第五章 第十二話 思念の顕在

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
どうしましたか?
――今、どこにいるんですか?
青山墓地でまたあの波形です。
鈴代すずよさんがきにされた時と
同じ波形が観測されました。
至急、青山墓地へ向かってください。
――黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、聞こえますか?

青山墓地あおやまぼち

薄暗い墓地の中から、どこからともなく、つぶやくような声が響いてきた。それは読経どきょうのように唱える神曲の一節だった。
われが向かうところわれが見る限り、新たなるさいなみを受くる者の他に無く――
われは第三の地獄にあり、ここは永遠のしげき冷たき雨の地獄、大粒のひょう、水はにごれり、雪降りしきる――

神子柴みこしばはつゑ】
またお会いしましたね。
確かに私はみずからもたらした、
金神こんじんと合一できませんでした。

むご異形いぎょうの野獸チュルベロは
に浸る民のう
みっつのどにて犬のうに吠える――

――まだ力がおよばなかったのです。
しかし今、すべては満ちました。
如月きさらぎ鈴代すずよ白化アルベド触媒しょくばいとなり、
黒化ニグレドの思念を呼び集めています――
私には多くの信者を招いた、
その責務せきむがあるのです――
思念となった者たちをよみがえらせ、
賢者の石として永遠の存在にする、
その役割があるのです。
そのあかつきには、私は、新しき天地あめつちの母、
真の創造主となるのです。
さぁ黒化ニグレドの思念を招きましょう!
さぁ、貴方も、ご自分を試しなさい。
白化アルベド触媒しょくばいたくして、
無限とも言える力を得なさい――

神子柴みこしばはつゑ】
鬼龍きりゅう豪人たけとさん――
貴方は自身から目をそむけている――
鬼龍きりゅう豪人たけと
私が?
自分から目を……
どういうことだ?
鬼龍きりゅう豪人たけと
私は自分をよく知っている――
神子柴みこしばはつゑ】
貴方の求めるもの、
手に入るかも知れません。
保証はないのですが――
鬼龍きりゅう豪人たけと
何をするというのだ?
神子柴みこしばはつゑ】
自ら異能を封じ込めた人物――
如月きさらぎ鈴代すずよを目覚めさせるのです。
鬼龍きりゅう豪人たけと
目覚めさせる?
もう一度、霊異りょういを現すように、
説得でもするのか?
神子柴みこしばはつゑ】
錬金術の過程を進めて、
如月鈴代に触媒しょくばいの働きを持たせ、
眼前に霊異りょういを現すのです。
鬼龍きりゅう豪人たけと
錬金術……
よくは分からないが、
試す価値はありそうだな。

神子柴みこしばはつゑ】
終末はせまっています。
貴方もお力をお貸しください。
貴方には素晴らしい霊力があります。
眼を見張みはるほどの力です――
――素晴らしい、その力……
私は感じています――
さぁ、早く!
終末はそこまで来ていますよ。
貴方! もう時間がないのです!
早く、お力を!!

《バトル》

神子柴みこしばはつゑ】
素晴らしいお力です!
そうです、これです、
最後の扉が開き――
――私は思念として漂い、
こうして貴方に向き合い……
しかし、何かが食い違っています――
如月きさらぎ鈴代すずよ
…………
……
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
現在、どちらにおいでですか?
青山墓地で帥士すいしを確認できません!
――セヒラは依然、高いままです。
如月きさらぎ鈴代すずよ
――風魔ふうまさん……
私……
身辺に危険が迫ると言われ、
兵らに連れられてここへ来ました。
――鬼龍きりゅうさんが……
鬼龍さんが招いたのです。
不思議そうな顔して私を見るんです。
そして……
いろいろと不可解なことを口に……
――彼は、自分を見失っていた、
私はそう考えています。
何かの力が及んで、
鬼龍さんを変えた――
いや、変えようとしたのかも……
私、わかるんです。
闇雲やみくもに力を求める叔父とは違う……
鬼龍さんが求めているものは、
もっと違った姿をしています。
――けれど、それが何かまでは、
まだ見えていません……
【バール】
また変なところに来たニャ。
ここはどうやら帝都じゃないニャ……
おそらくだニャ、
鈴代さんの記憶の中ニャ。
――手っ取り早くここを出るには、
ショックが必要だニャ!

