時五分の夜間急行で行けます。
【帆村魯公】
常田大佐は輜重しちょう部隊に移った。
そういうことだ――
【喪神梨央】
川に橋をける資材を調達します。

再びノックの音が響く。フリーダ葉がドアの隙間から顔を覗かせた。

【フリーダよう
私、入って大丈夫かしら?
【喪神梨央】
フリーダさん!
どうしたんですか?
【フリーダよう
風水師のバーナードが、
仲間に声をかけてくれたのよ。
あのバーナードチャンよ。
それで五人の風水師が集まって、
青山新京シンキョウの穴を守ってくれている。
そういうことみたいよ。
みんな未来から繋がった思念、
大元はうんと遠くにいるのよ。
【喪神梨央】
そのおかげで青山墓地のセヒラ、
大きな値が観測されないのですね。
【フリーダよう
値の大小はわからないけど、
彼ら風水の術が効いているのかも。
【喪神梨央】
すると青山新京シンキョウに未来が繋がった、
そうなんですか?
【フリーダよう
そうじゃなくて、
彼らが思念を繋いだのよ。
でも――
【喪神梨央】
何か問題でもあるんですか?
【フリーダよう
他の思念もられてやってくる、
その可能性もあるわね。
あったらあったで面白いけど。
【喪神梨央】
ねぇ、フリーダさん。
前に見せてもらった小さな幻燈器げんとうき
あの原理ってどうなってるんですか?
【フリーダよう
あれはね、未来の技術なの。
この時代に披露ひろうすることはできない。
それはわかってね――

独逸ドイツ大使館〕

殿下の言葉もありアーネンエルベに寄っては、という魯公ろこうの提案があり、風魔ふうま三宅坂みやけざかへ。
ユリアと虹人こうじんが迎えてくれた。

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
独逸ドイツ大使館でセヒラ観測です!

交信が終わるや否や、執事型ホムンクルスが駆け寄って来た。

【執事型ホムンクルス】
標的ツィール
――排除アンシュルス! 排除アンシュルス

《バトル》

【執事型ホムンクルス】
――終了エンデ……終了エンデ……

〔アーネンエルベ〕

【帆村虹人】
大丈夫だったか、風魔?
執事型の洗礼を受けたみたいだが。
【ユリア・クラウフマン】
フーマがここに来るのを、
知っていたようですね――
【帆村虹人】
そうそう、梨央りおが教えてくれたよ。
大昔の隕石いんせきなんだって?
アルツケアン――
【ユリア・クラウフマン】
私もアルツケアンのこと、
少し調べてみました。
コージンも手伝ってくれたのです。
アルツケアンはウルムチの南西、
およそ一九五キロの山中で発掘され、
アーネンエルベにもたらされました。
【帆村虹人】
かい族の少年、アヒムが犠牲になった。
彼は急に学者になったりした――
【ユリア・クラウフマン】
アルツケアンは人の意志を読み取り、
人がそう振る舞うように仕向けます。
【帆村虹人】
寝ている間に蒸発する結晶なんて、
なんだか厄介やっかいだよ。
【ユリア・クラウフマン】
アルツケアンは、
真空容器に入れて取り扱います。

【帆村虹人】
人が変わる現象はメントロピー……
そう言うんだね。
独逸ドイツ人は何でも名前を付けたがる。
【ユリア・クラウフマン】
そうですね……
メントロピーがいつまで続くか、
まだわからないことだらけです。
仮面の男にアルツケアンをほどこしたのは
フェラー博士に違いありません。
【帆村虹人】
それで仮面の男は、
自分以上の自分になれたのかな?
【ユリア・クラウフマン】
取り込み方も重要なようです。

気体化したアルツケアンを吸い込み、身体に定着しきるまえに目を覚ますと、メントロピーは短い時間で終わるという。

【帆村虹人】
かい族の少年は、
完全に取り込む前に目覚めたんだね。
【ユリア・クラウフマン】
仮面の男には慎重に施した――
フェラー博士はコンプレットを、
作ろうとしたのでしょう。
【帆村虹人】
コンプレット――
【ユリア・クラウフマン】
完全版といった意味です。
【帆村虹人】
麗華さんに結 晶アルツケアンを施したのが、
山郷だとすれば、
方法を知っていたのかな?
【ユリア・クラウフマン】
容器から出して、
部屋においておくだけです。
けれど、アルツケアンについて、
知識はあったんでしょうね。
【帆村虹人】
誰かが教えた、そうだよね、きっと。
【ユリア・クラウフマン】
アルツケアンどうしで、
大きなセヒラ場を生むことも。
よほど詳しい人物がいた――

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
風水師たちを阻害そがいする者が――
青山新京シンキョウです。

【帆村虹人】
僕はユーゲントたちを組織して、
仮面の男の捜索そうさくをするよ。
捲土重来けんどちょうらいを狙ってそうだから!
【ユリア・クラウフマン】
私はヘーゲンの動向を探ります。
先ほど執事型を何体も連れて、
市内に出かけました。
何か目的があるようです。

〔祓えの間〕

【喪神梨央】
青山新京シンキョウの穴を、
五人の風水師が守ります。
そこへ阻害する者が現れたと――
【新山眞】
ジョン・チュー、エリック・ホイ、
ヘレナ・スー、ドナルド・プー、
そしてアンドリュー・ワン――
アンドリューさん以外、
苗字の漢字はわかりません。
【喪神梨央】
一人、女性がいるのですね――
ヘレナさん……
何があったでしょうか。
【新山眞】
フリーダさんいわく、
五人とも昏睡こんすい状態にあるとか。
それで思念を飛ばすのです。
【喪神梨央】
フリーダさんの携行式けいこうしき幻燈器げんとうき
もしかしてキノライトの会社かも。
東京幻燈げんとう工業ってところです。
ちょっと調べてみますね!

〔赤坂哈爾浜駅〕

【満鉄列車長】
青山新京シンキョウにいる連中、
香港ホンコンから繋がっているようですね。
それもうんと未来の香港ホンコンから。
前にも似たようなことがありました。
それで未来から色々来たのです――
今度も来るかもしれませんね。
――どんな未来からでしょうか?

列車は青山新京シンキョウに向かいます。
間もなく出発します。

〔青山新京〕

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
見たこともない波形を観測しました。
注意してください!

交信後、すぐさま中型アストラルがやって来た。

【ダイナー店主Bアストラル】
俺があの怪物ヴンダーを初めて見たのは、
誰が呼んだかクソ退屈州間道路インターステーツ上だ。
ツーソンまで真っ直ぐ続くクソ道路、
あれを計画した奴は、
よほどの阿呆あほかおせっかい野郎だ。
ハンドル操作不要で楽々チンチン――
そう考えたのかもな。
救いようのないおせっかい野郎だな!

怪物はウェストロックを貫く州間道路を、ツーソン方面へ移動していたという。
町外れの小屋で暮らすセルマ婆さんが、ミッションオイルの染みを見て救世主キリストと信じ、全米からおかしな連中が集まった道路である。婆さんは純白のウェディングドレスをまとい、オイル染みのある場所へ日参した。
ドレスが灰色になる頃に騒ぎは収まった。

【ダイナー店主Bアストラル】
怪物はコーディの仕業だと考えた。
ヘンリーオートの穀潰ごくつぶし、
キング・オブくそったれコーディだ。

なんせあの怪物、
体中から砲身突き出していたからな。
歩く砲身天国だ、まったく!

コーディは車屋を営むが、
筋金入りのガンクレイジーだぞ。
弾の出るものなんでもござれ!
去年、二八年型T1軽戦車を買い、
三十七ミリ歩兵砲を取り外して、
九十三ミリ砲に載せ替えやがった。
奴がそいつをぶっ放した時は、
地面は脂肪デブの腹みたいに波打ち、
砂煙が竜巻状に舞い上がったもんだ。
永久に太陽が顔を出さなくなり、
ウェストロックは氷河期を迎える、
そう心配したもんだ。

あの怪物もコーディの野郎がこしらえた、
そう考えるのも当然といえば当然だ。
真っ白な不気味や怪物をな!

だが違った! 真実は奇なり!
怪物は日本人ジャップが持ち込んだんだ。
今は大和人ヤマトニアンって呼ぶんだったな。

あの怪物どもとナチの新型爆弾で、
アメリカは日本とドイツに全面降伏、
西経一〇四度で分断統治されたんだ。
モンタナ州とノースダコタ州の州境、
それがになった。
一〇四度線と呼ばれる――

日本人ジャップ、いや大和人ヤマトニアンは、
ロスにアメリカ総督府を置いた。
西半分、大和ヤマト領ってわけだ。
そういや、大和人ヤマトニアンの連中、
あの怪物のことをなんと呼んだか……
確か――
ジンライマジン――
大和語ヤマトニーズは難しいぜ、まったく!

アストラルが回転しながら消え、風魔は街区を進んだ。そこでは2体のアストラルが会話していた。

【着信 喪神梨央】
未来のことのようですが――
何かズレが生じているようです。
警戒して進んでください。

【新聞記者Sアストラル】
横須賀よこすか港に停泊中の戦艦京畿けいき艦上で、
宮崎みやざき全権大使とモス米副大統領が、
横須賀よこすか条約に調印し――

ああ、何かうまくまとめられない。
イケダ、お前の方はどうだ?
【新聞記者Iアストラル】
日本国は大和やまと国として省庁再編、
拓務たくむ省から改組の拓殖経務たくしょくけいむ省が、
鮮満に次ぎ西米洲を管轄かんかつ――

サカイ、お前の原稿は、
条約の目玉を取り上げたほうが、
いいんじゃないか?
【新聞記者Sアストラル】
横須賀よこすか条約の目玉か――
ドル二十八円の固定相場制とか、
米国アメリカ石油の無制限輸入とかか?
【新聞記者Iアストラル】
そうだな――
それを見出しにして、
米国総督府のエドガー蒲田かまた総督の――

そう言い終わらないうちに5体のアストラルが同時に入ってきた。

【新聞記者Sアストラル】
ん、何だ、何があった?

【超級風水師AWアストラル】
私たちでは、
押さえきれない邪悪な存在だ。
頼む、なんとかしてくれ!
【風水師HSアストラル】
邪気の流れを整える、
私たちにできることよ。
それを超えては無理だわ――

そう言うと5体のアストラルは隣接する街区へと進んだ。

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
隣の街区に進んでください。
セヒラ、観測します!

果たしてその街区には仮面の男が待ち構えていた。セヒラ異常に呑み込まれて消えて以来である。

【仮面の男のアストラル】
私は自分こそ虚無きょむだと思っていたが、
あの女ほどではない――
月詠麗華つくよみれいかだ!
あの女の内側には何もない。
怒りも憎しみも、さげすみも、何もだ。
あの女は戦いそれ自体を楽しむ――

二つのアルツケアン、
その衝突が狙いだったとはな!
私も焼きが回ったものだ。
だが、この戦いで私は再生する。
さぁ、憎しみをわけてくれないか!!

《バトル》

【仮面の男のアストラル】
お前は闇をのぞいているつもりか。
闇もまたお前をのぞいているのだ。
それを忘れるな――

仮面の男が消えた後、風魔はさらに街区を進んだ。地面に大穴の開いた場所である。穴の周りを5体のアストラルが囲んでいた。

【風水師HSアストラル】
助かりました――
私はヘレナ・スーです。
香港の風水師です。
今は九龍クーロンフロントの海鮮中心にある、
フカヒレ屋の奥の部屋で、
八年も昏睡コーマ状態になっています。
あの頃、眠れない夜が続き、
素人しろうと療法で睡眠薬を飲みすぎて――
先日、私の思念はバーナードに会い、
ここにいざなわれました。

【風水師JCアストラル】
さぁ、また私たち五人で、
ここの邪気をしっかり整えますよ。
私たちは誇り高きコーマ団ですから!!

5体のアストラルが穴の中央に集まった。その直後、穴からはセヒラの湧出が始まった。しかしアストラルたちが制御するためセヒラはか細くまるで糸のようであった。

【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
赤坂哈爾浜ハルピンで麗華さんらしき波形、
確認しました。
赤坂哈爾浜ハルピンに向かってください。

大穴はひとまずアストラルたちに任せることにして風魔は踵を返した。

【満鉄列車長】
やはりです、憶測したとおりです。
赤坂哈爾浜ハルピンの町に、
キタイスカヤが出現しました。
哈爾浜ハルピンのキタイスカヤです、
あの大通りがそっくりそのまま!
そして私の状態では、
キタイスカヤに入れないのです!!

え~間もなく、赤坂哈爾浜ハルピン
赤坂哈爾浜ハルピンです~
キタイスカヤもこちらです~

赤坂哈爾浜の街頭に立つ風魔の周囲がゆらいで暗転した。光が戻るとそこはキタイスカヤ街であった。

〔キタイスカヤ街〕

【着信 喪神梨央】
そこは……
またキタイスカヤ街ですね!
依然いぜん、麗華さんらしき波形、
確認できています。

交信と入れ替えに千紘、芽府須斗夫、吉祥院蓮三郎がやって来た。

【芽府須斗夫】
なかなか、面白いことになってきた。
――そうじゃないかな?
【千紘】
未来から思念が繋がった――
【吉祥院蓮三郎】
香港の風水師は、
皆、昏睡こんすい状態にございます。
それでなお、思念を飛ばすのです!
【芽府須斗夫】
それもあるけど――
少しズレた未来と繋がっている。

そう言うと、芽府めふ須斗夫すとおは、先の新聞記者の思念に深く触れ、様々なことを知ったという。

【芽府須斗夫】
日本とドイツはアメリカと戦い、
結局、アメリカを打ち負かすんだ。
そういう未来だよ。
ドイツは六十発の量子爆弾を落とし、
日本は三百八十六体の怪物で攻めた。
怪物はヴンダーと呼ばれているよ。
【吉祥院蓮三郎】
ヴンダーとは独逸ドイツ語にございますか?
【芽府須斗夫】
その正体、人籟じんらいだよ!
それも相当大きな人籟じんらいだ。
【吉祥院蓮三郎】
人籟じんらい
東京ゼロ師団が関わる
それでございます!
【千紘】
ふーん……
東京ゼロ師団っていうと、
工廠こうしょうの上部組織なんだろ?
【芽府須斗夫】
アメリカを攻撃したのは、
普通の人籟じんらいじゃないさ。
ゼーラム六八六で改良されている。
【吉祥院蓮三郎】
それでヴンダーと、
独逸ドイツ語で呼ぶのでございますね!
【千紘】
そんなのを、アメリカ本土まで、
どうやって運んだの?
【芽府須斗夫】
伊五百号潜水艦百三十六せき
加えて戦艦阿蘇あそ、戦艦生駒いこま――
海軍が全面協力したんだ。
ドイツから釣鐘つりがね運んだときも、
伊号潜水艦が使われた。
人籟じんらい運んだのは最新型だね。
【吉祥院蓮三郎】
独逸ドイツの爆弾とは、
どのようなものでございますか?
【芽府須斗夫】
ゼーラム六八六を用いた量子爆弾――
それしかわからない。
東海岸の二十四の都市が壊滅した。
死者三百四十万人――

アメリカ本土は西経104度で分断され、
東アメリカを独逸ドイツが占領、西アメリカは日本に併合へいごうされたという。

【千紘】
でもそれって、正しい未来なの?
【芽府須斗夫】
わからないさ――
いろんな時間の線が錯綜さくそうしている。
【吉祥院蓮三郎】
今の時点で米国アメリカと戦っていません。
それに……
あきらさまの学校、東海岸にあります。
それが独逸ドイツ領になってしまうのです。
何か複雑な感じがいたします。
【芽府須斗夫】
未来にはあらゆる可能性がある。
そういうことだね。

芽府須斗夫は風魔に向き直って言う。

【芽府須斗夫】
僕たち、帝都で石を拾ったんだ。
仮面の男が残した石だと思う。
【千紘】
田町たまち、広尾橋、大崎広小路おおさきひろこうじ――
仮面の男が結界破りに使ったんだ。
仮面の男は劣化れっかしているはずだ。
麗華さん、しばらく安全だね。
今はホテルにいるよ、麗華さん。
【芽府須斗夫】
ホテルボストーク。
この先にある小さなホテルだ。
【吉祥院蓮三郎】
私の勘としましては――
麗華さまと豪人たけとさまが出逢えば、
お二人とも愈々いよいよ完成するのでは?
そう思う次第しだいにございます。
お二人、完成寸前にございますゆえ。
あきらさまのお声が
聞こえるようです――

レンザ!
お前も早く完成させないとな――

【着信 喪神梨央】
ホテルボストーク、
ワゴロドナヤ街十一号地です。
東方 ボストーク飯店の看板が目印です。

交信を終え風魔が顔を上げると3人はいなくなっていた。風魔はホテルを目指した。

〔ホテルボストーク〕

公園越しにソフィースキー寺院を望む、東方飯店ホテルボストーク408号室。
向かいは同發隆トゥンファールン百貨店である。

ホテルの窓辺に月詠麗華が立っていた。柔和な表情を浮かべている。

【月詠麗華】
風魔ふうまさま――
ようやく人心地つけました。

あの夜、八島通やしまどおりへだてた
新京シンキョウ神社に、
瑞祥ずいしょうの光を認めたのです――
久遠くおん流の師弟にだけ見える光、
それを新京シンキョウ神社に認めたのです。

光に誘われて新京シンキョウ神社に行くと、
そこに山郷さんがおいででした。
お茶で用いる香合をお持ちでした。
炭点前すみてまえのときに白檀びゃくだん香をきます。
そのお香を入れる香合、
交趾焼こうしやきで亀の形をしています。

3日後の夜、同じ時間に神社に来るように、そう伝え、山郷は麗華に香合を渡したのだ。
3日後、山郷と一緒に新京シンキョウ神社の井戸へ降り、次に気が付くと青山新京シンキョウにいたという。

【月詠麗華】
山郷さんは私を帝都に連れ戻す、
そう仰っておいででした。
神社の地下に運河が通るのだと――
でもここは帝都ではありません。

ここは……おそらく哈爾浜ハルピンです。
先程、レンザさまにお会いしました。
レンザさまは豪人たけとさまをご存じです。
お二人で修善寺しゅぜんじに出向かれたとか。
それでロッホをお調べになりました。
穴という意味だそうです。
豪人たけとさまは帝都にもロッホがある、
そうお考えになり、
帝都各所にお出になっていると――
白山の宿舎から――
小石川区の白山ですよね。
そこに豪人たけとさまがおいでなのですね。

私、帝都に戻ることにします。
是非、豪人たけとさまにお目にかかり、
教えをいとうございます。

【着信 喪神梨央】
兄さん――
麗華さんと一緒に戻ってください。
まずは戻ることです。

麗華を伴い風魔は祓えの間まで戻った。

〔祓えの間〕

【喪神梨央】
麗華さん――
神社でもらった香合の中に、
何か結晶が入っていませんでしたか?
【月詠麗華】
仮面の人が言っていました――
隕石いんせきとか結晶とか。
ありました、そのようなものが。

梨央はアルツケアンについて説明した。
香合に入っていたのは不思議な結晶で、気体になって麗華の体内に吸収されたのだと。

【喪神梨央】
麗華さんはアルツケアンを、
ものすごく深く取り込んでいる――
そうに違いありません。
【月詠麗華】
では私は転生するのでしょうか?
そう言えばレンザさまも、
転生の途上だとか……
【喪神梨央】
吉祥院蓮三郎きっしょういんれんざぶろうさんですね。
悪魔セーレが転生した……
いえ、転生しようとしたのです。
【月詠麗華】
あの皆さんは、もしかして……
同じなのでしょうか――
【喪神梨央】
キタイスカヤにいた三人ですね。
でも、千紘ちひろさんは彩女あやめさんの別人格、
そう診断されています。
麗華さん――
あきらさんにはお会いになりました?
【月詠麗華】
レンザさまから話だけは――
まだお目にかかっていません。
【喪神梨央】
旭さんは鴨脚敬祐いちょうけいゆうという、
明治の女性国学者の書いた本を、
愛読されています。
麗華さんの学校を作られた方、
そうですよね?

鴨脚敬祐いちょうけいゆうは明治期の女性国学者で、帝国女学園の創設者でもある。
日本は欧亜ユーラシア世界の盟主であるとしたためた。
男装の麗人としても有名であった。

【月詠麗華】
鴨脚いちょう先生のことは、
よく教えられましたわ。
【喪神梨央】
あきらさんをご紹介します。
この近くにおいでなんですよ。
【月詠麗華】
それは是非ぜひに。
話が合うかもしれませんわ。

祓えの間に新山眞が入って来た。

【新山眞】
ホテルに如月きさらぎさんがお見えですよ。
【喪神梨央】
ありがとうございます。

麗華さん、まいりましょう。
鈴代さんもご一緒ですよ。
兄さん、麗華さんを、
あきらさんのアトリエにお連れします。
鈴代さんに来ていただきました。
【月詠麗華】
風魔さま、帝都に戻していただき、
ありがとうございます。
私は……大丈夫です。

梨央は麗華をエスコートするようにして祓えの間を出て行った。

【新山眞】
喪神さん、ヘーゲン召喚師ですが、
何かを企んでいるようです。
目黒近辺に執事型が集結しています。
現地の確認、お願いできますか?

〔目黒駅前〕

公務電車は予め梨央が用意していた。風魔は省線目黒駅前を目指した。
省線をまたぐ橋の中央にクルトがいた。クルトの周囲に執事型ホムンクルスが展開している。
手前からユリアが様子を見守っていた。

【ユリア・クラウフマン】
フーマ! 来てくれたのですね。
今、執事型が管理不能になって、
ヘーゲンが困惑の極みにいます。

セフィラにも疎密そみつがあります。
トウキョウのセフィラはみつなので、
ホムンクルスの指揮に向いています。
でも、今はセフィラがの状態、
アプドロックが長持ちしません。

同様の事態、ドイツでもありました。
エッセンでセフィラが急にとなり、
ホムンクルスが暴走したのです。

【着信 喪神梨央】
帝都のセヒラ、今は低い状態です。
五人の風水師が頑張っているので。
でも釣鐘つりがねが不安定との報告があり、
予断を許しません!

【ユリア・クラウフマン】
フーマ!
見てください!
ホムンクルスが一斉いっせいに――

橋の上で異変が起きた。クルトの目の前に巨大なセヒラ球が現れたのだ。セヒラ球の半分は地中に埋まっている。見る見る巨大化して、ついにはクルト、風魔を呑み込んでしまった。

〔時空の狭間〕

【クルト・ヘーゲン】
何故だ?
連中はアプドロックを守らないのだ?
私のめいだ、私の、私の、私の!!
くそっ!
勝手にアプドロックを解除するのか!

さてはお前がそそのかすのか!
これはエッセンの二の舞か!
そのようなことは断じて認めない!!

《バトル》

どこからともなく聞こえてくる声……クルトはうろたえている。

【???】
復唱するであります!
各所襲撃後は首相、蔵相、鉄相、
農相、文相各官邸、料理店幸楽こうらく
及び山王さんのうホテルに宿泊せり!!
【クルト・ヘーゲン】
誰だ、お前は?
私に何を言いに来たのだ?