丁稚でっち
お兄さん! オイラ、見たんだよ!
怪人だよ! 怪人が出たんだ!
どっかそのへんだよ……

問屋とんやの使用人】
なんだぁ……おい!
今日はやけにまぶしいな!
天道様てんとさまがいくつも見えるぅ~

問屋とんやの使用人】
きゃはははははは!
俺はなぁ、力を得たんだ!
力だ力だ力だ、きゃはははは!

《バトル》

問屋とんやの使用人】
アハハハ!
お前も執念深いな。
しつこい奴は嫌われるぞ!
【バール】
しつこいかどうかは
わからニャいが、
ここもまごうことなき記憶の中だニャ。
ここは――
風魔、風魔の記憶だニャ!
鈴代さんの記憶から繋がったニャ!
【バールの帽子】
よっぽど赤坂に思い入れが
あるのかいな、ゲロゲロ。
感傷センチメントの地ってか?
【バールの帽子背後】
風魔ふうまさんよ、お前さんがはじめて
山王さんのう下のオウルグリルに行ったのは、
確か八年前だったよな。
淑子としこ姉さんに連れられて――
お前さんはビフテキを平らげた。
姉さんが亡くなる前の年だ。
【バール】
ニャるほどニャ!
まぁ、ここニャら無線も入るし、
自力で戻れるニャ。
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、聞こえますか?
帥士すいしの存在、すぐ近くに観測します。
青山墓地のセヒラは、
現在、小康状態にあります。
任務終了、本部に帰還してください。

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帆村ほむら魯公ろこう
ふむ……
きにされて、なお冷静に
鈴代は鬼龍を観察していたのか。
鬼龍の敵愾心てきがいしんは、山郷やまごうの腹黒さとは
別モノということか……
だが、その向こうに何があるのか――
それが気がかりではあるな。
喪神もがみ梨央りお
それにしても――
鈴代さんの記憶の中に入るなんて……
これもセヒラの影響なんですか?
帆村ほむら魯公ろこう
ああ、先だってのセヒラの奔流ほんりゅう
あれが 何かを変えてしまった。
強い思念さえあれば時空がゆがむ、
そんな事態を招いているようだ。
肉体に痛みを感じなくなると――
要注意ということだな!
喪神もがみ梨央りお
え? どうしてですか?
痛みを感じなくなるって……
帆村ほむら魯公ろこう
心に悩みがあるときは、
肉体の痛みを感じなくなる――
リア王に出てくる台詞だよ。
喪神もがみ梨央りお
――それじゃ、
思い詰めたりすることだって、
危ないかもしれないんですね。
帆村ほむら魯公ろこう
ああ、そういうことだな。
でも我ら機関員は心をきたえておる。
そうだろ、風魔。
喪神もがみ梨央りお
――さっきの溜池通ためいけどおりでは、
兄さんの位置が確認できなかった。
こんなに近いのに、変です。
さっきのは……
溜池通ためいけどおりなんでしょ?
――兄さんの心の中の……

帝都はまたひとつ、新たなるかいの扉を開く。思念の元へ、記憶の中へ、現世が繋がる――
世界のその全てを含むセヒラによって。

第四章 第五話 覚醒の人

第三連隊だいさんれんたい前庭まえにわ

如月きさらぎ鈴代すずよが軍人に攫われた――
その解決の糸口も掴めないまま、青山墓地でセヒラの増大が観測された。
常田つねだ大佐が帰還したことにより、小隊の召喚師達は、鳴りを潜めたようである。風魔ふうまは青山墓地へ向かうべく隊舎を出た。

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
青山墓地ですが、先程に比べて、
セヒラが強くなっています!
墓地周辺にも影響の及ぶ懸念が――
墓地に着くまでに怪人に遭遇そうぐうする
おそれもります。
――今観測する波形ですが、
以前に見たことがあります。
記録、あたってみます!