【クルト・ヘーゲン】
――まさか……
ハンス……ハンスなのか?
そこにいるのは、ハンスなのか?

フルトヴァンゲンの泉……
リューゲン島の砂浜……
ハンス、本当にお前なのか?

クルトの問いには答えず、代わって甲高い声がした。

【???】
どりゃーお久しぶり、
お元気でお過ごしやか?

クルトは困惑の極みにいた。

【クルト・ヘーゲン】
やめろ!!
ハンス、すんだ!!
これ以上、翻弄ほんろうしないでくれ!

【???】
フフフ――
お前は神に召されるのだ、売女ばいため。
いざ、幸いなれ!!
きざんでやろう、
お前の為の十字架じゅうじかを――
その瑞々みずみずしく白い腹に!!

そのきしむような声は憎しみに彩られていた。クルトは大きく目を見開いている。口をあんぐりと開け、ほとんど息はしていない。

【クルト・ヘーゲン】
やめろ!!
あああああ~
やめてくれ!!

腹の底から絞り出すような声を出すクルト。続けようとしたがもう言葉にはならなかった。
闇の底から全く抑揚のない声が聞こえてきた――

【???】
おお、墓よ、
お前の勝利はどこにある?

遂にクルト・ヘーゲンが自失した。
目黒に大勢のホムンクルスを連れて、彼は何を企んでいたのだろうか?

月詠麗華の帰朝きちょうを受けて、深まる秋の中に静かなる緊張が走る。

第八章 第五話 龍脈の行方

〔祓えの間〕

はらえので待機していた新山眞にいやままことから、ゲートの状態が安定したとの一報が入った。様子を見に梨央りおはらえのに来ていた。

【喪神梨央】
兄さん!
ゲートの状態が安定したんですって!
【新山眞】
でも時空は歪んでいます――
大きな歪みディストールドですよ!
【喪神梨央】
新山さん……
エスペラント語、復活ですか?
【新山眞】
アハハ……
失敬しっけい失敬しっけい
こいつは辞書で調べました。
喪神もがみさん、
別の時空は繋がったままですが――
いきなりその時空の先に
飛び出したりはしません。
――保証はありませんが。
【喪神梨央】
帝都満洲だったら探信たんしんできます。
品川図們トモンですよ、兄さん!
【新山眞】
そうです――
どうかお気を付けて!

風魔がゲートに向かったとき、祓えの間に高濃度のセヒラが流入した。
まるで夢玄器を装着したときの思念空間のようだった。
そこにフリーダイップが姿を見せた――

【フリーダイップ
来てくれたのね――
ありがとう。
遅かれ早かれわかることよね――
接続したのは未来の九龍城砦クーロンじょうさいよ。
といっても、九龍城砦クーロンじょうさい自体、
一九九四年に取り壊されているの。
でも、壊されなかった街がある――
それが陰界いんかいという場所に沈んだ街。
陰と陽の陰の方よ。
私の街、光明路コウミョウろもそのひとつね。
繋がったのは二〇一五年の光明路コウミョウろ
まさにその時と場所なのよ。
私が暮らしていた街よ――
この街で何か異変が起きている――
そうじゃないこと?

フリーダが消えると思念空間のセヒラもなくなった。
風魔は常のとおりにゲートをくぐった。

【満鉄列車長】
当列車、品川図們トモン行きです。
青山新京シンキョウ、広尾吉林キツリンを経由します。
満鉄線から新京シンキョウで満洲国鉄京図ケイト線へ、乗り入れる経路となります。
それでは出発進行です!

品川しながわ図們トモン

2015年の光明路コウミョウろに繋がったという町、品川図們トモンには、その時代のアストラルがいた。

老街ラオの路人Wアストラル】
あんたどこから来たんだい?
ここにいると季節感もない――
もう五月になったはずだけど――
この先に広がるのが光明路コウミョウろだよ。
一九九七年の陰陽交合いんようこうごう事件で、
陽界ようかいに浮上しなかったエリアだ。
あの時は九龍クーロンフロントの他に、
龍城路りゅうじょうろ龍津路りゅうしん西条路さいじょうろ大井路おおいろ
その四つが陽界ようかいに出てしまった――

老街ラオの路人Jアストラル】
もう一つあるよ、妄人路ワンニンろさ!
妄人ワンニンとはな、妄想しすぎて、
物に姿の変わった奴らのことさ。
中国の客家人はっかじんが親族一同が暮らす、
円形の客家土楼はっかどろうみたいな街だな。
この街に妄人ワンニンはいないな……
俺も携帯電話男は見たことがある。
あれはあれで自由そうだったな!

太子公園プリンスパークの路人Mアストラル】
この街でおかしなことが起き始めて、
もう三年になるな――
夢の中で夢を見る、
そんな路人ろじんが相次ぐんだ。

太子公園プリンスパークの路人Dアストラル】
廟  街テンプルストリートの医者は多重夢だと言う。
夢を見ている夢を見ることだ――
夢の中で見る夢は悪夢なんだよ。
夢の話だろ?
多重夢ってことらしいぜ。
悪夢を見終わった自分がいる、
そんな夢を見るんだ――
今年はほぼ毎日見ているよ!

太子公園プリンスパークの路人Xアストラル】
廟  街テンプルストリートの医者の奴、
多重夢にどんだけ詳しいんだか……
やぶの中のやぶ筋金すじがね入りのやぶだしな!
私はね、調べんたんです。
この光明路コウミョウろで多重夢を見た路人ろじん数。
さて、何人だと思いますか?
驚くなかれ、九十六人です。
なんかキリの良い数字ですね。
中には姿を消した者もいますが――

ところで私の悪夢、知りたいですか?
無論むろん、知りたいですよね?
――分かるんです、空気感で。
あなたは好奇心こうきしんの人だ。

ぱだかになって滑り台を滑る、
そういう夢ですよ。
その滑り台、長い包丁の刃なんです。
その上をはだかで滑るんですよ!
尾骶骨びていこつをギリギリとけずられながら。
いつまでっても終わらない滑り台。
はっと目覚める、それが夢です。
私は滑り台のそばに立っている――
滑っているのは、他の人だったり。
それが貴方なんです!!

《バトル》

太子公園プリンスパークの路人Xアストラル】
ギリギリギリギリ……
ああ、私の尾骶骨びていこつが、けずられていく!!

中央区セントラルの路人Qアストラル】
多重夢、多重夢ってな、
みんなまだ素人しろうとくさいぜ。
俺なんか、二重じゃない、三重だ!
誰よりも先行ってるんだ。
マジ玄人くろうとっぽいんだ。
悪夢からめた俺がいる――
その夢を見ている俺がうたた寝で、
今度は子供時代の夢を見る。

中央区セントラルの路人Vアストラル】
ああ、こうも玄人くろうとっぽいと、
理解するのが大変だよ、あんた!
必ず悪夢からめる夢なんだ。
まるで悪夢を奪われている――
そんな気さえするんだ。

中央区セントラルの路人Zアストラル】
誰かが悪夢を集めている、
そういううわさもあるんだよ。
俺はこう見えてもな、
古靴ふるぐつ屋を経営していたんだ。
維多利亜鞋ヴィクトリアシューズっていうのが店名だ。
そんな話には興味が無いって?
あんた、薄情はくじょうだな――
じゃ、信和広場シノワスクエアの爺さんにでも会え。
この街のこと、知りたいんだろ。
あの爺さんは光明路コウミョウろ字引じびきだよ。

品川しながわ図們トモン

信和広場シノワスクエアの路人Nアストラル】
光明路コウミョウろ路人ろじんに異変が起きたのは、
三年ほど前からです。一説には龍脈りゅうみゃく途絶とだえたせいだと――
そういううわさもあります。
龍脈りゅうみゃくとは神獣からはっせられる、
強い気脈のことですよ。

信和広場シノワスクエアの路人Pアストラル】
あんた、太子公園プリンスパークの方から来た?
じゃ、電脳中心でんのうちゅうしんそば通ったんだな。
あすこのジェレミーが言うには、
異変の原因はゲームにあるんだとか。
ゲームの中に吸い込まれた奴がいる、
そんな話だった――
ジェレミーもそうなんだよ、きっと。
【着信 喪神梨央】
ゲームに吸い込まれるって、
中野満洲里マンチュリでも聞きました。
確か電脳中心でんのうちゅうしんの――
ええっと、あの時は、
九龍クーロンフロントだったと思います。
ゲームというのがどんなものか、
ちょっと想像できないんですけど。

信和広場シノワスクエアの路人Cアストラル】
十八年前のことはよく覚えておる。
陰陽交合いんようこうごうで世界破滅の寸前すんぜんじゃった。

あの時、わしは九龍クーロンフロントにいた。
神獣しんじゅうとして見立てを受ける、
そんな宿命しゅくめいをもった娘がおってな。
名前を小黒シャオヘイといったな――
その娘は一九二〇年の上海しゃんはいで、
神獣朱雀すざくの見立てを受けて、お陰で陰界いんかい龍脈りゅうみゃくが戻ったんじゃ。
勿論もちろん、実際に行ったわけじゃなく、
生体通信せいたいつうしん双子ふたごの姉さんと繋がった、
それで大きな力を生み出したんじゃ。

その龍脈りゅうみゃく途絶とだえておる。
一九二〇年より後の時代でな。
このままでは陰陽交合いんようこうごうの心配がある。
クーロネットにくわしいのがおったぞ。
その者と話してみるがいい。

より詳しく話の聞けるアストラルを求め、風魔は品川図們トモンの街区を進んだ。
1体のアストラルが風魔を認めて近づいてきた。

【リゾーム会員Pアストラル】
あんた、前にも接続したよね――
あんたがここの龍脈りゅうみゃくを取り戻すの?
なら教えるけど――
神獣朱雀すざくとして見立てを受けた小黒シャオヘイ、その見立ての日が間違っていたんだ。それで龍脈りゅうみゃく途絶とだえてしまった――
断絶だんぜつは一九三五年だと思う。
その年の五月でファイアの日は……
五月十二日、十三日だよ。
今日が一日だから、再来週のにちげつだ。
どうやってその時代に行くかって?
簡単だよ、ゲームにログインだよ。
みんな同じ時空に飛ばされている――
ゲームのことなら、電脳中心でんのうちゅうしんのジェレミーに聞くといい。
僕からも伝えておくよ。

【電脳中心Jアストラル】
調査に来たのはあんたかい?
パピヨンから連絡あったんだ。
リゾームというネットの会員だよ。
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
そのアストラルが、
ゲームのジェレミーだと思います。
【電脳中心Jアストラル】
何か音が聞こえたけど……
あんた、インカム着けてるの?
もしかして、当局の人? 
それはそれでいいんだけど。
俺、クーロネットで調べたんだ。
九七年当時のログを発掘してね。
龍脈りゅうみゃくおこした日付が違ったんだって?
邪悪な意思が及んでいたのかな……
ガリギアスオンラインのプレイヤー、
みんな、一九三五年の東京に、
飛ばされるんだ――
俺の時もそうだった。
東京の鍛冶橋かじばしという町だよ、
知ってるかな?
この異変は三年前からだ。
だから、その時空に何かがある――
おそらくだけど……
朱雀すざく龍脈りゅうみゃくはその時代で途絶とだえた、
だからその時代でつなぐ必要がある。
ゲームが教えてくれているんだよ!
時空のトンネルが繋がってるんだ。
かが神獣を見立てをする。
でも見立てられるのはだろう?
光明路コウミョウろ路人ろじんが多重夢に見るのも、
三年前からだよ――
誰かが悪夢を集めているとか?
ネットではそんなうわさが飛び交うよ。
あんたが行くならゲームを起動する。
【着信 喪神梨央】
ゲームで繋がるのは一九三五年、
つまり今年の五月一日です。
場所は鍛冶橋かじばしです――
帝都内ですが探信たんしんはできません。
でも行ってみるべきです!
【電脳中心Jアストラル】
行くんだね!
じゃ、ゲームを始めるよ!
そうだ、このかぎを持っていくといい。
俺のアカウントだから、
あんたのハンドルネームは、
ホーネットだよ!