青山街路あおやまがいろ

【怯える巡査】
ヒッ! いきなり……
あっ、失礼しました!
おかしな連中がいるとの通報で――
ああ、もう嫌です、
ヒィヒィヒィヒィ~
もう勘弁かんべんです……
みんな、みんな、
怪人なんじゃないですか!?

直階ちょっかい信者】
――聞いていいですか?
あなたは何をさつしましたか?
ハァハァハァ……
私は欲をさつしました。
欲が芽生えた瞬間に摘むんです。
お腹が空く前に食べ、
眠くなる前に眠り――
でも欲深よくぶかの母だけはなくなりません。
だからね、母をさつしました!
薬店で買った昇汞水しょうこうすい飲ませてね……
すると私の欲がどんどん膨らんで――

1人の男が近付いてくる。
男の表情は、心ここに在らずといった様子で、足元も覚束おぼつかなかった。

【犬憑きのT男】
こうして出歩くとね、
やっぱりりくの言う通りだなって。
りくりくですよ,愛犬のりく号です!
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
その人物、何かに強く心を奪われ、
セヒラに侵されておるようです!

【犬憑きのT男】
生前、りくはね、散歩の度に言うんだ。
人も犬も器の大きさは同じだって。
何を盛るかの違いしかないそうだ――
人気は余計なものを盛りすぎる。
だから私はりくと器を入れ替えたんだ。
私には余計なものしか見えないぞ!!

《バトル》

【犬憑きのT男】
はぁはぁはぁ……
りくはいつもこんな辛い目に……
可哀想に、可哀想になぁ――

青山墓地あおやまぼち

鬼龍きりゅう豪人たけと
ようやく来たか、喪神もがみ風魔ふうま
我が小隊と派手にやりあったとか?
――フフフ、いい時間稼ぎができた。
貴様の勘、決して外れてはいない。
如月きさらぎ鈴代すずよ、あの女はここにいる。
――そうだよ、いるにはいる。
もはや如月鈴代をどこまで残すか、
それは保証の限りではない。
あの女はカタリサトール、
つまり触媒となった。
神秘をもたらす触媒だ――
もう貴様らの好きにはさせない!
喪神風魔、しばらく大人しく
していてもらおうか!!

《バトル》

鬼龍きりゅう豪人たけと
フフフ――
勝ったつもりか、それで。
貴様一人の勝敗など意味が無い!
もはや意味が無いのだよ、喪神もがみ風魔ふうま
あの女のおかげで、
我々は神秘の力を得ようとしている。
如月きさらぎ鈴代すずよはアルベドの触媒として、
黒化ニグレドした思念を蘇らせるのだ。
あの女にわずかに残った霊力は、
しかし、凄まじく純粋なものだ。
その純粋さが力となるのだ。

薄暗い墓地の中から、どこからともなく、つぶやくような声が響いてきた。
それは読経どきょうのように唱える神曲の一節だった。
われが向かうところわれが見る限り、新たなるさいなみを受くる者の他に無く――
我は第三の地獄にあり、ここは永遠のしげき冷たき雨の地獄、大粒のひょう、水はにごれり、雪降りしきる――

神子柴みこしばはつゑ】
またお会いしましたね。
確かに私はみずからもたらした、
金神こんじんと合一できませんでした。
たけ異形いぎょうの魔獣チェルベロ、
地獄にてさいなみ受くる者に向かい
三つののどを鳴らしてゆる――
――まだ力が及ばなかったのです。
しかし今、すべては満ちました。
如月きさらぎ鈴代すずよ白化アルベド触媒しょくばいとなり、
黒化ニグレドの思念を呼び集めています――
私には多くの信者を招いた、
その責務せきむがあるのです――
思念となった者たちをよみがえらせ、
賢者の石として永遠の存在にする、
その役割があるのです。
そのあかつきには、私は、新しき天地あめつちの母、
真の創造主となるのです。
さぁ黒化ニグレドの思念を招きましょう!
さぁ、貴方も、ご自分を試しなさい。
白化アルベド触媒しょくばいたくして、
無限とも言える力を得なさい――

如月きさらぎ鈴代すずよ
…………
鬼龍きりゅう豪人たけと
如月鈴代は黒化ニグレドの段階を飛び越え、
いきなり白化アルベドへと進んだ。
純粋であるからこそ成し得た――
帝都中から、いやこの世から、
黒化ニグレドした思念が集まり鈴代を介して、
白化アルベドの段階へ進む――
これはこれは、帆村ほむら先生。
先生にとって、如月鈴代は用済み、
そうではありませんか?
帆村ほむら魯公ろこう
たとえどんな力を得ようとも、
人に犠牲をいるなど、
断じてゆるさん!!
風魔ふうまよ――
真白ましろき雪は何色にも染まらん。
いさぎよく真っ白である。
鬼龍きりゅう豪人たけと
一体、何のまじないだ?
東雲しののめ流の成れの果て、
さては迷信に傾いたのか?
帆村ほむら魯公ろこう
錬金術の理論ロジックを用いたつもりか?
だが落ち度があるようだな。
付け焼き刃では所詮しょせん無理というもの。
風魔よ、鈴代女史じょしに憑く
これをすべてはらうのだ。
まだ間に合うぞ!!
鬼龍きりゅう豪人たけと
仕方がない。
この女の覚醒かくせい、完全ならしめよう!
如月きさらぎ鈴代すずよ
あ……ぁ…………

《バトル》

鬼龍きりゅう豪人たけと
触媒しょくばいとしてすべてを消尽しょうじんしたか――
如月きさらぎ鈴代すずよ
私……は………
鬼龍きりゅう豪人たけと
何? まだ自分を残すのか……
如月きさらぎ鈴代すずよ
…………風魔ふうま……さん……
鬼龍きりゅう豪人たけと
こらえたのか!
――あの霊異りょういの嵐の中で……
それとも……
喪神もがみ風魔ふうま、貴様が何かほどこしたか?
この女のうちに……
如月きさらぎ鈴代すずよ
……私…………
鬼龍きりゅう豪人たけと
ある程度は想定の範囲だ。
アーネンエルベはホムンクルスの
製造に成功したという。
そして山王さんのう機関は
アーネンエルベに擦り寄り、
その技術を得ようとしていると聞く。
対策を考えている私に、
ある提案が寄せられた――
それを実践したまでのことだ。
帆村ほむら魯公ろこう
鬼龍きりゅうの奴、いておるな。
召喚師部隊、順調ではなさそうだ。
だからといって、神子柴みこしばの入れ知恵、
何の疑いもなくに受けるとはな。
――奴は、焼きが回ったか?
独逸ドイツで召喚術を修得した者として、
あるまじき行いではあるな。
鬼龍の奴、少し様子が違ったな。
あいつもまた一つのこまかもしれない。
辺りのセヒラも落ち着いたようだ。
鈴代女史じょしを送り、本部へ帰還しよう。

何故、鬼龍は神子柴みこしばよこしまな計略に一枚んだのか――
その理由はわからずじまいであった。
鬼龍のひきいる召喚師部隊であるが、計画通りに召喚師の育成が進んでいない、その噂もある。彼の焦りが滲出しんしゅつしていた――

第三章 第十一話 金神の出現

はらえの・帝都〕

神子柴みこしばの洗脳により、よみがえりをもくして、自死じしする者が相次あいつぎ、その者らの思念が、神子柴みこしばに更なる力を与えた。力を得た神子柴みこしば錬金術れんきんじゅつ理論ロジックを用いて、金神こんじんを生み出そうとしていた。
帝都満洲にそれが現れたのだろうか?