程なく眼前に鬱蒼うっそうとした森が現れた。聖域とされるトスタリアの森である。

【フリーダイップ
ゲームに入ったのね……
今はログオフ中だけど、私は周瑜しゅうゆ
このゲームの中ではね――
あなたの向かう先、五月一日の帝都、
そこに歪みの元がありそうよ。
時空を超えて光明路コウミョウろから悪夢を集め、
それを利用している……
がいるはずよ。
人かどうかもわからないけど――
気を付けてください。

森の図書館に着き、貰ったかぎで中へ入る。そこはエリオットの書斎しょさいという閲覧室だった。部屋にある小さな扉を開けて表へ出る――

〔鍛冶橋〕

そこはまさしく帝都であった。
鍛冶橋かじばし京橋きょうばし、両電停のほぼ中間、槇町まきちょうと呼ばれている一角である。

【着信 ジェレミー】
俺だよ、電脳中心でんのうちゅうしんのジェレミーだ。
この周波数、ジャックしたよ――
案外、簡単だったな!
クーロネットでシャア先生の手記発見!
ファイアの日を調べた先生だよ。
手記によると正しいファイアの日に、
神獣の見立てを受けるのは、
蘭暁梅ランシャオメイだそうだよ。
一九二〇年の上海にいた少女さ。
あんたの向かった年だと、
よわい二十七歳になっているはずだよ。
蘭暁梅ランシャオメイが見立ての場所に来ない――そうじゃないかな。
彼女を阻害そがいする何かがあるんだよ。

通信が終わったとき、鍛冶橋のビルの角から着物姿の少女が現れた。
少女はうっすらと笑みを浮かべながら風魔に寄ってくる――

【少女】
フフフフフ~
――あなたなのね……
みじめったらしい自尊心じそんしんで、
この世界に染みをこしらえているのは!
その染みはおびえの色をしているわ!

少女の背後にセヒラが集まったかと思うと、やおら巨大アストラルが姿を見せた。全身から激しくセヒラを噴出している――

妖帝ヤオディアストラル】
私はすべての時代に属している――
かつて、そう言ったはずだが、
お前たちは物忘れが酷いと見える。
憎しみや怒りは、
まるで砂金のように沈殿ちんでんする。
砂金の層が厚く重なり、
私は生まれたのだ――
お前たちはおのれうち宿やどす悪意に、
恐れをなしている。
いつわりの善意のころも
隠そうとあがく――
狡猾こうかつにも程がある――
ならば見えるようにしてやろう。
お前たちの夢の中でな!
悪夢からのがれようとする、
お前たちのそのおびえが、
愈々いよいよ、私を強くする。
私はお前たちそのものだ。
さては自分を痛めつけるのか?
楽しそうじゃないか!!

《バトル》

着物姿の少女は巨大アストラルに半ば吸収され、もはや人の体をなしていなかった。
巨大アストラルは愈々いよいよ激しくセヒラを噴出している。

妖帝ヤオディアストラル】
お前の心に沈殿するのは何だ?
おびえなのか? 憎しみなのか?
お前の姉は死んだ――
山のふもとで自らに火を放ったのだ!
お前の姉は焼身自殺したのだ。
黒焦くろこげの体は、四肢ししが不自然にゆがみ、
異様なほどの白い眼が虚空こくうにらむ。
歯を食いしばったままの口は、
たましいの抜け出るのを防ごうと
しているかのようだった。
燃える姉、燃える姉、
乾いた心には容赦ようしゃなく火が付く。
お前にとってのファイアの日だ、
まさしくな!

一瞬、セヒラの奔流が起きたと思う間もなく、宙に浮かぶ小さな1点にセヒラが収束した。
アストラルもその姿を消した。
地面に少女の着物だけが残された。

【着信 ジェレミー】
おい、あんた、大丈夫か?
今の奴が悪夢を集めていたんだな。
それを蘭暁梅ランシャオメイに注いでいた……
そうなんだろ、きっと。
蘭暁梅ランシャオメイは東京に行っているよ!
昔の新聞記事を検索したんだ……
一九五〇年の新華報しんかほうだよ。
十五年前、つまり一九三五年に、
満洲国から日帝に渡った
二人の女優についての記事だ――
二人は紅楼夢こうろうむの舞台挨拶あいさつのため、
東京に行ったと報じられている。
麻美マーメイ蘭暁梅ランシャオメイの二人だね。
それで蘭暁梅ランシャオメイは、
日本で行方ゆくえ知らずになったとある。
――つまり……
日本で、東京で、蘭暁梅ランシャオメイは、
神獣の見立てを受けたんだね!!
龍脈りゅうみゃくが繋がった、そういうことだね!
あっ、周瑜しゅうゆがゲームにログインした。
じゃ、俺はこれで――
もう会うことはないと思うけど。

無線の後、風魔は淡いセヒラに包まれた。顔を上げると、そこは思念空間の溜池通だった。
市電も車も通らない人の気配のない溜池通である――

【フリーダイップ
あなたが戦った妖帝ヤオディとは、
歪みの象徴のような存在なの。
それが蘭暁梅ランシャオメイ萎縮いしゅくさせていたのね。
彼女、回復して来週来日の予定よ。
共演の女優、麻美マーメイと一緒に。
二人は浅草で舞台挨拶あいさつするのよね。
そして五月十二日に神獣となる。
――ねぇ、お姉さんのことだけど……
真実は他にあるようよ。
私、調べてみる。
妖帝ヤオディの言ったことはに受けないで。
今、ここは一九三五年五月一日……
あなたの中の帝都なのよ。
ここに未練みれんを残さないで――
自分と戦って抜け出すのよ。
自分を信じて、打ち勝つのよ。
一番の敵は自分の中にいるものよ。

前方からもう一人の風魔が歩き入る。
セヒラがもたらしたドッペルゲンガーであった。
風魔は試されているかのように自分に向き合う――

《バトル》

〔山王機関本部〕

【喪神梨央】
兄さん!!
心配しました……
兄さんが帝都満洲に降りて、
もう五日が経ちましたよ!
【新山眞】
喪神もがみさん――
いろいろ調べたところ、
やはり二つの時間があるようです。
帝都満洲では時間の進みが遅く、
帝都の時間の五分の一ほどです。
帝都満洲の一日が帝都の五日――
帝都満洲に一週間滞在たいざいすると、
帝都では一月ひとつきってしまいます。
【喪神梨央】
これも時空の歪みが原因ですか?
【新山眞】
ええ、そうだと思います。
今、歪みは解消されています。
でも時間のズレは残ったままです。
いつから時間が
ずれるようになったのか、
さだかではありませんが――

神獣の見立てを阻害そがいする邪悪な存在があった。それを退しりぞけ、蘭暁梅ランシャオメイ朱雀すざくとなった。その龍脈りゅうみゃく途絶とだえることなくへと流れる。

失われた龍脈

〔山王機関本部〕

喪神もがみ梨央りお
兄さん!!
異常事態発生です!
帆村ほむら魯公ろこう
ぜんたい、どうしたんだ?
またサイレンが鳴っていたぞ!
喪神もがみ梨央りお
セヒラの値、
いつになく高まっています――
場所は……この山王さんのうです!
帆村ほむら魯公ろこう
なんだと?
――さてはゲートがおかしくなったか?

九頭くず幸則ゆきのり
歩一の九頭くずです――
風魔ふうま、大変だぞ、ホテルの地下で、
何か大きな音がしたと報告が――
帆村ほむら魯公ろこう
そういえば、振動もあったぞ。
何があったんだ?
異常事態と関係あるのか?
喪神もがみ梨央りお
兄さん、ゼットー博士がお呼びです。
研究室へ向かってください。

〔山王機関魔課〕

銀河ぎんがゼットー】
オーホホホッ~
来たな、君ィ!
な、な、な、なんと!
大変事たいへんごとが起きてしまったぞ!
――別な時空へと繋がったのだ!
ん? 理解できんか?
別な時空とは、別な時代と別な場所、
そこへ山王さんのうが繋がったのだ!!
繋がった先だがな――
ボクの見立てでは……
かなり未来だな、未来と繋がった!
一九九七年だ、計算が正しければ、
その時代とここ山王さんのうが繋がったのだ!
遠い未来……場所は……
オーホホホ! こいつはまさに……
ホーンコーン、香港ホンコンだっ!!
さぁ、夢玄器むげんきを着けるのだ!
君は愛と希望の大未来へ行く!
時空を超えて香港ホンコンへ旅をするっ!!

新山眞にいやままこと
波形、波形、波形――
あまりにも多くの記録によって、
嗚呼ああ、私は混乱する!
波形のささいな違いが、
現実で大きな差となって現れる。
――まったく不可思議な世界だ……
私は信じている――
森羅万象しんらばんしょう、全てを波形化できると。
時や空間さえ、波形になるだろう。
先月からわずかに見える不思議な波形、
あれは、計算からすると随分先の、
そう、未来の波形にほかならない――
未来の香港ホンコンという解が出たのだが。
その座標に当てはまる波形だ。
なぜ、そんな波形が現れるのか?

九龍クーロンフロント〕

夢玄域むげんいきに現れたのは、まさに九龍城クーロンじょうである。九龍クーロン電脳中心でんのうちゅうしんの近辺と思われる。幾多いくたのネオン看板がやみを照らしていた――

【えびき屋の子供】
俺、見たんだ。
九龍クーロンフロントの路人ろじんが、
おかしな声上げて走って行ったよ。

えびき屋の子供。海鮮中心かいせんちゅうしんの奥で、日がな一日、生えびをいている。同業ではねぎき屋というのもいる。

【えびき屋の子供】
きっと、九龍クーロンフロントにも、
邪気じゃきが流れ込み始めたんだ。
そうに違いないよ!
【フリーダイップ
帝都の瘴気しょうきに似た悪い気脈きみゃく
九龍城クーロンじょうでは邪気じゃきと呼んでいます。
路人ろじんとはここに暮らす人です――

続いて現れたのはフリーダようである。渋谷しぶや駅前で霊雀館れいじゃくかんという占いの店を営む。ここでは香港ホンコン名のイップを名乗っている――

【フリーダイップ
路人ろじんだけど、邪気じゃきに触れて、
おそらく怪人になった――
よくない状況よね。
【えびき屋の子供】
怪人って何だよ?
そんな強そうじゃなかったよ!
あいつ、古靴屋ふるぐつやなんだよ!
【フリーダイップ
あなたは……
帝都じゃなくて九龍クーロンにいたのね?
【えびき屋の子供】
何言ってんだよ、おばさん!
俺はずっとここにいるんだ、
九龍クーロンフロントのすみでえびいている。

【フリーダイップ
……
そうね……
ねぇ、喪神もがみさん、聞いてくれる?
帝都に未来の香港ホンコンが繋がったの。
ここは一九九七年の香港ホンコンね。
それも普通の香港ホンコンじゃないの――
繋がった先は九龍城クーロンじょうと呼ばれる、
陰界いんかいただよ魔窟まくつのようなところよ。
世界には陰と陽の二つがある――
九龍城クーロンじょう陰界いんかいに存在しているの。
陽界ようかいからはとっくに姿を消したわ。
実は一九九七年の五月に、陰界いんかい九龍城クーロンじょう陽界ようかいに姿を見せた、いわゆる陰陽交合いんようこうごう事件があったの。

中国返還を間近に控えた1997年、香港ホンコン陰界いんかいから九龍城クーロンじょうが姿を見せた。陰陽の秩序ちつじょを乱す陰陽交合いんようこうごう事件であった――

【えびき屋の子供】
あれは大事件だったよ!
ちょうど半年前の五月だよ。
結局、風水師ふうすいしが収めたんだ――
【フリーダイップ
その風水師ふうすいしの人は、
陽界ようかいから来たのね?
【えびき屋の子供】
そうだよ、超級風水師ふうすいしだってさ!
それ以来、陰界いんかい陰界いんかいのままさ。
【フリーダイップ
今度は帝都と九龍城クーロンじょうが繋がった――六十二年先の九龍城クーロンじょうね。
これは陰陽交合いんようこうごうじゃないけれど……
何か問題があってこうなったのね。
多分、風水ふうすいに関わることよ。
【えびき屋の子供】
神獣しんじゅうの見立てが出来ていないと、
おかしなことになるんだ。
【フリーダイップ
神獣しんじゅうとは、何をして見立てるの?
【えびき屋の子供】
見立てを受ける宿命しゅくめいを持った人、
そういう人を探すんだよ。
九七年の時みたいにね!

生き別れになった姉を探すヒロイン小黒シャオヘイ。97年の陰陽交合いんようこうごう事件では、小黒シャオヘイ神獣しんじゅうのひとつ、朱雀すざくの見立てを受けた。

【えびき屋の子供】
五月の時みたいにね、
神獣しんじゅうの見立てを受ける人が、
どこかで待ってるんだよ。
【フリーダイップ
それがどこだか、心当たりはあるの?
【えびき屋の子供】
わからないさ――
けどここの邪気じゃきはらわないと、
何も進まないよ。
【フリーダイップ
喪神もがみさん、ここ九龍クーロンフロントの
怪人を鎮定ちんていできるかしら。
風水ふうすいのことはその後ね。

《バトル》

九龍クーロンフロントで怪人化した路人ろじん鎮定ちんてい、周囲の邪気じゃきは消え、路地に活気が戻った。夢玄域むげんいきに神妙な顔つきのフリーダがいた。

【フリーダイップ
喪神もがみさん――
私、あなたに是非ぜひとも
お伝えしたいことがあるの――
私、この時代の人間ではないの。
つまり一九三五年ということだけど。
びっくりしたでしょ?
こんな話を切り出されて、
普通、驚くわよね――
私は二〇一五年に生きているの。
その時代の光明路コウミョウろという街よ。
そこで文鳥占いの店を開くの。
店はプリンスパークの霊雀館れいじゃくかんよ。
帝都では省線渋谷しぶや駅前に店があるの、
喪神もがみさんも知っているでしょ。
光明路コウミョウろ陰陽交合いんようこうごう事件の時、
陽界ようかいに現れなかった街なの――

97年の陰陽交合いんようこうごう事件では、九龍クーロンフロントの他、龍城路リュウジョウろ龍津路リュウシンろ西城路サイジョウろ大井路オオイろ、それに妄人路ワンニンろが出現した。
九龍クーロンフロントに繋がる街ながら、光明路コウミョウろ陰陽交合いんようこうごう事件で浮上ふじょうしなかった。その時、光明路コウミョウろは切り離されたのである。

【フリーダイップ
二〇一五年の光明路コウミョウろで暮らし、
私はゲームをするのよ。
ゲームってわかるかしら?
剣と魔法の世界に生きる人物になり、
モンスター討伐とうばつして物語を進めるの。
私がプレーするのは、
ガリギアスオンラインと言うゲーム。
ゲーム内では周瑜シュウユと名乗るわ。
三国志の武将名ね。
職業は戦士ウォーリアーよ――
ある日行商人ぎょうしょうにんからかぎを買ったの。
トスタリアの森にある図書館の鍵よ。
その図書館は持っている鍵で、
入れる閲覧室えつらんしつが違うの――
私はエリオットの書斎しょさい銘板めいばんのある
閲覧室えつらんしつに入れることになったの。
書棚しょだなかこまれたせまい部屋……
入ってきた扉から出ると、
この街、帝都の鍛冶橋かじばしだった――

ゲームを通じて時空が繋がると言う。2015年の光明路コウミョウろと1935年の帝都――
帝都側は鍛冶橋かじばしにあるビルが時空の出入口だ。

【フリーダイップ
エリオットって、光明路コウミョウろ
陰界いんかいの謎に取り組む研究者と同じ名、
エリオットラウというのよ。
エリオットには双子の娘さんがいる。
お姉さんは美鈴メイリンっていうんだけど、
満映の麻美マーメイと友達なのよ。
麻美マーメイ、知っているでしょ?
美鈴メイリンは私と一緒に帝都に来て、
来日中の麻美マーメイと会ったのよ。
美鈴メイリンのお父さん、行方不明なの。
彼女が過去に興味を持ったのも、
お父さん探しが目的よ。
また九龍クーロンフロントに怪人が――
なかなか邪気じゃきが取れないわね。
喪神もがみさん、後で麻美マーメイさんに会ってね。

《バトル》

夢玄域むげんいきに姿を見せたのは満鉄映画社の麻美マーメイだ。彼女はある使命をびていると言う。そのことで風魔ふうまに協力を求めているのだ。

【フリーダイップ
ねぇ、麻美マーメイ――
あなたは東京で生まれたのよね?
麻美マーメイ
そうです、明治四十一年、
一九〇八年、東京の本所ほんじょ生まれです。
本名は高山たかやま麻美あさみと言います。
【フリーダイップ
それで満鉄映画社には、
いつからいるの?
麻美マーメイ
十年前です、映画社ができる前、
満鉄映画協会の頃からです。
風魔ふうまさん……
お願いがあります――
満鉄映画社に、
蘭暁梅ラン・シャオメイという女優がいます。
暁梅シャオメイとは紅楼夢こうろうむで共演しました。
暁梅シャオメイ薛宝釵セツ・ホウサ役、私が林黛玉リン・タイギョク役。
でも、先日観た映画の予告編では――
薛宝釵セツ・ホウサは全く別の女優さんでした。
【フリーダイップ
それはなんだか嫌な感じね……
麻美マーメイ
おそらく過去がどこかで、
入れ替わっているのです――
暁梅シャオメイ陰陽交合いんようこうごう事件を経験し、
その後、一九二〇年の上海シャンハイ
戻っているのです――
【フリーダイップ
きっと、一九二〇年の上海シャンハイに、
戻れていないのよ。
まだ九七年の九龍クーロンにいるのよ!
麻美マーメイ
私は、一九二九年、大恐慌だいきょうこうの年に、
上海シャンハイ仏蘭西フランス租界そかい暁梅シャオメイに会い、
私が女優へと誘いました。

蘭暁梅ラン・シャオメイ――
1920年の上海シャンハイで超級風水師ふうすいしを迎えた。天童式てんどうしき神獣しんじゅう朱雀すざくの見立てを受けるも、その宿命にはなく、見立ては完遂かんすいしない。しかし蘭暁梅ラン・シャオメイの存在が朱雀すざく龍脈りゅうみゃくを、上海シャンハイに導くことになるのだ。

麻美マーメイ
今、過去がずれたようになって、
私たちは知り合えていないことに――
風魔ふうまさん、暁梅シャオメイが戻るのを、
手伝ってくれませんか?
一九二〇年、上海シャンハイです。
【フリーダイップ
九龍クーロンフロントには陰陽師おんみょうじがいるわ。
彼は時を越えて人を飛ばせる――
でも決まった人だけだけど。

時空を操る術師、陰陽師おんみょうじ
彼は渾天儀こんてんぎを使い、さだめのある時空へと、人を転送させている。

【フリーダイップ
陰陽師おんみょうじ渾天儀こんてんぎという装置を使うの。
でも邪気じゃきが強くて、うまく、
飛び先がセットできないのよ!
麻美マーメイ
風魔ふうまさん――
お願いします、九龍クーロンの怪人をしずめ、
暁梅シャオメイが戻れるようにしてください。

《バトル》

〔山王機関本部〕

喪神もがみ梨央りお
夢玄域むげんいきとは交信は出来ないけど、
記録は残っています。
事情はよくわかりました――
サイレンが鳴ったということは、
また九龍クーロンフロントにセヒラが……
邪気じゃきでしたっけ、増えています。
帆村ほむら魯公ろこう
九龍クーロン城砦じょうさいというのは清朝シンちょうの飛び地、確かそんな場所だったような――
そこがセヒラを呼び込むとはな!
人がひしめいて、店もたくさん――
ものすごい発展ぶりだな!
喪神もがみ梨央りお
ずっと未来の話です――
六十二年後のことです。
でもその未来が今に繋がっている……
そうなんですよね?
霊雀館れいじゃくかんのフリーダが未来の人だなんて
ちょっと驚きです――
二〇一五年に暮らすだなんて。
帆村ほむら魯公ろこう
それで活動キネマの方はどうなんだ?
女優の名前、調べたか?
喪神もがみ梨央りお
紅楼夢こうろうむですよね――
薛宝釵セツ・ホウサ役は蘭暁梅ラン・シャオメイでした!
ちゃんと戻れたんですね。
帆村ほむら魯公ろこう
蘭暁梅ラン・シャオメイは一九二〇年の上海シャンハイに戻り、九年後に麻美マーメイと出会う――
これで歴史が正しく繋がったな!
だが、またぞろのサイレンだ――
喪神もがみ梨央りお
兄さん、ゼットー博士の研究室へ、
急いでください。
まだ終わっていないようです。

〔山王機関魔課〕

銀河ぎんがゼットー】
どうかな、君!!
時空を超えて繋がった先は?
めくるめく未来の光景は!!
九龍クーロンフロント!
なかなか素敵な名前じゃないか!
――ボクももっと英語を使おう。
ところで向こうには、
陰陽師おんみょうじなる人物がいるんだな?
時空を操るんだとか……

陰陽師おんみょうじとやら、絶妙ゼツミョーに気になるぞ、
なるなる、大いに気になるのだっ!!
ボクも負けじといろいろあやつる!
さぁ、君はこの夢玄器むげんいきで飛ぶんだ!
準備はいいな、勿論もちろん!!