〔上野黒河コクガ・南〕

上野うえの黒河コクガでは、酷寒こっかん様相ようそうを見せていた。すべてがてつき、色を失いつつあった。

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
上野うえの黒河コクガの様子はどうですか?
上野うえの黒河コクガ方面ですが、
セヒラの値、大きく変動しています。
用心してください。
上野うえの黒河コクガのどこかで、
セヒラが凝固ぎょうこしているようです。
周りのセヒラを吸っています!

【聖直階ちょっかいフィリポ】
――あなたを、感じます……
ここが終末の場なのですか?
私はどうしましょう……
どうにもなりそうにもありません……

【聖権正階ごんせいかいアンデレ】
諸君!
いよいよもってよみがえりの時だ。
――ん、あんた、誰だ?
こんなところに、よくいられるな!
それとも、一足ひとあし先によみがえったのか?

【聖明階めいかいペトロ】
き、貴様は!
歩一ほいち寄生きせいする山王さんのう機関の者だな!
わかるぞ、こんなになってもな!
俺達のよみがりを邪魔しに来たのか?
――フフフフ……
俺は歩兵少尉から聖明階めいかいになった!
殉教者じゅんきょうしゃペトロの名も頂いた!
あと少しでよみがえりだ、
お前にはいなくなってもらうぞ!!

《バトル》

【聖明階めいかいペトロ】
……体が消え、ついに念まで……
消えてしまうのか……

【聖直階ちょっかいマタイ】
さっき法科の山下がいたな。
いや、いたのは山下の念だが……
あいつ、人生よろづ相談に出かけて、
そのまま行方不明になったんだ……
あいつが行ったのは新宿しんじゅくの相談所さ。
それなのに――
なんで、こんなところにいるんだ?

【聖浄階じょうかいヨハネ】
黒化ニグレドするだけではダメだ。
神子柴みこしば様の真意をめばわかること。
なるべくその先の段階へ進むこと、
そうして私は黄化キトリニタスを終えたのだ。
いよいよ金の生まれるとき――
金神こんじんのご降臨こうりんのとき――
合一ごういつできるかどうか、わからない。
だが試す価値はある――
阻止そしすることなど、誰にもできない!

《バトル》

【聖浄階じょうかいヨハネ】
いよいよ赤化ルベドを迎えるこの私を、
たおしたつもりでいるのか?
私が金神こんじんとなるかも知れぬのに!

〔上野黒河コクガ・南西〕

不忍池しのばずのいけおぼしき池はこおりついている。
宙に浮く金色の輝く光と、それに向き合う神子柴みこしばがいた――

神子柴みこしばはつゑ】
金神こんじんは現れました――
まさに錬金れんきんすべにより、
また多くに思念を集めて――
しかし私は合一ごういつできませんでした。
金神こんじんから退しりぞけられたのです。
わらってください、みじめなざまを。
早すぎたのでしょうか――
あるいは遅すぎたのでしょうか――
金神こんじん合一ごういつではなく、
私の念を求めているのです。
――私は……吸われてしまいます……
もう、持ちそうにありません……
なぜ、このようなことに……
私の念が……あああ……吸われる……

そこに在るもの――
錬金れんきんのすべをくし、現れし存在――
幾多いくたの思念をつむぎ、生まれし存在――
金神こんじん――
すべてを破壊する兇神まがつかみ――
だが、神と呼ぶにはあまりにも拙劣せつれつであり、いまだ無数の邪心のたぎ根塊こんかいでしかない。
あらゆる念がり固まり、形をした。
恐怖、憎しみ、あるいは死への憧憬しょうけい――
強い念も弱い念も一つに合わさり、今、霊異りょういを現さんとしていた――