新山眞にいやままこと
飯倉いいくら技研の裏は我善坊がぜんぼうの谷……
それを降りずに宮邸みやてい沿いに行く、
ちょうどその辺りに特異点がある――
セヒラの特異点……
一度訪れたが、ただへいがあるのみ。
特異点と言うにはあまりにも小さい。
あの宮邸みやていは……確か……
東久邇宮ひがしくにのみや、それと聖宮ひじりのみやのはず。
その昔は静寛院宮邸せいかんいんのみやていだった。
皇女和宮かずのみやが暮らした屋敷だ――
宮邸みやてい脇の表通から下る御組坂おくみざか
その坂を見下ろすかぎ状の路地には、
永井ながい荷風かふう先生の偏奇館へんきかんが建つ。
麻布あざぶ市兵衛町いちべえちょう――
あそこには何かがある、
継続して観察するとしよう。

九龍クーロンフロント〕

夢玄域むげんいきに現れたのは、九龍クーロンフロントの南側、龍城飯店リュウジョウはんてんのエントランスを含む一帯だ。双子中心ふたごちゅうしんの他、剥製屋はくせいや阿片屋あへんやのきつらねる。

麻美マーメイ
風魔ふうまさん!
暁梅シャオメイですが映画の予告編に
ちゃんと登場していました。
ずれてしまった歴史が、
元通りに戻ったのです。
【フリーダイップ
よかったじゃない!
これで蘭暁梅ラン・シャオメイはあなたと一緒に、
紅楼夢こうろうむ挨拶あいさつで日本に来るのね。
麻美マーメイ
ええ、そうです――
紅楼夢こうろうむ浅草あさくさでかかります。
暁梅シャオメイも一緒に訪日ほうにちします。
【フリーダイップ
――多分、蘭暁梅ラン・シャオメイかぎになるはず。でもまだわからないわね……
ねぇ、麻美マーメイ
あなたに紹介した美鈴メイリン
彼女、風水ふうすいに関係していなかった?
エリオットの書斎しょさい
度々たびたび使ってる形跡けいせきがあるんだけど。
麻美マーメイ
ええ、美鈴メイリンは何度か来ています。
彼女のお父さんの名前も、
エリオットです――
【フリーダイップ
行方不明ゆくえふめいなのよね、彼女のお父さん、
確かエリオットラウだったわね。
風水ふうすいの研究をしていたとか聞くけど。
麻美マーメイ
ええ、そうです。
美鈴メイリンから聞く限りですが、風水ふうすい龍脈りゅうみゃくを未来へ繋ぐ研究です。
【フリーダイップ
何かの機械を作っているんでしょ。
確か老街ラオガイにあるのよ、研究室。
麻美マーメイ
気機ききという装置を作るそうです。
【フリーダイップ
その装置が風水ふうすいを正すの?
麻美マーメイ
龍脈りゅうみゃくと呼ばれる気の流れ、
それが過去から未来へ繋がることで、
風水ふうすいまもりは永遠となります。
気機きき風水ふうすい龍脈りゅうみゃくを受け止めて、
未来へと繋ぐ働きがあるそうです。
でも気機ききは開発の途中です。
まだ完成していないそうです。
美鈴メイリンのお父さんは、
さらわれたのだと思います。
【フリーダイップ
そんなことするの、
蛇老講オールドスネークくらいなものね……
手下は双子師ふたごしと呼ばれているわ。
麻美マーメイ
蛇老講オールドスネーク……
美鈴メイリンおそれていました。
風水ふうすい阻害そがいする一派だとか――
【フリーダイップ
連中、双子の響き合う力を利用する。
それは鳴力ミンリーっていうんだけど、
鳴力ミンリー風水ふうすい龍脈りゅうみゃくゆがめるのよ。
麻美マーメイ
そんなこと、できるのですね――
【フリーダイップ
そう言えば……
クーロネットで話題になっていた――
強力な鳴力ミンリーの実験計画があるって。

クーロネットとは九龍城クーロンじょう内にめぐらされた、通信ネットワークのことである。専用端末たんまつからアクセスできる。

【フリーダイップ
地下茎リゾームというネットワークで、
パピヨンという名のメンバーが、
双子中心ふたごちゅうしんでの実験情報を掴んだの。
麻美マーメイ
今、風水ふうすい途絶とだえでもしたら、
帝都は陰界いんかいへ、
飲み込まれてしまいます。
【フリーダイップ
喪神もがみさん、怪人鎮定ちんていをお願い。
双子師ふたごし邪気じゃきが少ないと、
思うようには行動できないのよ。

《バトル》

蛇老講オールドスネークの計画した強力鳴力ミンリーの発生は、双子師ふたごしの活動をふうじることで阻止そしできた。しかし風水ふうすいの危機が去ったわけではない。

【フリーダイップ
双子師ふたごしは、邪気じゃきが少なくて、
思うように動けなかったみたいね。
強力な鳴力ミンリーは起きなかった――
【えびき屋の子供】
ねぇ、おばさん!
今、双子師ふたごしがどうしたとか言った?

【フリーダイップ
……
【えびき屋の子供】
双子師ふたごしの奴らって、人間じゃないよ。
俺、見たんだ――
奴ら、仮面着けてるんだよ。
仮面はずすと、その下は真っ黒……
真っ黒のうずが巻いているだけだった!
【フリーダイップ
邪気じゃきに乗っ取られた人間もどきね。
人籟魔じんらいまの材料になる怪人も、
たしかそんな感じよね――
でもエリオットは行方ゆくえ知れずで、
気機ききという装置も完成しない……
未来のことが心配ね。
【えびき屋の子供】
未来って……
おばさんは確か……
【フリーダイップ
二〇一五年の光明路コウミョウろよ。
【えびき屋の子供】
随分ずいぶん先だね……
俺、いくつになってるんだ?
――えーっと……
【フリーダイップ
今の歳に十八年せばいいのよ。
【えびき屋の子供】
うん、そうだね!
もうすっかり大人だよ!
でも……
その頃には九龍クーロンフロントと光明路コウミョウろ
遠く離れてしまうんだろ?
どっちも陰界いんかいただようのは同じだけど。
【フリーダイップ
そうね、私の時代で、
あなたと会うことはないわね。
【えびき屋の子供】
それで、おばさんの時代で、
また龍脈りゅうみゃくが消えちゃうのか?
【フリーダイップ
せっかく過去から繋いだ龍脈りゅうみゃくを、
未来へ届けられないかも知れないの。
そのための装置が未完成なのよ。
老童ロウトンがあればいいとか、
そんな話だった――
又聞またぎきの又聞またぎきだけどね。
【えびき屋の子供】
ええ?
今、なんて言った?
ねぇ、おばさん!
【フリーダイップ
老童ロウトンのこと?
【えびき屋の子供】
おばさん、それだよ!
老童ロウトン、レナードが持ってるんだ!
またの名はサイラスだよ。

硝子ガラスうつわの中に謎の小動物の頭骨ずこつを収め、いくつもの電極を繋いだ霊的装置、老童ロウトン。気の流れを加速する作用があるようだった。

【フリーダイップ
またの名って……
サイラス・チャンは光明聯社コウミョウグループ親分ボス、そうでしょ?
【えびき屋の子供】
おばさんの時代でもボスなんだ!
そのサイラスだよ、まさに親分ボス
サイラス・チャンなんだよ。
【フリーダイップ
同じ人なの?
私の店に来るときは、
いつもレナードよ――
繊細せんさいでナイーブなレナード――
びんの中に黄金虫を飼っているのよ。
うちの文鳥ともお話するわ。
【えびき屋の子供】
レナードはサイラスの別人格なんだ、
毎日、午後二時にレナードになる。
【フリーダイップ
そうなのね。それじゃ……
レナードに頼むといいのね、
サイラスは老童ロウトンを知らないでしょう。
【えびき屋の子供】
サイラスなんておっかないよ、
あの人に会いたくなんてないね。
おばさんの時代もそうでしょ?

【フリーダイップ
そうね……
今じゃ滅多めったに姿を見せないけれど。
喪神もがみさん、私、光明路コウミョウろに戻るわ。
そしてレナードとお話してみる。
――老童ロウトンのこと、頼んでみる。
【えびき屋の子供】
その間、邪気じゃきが増えないように、
あんたは九龍クーロンフロントの怪人路人ろじんを、
やっつけるんだよ!
じゃないと、おばさん、
戻ってこれなくなるよ!

《バトル》

フリーダは2015年の光明路コウミョウろから戻った。レナードに老童ロウトンの相談をしたのだ。その光明路コウミョウろでは邪気じゃきが強まっているという。

【フリーダイップ
なんとか無事に戻れたわ。
レナードはこころよく了解してくれた。
――老童ロウトン、貸してもいいって。
でも不思議なの……
ねぎき屋の子供がいてね、
レナードの老童ロウトンのこと、知ってたの。
それを必要とする人に、
教えるんだとか……
いつ、知ったんでしょうね?
麻美マーメイ
老童ロウトンが見つかったってこと、
美鈴メイリンに伝えないと――
【フリーダイップ
今は無理よ。
麻美マーメイ
どうかしたんですか?
無理って――
【フリーダイップ
光明路コウミョウろ物凄ものすご邪気じゃきが強くなって、
とてもいられる状況じゃないの。
だから急いで戻ったのよ。
レナードは、私の店を出てすぐ、
サイラスに戻ったの。
危なかったわ――
また龍脈りゅうみゃくが弱くなった、
そういうことなんじゃない?
麻美マーメイ
暁梅シャオメイから聞いたのですが、
一九二〇年の上海シャンハイで、小黒シャオヘイという女性が朱雀すざくになります――

九龍クーロンフロントに暮らしていた小黒シャオヘイは、1920年の上海シャンハイにおいて、朱雀すざくの見立てを受ける宿命をびていた。

麻美マーメイ
それで未来へ龍脈りゅうみゃくが繋がるのですが、どこかで途絶とだえそうになっている、そうなのかも知れません――
今度こそ、暁梅シャオメイなのではと――
彼女が神獣しんじゅうになる宿命、そうじゃないかしら。上海シャンハイ朱雀すざくの見立ての場にいた――
それで彼女も宿命をびるように……
――そう思えてならないのです。
【フリーダイップ
あなたたちは映画の挨拶あいさつで、
帝都に行くんでしょ?
麻美マーメイ
そうです――
暁梅シャオメイ麻布あざぶにあるチョウホテルに泊まる、その予定だと聞いています。
近くに作家の永井ながい荷風かふう先生の家、
偏奇館へんきかんがあって、そこも訪れると。
【フリーダイップ
偏奇館へんきかん……ペンキりなのでその名前。麻布あざぶ市兵衛町いちべえちょうの高台に建つのよ。東久邇宮邸ひがしくにのみやてい聖宮邸ひじりのみやていのある町ね。

新山眞にいやままことがセヒラの特異点を見つけたのも、麻布あざぶ市兵衛町いちべえちょう宮邸脇みやていわきであった。遠くに見えるのが飯倉いいくら技研である。

【フリーダイップ
蘭暁梅ラン・シャオメイ麻布あざぶ市兵衛町いちべえちょうで、
神獣しんじゅうの見立てを受ける――
そういうことかしら?
麻美マーメイ
そうかも知れません――
神獣しんじゅう朱雀すざくの見立てですね。
今のところ、私たちは上海シャンハイで出会い、暁梅シャオメイは女優になり、帝都に行く――
正しい歴史の流れです。
【えびき屋の子供】
大変だよ、早く止めなきゃ!
【フリーダイップ
どうしたの、血相けっそう変えて?
【えびき屋の子供】
双子師ふたごし大挙たいきょして押しかける!
【フリーダイップ
どこに?
まさか……帝都に?
【えびき屋の子供】
たぶんそこだよ!
奴ら、風水ふうすい龍脈りゅうみゃくを邪魔しに行く、そのつもりなんだよ!
【フリーダイップ
帝都にはセヒラがあふれている――
双子師ふたごしが帝都に入ると、
見つけるのはとても困難よ。
【えびき屋の子供】
九龍クーロンフロントの怪人路人ろじんを倒して、
邪気じゃきを抑えるしかないよ。
今のうちだよ、あんた!

《バトル》

蘭暁梅ラン・シャオメイは帝都の麻布あざぶ市兵衛町いちべえちょうで、神獣しんじゅう朱雀すざくの見立てを受けた。
それを行ったのは1人の旅行者である。商用で香港ホンコンを訪れ、陰界いんかいちたのだ。その人物は光明路コウミョウろ美鈴メイリンと出会い、「生体通信」によって帝都へ飛んだ――
しかるべき時、しかるべき場所にいる、それで見立てがされたのである。

麻美マーメイ
光明路コウミョウろから邪気じゃきが消えたそうです。
――綺麗きれいさっぱりと。
【フリーダイップ
美鈴メイリンはレナードから老童ロウトンを借り、
気機ききを動かすことに成功したのよ。
大成功よ!
気機ききによって力強い龍脈りゅうみゃくが、
未来へと繋がったそうよ。
過去から来て未来へ繋がったって。
麻美マーメイ
おそらく――
暁梅シャオメイ神獣しんじゅう朱雀すざくに見立てられた――
そうに違いありません。
一九三五年、帝都で。
紅楼夢こうろうむの上映に先立ち、
私たち二人は、浅草あさくさの映画館で、
舞台挨拶あいさつをしました。
舞台挨拶あいさつの後、暁梅シャオメイ麻布あざぶに――
永井ながい荷風かふう先生の偏奇館へんきかんへ寄るのです。
私たちは日本橋でお別れしました。
紅楼夢こうろうむ大連ダイレンでも上映されるので、
明日、日本をちます。
横浜からえにせい丸に乗ります。
暁梅シャオメイも同じ船に乗るので、
今日、麻布あざぶのホテルに迎えに――
でも、彼女、
ホテルには泊まっていなかった――
投宿とうしゅくしていないのです。
【フリーダイップ
蘭暁梅ラン・シャオメイを見立てた人、
私の店に来たわ。まさにその人よ。
かりにAさんとしておく。
Aさんが美鈴メイリンを助ける感じで、
蘭暁梅ラン・シャオメイの見立てに行き着いたのよ。
ねぎき屋の子供が、
Aさんに老童ロウトンのこと教えたの。
麻美マーメイ
それで、美鈴メイリンはどうしていますか?
気機ききが無事に動いて……
【フリーダイップ
Aさんが手に入れた風水鏡ふうすいきょうに、
エリオットの思念が浮かんだそうよ。
美鈴メイリンのお父さんの思念が……
エリオットはね、
蛇老講オールドスネークさらわれたんじゃなく、
自分から深いところに入ったのよ。
【えびき屋の子供】
おばさん!
ぼやぼやしていると、
元の場所に戻れなくなるよ!
だんだん、離れていってるんだ――
【フリーダイップ
繋がりがはずれるのね!
【えびき屋の子供】
そうだよ!
ちょっとだけ見た帝都って、
なかなかいい感じだけど――
でも俺は九龍クーロンが好き!
海鮮中心かいせんちゅうしんでえびくんだ!
【フリーダイップ
心配しないで、私なら大丈夫よ。
どちらの時代にも行けるから。
【えびき屋の子供】
でも一九九七年には来ないよね!
【フリーダイップ
そうね、行かないわ。
【えびき屋の子供】
じゃ、これでお別れだね――
それから――
あんたも、気を付けなよ、
いつ邪気じゃきに襲われるやも知れない!
【フリーダイップ
さぁ、もう行って!
あなたの時代に戻るのよ!
【えびき屋の子供】
わかった――
最後だから……言ってみたかったことがあったんだ――
【フリーダイップ
どんなことなの?
【えびき屋の子供】
アディオス、あばよ!
麻美マーメイ
風魔ふうまさん、
また帝都でお会いすると思います。
そのとき、どこまで話せるか……
いや、このことを覚えているか、
それさえわかりませんが――
【フリーダイップ
私は霊雀館れいじゃくかんに戻るわ。
渋谷しぶやのお店よ、また寄ってね。
いろいろ仕入れておくから。

1997年陰陽交合いんようこうごう事件を経験した蘭暁梅ラン・シャオメイ。彼女も、小黒シャオヘイ同様、朱雀すざくとなる存在だった。1935年帝都、1997年九龍クーロンフロント、そして2015年の光明路コウミョウろ――
3つの時空が蘭暁梅ラン・シャオメイの宿命をつむいだのだ。

〔山王機関本部〕

喪神もがみ梨央りお
兄さん、お帰りなさい。
まさか、満映の女優さんが、
神獣しんじゅうの見立てを受けるなんて――
そんなこともあるんですね!
帆村ほむら魯公ろこう
しかし未来では、
風水ふうすいを機械で繋ぐのか……
まるで電波の中継ちゅうけいみたいだな!
喪神もがみ梨央りお
その装置を作った研究者の人、
エリオットって、エリオット手稿しゅこう
残した人ですよね?
今に伝わっているということは、
もっと昔に行ったんですか?
帆村ほむら魯公ろこう
おそらくエリオットなにがしは、
アラヤ界を彷徨さまよう思念なのだろう。
自らを思念に変えたのだ――
研究のためにな!
喪神もがみ梨央りお
双子の娘さんがいるんですよね?
お姉さんが美鈴メイリンさん、
それじゃ妹さんは……
帆村ほむら魯公ろこう
その姉妹についても、
少し調べる必要がある。
何より、フリーダの遊ぶやつ、
何だ、ゲームとか……
――そいつも気になる。
喪神もがみ梨央りお
ガリギアスオンライン――
フリーダさんは武将の名前なんですよ。
帆村ほむら魯公ろこう
鍛冶橋かじばしのビルとか言っておった。
時間のある時、巡視パトロールに出てくれ。
今日はもうよい、休むんだ。
喪神もがみ梨央りお
兄さん、お疲れ様でした!
紅楼夢こうろうむ、観に行かなきゃです!

第七章 第十一話 忙しい一日

〔山王機関本部〕

式部しきべは再び芽府めふ須斗夫すとおの元で待機となった。予言を求めるには強いセヒラが必要となる。変異があるとされる乙亥きのといの年、愈々いよいよ秋である。

【喪神梨央】
式部さんからはまだ連絡がないです。
強いセヒラの兆候ちょうこうもありません。
【帆村魯公】
今年についていろいろ言われるが、
まだ秋口あきぐちだ――
焦ることもない。
【喪神梨央】
予言っていくつまであるんでしょう?
今年中に全部分かるんですか?
【帆村魯公】
今年中に出きらないときは、
何も異変が起きないということじゃ。
枕を高くして眠れる。
【喪神梨央】
隊長! 
帝都の怪異は増えているし、
いろいろたくらむ人もあります!
【帆村魯公】
それはそうだが……
あの釣鐘つりがね鎮座ちんざまします限り、
帝都は安泰あんたいだろうて。
あの釣鐘つりがね以来、召喚も安定した。
ナチの技術も捨てたもんじゃない。
【喪神梨央】
私は何だか嫌です――
機械に管理されているみたいで。

【フリーダ葉】
ごめんなさい、遅くなったわね。
【帆村魯公】
足労そくろう済まないね、フリーダ。
フリーダ、お前さんに一つ頼みだ。
腕の立つ風水師ふうすいしを紹介して欲しい。
【フリーダ葉】
お安い御用よ――
だけど山王さんのう機関の依頼だから、
普通じゃないわよね、当然。
【喪神梨央】
ホテルの前にバーナードチャンという、
風水師ふうすいしが現れたんです。
――アストラルとして……
【フリーダ葉】
そうなんですってね。
バーナードは香港ホンコンの病院よ。
もう八年も眠り続けるの。
彼は風水ふうすいの見立てに失敗したの。
四神獣ししんじゅうが消え去り邪気じゃきに支配された。
彼は邪気じゃきから逃れて自失したのよ。
【帆村魯公】
その思念が帝都満州を彷徨さまよう――
だが彼のお陰で助かった。
セヒラがあふれずに済んだからな。
また再び、気脈を繋いで欲しい。
一ツ橋の憲兵隊本部に。
【フリーダ葉】
つまりバーナード並みの腕前がいる、
そういうことなのね?
――なかなか難しそうね……
でも一人いる――
アンドリューよ。
アンドリューワンというの。
【帆村魯公】
ほう!
それはどのような人物かな? 
【フリーダ葉】
香港ホンコン最高風水ふうすい会議の一員よ。
肺癌はいがんの手術で医者が麻酔をあやまって、
もう二年も意識がないの――
【喪神梨央】
それじゃ、帝都満洲のどこかを、
彷徨さまよっているんでしょうか?
【フリーダ葉】
アンドリューの声やら何やら、
録音とかがあるから、
それらから、波形、割り出せない?
【喪神梨央】
多分できると思います。
声の録音って録音盤ろくおんばんですか?
【フリーダ葉】
うん、まぁ、そのような物ね。
【帆村魯公】
それでは二人、頼んだぞ。
その風水師ふうすいしをどうにか見つけたい。
風魔ふうま、お前は巡視パトロールに出てくれ。
今日の巡視パトロールはどの辺りだ?
【喪神梨央】
銀座方面です――
セヒラの反応も少しあります。
気を付けてください。

〔銀座四丁目〕

【着信 喪神梨央】
銀座界隈かいわいでセヒラを観測します。
この波形、安定しています……
怪人になって長いと思います。
【夢見心地のサラリーマン】
いやぁ、あなた、読みましたか?
興亜こうあ日報の特報ですよ、
桃源郷とうげんきょうの話!
実にロマンがあるなぁ……
蒙古もうこの西、支那シナ新疆シンキョウ省省都、
烏魯木斉ウルムチのさらに西!
蟻走痒感府ぎそうようかんふという、
新発見の都があるらしいです!
そこの臣民しんみんありと共生するんです!
【ロマンチストなモガ】
蟻走痒感府ぎそうようかんふの人々は、
青斑せいはんびた白色陶質とうしつ皮膚ひふで、
火にも水にも強いのですわ。
でも蟻酸ぎさんには弱く、触れると死ぬ、
だからありと仲良くするのですわ。
最も色白で青斑せいはんの多い女王が、
カーンと呼ばれ、みやこ君臨くんりんするのです。
ハァ~想像が膨らみますわ!
【空想家の旦那】
華氏かし財団辺疆へんきょう弁理公司鉄路建設局
臨時調査部隊――
桃源郷とうげんきょうを発見した調査隊ですよ。
辺疆へんきょうの地にこそ未来ありですな!
経度八〇乃至ないし八三度、
緯度四三乃至ないし四五度の辺り、
我が桃源郷とうげんきょうはそこにあるのです。
いやぁ、行ってみたいですなぁ。
白楊ポプラの並木の続く道――

〔銀座街路〕

【独逸語専科生】
フォス大佐から銀座で号外、
もらうように言われて来たんだ。
――あなたのこと、大使館で見たよ。
フォス大佐には壮大な計画がある。
なんと、第四帝国建設!
驚いたかい? そりゃそうだろう――
総統フューラーを差し置きの新国家建設ときた。
僕も将来を大いに嘱望しょくぼうされていてね!
【着信 喪神梨央】
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
セヒラ上昇しています。
ホムンクルスではありません!
【独逸語専科生】
僕は独逸ドイツ大使館で働いているんだ。
だから事情に通じている!
君たちも働いてARBEIT自由になればいい!