《バトル》

金神こんじん
脱血缶だっけつかん一杯に……親兄弟をさつし……
……聖明階めいかいになった……
あああ……吸われる……

金神こんじんは消えた――
思念を吸い寄せる引力はなくなった。

【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
帝都満洲でセヒラの凝固ぎょうこは、
きれいになくなりました。
【着信 帆村ほむら魯公ろこう
梨央りおが言うには、帝都からも、
セヒラが吸われていたそうだ。
――もう終わったんだな?
【着信 喪神もがみ梨央りお
はい……
でも怪人現象はむしろ増えています。
どうしてでしょうか?
【着信 帆村ほむら虹人こうじん
僕が思うに……
人間の心のうちにある怒りや憎しみ、
そういった感情まで引っ張られて、
表に出たんじゃないか?
平生へいぜいは抑えていた感情だ、
それが表に出た――
【着信 喪神もがみ梨央りお
では、怪人ではないのですね、
今、寄せられている報告は。
【着信 帆村ほむら虹人こうじん
ああ、ただ兇暴きょうぼうになっているだけだ。
でも、放っておくとセヒラに触れ、
怪人化するおそれがある。
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
本部へ帰還してください。

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

喪神もがみ梨央りお
兄さん、お疲れ様でした。
虹人こうじんさんも!
帆村ほむら魯公ろこう
皆、よくやってくれたな。
九頭くず幸則ゆきのり
聖日せいじつの本社には、
とうとう特高が入ったらしい。
周防すおう彩女あやめ
彩女あやめ、やはりと思ってしまいます。
強く強く感じていましたから!
新山眞にいやままこと
大元おおもとけても、
まだ信者はいるでしょうね。
銀河ぎんがゼットー】
ところでだよ、金神こんじんの標本なり、
何か持ち帰ったかね!
帆村ほむら虹人こうじん
あれは思念のかたまり、まるで自分の重さでつぶれていくようなもの――
そうではないですか?
帆村ほむら魯公ろこう
しかし神子柴みこしば、あれは一体何者だ?
怪人などではないな、あれは。
思念が人格化したような存在か――
周防すおう彩女あやめ
思念が人格化……
だから彩女も強く感じられたのかも
知れませんわ!
帆村ほむら魯公ろこう
かも知れないな……
新山眞にいやままこと
一定量を超す思念が集まると、
凝固ぎょうこしたり、何か別な動きを見せる、
そういうことがわかりました。
帆村ほむら魯公ろこう
アストラルの様子をさぐると、
思念のことも見えるような気がする。
今日のところはゆっくりしてくれ。
みんな、これで解散だ!

第三章 第十話 賢者ノ石

山王機関本部さんのうきかんほんぶ

帝都満洲に出現した上野うえの黒河コクガ
そこから帝都に流れ入るセヒラが作用して、さまざまな怪異をもたらしていた。
てつく辺境へんきょうの街、上野うえの黒河コクガ
そこにただようは、聖日信教せいじつしんきょうのラヂオ番組により、賢者ノ石を目指す思念のアストラルだった。
新山眞にいやままことにより調整を加えたはずのゲートだが、変動するセヒラの値に耐え切れないのか、不安定になり、急遽きゅうきょ風魔ふうまは本部へ帰還した。

喪神もがみ梨央りお
兄さん、大丈夫ですか?
――よく休めましたか?
上野事件の売笑婦ばいしょうふですが、
身元がわかりました。
蛎殻町かきがらちょう曖昧屋あいまいやに出入りする、
玉野たまのという売笑婦ばいしょうふだそうです。
彼女、聖日信教せいじつしんきょうの信者でした――
新山眞にいやままこと
やはり聖日せいじつでしたか……
その売笑婦ばいしょうふは信者だったんですね、
ラヂオ聞いていただけではなく。