《バトル》

【独逸語専科生】
沈 黙シュヴァイゲン……沈 黙シュヴァイゲン……沈 黙シュヴァイゲン
【着信 喪神梨央】
独逸ドイツ語らしきを確認しましたが、
波形から通常の怪人と思われます。
ホムンクルスではありません。

【聖宮成樹】
やはり怪人でしたか!
赤坂で怪力にて人を突き飛ばし、
十番の市電に乗ったのです。
私も銀座への道すがら、付けました。
半蔵門はんぞうもんで十一番に乗り換え銀座へ。
電停からは巻かれてしまったのです。
喪神もがみさんがいらして幸運でした――
この近くの純喫茶じゅんきっさで、
ある人物と約束しています。
喪神さんもご一緒ください。

〔純喫茶青蘭せいらん

【女給鶴子】
あら、いらっしゃいませ~
【聖宮成樹】
あちらの方と待ち合わせです。
【李景明】
殿下!
お早かったんですね。
赤坂の菓子屋は……
【聖宮成樹】
わけあって、今日はしました。
さんにご紹介しようと思い、
喪神もがみさんもご一緒願いました――

聖宮ひじりのみや景明けいめい風魔ふうまを紹介した。は東亜文化調査局の調査員だと自己紹介した。

【聖宮成樹】
さん、こちらの方には、
満鉄調査部と名乗っても大丈夫です。
なにせ参謀本部直轄ちょっかつですから。
【李景明】
なるほど――
それは頼もしい限りです。
【聖宮成樹】
喪神さん、さんは、
北満の発展をたくされ、
種々の調査をなさっておいでです。
【李景明】
喪神さん、私は支那シナ生まれです。
両親は日本人ですが、満洲では、
リー景明チンミンを名乗っています。
近い将来、独逸ドイツは欧州を戦禍せんか
巻き込むに違いありません。
独逸ドイツは全欧州を敵に回すでしょう。

2年前――1933年、独逸ドイツではヒトラー内閣が誕生。
同年8月、ヒンデンブルク大統領死去によりヒトラーが独逸ドイツ国家元首に就任した独逸ドイツ欧州ヨーロッパ全域を手中に収めようと目論もくろむ。ソビエトは独逸ドイツにとり後方の脅威きょういである。

【李景明】
日本は欧州の戦争には関わらず、
極東地域を愈々盤石いよいよばんじゃくにし、
揺るぎない構えを築くことです。
【聖宮成樹】
先の世界大戦争では、
青島チンタオに攻め独逸ドイツ退しりぞけました。
今後、独逸ドイツとの関係は如何いかに?
【李景明】
むしろ今後を占うのは露西亜ロシアです。
露西亜ロシアの助長を抑えるべきです。
史大林スターリンは冷酷で強欲な人物です――
それに、露西亜ロシアが唱える共産主義は、
今後、世界の脅威きょういとなるでしょう。
――まるで新宗教のようにです。
露西亜ロシアの南下を防ぐことは、
世界の安全にとってかなめとなります。
とりわけ米国アメリカにとり重要です。
【聖宮成樹】
そのために北満なのですね?
【李景明】
今、北満の発展を進めれば、
日本は国際的にも有利な切り札カードを、
手の内にすることができます。
【聖宮成樹】
独逸ドイツ露西亜ロシアを攻めてもらえば、
北満発展の機会が生まれますね。
露西亜ロシアの勢力が分化しますから――
【李景明】
独逸ドイツは攻めますよ、間違いなく。
我々はN計画を急ぐことです。
【聖宮成樹】
喪神さんも計画に関わります。
【李景明】
そうだったんですね!
参謀本部のお墨付すみつきを得ましたか!
【聖宮成樹】
N計画を阻害そがいする動きがあり、
それをふうじる特務を遂行されます。
【李景明】
帝都の変異に乗じて、
さまざまな動きがあるようですね。
私はまだ日本におります。
殿下、喪神さんのご紹介、
ありがとうございました。
喪神さん、よろしくお願いします。
耳寄りな情報があれば、
すぐお知らせします。
【聖宮成樹】
お気を付けください、さん。
それでは参りましょう、喪神さん。
さんと協力しあえればいいですね。

【女給雪子】
あららぁ~カズさん……
カズさんは、まだよろしいんでしょ?
二人でソーダ水、いかがかしら?

日本橋に用のある聖宮ひじりのみやとは店前で別れた。その後、本部からの着信があった――

【着信 喪神梨央】
金ノ七号帥士きんのしちごうすいしから連絡です。
四谷見附よつやみつけに向かってください。
要請内容はわかりません――

〔四谷見附〕

【帆村虹人】
祇園丸ぎおんまるの香腺を調べて、
大凡おおよその居場所、見当がついた。
【ユリア・クラウフマン】
ヨツヤ、イチガヤ……
この二点から結ばれる三角形ドライエック――
【帆村虹人】
その二点から伸ばして、
丁度、戸山とやまあたりに結ぶ三角形、
その何処どこかにいるはずなんだ。
今、二体のホムが行方知れずだ――
祇園丸ぎおんまるとユリアさんのフロイライン。
彼らの行方不明には、
猟奇倶楽部クラブの一味が関わっている、
そうに違いないんだ。
【ユリア・クラウフマン】
猟奇倶楽部での会話記録に、
フロイラインとおぼしきものを
見つけたんです。
彼ら猟奇人はとても慎重です。
雑誌の編集部住所も次々変わり、
なかなか所在をつかめません。
【帆村虹人】
だが範囲は絞られた――
ユリアさんは市ヶ谷を、
僕は戸山を当たってみる。
風魔、お前は四谷の巡視パトロールを――
ホムンクルスの技術、
漏洩ろうえいする前に防ぎたいんだ。
それにまた犠牲者が出る前にな――
【ユリア・クラウフマン】
フーマ、お願いします。
それでは私はイチガヤへ――

【帆村虹人】
ユリアさんを見ていると、
僕はまるで道草みちくさをしているようだ。
もっと自分に芯をもたなきゃな!
そう言い聞かせているんだ。
――それじゃ、巡視パトロール、頼んだよ!

【渋谷の客】
あら、今の方、女優さんみたいね。
――そういえば、銀座幻燈会げんとうえ
いよいよ活動キネマに格上げですって!
しかもトーキーですって!
――楽しみだわ……
私、トーキー、まだ知らないのよ!

【履物商の男】
あんたは……憲兵とは違うのか?
憲兵と言ったって天麩羅てんぷらもいるって、
それ、本当なのか?
天麩羅てんぷら憲兵……こりゃ傑作けっさくだ!
衣だけで中身は空っぽ……
そう思えば怖くはないな!

下谷区したやくの学生】
帝大の連中、すっかり萎縮いしゅくしたよ。
秋毫しゅうごうは休刊になったと言うし、
特高の巡察パトロール頻繁ひんぱんだし……
たもとを分かった新文民社は、
解体されて跡形もないね。
新文民社の謄写とうしゃ版や美品を並べ、
展示会を開くそうだよ、憲兵隊で。
不敬ふけい反逆分子の実態展だって!

〔四谷街路〕

煉獄れんごくの評議員Ψプサイ師】
あのホムンクルスとやらは、
なかなか厄介やっかいなもんですな!
【マントヴァの枢機卿Ωすうききょうオメガ師】
命令者の言う事しか聞きません。
刷り込みアプドロックがない、刷り込みアプドロックがない、
その繰り返しです。
【東方の黒騎士長Δデルタ師】
前に猟奇倶楽部に、
おいでになりましたわね。
お話しましてよ!
倶楽部の外にいるときは、
正式名を名乗りますのよ、私ども。
倶楽部内ではただの猟奇人ですわ。
【太陽神殿の門番Λラムダ師】
私たちにはホムンクルスが必要です。
一体は確保、もう一体は逃亡中。
帝都にはたくさんいるのに――
全部で四体ほど必要です。
喪神もがみ風魔ふうまさん、手伝ってください。
ホムンクルスの捕獲ほかくをです。
煉獄れんごくの評議員Ψプサイ師】
倶楽部の高位の会員が、
たってのお願いと頼むのですよ。
【マントヴァの枢機卿すうききょうΩオメガ師】
こちらも刷り込みアプドロックされて、
言うことを聞かないのでは?
そう思いますけど――
煉獄れんごくの評議員Ψプサイ師】
仕方ないですね。
大司祭に来てもらいましょうか!

【初心の大司祭Γガンマ師】
このあたりはすこぶる危険ですよ。
セヒラが多く漂いますよ。
あなたがこれ以上踏み込まないよう、
私から言い聞かせてあげましょう。

《バトル》

【初心の大司祭Γガンマ師】
――あなたたちは……
そのうちきっと、
協力したくなるはずです、きっと――
【着信 喪神梨央】
巡視パトロール完了の旨、
金ノ七号帥士きんのしちごうすいしに通知しておきます。
こちらでは、
風水師ふうすいしの確認できました!
はらえのに来てください。

〔祓えの間〕

【帆村魯公】
アンドリューワンという風水師ふうすいし
波形が確認できたらしい。
梨央りおのやつ、やけに興奮してな。
何でも小さな活動キネマみたいなものに、
風水師ふうすいしが映っておったと――
【新山眞】
確かに波形はあるのですが、
他の波形と重なっていて、
うまく特定できません。
彼は身動きが取れない状態、
まわりに強いセヒラが漂います。
【帆村魯公】
帝都満洲のどの町かわかるのか?
【新山眞】
中野なかの満洲里マンチュリの方に記録が残ります。
新しい拠点になりますね。
ただ今は――
【帆村魯公】
どうした?
【新山眞】
ミスターワンですが、
今は時空の狭間にあるようです。
喪神さん、ミスターワンふうじるもの、
かなり強いセヒラを発しています。
十分に注意してください。

〔時空の狭間〕

【双子師アストラル】
双子作るなら双子中心ふたごちゅうしんに来ることだ。
双子中心ふたごちゅうしんなら質の高い双子が作れる。
双子の間には通じ合う力がある。
それを鳴力ミンリーと呼んでいる――
まだ本物の鳴力ミンリーは起きていない。
力を秘めた双子がいないからだ!
鳴力ミンリーが起きれば邪気じゃきを自在に操れる。
ここいらも随分と邪気じゃきが強まった。
また陰陽交合いんようこうごうが起きるぞ!
まさかお前が――
せっかくの邪気じゃきはらうつもりなのか!
――それは許さん!
あの風水師ふうすいし共々邪気じゃきに染めてやる!!

《バトル》

【双子師アストラル】
くそっ!
鳴力ミンリーがあれば……こんなことには……

【超級風水師AWアストラル】
ここを解いてくれたのか……
私はまだあの薄暗い病室で、
眠り続けるのだな?
あの光明路コウミョウろの小さな医院の――
手術前夜、ほとんど眠れなかった――
光明劇場クンミンシアターの赤いネオンが部屋を染め、
浅い眠りはすぐ覚まされたのだ。
バーナードがここを出たとき、
すべてのことがわかった……
私にもできることがあると。
その思いを邪気じゃきに察知され、
私は閉じ込められた――
私にはバーナードほどの腕前はない。
準備が必要だ、少し時間をくれ。
セヒラを送って知らせる。

〔山王機関本部〕

【喪神梨央】
お帰りなさい、お兄さん。
フリーダさん、
すごい機械をお持ちなんです!
のぞ絡繰からくりみたいな小箱の中に、
小さな活動キネマが収まっているんです。
てのひらに乗る大きさなんですよ!
そこにワンさんが映っていました。
声もするんです、トーキーです。
しかも総天然色なんです!
あんなの見たの、初めて!
映写機はどこにあるんでしょうか……
――ちょっとびっくりしました。
【帆村魯公】
梨央りおにしては珍しく、
大はしゃぎだったな!
【喪神梨央】
すみません……
【帆村魯公】
いいんだ。
風魔ふうま朗報ろうほうだ、
例の祇園丸ぎおんまる、見つかったそうだ。
戸山とやま衛戍地えいじゅちだそうだ。
【喪神梨央】
よかったですね!
兄さん、戸山に行かれますか?
【帆村魯公】
今日はもう十分だろう。
祇園丸ぎおんまる虹人こうじんらに任せておこう。
まずは風水師ふうすいしだ、風魔。
【喪神梨央】
ワンさん、セヒラで教えると――
中野方面、感度を上げて観測します。

頼みの綱の風水師ふうすいしを探り当てることができた。行方不明の祇園丸ぎおんまるも見つかった。次に向かうは新しい町、中野満洲里マンチュリである。

フリーダ・よう/イップ

 省線渋谷駅前で占いの店「霊雀館」を営む占い師。風水にも詳しいようであるが、得意とするのは香港伝来の文鳥占いのようだ。また審美学や象徴学に造詣が深く、店では絶界マテリアルの取り扱いも行っている。
 九龍城砦、陰界と呼ばれる場所のことも知っているようだ。一方、オンラインゲームも嗜むようで、「ガリギアスオンライン」では周瑜しゅうゆという名前のウォリアーでプレイしているようだ。残念ながらフリーダに関して、これ以上のことは秘匿事項に掛かるため、詳細は伏せる。