くちばしを挟んだのは飯倉いいくら技研の新山眞にいやままことである。
ゲートの調整のため山王機関に詰めている。作業の合間を見て本部に顔を出した按配あんばいだ。

喪神もがみ梨央りお
はい。かなり熱心な信者だったと。
曖昧屋あいまいやの客にも入信にゅうしんすすめたり、
ラヂオ聞くように言っていたとか。
新山眞にいやままこと
狂信的であればあるほど、
その者は、より深く……
頭の中を、ええっと、何でしたか?
喪神もがみ梨央りお
洗脳、ですか。
でも、この間の新聞では、
聖日新教せいじつしんきょうの中に
沙汰さたがあったように伝えていました。
教祖様がいなくなったとか……
どうなんでしょうか?
兄さん、聖日新教せいじつしんきょうの本社は、
本所業平橋ほんじょなりひらばしの近くです。
巡視パトロールに出てみますか?
新山眞にいやままこと
今、聖日せいじつを仕切るのは腹心ふくしんです。
神子柴みこしばはつゑという巫女みこです。
ほら、ラヂオに出ている人ですよ。
聖日せいじつの教祖は大絹おおぎぬという女性ですが、
今や目立つのは神子柴みこしばの言動ばかり、
どうもそのようですね。
喪神もがみ梨央りお
その神子柴みこしばっていう人が、
教祖とは別の考えでもって、
何かをたくらんでいるのですね。
新山眞にいやままこと
そのようですね。
神子柴みこしばは怪人化している、
そう考えて間違いないでしょう。
喪神もがみ梨央りお
大丈夫です、ね、兄さん!
おかしな巫女みこさん怪人とは、
もう戦いましたから。ね!
そうそう、さっき幸則ゆきのりさんが……
表で姿を見かけたら、
同行持ちかけると喜びますよ!

赤坂街路あかさかがいろ

【待ち伏せしていた記者】
ちょっと待ってくれ!
そこの……
貴方ですよ、貴方!
やっとお目にかかれた!

【待ち伏せしていた記者】
帝都を騒がす怪人事件に関わる、
謎の軍人さんって、貴方ですね?
上野うえのの騒動の時も、見ていましたよ。
ピンときました。あの様子からして、
これはただの心中事件じゃないって!
以前から怪人事件を追うたびに、
しずめて回る者の存在を感じていた――
いや、組織というべきか!
あっ、大変失礼しました、中尉殿。
挨拶あいさつが遅くなりました。
新山にいやま和斗かずと
僕は興亜日報こうあにっぽう東京支局の、
新山にいやま和斗かずとです。
兄、まことがお世話になっています。
ええ、そうです、山王さんのうに行くが口癖。
兄はいつもこちらに参っているはず。
――あるんでしょ、特務機関が。
ほぅら、ドンピシャ!
ホテルに特務が置かれている、
そう目星をつけていたんだ!
それで、これから、上野うえのですか?
それとも蛎殻町かきがらちょう
曖昧屋あいまいや売笑婦ばいしょうふなんですよね。
なんでも取材取材、裏取りもします。
もっと聞かせて貰いたいんですが。
僕も同行しますよ!
九頭くず幸則ゆきのり
おっと、邪魔だな!
新山にいやま和斗かずと
な、何ですか!
びっくりさせないでください!
九頭くず幸則ゆきのり
ブン屋がちょろちょろして、
何をぎまわっているんだ?
任務の内容は秘匿ひとくだ。
新山にいやま和斗かずと
残念だなぁ~
せっかく良い取材、
出来そうだったのに!
仕方がない、今日は退きますよ。
でも僕は諦めない性質たちです。
またお目にかかりましょう!
九頭くず幸則ゆきのり
あることないこと書き立てる、
それが奴らの仕事だ。
付き合っていられない!
余計な時間を食ってしまったな!
急ごう、風魔!
向かうは聖日信教せいじつしんきょうの本社だ。

公務電車を繰り出し、業平橋なりひらばしまで行くも、聖日信教せいじつしんきょうの本社はもぬけからであった。
2人はほどなくして赤坂に戻った――
最近、聖日信教せいじつしんきょう提供のラヂオ番組が人気だ。
それを知る九頭にとっても、予想しなかった展開のようである。

九頭くず幸則ゆきのり
おかしいな~
聖日せいじつの本社に誰もいないなんて……
毎朝、ラヂオやってるよね聖日は。
賢者ノ石という番組だよ。
確か神子柴みこしばって巫女みこだ、しゃべってるの。
――みなさん、お一人お一人が
賢者ノ石でございます――
そうやって始まる番組だよ。
歩一ほいちにも熱心に聴く奴がいるんだ。

九頭くず幸則ゆきのり
それだけ派手はでにやってて、
本社に誰もいないなんてね。
まさか特高がやってきて、
一網打尽いちもうだじんにしたってのか?
いやぁ、そんな話は聞いていない。
それに……
あれ!
あの人、聖日せいじつの信者とかじゃないか?

浄階じょうかい信者】
何が賢者ノ石だぁぁぁ~
あんなの出任でまかせだ!
インチキだぁぁ~
九頭くず幸則ゆきのり
あんたは、もしかして聖日せいじつの者か?
どうして誰もいない?
浄階じょうかい信者】
みんな神子柴みこしばの言いなりだぁぁ~
――死を迎える黒化ニグレドが始まりです、
腐った臭いを放つのです、だとぉ?
――黒化ニグレドを経て、白化アルベドの段階へ進み、
浄化が行われるのです――
くそっ! この私を追い出しよって!!
九頭くず幸則ゆきのり
どうした――
なんか、おかしいぞ、こいつ!
浄階じょうかい信者】
何が賢者ノ石だ!
何が錬金術れんきんじゅつだ!
私を見ろ!! すべてを、超えた!!

《バトル》

浄階じょうかい信者】
教祖の大絹おおぎぬ真砂湖まさこは、
姿をくらませたまま……
神子柴みこしばを……どうか、抑えて……
九頭くず幸則ゆきのり
なんだか今の様子だと、
神子柴みこしばが教団乗っ取った、
そんな感じだよな。
何だ、地震か?
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし、上野にセヒラ反応!
その値、急上昇しています!
場所は……
不忍池しのばずのいけです!
九頭くず幸則ゆきのり
不忍池しのばずのいけだってよ、風魔!
急ごう!
いよいよお出ましじゃないのか!

不忍池しのばずのいけ

神子柴みこしばはつゑ】
いよいよ、その時が来たのです。
金神こんじんを現すのです――
黒化ニグレドする方々の思念を一処ひとところに集め、
私は翠化、黄化、ウィリディタス キトリニタスそして赤化ルベドを経て、
金を……金神こんじんを生み出すのです。
金神こんじんと合一し、私は、
永遠の存在となるのです。
そのあかつきには、皆さんを招きましょう。
終末を超えてよみがえり、永遠とわの楽園に。
皆さんも永遠とわの存在となるのです――

神子柴みこしばはつゑ】
終末はせまっています。
貴方もお力をお貸しください。
貴方には素晴らしい霊力があります。
眼を見張みはるほどの力です――
――素晴らしい、その力……
私は感じています――
さぁ、早く!
終末はそこまで来ていますよ。
貴方! もう時間がないのです!
早く、お力を!!

《バトル》

神子柴みこしばはつゑ】
素晴らしいお力です!
そうです、これです――
最後の扉が開きます!
【着信 喪神もがみ梨央りお
黒ノ八号帥士くろのはちごうすいし
帝都満洲に強大なセヒラ発生!
場所は……またもや上野うえの黒河コクガです。
急ぎ帰還し、
帝都満洲に向かってください。
帝都にも甚大じんだいな影響を、
及ぼしかねません!

神子柴みこしば霊異りょういを発現したためか、帝都満洲に強大なセヒラが観測された。
その影響はすでに帝都におよび始めていた。

第四章 第五話 覚醒の人

第三章 第十一話 金神の出現